乳児期初期 の微笑行動 についての一考察
On Smiling in Early Infancy
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じ め
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散笑(smiling)は、人間の感情表現 を示す普遍 的 な表 出形態であ る。微笑は、人間の新生児に も す でに見 られ、その行動基準は両 口角 の側上方-の移動であ る(Wol
f
f.1987)O この徴笑に類似す る 行動形態は、他の晴乳動物において も観察 され る。 しか し、微笑の形態や、微笑が用い られ る文脈が 分化 し、洗練化 され るのは、人間の場合だけであ り、致笑には、次第に文化 に特有な特徴が組み込 まれ ることになる。事実、我 々成人の微笑には、 喜び、満足、挑戦、侮蔑、疑惑、怒 り、恐れな ど とい う、非常に広範 な意味が付与 されている。そ れゆえ、人間の微笑行動は、ステ レオ タイプな 「固定 された動作パ ターン」(fixedactionpattern) ではない。 この微笑行動は、初期行動の研究者 に よって、 最大の関心が払われて きた行動形態の一つで もあ る。微笑は、生涯にわた って、 ノンバーバルな社 会的 コ ミュニケーシ ョンの主要な手段であ る。乳 児において も、微笑が人間を自分の もとに呼び寄 せ るシグナル行動 として機能 し、 アタ ッチ メン ト 形成に重要 な役割を演 じているとみ な されている (Bowlby,1969)。
また近年 では、徽笑が緊張解放 (tension-release) 時 に生 じるとす るモデルが提出 されている(Sroure &waters,1976;Sroufe,1979)。 このモデルによれば、乳児が、ある刺激対象を処理 しよ うとす るとき、注意が増加 し緊張が高 まることにな る。 この とき、乳児がその刺激を同化 できれは、緊張 が低減 し、それが快 い感情を生 じさせ、微笑 とい う行動形態を取 らせ るとみな され る。一方、その 刺激が同化 できない場合には、乳児は 「目そ らし」 を した り、泣いた りして、興奮を最適な レベルに
大
薮
泰
Yasushi Ohyabu
調整 しよ うとす ることになるのである。 この拙論では、新生児期を中心に、生後3カ月 頃 までの微笑行動の特徴について概観 してみたい。l
早 期 産 児 の 微 笑 早期産児に も、 自発的微笑が生 じることが知 ら れている。 この 自発的微笑 とは、それを生 じさせ る特定の外的な刺激が無 く、何 らかの内的 な条件 に よって生 じてい るとみな され る微笑であ る。そ の発現の神経学的起源は、脳幹部にあることが推 測 されてお り(Harmon& Emde,1972)、REM 睡 眠期や まどろみ期におけ る中枢神経系の興奮を反 映 してい るとみなされてい る(Spitz,etal.1970)。 Wolrf(1987)は、 在胎週数が24-34週 の健康な 20名の早期産児の 自発微笑を、病院か ら退院す る までの間、毎週1時間ずつ観察 した。全例 で、自 発微笑が観察 されたが、その生起頻度に明確な発 達的傾向はみ られなか った。 また、大薮ほか(1979) も受胎後34-40週の早期産児のREM睡眠 期 の 自 発微笑を観察 しているが、やは り自発散笑の生起 頻度に発達的変化 を見出していない。 こ うした結 果は、 自発教笑 の生起頻度が、在胎40週 に近い早 期産児ほ ど少ないことを見出し、それを脳 の成熟 の程 度の反映 とみなすEmde,etal.(1971)の推論 と矛盾す るかの ようである。 しか し、在胎期間の 長短 を考慮す ると、 この相反す るかの よ うにみえ る結果は必ず しも矛盾す るとはいえない。 なぜ なら、 早期産児の母体内環量 と母体外環境 とを比較す る と、母体内環境のほ うが発達に有利であ ることが 知 られているか らである。早期産児が収容 され る 新生児集中管理室のクベース内の環静 ま、感覚刺 激が単調で乏 しい(Rice,1977他)。それ に対 し、 母体 内の胎児は、 自分 自身の運動あるいはその運動に よって生 じる子宮 の筋肉壁や胎盤 との接触か ら、接触刺激、運動感覚刺激、平衡感覚刺激の供 給を受けている。特に、胎児が成長すれば羊水が 減 り、子宮内で接触刺激を受ける機会が多 くなる (Vaughan,1969)。 また、聴覚刺激 も母体の脈拍 音、母親や他の人の話 し声、音楽など多様な刺激 が もたらされている。母体の リズムも胎児の運動 に影響 し、母親がNREM睡眠 の ときよりREM睡 眠や覚醒 しているときのほ うが、胎児の運動が多 いことが知 られてい る(Dreyrus-Brisac,1974)。事 実、早期産児に早期か ら視覚刺激、聴覚刺激、触 覚刺激、平衡感覚刺激 を与えると、体重の増加、 運動の発達、視聴覚刺激に対す る反応が助長 され るのである(Solkorr,etal.1969他)。こうした知 見を考慮す ると、在胎40週近 くまで母体内にいた 早期産児(Emde,etal.1971)で、自発的微笑の 生起頻度が減少す るとい う発達的変化が観察 され て も不思議ではない。 自発的微笑の発現を決定す る脳の成熟には、多様 な感覚刺激が関与 している 可能性が示唆 されるのである。 早期産児の自発的微笑 と行動状態 との関連につ いては、自発的微笑 の生起頻度に開眼時 と閉限時 で差がないとす る報告(Wollr,1987)と、開眼時に は自発的微笑が生起 しに くいとす る報告(大薮, 1978)とがある。大薮 の報告は、在胎遇数が34週 以降の早期産児のものであ り、この両報告の違い も在胎週数の差によるものか もしれない。 また、Wolrf(1987)は、 自発的微笑が早期産児 の運動活動が活発であ るときには観察 されず、不 活発な運動活動のときに生起す ることを見出して いる。そして、この不活発な運動活動の状態が、 早期産児の自発的微笑 の生起に必須な前提条件で あろ うとみな してい る。つま り、眠 っていて も、 目ざめていて も、身体運動が不活発であることが 自発的微笑の生起には必要であるとい うのである。 もしそ うだ とすれば、不活発で他の身体部分の動 きが少ない ときに、中箱神経系の興奮を放出す る 比較的独立 したルー トとして自発的微笑が生 じる ことになると考えられ る。
Ⅱ
満 期産 児 の微 笑 (1) 自発的微笑 満期産児の自発的徽笑は、REM睡眠期 か ま ど ろみ期に生 じる。Wolrr(1987)に よれは、 その生 起には明確な時間的パターンがない。 また、睡眠 時の自発的微笑の生起頻度は、生後1週か ら4週 にかけて有意に増加するが、それ以降は減少す る。 しか し、生後6ケ月児でも睡眠時の 自発的微笑は 珍 しくはない。 まどろみ期には、覚醒から睡眠に移行す るとき に生 じるものと、睡眠か ら覚醒に移行す るときに 生 じるもの とがある。 自発的微笑は、覚醒か ら陸 眠に移行す るまどろみ期にのみ生 じる(Wolff, 1987)。 そ して、その自発的微笑の96蕗が、伏 し 目がちの日を閉 じて2秒以内に生 じている。 この 閉眼 と自発的微笑の生起にみ られ る明確な時間関 係か ら、Wolrf(1987)は、 開眼時には非特異的な 感覚 インプットが 「自発的運動放出」(spontanel ousmotordischarge)を抑制す る緩衝装置 として 摸能す るが、閉眼に よってその感覚 イソプ ットが 除去 され ると、その較能が喪失 され 自発的微笑や その他の自発的運動パターンが出現 しやす くなる のであろ うとみな している。そ して、 この現象を 「運動解発現象」(motorreleasephenomena)と 呼んでいる。 こうした推論に立脚すれば、 自発的微笑は、新 生児が覚醒 して視覚刺激やその他の感覚刺激を連 続的に受けているときよ りも、睡眠 中に生起 しや す くなるのは当然であろ う。 したが って、 この自 発的微笑は、生後数週以後の覚醒 した乳児で観察 され る微笑 とは、発現の メカニズムが異なるもの と推測 されている(Wolrr,1987)0(
2
)
誘 発 微 笑 REM陸眠期で不活発な状態にあ る新生児に音 刺激を与 えると、微笑が生起 しやすい (Wolff, 1987)o この外界からの刺激によって生 じる微笑を、 誘発微笑 とい う。 この音刺激に対す る誘発微笑は、 自発的微笑 と同様にNREM睡眠期にはみ られない。 また、新生児の顔-の穏やかな接触刺激に対する 誘発微笑は、生起頻度が非常に低 く、 自発的微笑 との区別が困難である。誘発微笑に有効な音刺激は、音響的に複雑で (Eisenberg,1976倦 皮が弱 く-イピッチな音であり、 純音や ク リック音 といった単純な音では効果がな い。 また、同じ複雑な音でも強度が強い場合には、 微笑を誘発せずに、 口唇運動や しかめ顔あるいは startleを誘発 しやすい(Ashton,1973) 。人間の-イ ピッチな音声は、最 も誘発微笑を生起 させやす い刺激である。つま り新生児は、母親が語 りかけ る-イピッチな音声に よって、微笑を誘発 させや すい仕組みを備えているのである。 Wolfr(1987)は、REM睡眠期における音刺激に 対す る顔の表情の変化を検討 している。 1ブロッ ク(5回の刺激提示)の試行に対 し、少な くとも 1回の反応があれは、反応あ りとみな して生起率 が算出された (図 1)。す ると、音刺激に対す る 誘発徽笑の生起率は、自発的微笑の生起頻度の増 加 と同様に、生後1カ月間は増加 したのである。 特に、生後4週では生起率が95啓を超えてお り、 また生後2週か ら6週 までは60宙以上を示 してい る。 しか し、先述 した ように自発的微笑が生後6 カ月まで出現 し続けるのに対 し、音刺激に よる誘 発微笑は生後2カ月を過ぎると出現 しな くなるの である。 これは脳が成熟す ることに よって、RE M睡眠期の音誘発徴笑が生起 しに くくなるために よるのか もしれない。 Wolff(1987)に よれは、生後 2週間か ら6週に かけての音刺激に よる誘発微笑は、REM睡眠 期 よりまどろみ期で より高い生起率を示す。そして、 自発的微笑 と同様に、誘発微笑が生起す るのは、 覚醒期か ら睡眠期-の移行期にあた るまどろみ期 ZSNILZN60FtNEm 工NGRESP【朴BE 舛 S 神 的 如 相 加 加 10 0 であ り、睡眠期か ら覚醒期-の移行期には生 じな いのである。 したがって、覚醒期から睡眠期-の まどろみ期には、あたか も微笑行動が生起す る準 備が整 っているかのようであ り、聴覚刺激に対す る微笑反応閲値が低下 している特異な行動状態に あることが推測できる。 (3)覚醒時の微笑 目ざめている新生児が、母親の声を聞いた り、 その顔を見た りして微笑む とき、母親はその笑顔 に感動 し、引き寄せ られ、その子 とかかわ りを持 とうとい う気持ちが高め られ る。人刺激に対す る、 この ような微笑は、人 との相互作用を生み出しや す く、 ここでは 「社会的微笑」 と呼ぶことにす る。 この 「社会的徴笑」の初期発達について、Wolrf (1987)の記述に基づいて見てい くことに したい。 ① 社会的微笑の発現経過 人の音声刺激や人の顔刺激に よって生 じる社会 的微笑は、どの ような発現経過を とるのであろ う か。図2は、人の音声だけを聞かせた場合 と、黙 って うなづ く人の顔を見せた場合の結果を示 した もりである。 1ブロック(5回の刺激提示)の試 行に対 し、少な くとも1回の微笑が生 じたブロッ クのパーセン トで表わ されている。 この図か ら、新生児期の社会的微笑は、顔刺激 より音声刺激のほ うが有効であることが知 られ よ う。 また、社会的微笑が生 じるのは生後2週以降 であ り、生後1遇では皆無である。音声刺激に対 す る微笑の生起率は漸増 し、生後5週で ピークに YOICfALCrd:-SNZLE
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HECNANIC▲LSOtJq 1 -91ILE -・・〇・一 Au SM SJ10UT71ZN6 ㌧=:コ-1 2 3 1 5 8 VEE7( 7 4 9 10 図1.REM睡眠期(StateI)における音誘発微笑(Wolff.1987)達 し、その後漸減 し、生後3カ月の終わ りには10 啓を切 るに至 っている。一方、顔刺激に対す る微 笑 のほ うは、生後3遇 より生起 し始め、生後6週 で音声刺激の生起率を上回 り、それ以降 も漸増 し 続けてい る。 それでは、なぜ生後6週以降になると、音声刺 激の有効性が減 じるのであろ うか。 ここで、音声 と顔 とを組み合わせた場合を見てみ よう。先ず、 Wolrrの顔 と母親 の声 との組み合わせ と、Wolrr の声 と母親の顔 との組み合わせを比較す ると、前 者のほ うが社会的微笑の生起に有効であ った。 し か し、母親の顔 と声の組み合わせは、Wolffの顔 と母親の声 との組み合わせ よりも有効ではなか っ たのであ る。 つ ま り、母親の声が最 も重要な手掛か りを演 じ てい るのであ り、音声刺激の有効性は母親 の声に 特定化 された形態で以前 として残 されてい るので ある。 これは、母親の音声 とその他の人の音声 と 暮TRIALtLOロくS 印 70 60 50 40 30 2tI lO
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の音響的特徴の弁別能力が発達 したことに よるも のであろ う。ただ し、 この時期の乳児に社会的微 笑を誘発す るためには、母親の声がす るときに人 の顔が存在す る必要があるのであ る。母親 の声が した ときに、そ こに人の顔があれば よいのであ っ て、母親 の顔 と他の人 の顔 との区別は微笑反応 で み るか ぎ りな されていない ようであ る。 生後6週以降の乳児は、人の音声を聞いた とき に、それ以前の よ うにす く・には微笑 しない。微笑 す る前に、その音源を探索す る行動が見 られ るの である。 これは、人の音声に よって義務的に生 じ る微笑反応 とい う、音声 と微笑 との機械的結 合が 崩壊す ることを反映 してい るのであろ う。 また、 音声 を聞いた ときには、顔を見 ることができると い う予想ができるようにな ったのだ ともいえよ う。 しか し、微笑行動を指標 としてみ る限 り、乳児は いまだ音声 と顔 とを一致 させた人間像を獲得 して はいない よ うであ る。 Yt)ICEAL叩 〇 -・・1-・. ・・・,{ ・・' sILT_liS.札-l
Z 3 4 5 6 7 8 g ltI II 12 MEET( 図2・ 人の音声刺激 と顔刺激に対する微笑反応(Wolff,1987) ② 社会的微笑 の生起潜時 音声刺激に よる社会的微笑の生起は、生後6週 以降、減少 し、微笑す る前に音源の探索行動が生 じることが知 られた。 したが って、音声 に対す る 社会的微笑の生起潜時は、延長 され ることになる のである。図3は、音声刺激に対す る生起潜時の 発達的変化を示 した ものであ る。 この図を見 ると、 生起潜時 は生後1カ月か ら2カ月にかけて減少 し、 その後、増加す ることが知 られ る。つ ま り、誕生 後1- 2カ月 までは、音声刺激に対す る反応性の 敏速化に伴 い、生起潜時が短縮す るとい う発達的 変化が生 じるが、それ以降は、音源探索 とい う認 知的要因の働 きが関与す るようにな り、その結果、 生起潜時が延長 され るとい う現象的には逆方向の 変化がみ られ るようになるのであ る。 こ うした結 果は、微笑 とい う感情表出に認知的要因が次第に 関与す るよ うになることを示 してい る。人間の音 声 とい う固定 されたサイン刺激に対 して、すでに プログラムされていた義務的反応(obligatoryres -ponse)の よ うにみ られ ることがあ る初期の社会的 微笑 は、早 くも新生児期を過 ぎる頃か ら認知的要一方、見知 らぬ人の顔を見せた場合には、徽笑 の頻 度はWolffや母親の場合 より減 るが、微笑潜 時 はWolffの顔 を見た ときよ り短 く、母親の場合 とほぼ同 じであ った。Wolrrは、見知 らぬ人の顔 に対す る微笑潜時が短か ったのは、見知 らぬ人の 顔が見慣れた人の顔 と非常に異なるためであ り、 その場合には、微笑する前の視覚探索がむ しろ短か くな るのであろ うと推測 している。それに対 し、 観察のために乳児の家庭 に週に数回訪問 して少 し な じみのあ るWolfrが、黙 って表情 を変 えない顔 を見せ るとい うな じみのないや り方をす ると、そ の認知的不協和を解消 して微笑を生 じさせ るまで に時 間が必要になるのであろ う。
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・u ,ENCY 国 9・IZ・I. A.-因が関与す る感情表出行動に変容 されてい くこと になるのであ る。 次に、人の顔刺激に よって生 じる社会的徽笑の 生起潜時を取 り上げてみ よう。やは り生後2カ月 頃 より、生起潜時 が延びる傾向がみ られ るが、 こ れは顔の内部輪郭に対す る視覚探索行動に起因す る。 2カ月児 と3カ月児に、黙 って表情を変 えない Wolffの顔 と母親 の顔 とを見せ ると、微笑潜時は 母親のほ うが短か った。 これは、な じみの深い母 親 の顔 の場合には、視覚探索をす る必要が少ない ため と考 え られ、母親 も、顔の表情を変 えないか ぎ り、乳児が微笑す る前に、顔を視覚走査す るこ とに気づかない と述べている。 l OF SNlLES lOO9
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■EEXS 9-10 11-12 図3・ 覚醒敏活期における音声刺激に対する撒笑の生起潜時(Wolff,1987) さらにWolrfは 、普通の人の顔 に、プラスティ ック製 のマスクをかぶせた ときの、乳児の徴笑反 応を検討 している。 このマスクは、顔の特徴や色 は透けて見えるが、段の各部分の運動性を歪 ませ ることにな り、成人で も不快で不気味な恐 ろしさ を感 じさせ る0 .2- 3カ月の乳児では、サ ングラ スをかけた り、- ア-ライ ンを覆 う肌色の帽子を かぶ った り、 ラテ ックス製の フランケソシ ュタイ ンのマスクをかぶ った りした顔 な どを見せた とき よ りも、微笑頻度が激減 し、微笑 した ときで も、 その潜時は劇的に増加 した。 ときに、20秒以上に お よぶ潜時の問、乳児は四肢を動か さずに顔を じ っと見つめ、驚いてで もいるように 口を開けた り、 しかめ顔を見せた りす る。 また、 ぐず り気味の と きには、強い泣 きに移行す ることが頻繁に生 じた。 こ うした泣 き-の移行は、見知 らぬ人であ って も、 自然な顔 の場合には決 して観察 されなか った こと であ る。 この透明なマスクは、物理的な意味では、他の 条件 より自然な顔 とよく似てい るが、微笑反応を 引 き起 こす条件 としては、 自然な顔 との不協和が、 他の条件 よ りむ しろ大 きか ったのである。顔の部 分は全て揃 ってお り、それ らの個 々の位置関係 も 自然 な顔 と変わ らないに もかかわ らず、透 明なマ スクには微笑反応を抑制す る条件があ った ことに なる。それ は、おそ らく顔のテクスチ ュア と運動 の変化に よるものであろ う。そ して、 ここで も見 慣れた顔か ら大 き く隔た った顔 より、わずかな矛 盾 のある顔 のほ うがす でに有す るシ ェマに同化 さ せ よ うとす る負荷を高めることになるのであろ う。 ③ 社会的徽笑 と行動状態 ぐず っているときには、母親の声に対す る感受 性 と応答性が覚醒時 よ り高 くなる。 7週 か ら12週の く・ず ってい る乳児に、母親が声をかけ ると、時 々 ぐず りを抑制 し、音源 を積極的に探 し、母親 の顔 を見 るやいなや、穏やかではっき りした微笑 で応答 した。 ところが、wolrrが -イ ピッチな音 声 で話 しかけて も、 こ うした行動はほ とんどみ ら れなか った。 く・ず りが一時的に抑制 されて もWo -1frの顔 を見た ときには、微笑す るどころか泣 き が一層強め られ ることもあった。 この ように、覚醒時 とぐず ってい るときとで、 人刺激に対す る乳児の反応に違いが生 じることは、 上記の透明なマスクの場合に もみ られたことであ る。 したが って、行動状態は乳児期初期の社会的 表出行動を決定す る一つの重要な要田にな ってい る。 また、社会的出会いの 「意味」、そ してそ こ か ら生 じる感情表 出は、乳児の行動状態に よって 大 き く影響 され るとも言えよ う。 Ⅲ 微 笑 の緊 張解 放 モ デ ル すでに論 じて きた よ うに、乳児の社会的微笑の 生起には認知的要因が関与す ることが知 られてい る。 こ うした微笑を含む、乳児の感情についての 包括的な理論モデル として、Sroufeの 「緊張解放 モデル」が現在の ところ最 も説得力がある。そ こ で、 この 「緊張解放 モデル」ついて、最初に概観 してお きたい。 Sroufeは、興奮 の閲値 と表出行動 との関係を、 興奮 一弛緩サイクル(excitation-relaxationcyc -le)として仮定す る (図4)。乳児が特定の刺激に 注意を向け、その刺激情報を処理 しよ うとす ると
き、刺激に対す る注意力は増大す る。 この ときに は、乳児の身体行動が静かにな り、心拍数の減少 が伴われ る(Graham
&
Clifton,1966)0Kagan(1978)は、 こ うした乳児の行動上の変化を、緊張 の増大感を付随す る認知活動の増大を反映 してい るとみな している。 この ように乳児の緊張感や興奮が増大 した時点 で、乳児には2つの可能な取 るべ き方向が残 され ることになる。 第1の可能性は、乳児がその出来事を同化 し、 そ して微笑に よって特徴づけ られ る緊張の快い低 減 を体験す るものである。そ して、 この微笑時に は、心拍数の減少が伴われ るとい う(Sroure& Waters,1976)
0
第2の可能性は、乳児がその出来事を同化でき ない場合である。 この ときには、乳 児は 目そ らし、 ぐず り、泣 きとい うdistressな状態 を望 し、我慢 ができな くなるまで緊張が増加 し続 け ることにな る。そ して このdistressな状態の ときには、心拍 数は増加す るとされ る(Voughan&
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e,1979 他)0srrlile
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(1979b)は、 乳児に母親 の生 き生 きと動 く顔 と、 人形の動 きの無い顔 とを見せた ところ、乳児の注 視時間は人形の顔 のほ うが長か った ことを見 出 し てい る。 この結果は、母親 の急激に変化す る疎の 表情は、乳児に情報処理 とarousal調整 の 負担を よ り多 く要求す るため、 目そ らしが多 くなった こ とを示 してい ると解釈 されてい る。 次に、乳児の微笑 と母親のstill-face(熟 して 表情 を変 えない洪) との関係か ら、 「緊張解放 モ デル」を検討 したStoller&Field(1982)の研究を 紹介 してみ よう。 対象児 は、 8週児 と12週児、各23名 と、その母 親 である。対面相互交流場面では、背 もたれを立 てた乳児用 シー トに座 らされた乳児 の顔か ら、約 46cn離れた ところに母親が座 ってい る。 ビデオテ ープの記録 と、母親 と乳児の心拍 の記録がな され てい る。相互交流場面では、以下の4種類の観察 場面が各対象児に、その番号の順に実施 されてい る。 また、対象児は以下の3群に分け られている。 亡4種類の観察場面〕
① spontaneous1:1.5分間の自由な対面相互 交流
② Separation:1分間、母親は乳児を一人残 し てカーテ ンの後ろに去 る
③
stilト race:母親が戻 り、45秒間stil1-faceを取 り続け る
④ spontaneous
丑:
1.5分間の自由な対面相互 交流 亡3種頬の実験群コ 上記の観察場面③で、母親がstilトfaceす る時 期に よって、3種額の実験群に分け られてい る。 ① first-looking群 :乳児が最初に母親を見た 直後に、母親がstill-faceす る ② first-smiling群 : 乳児が最初に微笑 した直 後に、母親がstilトfaceす る③
late-1ooking群 :first-smiling群 の 乳 児 が、母親が戻 って20秒以内に微笑 しなか った 場合に、20秒経過後最初に乳児が母親を見た 直後に、母親がstil1-faceす る こ うした実験条件の もとでのsti11-face場 面 で、 各群に共通にみ られた結果は、乳児の微笑頻度が 減少 し、母親か らの 目そ らしが増加 した ことであ る。smiling群 とlooking群(firsい ate両群) と を比較す ると、looking群 の ほ うが、stilトrace 場面で よ り多 くの発声 と泣 きを生 じさせている。 この発声行動の多 さは、母親に正常な相互交流を 回復 させ ることを求め る意欲を示 しているよ うに 思われ る。 また、泣 きは、それができなか ったた めのdistress反 応 であ ると同時 に、高め られたア ローザル レグェルを調整する機能をもつのであろ う。 この結果 は、looking群 で は、緊張 の増大の 過程でstil1-faceが提示 され る ことにな り、強い distressを体験す ることになろ うとみなすSroufe の 「緊張解放 モデル」 と一致す る。一方、この「緊 張 解 放 モ デル 」 が仮 定す るよ うに、微笑が一つ の完成 した相互交流のサイ クルの終結 と緊張の低 下を もた らす とすれば、smiling群 でのstill-r a-ceの提示直後はlooking群 は ど強 いdistressは 体 験せずにすみそ うであ る。 したが って、乳児の表 出行動を見 るかぎ り、Srolユfeの 「緊張解放モデルJ を支持す る結果が得 られた といえ よう。 しか し、心拍 の測定結果を見 ると、 こ うした解 釈 と一致す るデータは得 られないのである。つま り、心拍のデータは、looking群 がsmiling群 よ り、母親のstilトface開始時 に おいて も、あるい はstill-race開始後の最初 の10秒間において も、 生理学的にアローザルが高 まっていることを示 さ ないのである。first-1ooking群 の心拍はstill -face開始時にゆ っくり増加 し、firsトsmiling群 では減少す るが (この結果は 「緊張解放モデル」 と一致す る)、late-looking群の心拍 もまた減少 す るのである。 このIate-1ooking群 のJM 白の変化 は、 「緊張解放 モデル
」 と矛盾す るものである。 こ うした行動上のデータと心拍のデータか ら、 Stoller&Fieldは、各群 の乳児 た ちは異な るタイ プに属す るのではないか とい う推測を している。 た とえば、late-looging群では、distress-brow や活発な身体運動や泣 きが多い とい うように、行 動上は最 もdistressな状態 を示すが、心拍 数の変 化は最 も少ないのである。つ ま り、late-looking 群は、distressを主 として行動 で示 してい るよう であ る。同様に、first-1ooking群は、distressを 心拍活動で表わ してお り、 first-smiling群は、 distress-brow行動 と心拍 活動 の両者で表 わ して い るよ うであったのである。 Jones(1950)は、Eysenck(1967)に よる成 人 の3類型に相当す る、乳 児の3芙頁型を記述 している。 Internalizerは、生理学的には反応す るが行動表 出が最小の ものであ る。Externalizerは、最小の 心拍反応で行動表出を示す ものであ る。Gener a-1izerは、生理学的に も行動的に も反応す るもので ある。 この分掛 こ従 えは、first-1ooking群はI n-ternalizer群、late-looking群 はExternalizer群、 first-smiling群 はGeneralizer群 とい う分 類 が 可能になろ うとStoller&Fieldは述べてい る。 Stoller&Fieldが言 うように、 この ような結果 は、Sroureの 「緊張解放モデル」を否定す るもの ではない。それは、単 にdistressの反応が行動的 あるいは生理学的に表 われる程度には、個体差が あることを示唆 してい るにす ぎない。実験群を、 乳児の行動に基づいて設定 した ことが、偶然に も、 各実験群でス トレスに対す る行動反応 と心拍反応 とに異な る変化を招来 させ ることにな ったのであ ろ う。つ ま り、 こ うした結果は、母親の行動の変 化に対す る乳児の感情反応を検討す る場合には、 行動的お よび生理学的成分の個体差を吟味す るこ とが重要であることを示唆 している。
Ⅳ
微笑 と表情分析
Oster(1978)は、Ekman& Friesen(1978)に よ って開発 されたFacial Action Co°ing System (FACS)を用いて、乳 児期初期 の微笑行動の表情 分析 を試みてい る。FACSは、顔の表情の変化を、 房の筋肉の運動に基づ いて微細に測定す るシステ ムであ る。Osterは、 このシステムを用い ること に よ り、幼君乳児における顔の運動の構造の質 と 程度を検討 した り、 また成人の表情にみ られ る筋 肉の結合規則 と幼君乳 児のそれ との比較が可能に なるとしてい る。 こ うした顔の表情の微細な分析 の結果か ら、仮 に微笑 とい う行動を取 り上げてみ れば、た とえば成人 の微笑 と同質 とみな し うる微 笑の発現時期を推測す るとい った ことが可能にな るであろ う。あ るいは乳児の社会的微笑 と自発的 微笑におけ る顔 の形態 の同質性の分析は、 この二 つの微笑の質的な差異 を検討す るに際 して重要な 資料を提供す ることになろ う。 Oster(1978)は、 乳 児 の社会的微笑 と眉の運動 とに着 目し、 この両者 のシーケンスを検討 した。 対象児は、 コ-カシア ソの2名の女児で、いずれ も健康 な満期産児であ る。分析の対象 とされたの は、生後3週、 4週、 8週、10∼11週 の時点で、 乳児が最 もalertで社会的応答性 に富む状態 の と きが選ばれてい る。顔 の表情の記録は、親 との対 面交流場面であ り、 1回の ビデオ記録の時間は15 -20分であ った。微笑エ ピソー ドとして分析 され たのは、微笑開始の10秒前か ら、終了10秒後 まで の時期であ る。 また分析対象 とされた微笑は、少 な くとも1秒以上持続す るもので、自然なス ピー ドで観察 して も微笑 と認知できるものである。微 笑前に生 じた眉 の運動 とみな され るのは、微笑開 始前1秒以内の ものであ った。 したが って、眉 の 運動の持続時間の長短 にかかわ らず、微笑開始前 1秒以前に生 じた場合には、微笑前の眉 の運動は ニュー トラル とみな されてい る。 また、微笑期間 の81蕗以上で眉が リラックス してい る場合に、微 笑期間の眉を ニュー トラル とみな してい る。 この よ うな実験手続 きに よって得 られた結果 で は、生後8週 と10週では両児 とも微笑前のほぼ40 96で、眉ひそめ(brow-knitting)単独 か、 あ るい は眉ひそめ と眉 あげ(browraising)との組み合わ せの運動が生 じていた。 さらに、一方の児では、 3遇 で も4遇 で も微笑前に これ と同様な眉の運動 が生 じていたのである。そ して、微笑が開始 され ると、ほ とんどが リラックスした表情にな り、微 笑中の眉 は ニュー トラルであ り続けた。一方、 ニ ュー トラルか ら眉ひそめ- とい う、逆方向へのシ ーケソスは皆無であった。 さて、 こ うした結果か ら、 どの ような議論が可 能にな るであろ うか。 最初は、微笑中の眉が ニュー トラルであ るとい う結果についてであ る。実は、早期産お よび満期 産の新生児の睡眠中の 自発的微笑において も、眉 の位置は ニ ュー トラルなのである。つ ま り、人 と の対面交流場面での社会的微笑の眉 の運動は、形 態的には睡眠中の微笑 と同形であ り、学習 された もので も意識的に行 った動作 で もな く、む しろ、 生得的で皮質下でプログラムされた ものを反映 し てい ると推測できるのである。 次には、微笑 とその直前に生 じる眉ひそめ との 関連についてであ る。 こ うした関連は、睡眠中の 微笑には生 じない。 したが って、微笑 と眉ひそめ との関連は、微笑中の眉が ニュー トラルである場合の よ うに、 もともとプログラムされてい るステ レオタイプな行動で も、 「固定 された動作パター ン」で もない といえよう。なぜ な ら、 もしそれが 生得的にプログラムされた動作パ ターンであれは、 睡眠中の 自発的微笑で も観察 され ることが期待 さ れ るか らである。換言すれば、眉ひそめ と微笑 と い う継起は生理学的な ものではな く、そ こには何 らかの心理学的なプロセスが反映 されてい ると推 測できるのであ る。 それでは、 どの よ うな心理学的 プロセスが反映 されていると考 え られ るのであろ うか。 第一には、乳児の眉ひそめを否定的な感情のサ イ ンだ と解釈す るものがあげ うれ よう。つ ま り、 最適な レベルをは るかに越 えた緊張やarousalが 生 じさせた、不快感や嫌悪感の反映だ とす る見方 であ る。 この見方に立ては、眉ひそめ と微笑 とが 短時間で生起す るのは、乳児期初期の感情反応の 不安定 さと非構造化の現われにす ぎないことにな る。つま り、その微笑はいまだ肯定的な感情の真 の表現で も、あ るいは真の社会的反応で もない こ との致侯であるとみな され ることになるのであ る。 ところで、Osterが指摘す る よ うに、 もし眉ひ そめが未分化な否定的感情のサインであるなら、 「泣 き」や防衛的な回避行動に先だつ顔 の表情 と、 微笑に先だつ顔 の表情 とは炉似 した形態を取 るこ とが期待で きよ う。 しか し、微笑直前のこ うした 眉ひそめ行動は、 「泣 き」や 「ぐず り」の直前の 表情 とは全 く似 ていない。顔の特定の動作 も、運 動のタイ ミングと特徴 も、微笑前 と 「泣 き」の前 とでは明 らかに異なるのである(Oster,1978)。 ま た、微笑前の眉 ひそめに付随 して生 じる顔 の表情 に、 ロすぼめや 口突 き、 目を大 き く開けてす る持 続的な注視、身体運動の少なさがあることを 0-sterは見出してい る。 こ うした行動は、すべて乳 児期初期の敏活(alert)な注意行動 の特故 で あ り、 否定的感情の存在を示唆す る行動ではない。 こ う した点か ら、微笑前の眉ひそめを否定的感情のサ インだ とす る解釈には難があるといえよう。 第二の解釈は、 この眉ひそめが注意行動の特殊 な形態を反映 してい るとす るものであ る。上述 し たように、乳児期初期の敏活な注意行動時には、 口 すぼめや 口突き、 目を大きく開けて実行す る持続的 な注視、身体運動の少な さとい う行動が見 られ る が、眉ひそめを見 ることはな く、眉は完全にスム ーズであることが知 られている。 この点か ら、眉ひ そめを注意行動の特殊 な形態を反映 してい るとす る見解であ り、Osterは この立 場を取 ってい る。 それでは、 この眉ひそめ として反映 され る注意 行動の特殊な形態 とは何を示 してい るのであろ う か。 それは、将来、当惑あ るいは認知活動の困難 さと解釈 され るようにな るものの初期形態であ る 認知過程を意味 している。換言すれば、眉ひそめ は、親 との対面交流場面で もた らされ る複雑でダ イナ ミックな刺激パターソを 「了解す る」あるい は 「同化す る」努力を反映 してい るとみなす ので ある。そ して、 この努力が成功す るとき、眉ひそ めに反映 され る 「緊張」が 「解放」 され、微笑が 生 じることになるのであ る。す でにお気づ きの よ うに、 このOsterの見解は、 Sroufeの 「緊張解放 モデル」に よく合致す る。 Osterは、 こ うした対象児が 2名 とい う予備的 なデ ータか らではあるが、生後3∼ 4遇児におい て も、 ラソダムではな く構造化 された顔の行動パ ターンがあること、そしてそ うした顔行動のパ ター ンは、未分化ではあるが、感情 と密接に結びついた 認知的処理の機能を反映 してい るとみな してい る。
お あ り に
乳児の微笑には、 自発的微笑、誘発的徴笑、社 会的微笑がある。 この3種頴の微笑の特徴につい て概観 してきたが、 ここでは これ らの微笑が どの ような関連性を有 しているのかについての試論を 述べてお きたい。 最初に、 自発的微笑の特徴をみてみ よう。 この 微笑 は、外的刺激が特定できない ときに生 じる微 笑であ った。そ して、 この 自発的微笑は、乳児が REM陸眠 あ るい は 「ま どろみ」の行動状態にあ るときにのみ生 じるのである。つ ま り、外界 との 関係は乏 しいが、脳 自体は活発に活動 している行 動状態の ときに生 じているといえる。 それでは、なぜ 自発的微笑が生 じるのであろ う か。その解釈 の一つが、中枢神経系の活動 に よっ て生 じた興奮 もしくは緊張を放 出す るル ー トとし ての役割を微笑に付与す る考 えである。そ して、 こ うした 「自発的運動放出」が開眼時に生 じない のは、開眼時には非特異的な感覚 イソプ ッ トが、この 「自発的運動放出」を抑制す る緩衝装置 とし ての機能を果た してい る(Wolff,1987)と考えられ るか らである。 これは、 自発的微笑が生 じる 「ま どろみ」が、睡眠か ら覚醒-移行す るとき、つ ま り外界の感覚刺激が増加す る 「まどろみ」ではな く、外界か ら取 り込む感覚刺激が減少す る覚醒か ら睡眠-移行す るときの 「まどろみ」の ときに生 じること。あ るいは、 「まどろみ」で生 じるほ と んどの 自発的微笑が、伏 し目がちの 目を閉 じて2 秒以内に生 じている、つ ま り閉眼に よって感覚刺 激が除去 され るとす ぐに出現す ることか ら推論 さ れ るのである。 しか し、 この解釈は、なぜ 自発的微笑 とい う顔 の形態が生 じるのか とい う問いには答えていない。 そこで、 この ことについて、若干 の考察を試みて みたい。 ここでは、微笑 とい う顔 の形態は、 「快 の感情」 と生得的に結 びついているとい う仮説か ら出発 し てみ よ う。 よ く知 られてい るように、 「快 の感情」 中枢 は、脳幹部 とりわけ間脳 と大脳基底核にあ る。 この脳幹部は新生児期にすでに機能 してお り、 こ こにある 「快 の感情」中枢 の興奮あるいは緊張の 高 ま りとその解放が、 「自発的微笑」 とい う顔 の 表 出形態を生得的に取 らせ るとみなすのである。 逆 に言えは、早期産児 あるいは満期産の新生児 と い う未熟な乳児で も、最 も基本的な 「快 の感情」 中枢はすでに生理学的 レベルでは機能 していると 仮定す るのであ る。 したが って、 「自発的運動放 出」の一形態 として、微笑が出現す ることになる のであ る。 しか し、覚醒時にイ ソプッ トされ る感 覚刺激が、快 中枢 を刺激 して微笑を発生 させ る機 構はいまだ末構築 なのであろ う。 それでは、 この自発的微笑 と誘発的微笑 とほ ど の ような関連性を有す るのであろ うか。 これ らの 微笑の共通点は、いずれ もREM睡眠 と 「ま どろ み」の行動状態で出現す ることである。そ して、 このREM睡眠 と、覚醒 か ら睡眠-の 「まどろみ」 では、自発的微笑の生起からわか るように、すでに 微笑行動が生起す る態勢が準備 されてい るのであ る。 これ らの行動状態にあるとき、微笑 を最 も誘 発 しやすい外的刺激は、音刺激である。それ も、 音響的に複雑で、-イ ピッチで弱い音が有効であ る。つ ま り、/、イ ピッチな人間の音声は、最 も誘 発的微笑を生起 させやすい刺激 とい うことになる。 つま り、誘発的微笑 を生起 させ る準備態勢は、聴 覚刺激に照準を合わせているのだ といえよ う。換 言すれば、-イ ピッチな人間の音声 に代表 され る 特定の音刺激は、誘発的微笑を生 じさせ るように 仕組 まれているとい うことがで きるのである。 こ の ことは、非常に重要な意味を もっている。それ は、人間の音声、つ ま り話 し言葉 は、 「快」 とい う結果を もた らす ものであることを意味す るか ら であ る。乳児が人 とコ ミュニケ-シ ョソす るにあ た り、 この事実が持つ意味は重要であ る。 覚醒時に生 じる社会的微笑 は、生後2週 よ り生 起 し始め る。誘発的微笑 と同様、当初は人間の音 声刺激が顔刺激 よ り有効であ る。 しか し、音声刺 激の有効性は、生後5週で ピークに達 し、以降は 減少す る。 これに対 し、顔刺激の有効性は、生後 6週で音刺激に よる微笑の生起率を上回 り、それ 以降 も漸増 し続け る。 ところで、 こうした事実は音声刺激 自体の有効 性が減 じるとい うよ り、乳児の刺激処理方法が異 な って くることにあ るのである。 それは、音声刺 激か ら微笑生起 までの潜時が、生後1カ月か ら2 カ月にかけては減少す るが、その後は増加す るこ と。そ して、その間に、その音声 を発す る人間の 顔 を探索 し、そこに人間の顔を旦 出す と微笑す る とい う行動か ら推論す ることがで きる。つ ま り、 そ こには、人間の音声に 自動的に微笑す るのでは な く、少な くとも新生児を過 ぎる頃か ら、認知的 要因が関与す る 「快感情」の表出行動に変容 され てい くことになるのである。 また、社会的微笑へ の認知的要因の関与は、新生児期でも観察 された 微笑直前に生 じる 「眉ひそめ」か らも推論 され る。 そ して、社会的微笑に対す る認知的要因の関与が 明確にな る頃、音声刺激に よって 自動的に生 じる 誘発的微笑は生起 しな くなるのである。 自発的微笑は乳児の体内で自動的に生 じる生理 学的な ものであ り、誘発的微笑は外界か らの刺激 に起因す るが反射的 レベルにあ り、社会的微笑に は認知的要因が関与す るもの といえよ う。 しか し、 自発的微笑、誘発的微笑、社会的微笑のいずれに も共通す る基盤があ るように思われ る。それは、 「快 の感情」なのではないだろ うか。 これ ら3種 類の微笑が、新生児期 とい う短期間に、わずかな
時間的ズ レをもちなが ら発現 して くるのをみ ると、 生得的に存在す る生理学的 レベルの 「快 の感情」 を、社会的文脈あるいは認知的文脈の中に取 り込 もうとす る構造の変換が、急速に進行 しているの が感知 され るのである。
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