特定 の課題 についての学修 の成果
小学校社会科 の既習知識の活用 と「子 どもとつ くる教科書」
― 中学校社会科歴史的分野における知識偏重 を改善す る探究学習―
兵庫教育大学大学院 教育実践高度化 専攻P14033」
修学指導教員 指 導 教 員 学校 教 育研 究科 授 業 実 践 開発 コー ス 太 田 昌 吾2016年
2月26日
溝 邊 和 成 長 澤 憲 保 米 田 豊序論・ … 口… … … ・ … … … ・ … … … ・ … 口… …
11
問題 の所在2
研 究の 目的3
研 究の仮説4
研 究 の方法 1 1 1 第I章
第1節
1 2 第2節
1 2 第I章
第1節
1 2 第2節
1 2 歴 史 的 分 野 の 授 業 に お け る探 究 学 習 の必 要 性 ・・ … ・ … … ・・3 歴史的分野の授業にみ られ る問題点・・・・・・・・・・・ ・・・・・ 。3 歴史的分野の学習に対す る子 どもの実態3
講義法 による歴史的分野の授業の問題点4
歴史的分野の授業における探究学習の必要性・・・・・・・・・・・・・8 社会科授 業 にお け る探 究学習 探 究学 習 に よ る知識 の習得 小 学 校 社 会 科 の既 習 知 識 を活 用 す る歴 史 的分 野 の 探 究 学 習 ・・・ 歴史的分野の授業において小学校社会科の既習知識 を活用す る必要性・ 既習知識が知識習得や学習内容の理解に与える影響 歴史的分野の学習で活用できる子 どもの既習知識 歴史的分野の学習における小学校社会科の既習知識の活用方法・・・・ 既習知識 の活 用 と 「探 究I」 の社会科授業構成理論 「探究I」 の学習過程 における小学校社会科の 既習知識 の活性化 を意図 した資料活用 の方法23
811
15
15
15
18
20
20
第 Ⅲ章 第 1節 1 2 3 第
2節
1 2 第3節
1 2 第4節
1 2 第 Ⅳ章 第1節
1 2 第2節
1 2 第3節
1 目 次 教 科 書 型 プ リ ン トの 開 発 と小 学 校 社 会 科 の 既 習 知 識 を 活 用 す る 歴 史 的 分 野 の 授 業 モ デ ル の 開 発 ・ …29
歴 史的分野 の探 究学習 にお ける教科書型 プ リン トの必要性・・ ・・ ・・29
歴 史的分野 の学習 で使用 され るノー ト・ ワー クシー トの問題 点29
探究学習 にお ける教科書活用 の問題 点31
教科書型 プ リン トの定義33
教科書型 プ リン トの開発 ・・ ・・・・・ ・・ ・・・・・・ 。・ ・・・ 。34
教科書型 プ リン トの開発 に必要 な条件34
開発 した教科 書型 プ リン ト34
小学校社会科 の既習知識 の活用 を意図 した授業モデル 「敗戦後の人々の くらし」「日本国憲法の制定」の開発・・38
小学校社会科 の既習知識 の活用 を意図 した授 業構成38
開発 した授業 モデル と教科書型 プ リン ト38
授 業実践 の考察・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・57
成果57
課題57
『 子 ど も と つ くる教 科 書 」 の 開 発 と授 業 モ デ ル の 改 善 ・ … …61
小学校社会科 の既習知識 を活用 した歴 史的分野の探究学習 の 理論 の改善 と 「子 ども とつ くる教科書」 の開発・・・61
小学校社会科 の既 習知識 を活用 した歴 史的分野 の 探究学習 の理論 の改善61
「子 どもとつ くる教科書」 の定義62
「敗戦 後 の人 々の くら し」 の改 善授 業 モデ ル の作成 ・・ ・・ ・ ・・75
「敗戦後 の人々の くらし」 の授業モデルの改善点75
改善 した授 業モデル75
「日本 国憲法 の制定」の改善授業モデルの作成・・ ・・ ・・ ・・・・・81
「日本国憲法の制定」の授業モデルの改善点81
第
1節
1 2 3 第2節
1 2 3 第3節
1 2 『 子 ども とつ くる教 科 書 」 の 開発 ・ … ・91
学習課題の設定の段階において小学校社会科の既習知識 を活用できる 授業モデル 「対外危機 の高ま りと条約改正」・・91
開発 した授業モデル91
本時における子 どもの既習知識 の活用100
開発 した 「子 どもとつ くる教科書」101
資料 をもとに した検証の段階 において小学校社会科の既習知識 を 活用できる授業モデル 「武家政治の成立 と封建制度」。103
開発 した授業モデル103
本時における子 どもの既習知識の活用108
開発 した 「子 どもとつ くる教科書」110
授業モデル と「子 どもとつ くる教科書」開発 についての考察・・・・111
成果111
課題114
第 Ⅵ 章 小 学 校 社 会 科 の 既 習 知 識 を活 用 で き る歴 史 的 分 野 の 単 元 モ デ ル ー 単 元 「 世 界 の 動 き と武 家 政 治 の 始 ま り」 の 開 発 ・ …115
第 1節 単元 「世界の動 きと武家政治の始ま り」における 小学校社会科の既習知識の活用 と教科書・資料集の分析・・・115
1
単元選択の理 由116
2
教科書記述の分析 と比較117
3
教科書・資料集 に掲載 されている資料 の分析131
4
学習課題 の設定に活用できる歴史学の研究成果138
第2節
単元 「世界の動 き と武家政治の始ま り」の単元モデル と1
単元設 定 の理 由2
単元 の 目標3
単元 の構成 小 学 校 社 会 科 の既 習 知 識 の 活 用 ・ ・ ・142
142
143
144
目 次 第
3節
開発 した授業 モデル と 「子 どもとつ くる教科書」・・・・・・・・ ・・148
1
第1時
「貴族 か ら武 士へ」148
2
第3時
「承久 の乱 と武 家政治 の広 ま り」161
3
第4時
「元軍 の襲来」173
4
第5時
「鎌倉幕府 の崩壊 」185
第4節
単元モデル の開発 の成果 と課題 ・・・・・・ ・・・ ・ ・・・・・・ ・195
1
成果195
2
課題195
結 論 。… ・ … … … ・ … … … ・ … … … ・・198
1
研究の成果198
2
今後の課題199
「附記」 「資料編」 「要旨」序 論
1
問題の所在 中学校社会科歴史的分野の内容 は、小学校社会科 の内容 と比較 して、政治史や経済史な ど複数の視点か ら歴史 を捉 えさせ るため、必然的に内容が多 くなる。そのため、子 ども は、断片的知識の暗記 を強い られ ることにな り、歴史事象の因果関係 を説明す ることがで きない。 これ らの問題の原因 として、次の4点
が考えられ る。(1)内
容の多 さや授業時数不足に対応するために、プ リン トを使つた穴埋め学習による 知識の注入に偏つた授業が行われることが多い。(2)子
どもが小学校で学んだ既習知識 を授業で活用できていない。(3)探
究過程において、歴史事象の因果関係 を捉 えさせ るためには、歴史的分野の教科 書の内容だけでは不十分である。(4)歴
史的分野の教科書記述は、それぞれの歴史事象の因果関係 を十分に説明 していな い。そのため、授業後に子 どもが探究学習を とお して習得 した説明的知識 を再確認 できず、理解が不十分になる。 このような中学校社会科歴史的分野の授業における課題 を解決する必要がある。2
研究の目的 歴史的分野の授業における課題 を解決するために、次の二つを本研究の目的 とす る。(1)探
究学習において子 どもが小学校で学んだ既習知識 を活用できる授業モデルの開発(2)子
どもが探究学習で活用す ることができ、授業後に授業内容を再確認することので きるワークシー トの開発3
研究仮説(1)(中
学校社会科歴史的分野の授業に、探究学習を取 り入れ る。そ して、探究過程 にお いて、子 どもが小学校で学んだ既習知識 を活用す る場面を設定する。 これ らのこと によつて、子 どもは小学校の既習知識 と新たに習得 した知識 を関連付けて説明的 知識 を習得す ることができるだろ う。序 論 (2)「子 どもとつ くる教科書」 を開発す るこ とによつて、子 どもは、授業後 も探究過程 を 再確認 でき るとともに、歴 史事象 の因果 関係 を説 明す ることができるだろ う。
4
研究の方法(1)歴
史的分野 において、探究学習 を行 うこ とが、子 どもの歴史事象の因果関係 の理解 を促進す るために適 した学習方法であることを明 らかにす る。(2)歴
史的分野 の授業 において、知識 の習得 のために、子 どもの小学校社会科の既習知 識 を活用す るこ とが有効 であることを明 らか にす る。(3)「
子 どもとつ くる教科書」 を開発 し、それ を探究学習で活用す ることによって、子 どもは説 明的知識 を導 き出 した過程 を再確認 できることを明 らかにす る。(4) (1)∼
(3)で
明 らかに した こ とを基 に、授業モデルや単元モデル を開発す る。第 二章 歴 史 的 分 野 の 授 業 に お け る 探 究 学 習 の 必 要 性 本章では、子 どもの歴史的分野 の学習 にみ られ る問題 点 に基づいて、歴 史的分野 の授業 に お ける探究学習 の必要性 について論 じる。 第
1節
歴史的分野の授業 にみ られ る問題点 本節 では、実習校 (三田市立上野台中学校)の
三年生 のア ンケー ト調査 の結果か ら、子 ど もが歴 史的分野 の学習 に苦 しさを感 じる理 由を明 らかにす る。また、講義法 に よる授業の問 題 点 を明 らかにす る。1
歴史的分野の学習に対す る子 どもの実態 子 どもは、小学校社会科 の学習 と比較 して、中学校社会科歴 史的分野の学習 の どの よ うな 点 につ まず きやす いのだ ろ うか。 筆者 は、実習校 (三田市立上野台 中学校)の
三年 生 (50名)に
授 業の最後 にア ンケー ト 調査 (質問 「ノlヽ学校 での歴 史授業 か ら、中学校社会科歴 史的分野の学習 になつて苦 しい と感 じた こ とを 自由に書 いて くだ さい」)を
行 つた。 その結果 、表I-1-1の
よ うな結果 となっ た (複数記述 してい る子 どもはそれぞれ の項 目の人数 に含む)。 表I-1-1
子 どもが歴史的分野の学習に苦 しさを感 じた理 由 歴 史 的 分 野 の 学 習 に苦 しさを感 じた理 由 人 数 内 容 が 多 くて 覚 え られ な い (人 物 ヽ年 号 な ど) 30人 歴史の流れ や歴史事 象の順番がわか らない 10人 41bの 歴 申 墓 象 や 人 物 の 業 績 ル湿 舌Il.やす!.ヽ 5人 漢字 が難 しい 4人 勉 強 方 法 が 分 か らな い 3人 細 かくて難 しいため理解 しづらい 1人 小 学 校 の 時 に習 った ことを常 え て いな い 1人 その他 4人 一番多い理 由は 「内容が多 くて覚え られない」(30人)で
ある。子 どもの記述 内容 か ら、歴史上の人物 の業績や年 号 を覚 えることに課題 を感 じてい ることがわか る。そのた第 I章 第1節 「内容が多い」とい う理 由は、他 の理由にも少 なか らず影響 を与えてい ると考 え られ る。 「歴史の流れや歴 史事象の順番 がわか らない」
(10人)と
い う項 目には、世界史 と日本史 が別 々に扱 われ るため時代 の流れがわか らな くなる とい う理 由があつた。また、内容 の多 さ に よ り歴史事象 の因果 関係 (起こった背景)が
わか らな くなる とい う理 由もみ られ た。「他 の歴 史事象や人物 の業績 と混乱 しやすい」(5人
)とい う項 目では、歴史事象 と人物の業績 を 関連付 けることが難 しい とい う理 由が見 られた。「勉強方法 がわか らない」(3人
)とい う項 目では、効率 よく覚 え られ る勉 強方法 を教 えて ほ しい とい う理 由や ノー トの取 り方 がわか らない とい う理 由がみ られた。 表I-1-1の
結果か ら、子 どもは、歴史事象や年号 を暗記す ることを重視 してい るこ とが わか る。 『 平成20年
版中学校学習指導要領解説社会編』は、歴史的分野の日標について、次のよ うに示 している。 歴史的事象に関する関心を高め,我が国の歴史の大きな流れを,世界の歴史を背景に,各時代の特 色を踏まえて理解 させ,それを通 して我が国の伝統 と文化の特色を広い視野に立って考えさせ ると ともに,我が国の歴史に対する愛情を深め,国民としての自覚を育てる。(① ,p.67) 中学校 社 会科 の歴 史 的分 野 の授 業 は、世 界 の歴 史 を背 景 に 日本 の歴 史 の大 き な流 れ や 特 色 を考 え させ る こ とを重視 してい る。そ のた め、中学校 社会 科歴 史 的分 野 の授 業 に よつて、 歴 史事 象 の因果 関係 を説 明 し、 日本 の歴 史 の大 きな流 れ や 特 色 を提 え られ る子 どもを育成 す る こ とが大切 とな る。 しか し、表I-1-1の
結果 を見 る限 り、歴 史事象 の因果 関係 を説 明 し、日本 の歴 史 の大 きな流 れや 特色 を捉 え られ る とい う点 には、課題 が あ る と言 わ ざるを得 な い。2
講義法による歴史的分野の授業の問題点 前項で、 日本の歴史の大 きな流れや歴史事象の因果関係 を提 えられていない子 どもが多 い ことが明 らかになつた。この問題には、どのような背景があるのだろ うか。そ もそも、な ぜ、子 どもは用語や年号を覚えようとするのだろ う。この問題の原因は、歴史的分野の授業(前略:太田)一般的によく見られる社会科授業は講義法 と呼ばれているが、この講義法の内容構 成の原型は教科書にあるといえる。教科書の記述は、(中略:太田)ある社会事象についての研究成果 である知識を系統的に整理 して記述 したものである。(②,p.10) よ く見 られ る社 会 科 授 業 は、講義法 と呼 ばれ る もの で あ り、教科 書 に従 つて知識 を系統 的 に教 え る方法 で あ る。 伊 東 は、講 義法 が教 師 に支持 され る理 由 につ いて、次 の よ うに述 べ てい る。 このような記述の形式をもととして組み立てられた授業は大変教えやすいので、多くの教師から支 持されているようである。教科書記述に従つて教えればよい。子 どもにわか りにくい用語は説明 し、 難解な事象は、写真やスライ ドなどを見せればよい。網羅的に一応すべての(中略:太田)知識が与え られるので、教える方は安心である。(② ,p.10) 講義法 が教 師 に支持 され てい る理 由は二つ あ る。 一 つ 日は、講義 法 は教科 書 記述 に従 つ てい る授 業 で あ るた め、す べ ての知識 を網 羅す る こ とがで き るか らで あ る。 二 つ 目は、教 師 が単元 で教 え るべ き こ と全 て を授 業 で取 りあげた とい う安 心感 を得 られ るた めで あ る。 伊東は、講義法による社会科授業の問題点について、次のよ うに述べている。 (前略 :太 田)この よ うな授業 で子 どもに与 え られ る学 力 とは どんな ものであろ うか。(中略 :太 田)羅列的知識 の暗記 、事典的知識 の記憶 、 これ が 、一般 に社会科 で養 われ てい る学力で あ る。社会 科 は暗記 物 といわれ 、またつね に内容過剰 が問題 とされ るのは、右 の よ うな記述的知識 を網 羅的 に教 えてい るか らで ある。記憶 力 の強 い子 は、社会科 の成績 は よ く、社会科 が好 き とい う。 しか し記 憶力 の弱 い子 は落 ちこばれ 、社会科 はき らいにな る。(②,pp.10・11) 学力差 が激 しい とか 、基礎 学力 が低 下 したな どとよ くいわれ るが、社会科 の授 業が、右 に述 べ た よ うな記述過程 、暗記過 程 と して組織 され実践 され てい るか ぎ り、そ こでいわれ てい る学力 とか基礎 学 力 とい うものの実態 を反省す るこ とが必要 で あろ う。 しか も、学 力や基礎 学力 を論 じる場合 、それ を 観念的 に論 じるのでは な く、実際 の授業構成論 とか らめて考 えなけれ ばな らない。社会科 でね ら う学
第 I章 第
1節
れ てい る授 業 は、右 に述 べ た よ うな記 述 的知識 の授 業 で あ るのが一般 的 で あ る。 だか ら、 われ われ は、 日頃実践 してい る授 業 に よって子 どもに達成 され る学力 とは どん な ものか とい う反省 をす る こと が大切である。(②,p ll) (前略:太田)内容が優先するとき、社会科の授業は、その前提 とされた社会科の内容を、いかに 効率的に子 どもの中に定着させるかということに努力を集中する。そこで、先に述べた整理 された事 典的知識を講義法で子 どもに達 し、子 どもの心に写し取 らせるとい う方法が優先するのである。教科 書に記述 された内容を子 どもが暗記 し終わつたとき、社会科の授業は終結する。(②,pp.12‐13) 講 義法 に よる授 業 は、記 述 的知識 の暗記過程 と して構成 され てい る。そ のた め、子 どもが 教 科 書 に記 述 され た内容 を暗記 し終 わ った とき に社 会 科授 業 の 目標 は達成 され た こ とにな る。この よ うな授 業 が行 われ てい るた めに、子 どもは、知識 を覚 え る こ とこそが重 要 で あ る と考 え るの で あ る。 また、講 義 法 に よる授 業 は、子 どもに とつて受 け身 の授 業 で あ り、子 どもが主 体 的 に考 え る こ とは少 ない。授 業 にお い て、考 え る機 会 が少 ない た め に、子 ども は考 え る力 を十分 に身 につ け られ ない の で あ る。 それ で は、平 成20年
版 中学校 学 習 指導 要領 は、 どの よ うな社 会科 の授 業 を授 業者 に要請 して い るの で あ ろ うか。 平成20年
版 中学校 学習指 導 要領 総則 は、指 導計 画 の作成 等 に当た つて配慮 す べ き事 項 と して、次 の よ うに示 して い る。 各教科の指導に当たっては、体験的な学習や基礎的・基本的な知識及び技能を活用 した問題解決的 な学習を重視するとともに、生徒の興味 。関心を生かし、自主的、自発的な学習が促されるように工 夫すること。(① ,p.18) 筆者の中学校時代の経験か ら考えて、今 日の社会科授業では問題解決的な学習が十分に 行われていない。筆者 は、歴史的分野における問題解決的な学習 として、探究学習を提案 す る。【註及び参考・引用文献】
①文部科学省『平成
20年
版中学校学習指導要領解説社会編』 日本文教出版 2008.9②伊東亮三 「達成 目標の明確化 と社会科授業の改造」伊東亮三編著『達成 目標を明確にし た社会科授業改造入門』 明治図書 1983.5 pp.9‐21
第 I章 第
2節
第2節
歴史的分野の授業における探究学習の必要性 前節 において、歴史的分野の授業の問題点を明 らかにした。それでは、なぜ、探究学習を 行 うことによつて、これ らの問題点を解決することができるのだろ うか。そもそも、探究学 習 とは どのよ うな学習なのだろ うか。また、探究学習は、どのように 日本の社会科教育に導 入 され、展開されたのだろ うか。本節では、これ らについて論 じる。1
社会科授業における探究学習 探究学習 とは どのよ うな特徴 をもつ学習方法なのだろうか。 池野範男は、探究学習について、次のように述べている。 探 究学習 は、学習者 が科 学 の研 究成 果 を生み 出 した過 程 に主体的 に参加 す る こ とを通 して、科学の 基本概念や法則 、方法 を獲得 し、科学的 な態度 を育成す る学習 の こ と。(① ,p.224) 学問の科学性 に従 い 、学習者 が教師 の提 供す る教材 に、なぜそ うなってい るのか と疑間 を見付 け、 教 師 に指導 され、その問題 を科 学的 に解決 し、概念や法則 な どの一般化 (gellerahzattnlを 獲得す る。 その過程 が科 学的探 究 の過程 で あ り、研 究過程 と同様 に組織 され 、その学習方法 を探究学習 とされ る。 (①,p.220 子 どもが授業 において、研 究者 が研 究成果 を生み出 した過 程 と同様 の過程 をた どること によって、概念や法則 を習得す る学習方法が探究学習である。 それ では、日本 の社会科教育 において、探究学習 は どのよ うに導入 され、展開 されてきた のだ ろ うか。 池野 は、 日本 にお ける探究学習の展 開について、次 の よ うに述べ てい る。 アメ リカで提唱 された社会科の探究学習は、我が国では森分孝治 と社会科教育研究センター (社研 セ ンター と略称)と によつて推進 されてきた。(① ,p.224)森分は批判的合理主義に基づきアメリカ新社会科を分析 し、科学的知識を科学的探求の論理に従つ て習得させる「探求 としての社会科」を提唱 した。(中略:太田)この学習は「理論の批判的学習」と 呼ばれ、科学的知性を育成するために、教育内容 としての理論を批判的可能性を持って学習できるよ うに組織 した社会科学教育である。(① ,p.225) 森 分 の 「探 求 と しての社 会 科」は、科 学 的知識 を科 学 的探 求 の論 理 に従 つて習得 させ る こ とに よつて 、子 どもの科学 的知性 を育成 す るた めの教 育 で あ る。 森分は、「探求 としての社会科授業」について、次のように述べている。 授業 は、説 明・ 予測 の過程 で あ り、問い に対 して回答 してい く過程 で あ る。探 求 と しての社会科 の 授業 は 「なぜ 」 とい う問い、「∼すれ ば ど うなるか」 とい う問い に対す る回答 と して構成 され るべ きで あ る。「なぜ 」と問 い、「∼すれ ば ど うな るか」 と問 えば、一般化 、理論 な しには答 えてい くこ とはでき ない。「なぜ」、「∼すれ ば ど うな るか」 と問 われれ ば、既知 の法則 、理論 を用 い て、あ るいは新 た に法 則 、理論 を創 造 し、あ るいは どこかか ら借 用 して推論 し、原 因や結果 を探求 していか ざるを得 ない。 ((),p.140) 「探求 としての社会科授業」は、「なぜ」を問い、子 どもに既知の法則や理論 を用い させ て新 たに法則 、理論 を創造 させ、原因や結果 を探究 させ てい く授業 であ る。 梅津正美 は、森分 の「探求 としての社会科授業」を構成す る手順 について、次 の よ うに述 べている。 1.子どもに習得させたい解釈内容 (=知識体系)を 「到達目標」として設定する。この場合、解釈 内容 は学 問の先端 を行 く科 学的理論 の体系 で あ るべ きであ り、それ を教 師が主体的 に選択 して、 日標 として設 定す る。
2.授
業 を、解釈 内容 の、子 どもに よる批判 的習得 (=解釈)過程 と して組織す る。具体的 には、授 業 を、子 どもた ちが、「なぜ」「ど うな るのか」といつた主要 な問い に導かれ なが ら、事例 に基づい て仮 説 を検証 し、知識 を修正 しなが ら到達 目標 の 「科 学的理論」 を発 見・ 習得 してい く過程 と して組 織す る。(③,p274)第 I章 第
2節
課題 (問い)の
発見→仮説 の設定→仮説 の検証→到達 目標 の 「科学的理論」の習得 とい う流 れ にそつて授 業 を構成 してい く必要があ る。 池野 は、社研 セ ンターの探究学習 について、次の よ うに述べてい る。 (前略:太田)社研センターは社会科探究学習を「自分で調べ考える探究的行動力のある子を、そし て、社会生活に必要な基本的知識 (中心概念)を自分なりにとらえていく子の育成を目指す」ととら える。社会科の課題は科学的社会認識よりも、子ども自身の自由な探究であるとし、人間教育の立場 から市民としての資質や能力の育成をめざす。(① ,p.224) 学習過程は 1小 単元1サイクルの方式で組織される。①問題把握 (学習問題の設定、予想・仮説の 設定、検証計画の立案)、 ②問題追究 (検証)、 ③結論の吟味 (まとめ)の 3段階を踏む。(① ,p.225) 社研センターの探究学習は学習者に科学研究の原型を学ばせ、科学的な探究行動を育てようとして いる。(① ,p.225) 社研セ ンターの探究学習 は、科学的な探究行動ができ、基本的知識 である中心概念 を とら えることのできる子 どもを育成す るために、「学習課題 の設定→予想・仮説 の設 定→検証計 画の立案→検証→ ま とめ」 とい う学習過程 を とる。 森分 と社研セ ンター の探究学習 は、子 どもに育成す るべ き資質や能 力 とい う点 において 異なつた ものである。す なわ ち、森分が、科学的な社会認識 を重視す るのに対 して、社研セ ンターは市民 としての資質や能力の育成 を重視 してい るのである。しか し、両者 の学習過程 には共通す る点が多い。両者 の学習過程 の共通点か ら、探究学習の学習過程 として考 え られ るものを示す と次 の よ うな構成 になる。習課題の設定→予想・ 仮説の設定→予想・ 仮説の検証→知識・ 理論の習
このよ うな過程 に沿 つて、社会科 の探究学習 は行われてい く。 次項では、探究学習 による知識 の習得 について論 じる。2
探究学習による知識の習得 本項では、歴 史的分野の授業 において探 究学習 を行 う理 由を、探究学習 に よつて習得 され る知識 とい う視点か ら明 らかに してい く。 岡直樹 は、理解や知識習得 を促進す る方法 について、次 の よ うに述べてい る。 理解 や知識 習得 を促進 す るた めには、教 師が一方的 に知識 を伝 達す るだ けでな く、学習者 に 自分 で 考 え させ るな どの、能動 的 な認知活動 を取 り入れ るこ とも重要 であ る。(④,p60) 子 どもの学習 内容 の理解 を促進す るた めには、講義法 の よ うな子 どもが受 け身 にな る授 業ではな く、子 どもが 自ら考 える取組 を行 うことが大切で ある。 北野倫彦 は、知識 の貯蔵 について、次 の よ うに述 べ てい る。 知識の獲得や活用について述べる前に、まず知識そのものが どのような姿で貯蔵 されているのかを 考えてみたい。 ところで、知識は頭の中で貯蔵 されているのであるが、倉庫に物を投げ込むよ うな形 で貯蔵 されているのではない。バラバラな状態ではなく、網 目のようにネ ッ トワークを形成 して多量 の知識が貯蔵 されていると考えられる。(⑤ ,p.36) 知 識 は 、知 識 同 士 が網 目の よ うなネ ッ トワー ク を構 成 して貯 蔵 され て い る。 北 尾 は 、 知 識 の活 性 化 に つ い て 、 次 の よ うに述 べ て い る。 (前略 :太 田)大量の知識がつねに活用 され る状態に置かれているわけではない。その大部分は眠 つた状態、すなわち不活性状態にあるのである。(中略 :太 田)また、ほとんど活性化 され ることもな く、眠つたまま貯蔵 され る大量の知識 も存在す るわけであ り、一時的に多 くの情報が注入 されて も活 性化 され ることがなければそのような眠つたままの知識が増えるにすぎない。知識の量 よりも、いか にして活性化 されやすい状態で貯蔵するかが問題 であろ う。つねに、問題解決、想像的思考、表現活 動な どにそれ らの知識 を活用 しているな らば、活性化 されやすい状態が保たれるのである。 (C),pp.37‐38) 問題解決 を行 う探究学習を行 うことによつて、知識は活性化 されやすい状態に保たれ る。第I章 第
2節
て い る。 知識獲得の方法を理解 させ るならば、今 日の教育界が直面 している知識過剰 とい う問題 を解決する ことができるはずである。探究の道具 さえ所有 しているな らば、た くさんの知識 を貯えてお く必要は ない といえるであろ う。なぜな ら、方法を知っているとい うことはその方法を適用す ることによって 発見できる全ての知識 を代表 していることになるか らだ。(⑥,p.11) 子 ど も が 知 識 を 習 得 で き る探 究 の方 法 を知 る こ とに よ っ て 、 断 片 的 知 識 を記 憶 す る必 要 は 無 くな る。そ の た め 、探 究 学 習 は 、歴 史 的 分 野 で 特 に 問題 と され て い る知識 過 剰 とい う問 題 を解 決 す るた め に も有 効 な 学 習 方 法 とな る。 なぜ、探究学習によつて探究の方法を知 ることが、知識 を発見できることにつながるのだ ろ うか。 安西祐一郎は、知識 を得 るための方法について次のよ うに述べている。 ある問題 を適切 に表現 でき るた めには、その問題 の領域 につ いての知識 が必要 であ る。 しか し、そ の知識 は問題領域一 た とえば物理 とか金融 とか一 に深 く関係 してい るので、知識 を得 るには、そ の問 題領域 での問題解決 の経験 がた くさん必要 にな る。(⑦,p.148) 探 究 学習 におい て、子 どもに学習課題 を解 決す る経 験 をつ ませ る こ とで、子 どもは学 習 課題 に関連 した知識 を習 得す る こ とが で き る。 安 西 は、問題解 決 のた めの知識 につ い て、次 の よ うに述 べ て い る。 (前略:太田)問題解決を考える限 り、知識 とい うのは単に事実を並べたものではなく、むしろ、 問題を解 くことを通 して自分のさまざまな経験やほかの知識 と組み合わせることができるようになっ た、問題解決のための信頼できるよりどころのことだとい うことである。(中略:太田)さまざまな かたちをとつて現れてくる状況の中に問題を見つけ、理解 し、解き、さらにその行ないを通 して自分 と周 りの世界 とのかか わ りを保 つてゆ くた めの、 自分 の頼 りにな る根拠 の こ とを言 うので あ る。私た ちは、(中略 :太 田)知識 を、問題 を解 き、解 答 を吟 味す る こ とを通 して身 につ け、 よ り適 切 な ものての意味を持つていない。 こうした知識は、実際に問題解決に利用 され ることを通 しては じめて意味 づけられ、問題解決のための知識 と化 してゆくのである。(⑦ ,p.201) 問題解決に必要な知識は、単に断片的な知識ではない。子 どもが、自分の経験や既習知識 とつなげることによつて、考えのよりどころとすることができるものである。学習課題の解 決 をとお して、習得 した知識は、他の学習課題の解決に使 える知識 として意味付けられ る。 問題解決的な学習である探究学習を何度 も子 どもに経験 させ ることにより、子 どもは学 習課題 に関連 した知識 を習得す ることができる。 それでは、探究学習を行 うことによつて、どのような力を子 どもに育むことができるのだ ろ うか。 降旗は、探究学習によつて子 どもに育成 され る力について、次のよ うに述べてい る。 探究学習とは、知識獲得の過程に児童・生徒が主体的に参加することによって、探究能力・科学概 念・望ましい態度の形成をめざす活動である。(⑥,pp.17‐18) 知識獲得の過程に主体的に参加するとい うことは、結果 としての知識を単に習得するとい うので はなく、その知識がどのようにして得 られたのかを知ることであり、自分の力で知識を獲得できるよ うな能力を育てることをめざすものである。(⑥ ,p.93) 子 どもが探 究学 習 に主体 的 に参加す る こ とに よつて 、知識 を習 得 で きるだ けで な く、知識 を習得す る過 程 を知 る こ とや 自分 の力 で知識 を習得 で き る探 究能力 が育 まれ てい く。 また 、探 究学習 は、社 会 事 象 間 の因果 関係 を子 どもに理解 させ るた めに有効 な学習 方 法 と な りえ る。 岩 田一彦 は、社 会科 で 「分 か る」 こ とにつ いて、次 の よ うに述 べ てい る。 社会科で 「分かる」 とは、「社会事象間の関係」を知 ることである。なかで も「社会事象間の因果 関係」を知ることが、本質的分か り方である。 この社会事象間の関係は、子 どもが問題意識 を持 ち、 問題 を探究 していった結果 として習得 され る。(③ ,p.34)
第 I章 第
2節
社会事象間の因果 関係 は、子 どもが問題 を探究 した結果、習得 され る。 以上論 じた ことか ら、歴史的分野の授業 において探究学習 を行 うことによつて、講義法 に よる子 どもの断片的知識 の暗記 を解決す ることができる。また、子 どもは、歴史事象 間の因 果 関係 がわか るよ うになることが明 らか になった。【
註及び引用 。参考文献】
①池野範男 「探究学習」日本社会科教育学会編『社会科教育事典』 ぎょうせい
2012.6 pp.224‐225②森分孝治『社会科授業構成の理論と方法』 明治図書
1978.9③梅津正美「探求学習」森分孝治 。片上宗二編『社会科重要用語 300の 基礎知識』明治図書
2000.4 p.274④岡直樹「知識獲得と学習」森敏昭、中條和光、岡直樹共著『学習心理学一理論と実践の
統合をめざして』 培風館
2011.10 pp.41‐64⑤北尾倫彦『学習指導の心理学』 有斐閣
1991.4⑥降旗勝信『探究学習の理論と方法』 明治図書
1974.10⑦安西祐一郎『問題解決の心理学一人間の時代への発想』 中公新書
1985.3③岩田一彦 「問い 。知識の分析 と授業設計」岩田一彦編著『小学校社会科の授業設計』
東 京 書 籍 1991.3 pp.33‐45第
I章
小 学 校 社 会 科 の 既 習 知 識 を活 用 す る歴 史 的 分 野 の探 究 学 習 本章では、歴史的分野の探究学習において、小学校社会科の既習知識 を活用す ることが必 要な理由を明 らかにす る。また、探究過程 において、小学校社会科の既習知識 を組み込むた めの手立てについて論 じる。 第 1節 では、歴史的分野の授業において小学校社会科の既習知識 を活用す る必要性 につ いて明 らかにす る。 第2節
では、歴史的分野の探究学習における小学校社会科の既習知識の活用方法 につい て明 らかにす る。 第1節
歴史的分野の授業において小学校社会科の既習知識を活用する必要性 歴史的分野の学習において、なぜ、小学校の歴史学習で習得 した既習知識を活用す ること が必要なのだろ うか。その理由を明 らかにするために、本節では、既習知識が知識習得や学 習内容の理解 に与える影響について論 じる。また、小学校社会科で習得 した既習知識 の活用 とい う視点か ら、歴史的分野の授業における問題点を論 じる。1
既習知識が知識習得や学習内容の理解に与える影響 新たな知識 の習得や授業内容の理解の際に、既習知識 は どのよ うな役割 を果たすのだろ うか。 岡は、知識の習得について、次のよ うに述べている。 (前略 :太 田)新
しい情報を受け取 りそれを学習 していく際には、新 しい情報だけを断片的に、バ ラバ ラに記憶 していくのではなく、通常は、新 しい情報 と既に知っていることを関係づけなが ら記憶 す ることになる。私たちは与えられたものをそのまま記憶 してい くのではな く、自ら関係性 を見いだ す、関連付けるな ど加工 して、知識 に組み込んでい くのである。(①,pp.52‐53) 新 しく得 た情報 は、既 に知 つてい る情報 と関連付 けることに よつて知識 に組 み込 ま れてい く。第 Ⅱ章 第 1節 「理解」「わかる」 とはどうい うことか。(中略 :太 田)入力 された情報同士の関係づけができるこ と、そ して入力 された情報 と既有知識 との関係づけができることが、わかるとい うことなのである。 (C),p.56) 理解す る とは、入力 され た情報 同士 の関連付 けがで きることや新 たに入力 された情報 と 既習知識 との関連付 けがで きることである。 岡は、既有知識 (既習知識 :太田
)が
理解 に与 える影響 について、次 の よ うに述 べてい る。 既有知識 は、理解過程や知識 の獲得過程 において常に検索 され利用 されている。 また、新 しい情報 は既有知識の中へ取 り込まれる。 したがつて、理解や知識獲得の促進 をはかる上では、適切な既有知 識 を活性化す ることが有効であろう。 これは、理解のために必要な知識 を検索 しやす くすることを考 慮 した方法である。(① ,p.62) 既有知識 (既習知識 :太田)は
、授業内容の理解や知識 を習得す る際に、常に検索 され利 用 されている。そのため、授業内容の理解や知識の習得を促進す るためには、適切な既習知 識を活性化す ることが必要である。 子 どもが授業をとお して新たに習得 した知識 と既習知識を関係づけることができれば、 子 どもは新たな授業内容を理解することができる。 既習知識は、新たな知識の習得や授業内容の理解 を深めるために必要である。 宇佐美寛は、情報のプール と問題意識の関係 について、次のよ うに述べている。 (前略 :太 田)ある情報を受 け取つたことか ら問題 を把握す るためには、受 け取 り手が持っている 情報 のプールが必要なのである。 問題 とは、 この よ うに二つの ものの間が ら的な ものなのである。 (中略 :太 田)情報が受 け取 り手の 「概念網」 と矛盾す るよ うな質のものであるとき (いわば、概念 の網にひつかかる時)、 問題 は生ず るのである。(中略 :太 田)すでにある概念組織の構造の中に、後 か ら来た記号 と異質なものがあ り、対立関係ができる時に、問題意識は出て くるのである。 (C),p.143)が必 要 で あ る。問題 意識 は、子 どもの情 報 のプール にあ る情報 と矛 盾す る情 報 を得 た ときに 生 じる。 宇 佐 美 の論 か ら、子 どもの既 習知識 は、問題 意識 の発 生 に も大 き く関 わ つてい る こ とが わ か る。 秋 田喜代美 は、知識 の剥 落現象 につ い て、次 の よ うに述 べ て い る。 一度学んでも、表層的にしか覚えていない知識はいつの間にか忘れた り、必要な時に活用すること ができない。これは知識の剥落現象 と呼ばれている。教師が教えるべき知識を伝達 しても、学習者で ある生徒の方が、既有の知識 と新たに入つてくる情報を能動的に統合 し、基礎 となる原理やルールを 自ら見出した り、新たな考えを評価 した りしながら、自分の理解や学習の過程を振 り返ることがなけ れば、カリキュラムをこなしただけで、深い理解にいたることはない。(③ ,p.84) 知識 の剥落現 象 とは、覚 えた知識 を忘れ て しま った た め、必 要 な時 に活用 す る こ とが で き ない とい う現象 で あ る。この よ うな現 象 を防 ぐた めには、学 習者 が既 習知識 と新 た な情 報 を 統 合 し、基礎 とな る原 理 を見 出す こ とや 、学習 の過程 を振 り返 る こ とが必要 で あ る。 秋 田は、深 い理解 を促 す た めの授 業 につ いて、次 の よ うに述 べ て い る。 深い理解を促すには、断片的な知識を得るだけではなく、既に持っている知識 と学んでいる知識が きちん と統合 されてい く授業が求められ る。 この知識統合のためには、①学習者が現在持っている知 識や考えを引き出す、②新 しい知識や考えが与えられ る、③ 自分の知識や考えを、規準を持つて自分 で評価する、④ 自分の持っている知識や考えを分類 した り整理す る、 とい う四つの活動過程が、単元 や授業の中に組み込まれていることが必要である。(③ ,p.127) 深 い理解 を促す ための授 業 とは、既習知識 と新 たに習得 した情報 が統合 され てい く授業 である。知識統合がな され るためには、単元や授業 において、学習者 の既習知識 を引き出 し、 分類や整理 を行 う活動が必要 である。 以上の ことか ら、授業 において、子 どもの既習知識 と新 たに習得 した情報 同士 を関連付 け させ ることを意図 した授業 を行 うことが必要であるこ とがわか る。
第 Ⅱ章 第1節
2
歴史的分野の学習で活用できる子 どもの既習知識 歴史的分野の授業で、子 どもは、どのような既習知識 を活用するのだろ うか。 活用できる既習知識 として、小学校社会科の歴史授業で習得 した既習知識が考えられる。 それでは、小学校の歴史授業は、 どのように行われ るのだろ うか。 『 平成20年
版小学校学習指導要領解説社会編』には、第大学年の 目標の一つの 「国家・ 社会の発展 に大きな働 きを した先人の業績や優れた文化遺産について興味 。関心 と理解を 深 めるよ うにす る」(④,p.70)と い う項 目について、次のように示 されている。 (前略 :太 田)国民生活の歴史的背景 としての我が国の今 日までの歴史に目を向け、国家 。社会の発 展に大きな働 きを した先人の業績については、歴史上の人物が当時の世の中の課題 を解決 し人々の願 いを実現 していつたことを調べた り、調べたことをまとめた りしなが ら、人物の働 きを共感的に理解 できるようにす ること、また、優れた文化遺産について も、当時の人々の願いや ものの考え方が具現 化 された ものであることを理解できるようにす ることである。(④,p70) 小 学 校 の歴 史 授 業 で は 、歴 史 上 の 人 物 の 業 績 や 文 化 遺 産 に つ い て調 べ る とい う授 業 が行 わ れ る。 そ れ で は 、歴 史 的 分 野 の授 業 は どの よ うに行 わ れ るの だ ろ うか。 『 平成20年
度版中学校学習指導要領解説社会編』(以下:中学校20年
版解説)は
、歴史 的分野の基本的な目標について、次のように示 している。 歴史的事象に関する関心を高め、我が国の歴史の大きな流れを、世界の歴史を背景に、各時代の特 色 を踏まえて理解 させ、それを通 して我が国の伝統 と文イヒの特色を広い視野に立って考えさせ るとと もに、我が国の歴史に対する愛情を深め、国民 としての自覚を育てる。(⑤ ,p.67) 歴 史 的 分 野 の学 習 の基 本 的 な 目標 の 一 つ は 、歴 史 の大 き な流 れ を、世 界 の歴 史 を背 景 に時 代 の特色 に基づいて理解す ることである。 中学校20年
版解説 は、歴 史的分野の学習 の中心 について、次 の よ うに示 してい る。関連す る世界の歴史を背景に、政治の展開、産業の発達、社会の様子、文化の特色な ど他の時代 との 共通点や相違点に着 日して各時代の特色を明 らかに した上で、我が国の歴史を大きくとらえさせ るこ とが学習の中心であることを示 している。(⑤ ,p.67) 歴史的分野の学習の中心は、日本の歴史の大きな流れの理解である。日本の歴史の大きな 流れを理解するために、世界の歴史を背景に、政治の展開、産業の発達、社会の様子、文化 の特色な ど他の時代 との共通点や相違点に着 目して各時代の特色を明 らかにす ることが求 め られている。 歴史的分野の授業は、世界の歴史を背景に各時代の特色を明 らかにすることによって、日 本の歴史の大きな流れを理解 させることを重視 している。 小学校社会科の歴史授業 と中学校社会科の歴史的分野の授業をそれぞれの
20年
版解説 に 書かれている内容で比較す ると日標や学習の方法に違いがあることがわかる。そのため、小 学校社会科の歴史授業で習得 した全ての既習知識 を歴史的分野の授業で活用することはで きない。歴史的分野の授業において、子 どもが小学校社会科の既習知識を活用するための方 法を明 らかにす る必要がある。また、小学校歴史授業で得た既習知識の内容は、子 どもの学 習経験によつて異なることに配慮 しなければな らない。つま り、小学校社会科の歴史授業で 習得 され るべき知識 を習得できていない子 どもがいるとい う前提で、既習知識の活用を授 業に組み込む必要である。そのためには、既習知識 を想起 。再確認する場面を授業に設定す ることが必要になる。 【引用 。参考文献】 ①岡直樹 「知識獲得 と学習」森敏昭、中條和光、岡直樹共著『 学習心理学一理論 と実践の 統合をめざして』 培風館 2011.10 pp.41‐64 ②宇佐美寛『 思考指導の論理一教育方法における言語主義の批判』 明治図書 1973.2 ③秋 田喜代美『学びの心理学 授業をデザインする』 左右社 2012.9 ④文部科学省『平成20年
版小学校学習指導要領解説社会編』 東洋館出版社2008.8
⑤文部科学省『平成20年
版中学校学習指導要領解説社会編』 日本文教出版2008.9
第 Ⅱ章 第
2節
第2節
歴史的分野の授業 における小学校社会科の既習知識 の活用方法 歴 史的分野 の授業 において、小学校社会科 の既習知識 を活用す るた めには、学習過程 にお いて、既習知識 を活用できる授業構成理論 に基づいた授業設計 を行 う必要がある。 本節 では、既習知識 を活用 できる授業構成理論 について検討す る。また、小学校社会科 の 既習知識 を、学習過程 に組 み込むための手立て として、資料活用 の方法 につ いて論 じる。1
既習知識の活用 と「探究I」 の社会科授 業構成理論 米 田豊 は、「探究 I」 の学習過程 について、図 Ⅱ-2-1の
よ うに示 してい る。 「なぜ疑問」の発見・把握→予想・仮説の設定 →仮説の検証のための資料の収集 と選択,決
定 →選択 した資料を もとに した検証→説明的知識の習得 図 Ⅱ‐2‐1
「探究 I」 の学習過程 (① ,p.12) 「探究 I」 の学習過 程 にお け る学習 は、「なぜ 疑 問」 の発 見・ 把握→ 予想 。仮説 の設 定→ 仮 説 の検 証 のた めの資料 の収 集 と選 択 、決 定→ 選 択 した資料 を も とに した検 証→ 説 明的知 識 の習得 とい う過 程 で進 め られ る。 米 田は、授 業 の最後 に習 得 され る説 明的知識 につ い て 、次 の よ うに述 べ て い る。 説明的知識 とは、「なぜ疑問」の解答であり、本時の知識 。理解の目標 となるものである。また、社 会事象間の関係 。関連を 「原因と結果」で明示 したものである。(①,p ll) 説明的知識は、「なぜ疑問」の解答であり、社会事象間の因果関係を明示 したものである。 「探究I」 の学習過程では、「なぜ疑問」 として表 した学習課題か ら、子 どもに予想・仮説 を設定 させ、選択 した資料をもとに予想・仮説を検証す ることによって「なぜ疑問」の解答 としての説明的知識を習得する。 「探究I」 の授業構成理論に基づいた歴史的分野の探究学習を行 うことによって、子 ども米 田は、「なぜ 疑 間 の発 見・ 把握 」 の段 階 につ い て、次 の よ うに述 べ て い る。 「なぜ疑間の発見・把握」の段階では、まず子どもの単発的な「問い」を多く出させる。そして、 これ らの 「問い」を子 どもの先行学習経験、既に子 どもがもつている概念装置を総動員 して、社会科 としての「問題」に高める。直観的思考で出された「問い」を分析的思考 (先行学習経験や先行概念 装置を使つた思考)のふるいにかけて「問題」に高めるのである。 さらに、教師が学習指導要領及び 教科書、社会諸科学の研究成果を反映 させて、「学習課題」を設定する。このような社会科 としての 「問い」「問題」の在 り方が学年を追って「習得」されていれば、それを「活用」 して質の高い「学 習課題 (なぜ疑問)」 力`発見・把握 される。(① ,p.13) 「なぜ 疑 間の発 見・把握 」の段 階 では、子 どもが出 した 「問 い」 を、社会科 としての 「問 題 」 に高 め る際 に、子 どもの学 習経験 や既 に子 どもが もつてい る概 念 装 置 が活 用 され る。 米 田は、「予想・ 仮説 の設 定」 の段 階 につ いて 、次 の よ うに述 べ て い る。 「予想・仮説の設定」の段階では、直観的思考で出された予想を集約 して仮説に高めたり、既に子 どもが 「習得」 している知識 (記述的知識、分析的知識、説明的知識)や概念装置を「活用」 した り して、仮説を設定する。(① ,p.13) 予想・仮説 の設 定 の段 階 にお い て も、既 に子 どもが習得 してい る知識 (記述 的知識 、分析 的知識 、説 明的知識
)や
概 念装 置 を活 用 した りして、仮 説 を設 定す る と述べ られ てお り、子 どもの既 習知識 が活用 され てい る。 米 田は、「仮説 の検証 のた めの資料 の収集 と選 択 、決 定 」の段 階 、「選 択 した資料 を も とに した検証 」 の段 階 につ いて、次 の よ うに述 べ てい る。 「仮説の検証のための資料の収集 と選択、決定」の段階、「選択 した資料をもとにした検証」の段 階においても、既に子 どもが「習得」した技能や知識 (記述的知識、分析的知識、説明的知識)が「活 用」される。(① ,p.13) 「仮説の検証のための資料の収集 と選択、決定」の段階、「選択 した資料をもとにした検第 Ⅱ章 第
2節
「探究I」 の理論 を社会科授業 に組み込む ことによつて、子 どもが習得 してい る小学校社 会科 の既習知識 が活用 され る。 また、「探究I」 の理論 を組み込んだ歴史的分野の授業では、子 どもが習得 してい る学習 経験や既習知識 を、学習課題 の設 定や予想・仮説設 定 の段階や資料 の選択 。決定、資料 を基 に した検証 の段階で活用す るこ とがで きる。 ここまで論 じて きた ことか ら、本研 究では子 どもの既習知識 を歴史的分野の授業 に活用 す るために、「探 究I」 の理論 に依拠 した授業 を提案す る。 「探究I」 の学習過程 において、子 どもが小学校社会科 の既習知識 を活用す る過程 のモデ ル を示す と図 Ⅱ‐2‐2のよ うになる。小学校 での学習経
験・ 既習知識
新 たに習得 した
情報
の発見説明的知識の習得
図 Ⅱ-2-2
「探究I」 の学習過程 で子 どもが小学校 で学習 した既習知識 を活用す る過程のモデル資料 を基 に した検証
2
『探究I」 の学習過程における小学校社会科の既習知識の活性化を意図 した資料活用 の方法 「探究I」 の理論を組み込んだ歴史的分野の探究学習において、子 どもの小学校社会科の 既習知識 を組み込むためには、 どのよ うな手立てが効果的なのだろ うか。(1)既
習知識を活性化 させるための手立て 岡は、既有知識 を活性化 させ るための手立てについて、次のように述べている。 (前略 :太 田)ガ ヽ学校4年生 の社会科 の授業 にお いて、授 業 の導入 時 にそ の授業 内容 に関連す る既 有知識 を想起 させ るこ とに よ り (中略 :太 田)資料 の読 み取 りや 、新 しい情報 と既有知識 との関連づ け、新情報 同士 の関連 づ けが促進 され る こ とが示 され た。(② ,p.62) 授業 の導入時に、授業内容 に関連す る既習知識 を想起 させ ることによつて、新 たに習得 し た情報 と既習知識 との関連付 けは促進 され る。 子 どもの既習知識 を活性化 させ るた めの手立て として、既習知識 を想起 させ る場面 を「探 究I」 の学習過程 に組み込む ことが必要である。 それ では、記憶 の想起 とは、 どの よ うな行為 であるのだ ろ うか。 齊藤智 は、記憶 について、次 の よ うに述べてい る。記銘memO五zationと は、符 号化 ellcOdhgと もいい、外界 の情報 を保持 できるよ うに変換 して取 り 込 む こ とであ る。記銘 され た情報 は必要 な時点で取 り出 され るまで蓄 え られ てい る必要 が あ るが 、 こ うして情報 を保 管 してお く働 きを保持retention、 または貯蔵sbrageと よぶ。そ して、保持情報 が利 用 され るためには これ を取 り出す必要が あ り、 この過程 を想 起remembermgあるいは検 索retrieval とい う。忘却forgettingと は、一度記銘 され た情報 が後 に想起 で きない状態 を指す (③ ,p.95) 記憶 を想起す る とは、記銘 され保持 され た情報 を取 り出す行為 である。記銘 された情報が 想起 で きない ことを忘却 とい う。 忘却 が起 こる と一度記銘 され た情報 で も後 に想起 で きな くな る。それでは、なぜ忘却が起 こるのだ ろ うか。
第 Ⅱ章 第
2節
(前略 :太 田)原因 には二つ が考 え られ る。一つ は保持 の失敗 で、その情報 が失 われ て しまつた こ と に よつて想 起 で きない もの、 も う一つ は想 起過 程 そ の ものの失敗 で 、情報 が保持 されてい るのに もか かわ らず検 索で きない場合 で ある。(中略 :太 田)記銘 され なか った こ とに原 因で あ る場合 の記憶 の失 敗 は、忘却 とは呼 ばない。(③ ,p.95) 記 憶 が忘却 され る理 由は、記憶 の保 持 の失敗 、記憶 の検 索 の失敗 の いず れ か で あ る。忘却 で は な く記 憶 の失敗 に よ り、知識 の記 憶 が で きてい ない場合 もあ る。 歴 史 的分野 の授 業 にお いて、授 業者 は、子 どもが小 学校社 会科 の学 習 にお い て 、知識 の記 憶 が で きてい ない場 合 を想 定 しな けれ ば な らない。つ ま り、「探究I」 の学 習過 程 にお い て、 小 学校 社 会 科 の既 習知識 を想 起 させ るだ けで な く、授 業 内容 を再 確 認 す る場 面 を設 定す る 必 要 が あ る。 岡 は、検 索 の失敗 に よる忘却 につ い て、次 の よ うに述 べ て い る。思い出せそ うでなかなか思い出せない、いわゆる「喉まで出かかる (TOT:Ъ Ofthe TOngue)」 現 象を経験することは少なくない。しかしこの思い出せなかったことを、別な時に思い出すことがある。 ふ としたきつかけで思い出すことができるとい うことは、この忘却は一時的なものであり、思い出そ うとしたことを記憶貯蔵はできているが、それをうまく探 し出すことができなかったとい うことであ る。 したがつて、適切な検索手がか りがあれば再生できるのに対 し、手がか りがなければ再生できな い、つまり検索の失敗により思い出すことができないことがあるといえよう。(中略:太田)思い出す ためには、検索手がかりが重要な役割を果たしているのである。(④,pp.56‐57) 既習知識 を想 起で きないのは、うま く探 し出す こ には、検 索手がか りが必要 となる。
A.M.スープ レナ ン トlAim6e M.Surprenant)と
りについて、次 の よ うに述べてい る。
とができないためである。想起す るため
I.ニース (Ian Neath)は 、検索手がか
どんな記憶 も、手がか りなしには生 じ得ないOames,1890;JolFleS,1979;Nving,197う 。ここで言 う手
Goddard,P五ng,&Fehnhgham,2005)な どが該 当す る。(⑤,pp.41‐42) 検索手がか りは、質問の よ うな言語的な もの もあれ ば、視覚イ メー ジの よ うな非言語的な もの もある。 子 どもに既 習知識 を想起 させ るために、授業者が、検索手がか りとして、既習知識 を想起 させ るための発間 を行 うとい う方法 がある。
(2)「
探究I」 の学習過程 における既習知識 を想起 させ るための資料活用 「探究I」 の学習過程 において、資料 は重要な役割 を果たす。 子 どもは、「探究I」 の学習過程 において、資料か ら読み取 った情報 を基に学習課題 を設 定す る。また、予想・仮説 の検証 の段階 において も、子 どもは資料 か ら読み取 った情報 を基 に予想や仮説 を検証す る。 そのため、子 どもに既習知識 を想起す る検索手がか りを与 える手立て として、資料 を活用 す ることを検討す る。 社会科授業 で活用で きる資料 には、 どの よ うな ものがあるだ ろ うか。 広 岡亮蔵 は、社会科 にお ける資料 について、次の よ うに述べてい る。 (前略 :太 田)資料 の主 な種類 として は、(1)現実資料 (現地 。現物 。遺物・遺跡)、 ② 映像 資料 (スラ イ ド・ 写真・ 絵画・彫刻)、 (3)音声 資料 (テープ・ ラジオ)、 (の図式資料 (地図・ 年表 ・統計等)、 (5) 文書 資料 (文書・ パ ンフ・ 副読本 等)があ り、 さすが に資料王 国の社会 科 にふ さわ しく多種多様 であ る。(⑥,p.5) 資料 の主 な種 類 と して、現 実資料 、映像 資料 、音 声資料 、図式資 料 、文書 資料 の五つ が挙 げ られ てい る。 それ で は、五 つ の資料 の 中で、検 索手 が か りと して活用 で き る ものは、何 で あ ろ うか。 豊 田弘 司 は、画像 優位性 効果 につ い て、次 の よ うに述べ てい る。 記憶材料の特性によつてその保持が異なることはよく知られている。 とくに絵が語よりも記憶成績 が良いことは、画像優位性効果 (ptto五al superio五ty e■bct)と して知 られている。(⑦ ,p.104)第 Ⅱ章 第
2節
画像優位性効果 とは、絵 が語 よ りも記憶 されやすい とい う特性 である。 豊 田は、画像優位 性効果 をもた らす根拠 としての二重符号化説 について、次の よ うに述べ てい る。 絵と語の記憶の違いに関するもつとも有名な説明は、ペイヴィオ(P江宙o,1971)によつて提唱された 二重符号化説である。彼は、絵のような具体的刺激はイメージによって符号化され、かつ言語によっ ても符号化される。それゆえ、イメージと言語によつて二重に符号化される絵の方が1つの符号化し かされない言葉よりも記憶成績が良くなるというのである。(⑦,p104) 絵 は、イ メー ジ と言語 によって二重 に符号化 され る。そのため、絵 は言語 よ りも記憶 しや す い。つ ま り、文書資料や統計資料 よ りも、映像資料 の方 が子 どもに記憶 され る可能性 が高 い とい える。この論 に依拠す ると、映像資料が検索手がか りとして働 きやすい とい うことが で きる。 映像資料 には、た くさんの情報 が含 まれ てい るため、子 どもに映像資料 の読み取 りを行 わ せ ることで、資料 と関連 した既習知識 を想起 させ ることができる。小学校社会科の教科書に 掲載 され てい る映像資料 と歴 史的分野 の教科書 に掲載 され てい る映像資料 には、歴史上 の 人物の 肖像画 の よ うに共通す る資料や既習知識 と関連す る資料 が含 まれ てい る。また、映像 資料 ではな くとも、検 索手がか りとして小学校社会科 で学習 した用語や人名 の含 まれ てい る資料 を提示す ることによつて、子 どもは用語や人物 に関連す る既習知識 を想起できる。そ れ では、小学校社会科 の既習知識 を想起 させ るために、資料 を どの よ うに活用すれ ばいいだ ろ うか。D.A.ノーマ ン
(Donald A.Norman)は
、トランザ クテ ィブ記憶 について、次の よ うに述 べ ている。誰 しも、ものごとを想起す るのに複数 の人のパ ワーを経験 したことがある。友人たちといるとき、 映画の題名や レス トランの名前などを思い出そ うとしたが出てこない。 しか し、他の人が助けて くれ
る。(中略 :太 田)各人が情報を少 しずつカロえていき、徐々に選択肢を狭め、誰か一人だけではできな
か らわか った こ とや気づいた こ と、資料 に関連す るこ とで知 つてい ることを発表 させ、全体 で共有 してい く。その結果 、子 どもは、一人では想起 で きなか つた、資料 と関連 した既習知 識 を想起す ることがで きる。また、資料 に関連 して学 んだ内容 を再確認す ることができる。 また、「探究I」 の学習過程 をとお して、映像資料 か ら読み取 つた情報 と新たな情報 を関 連付 けるこ とに よって、映像資料 を中心 とした知識 のネ ッ トワー クを構成す ることもで き る。その結果 、子 どもは、授業後 に学習内容 を復習す る際 に、映像資料 を読み取 ることに よ つて、資料 と関連 した知識 を想起できるよ うになる。
映像資料を活用した知識の想起の過程について、江戸時代の出島の様子が描かれた
『寛文
長崎図屏風』を例に挙げて図示すると図Ⅱ
-2-3の
ようになる。
資料の読み取 りによって得られる検索手がかり鯨競
『
た
い
な
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こ
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架■ 雹翔 嚇Υ
出島は、長崎港内につく られた島で、鎖国の間は ここだけで貿易が許され ていた。全
簿
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月詈靭器増盟崎
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小さい船が大きな船 の周りに泊まつている0
スト教の禁止をおし進め るために、オランダ。中 国・朝鮮との貿易のみを 大きな船が3隻 泊まつ ている。F
ヽ
、
これらの検索手 がかりから、想起されると考えられるキーワード出島
.貿
易
鎖国は、江戸幕府がキリ 認めた制度。 キー ワードに関連する内容図Ⅱ
-2-3
『寛文長崎図屏風』から子どもが既習知識を想起する過程
子 どもは、『寛文長崎図屏風』の読み取 りをとおして、「小さな島みたいなところがある」 「大きな船が三隻泊まっている」といつた内容をわかつたこととして発表 し、全体で共有し ていく。 寛文長崎回屏風第 Ⅱ章 第
2節
い る資料 なのかを子 どもに発問す る。子 どもは、資料か ら読み取 つた情報 を手がか りとして、 資料 が何 を示 してい るのか を考 える。この過程 を とお して、子 どもは資料 と関連 した既 習知 識 として、「出島」「貿易」「鎖国」 を想起す ることがで きる。 その後 、授業者 は、子 どもに 既 習知識 の内容 を発表 させ 、共通理解 を図 る。その結果 、既習知識 を想起 できなか った子 ど もや キー ワー ドを覚 えていなか った子 どもは、小学校社会科 の学習内容 を再確認す ること ができる。 この よ うな資料活用場面 を、「探究I」 の学習過程 に組み込んでい く。 【註及び引用・参考文献】 ①米田豊 「『習得・活用・探究』の社会科授業づくりと評価問題」米田豊編著『「習得・活 用・探究」の社会科授業&評
価問題プラン』 明治図書 2011.6 pp.7‐21 ②岡直樹 「知識獲得と学習」森敏昭、中條和光、岡直樹共著『学習心理学―理論 と実践の 統合をめざして』 培風館 2011.10 pp.41‐64 ③齊藤智 「記憶」藤永保監修『最新心理学事典』 平凡社 2013.12 pp.95‐97 ④岡直樹 「長期の記憶」海保博之編著『 朝倉心理学講座2認
知心理学』 朝倉書店 2005.11 pp.47‐76⑤
A.M.スープレナント
fAim6e M.Surprenanty,I.二_ス
cah NeatD著
,今井久登訳『記憶の
しくみ』 勁草書房
2012.12⑥広岡亮蔵 「資料批判を裏打として」
『教育科学社会科教育
No.163』 1977.7 pp.5‐10.⑦豊田弘司「長期記憶
I
情報の獲得」高野陽太郎編『認知心理学2記 憶』東京大学出版会
1995.10 pp.101‐ 116 ③D.A.ノーマ ン著、岡本明、安村通晃、伊賀聡一郎、野島久雄訳『 誰のためのデザイ ン?認
知科学者のデザイン原論』新曜社
2015.4第 Ⅲ章 教 科 書 型 プ リン トの 開 発 と小 学 校 社 会 科 の 既 習 知 識 を活 用 す る歴 史 的 分 野 の授 業 モ デ ル の 開 発 本章において、第 Ⅱ章で明 らかに した小学校社会科の既習知識 を活用できる授業モデル の開発を行 う。開発を行 う授業モデルは、「敗戦後の人々のくらし」「日本国憲法の制定」の 二つである。これ らの授業モデルは、子 どもが授業をとお して新たに習得 した情報 と小学校 社会科の既習知識 と関連付 けることによつて、習得 した知識の定着 を図ることを意図 して いる。 第 1節 では、歴史的分野の探究学習 における、教科書型プ リン トの必要性について論 じる。 第