北海道に生息する魚たちの歴史を辿る
北方生物圏フィールド科学センター 大学院環境科学院
(水産学部海洋生物科学科)
専門分野 : 魚類学
研究のキーワード : カジカ,アイナメ,生物多様性,DNA, スキューバダイビング HP アドレス : http://www.hokudai.ac.jp/fsc/usujiri/usujiri.html
何を目指しているのですか?
北海道の海って、冷たいですよね。アラスカに起源する寒流が北海道の周りを流れてい るからで、そのため千島列島以北と共通する生物がたくさん生息し、東北以南とは異なる 北海道独特の生物相が形成されます。北海道で生まれた私は、子どもの頃‘日本の魚類’ など、図鑑で普通種とされている生き物が北海道にいないことに疑問を持っていました。 本州ではおなじみのタイやアジの仲間は、北海道では滅多に見ません。こうした記憶が、 北海道の魚のことを知りたいという、今の研究の原点になっています。
北海道の海では、カジカ上科がもっとも種数が多 い魚類です。また秋にスキューバダイビングすると、 繁殖なわばりで卵を守っているアイナメ科魚類に よく出会います。これらはいずれも北太平洋沿岸に 広く分布している代表的な北方系魚類です。これら 魚類の進化過程を明らかにすることで、北海道の海 洋生物相の成り立ちを解明したいと考えています。
どのようにして研究をしているのですか?
水域によって生物相が異なるのは、地殻変動による地形(海)の変遷や環境に適応して 生物が進化した結果です。最も近縁な種はどれとどれか、種間関係を明らかにし分布域の 比較で全体像が見えてきます。生物の歴史が刻まれた資料である DNA を調べることで、系 統関係は明らかに出来ます。しかし、対象がモデル生物でも漁業種でもないので、自分で 研究材料を集めなければなりません。主な採集手段は、スキューバダイビングです。実験 所の他、北海道と海流でつながる千島列島、カムチャッツカ、アラスカ、カナダ、カリフォ ルニア、またピョートル大帝湾にも行きます。人が少なく生物が多い場所なので、何が採 集できるか分からないドキドキ感があり、楽しいフィールドワークです。
また、生物の歴史は種分化とともに、環境に適応した生理や生態、行動の変化を伴うこ とがあります。多種多様に形質が進化することを適応放散と呼び、一方、同じような環境 で別々の系統が類似した形質を持つことを収斂と言います。そうした体の仕組みや生態の 進化を明らかにするには、遺伝子分析とともに飼育実験やフィールド調査が必要になりま す。これらは、海辺に建つ水産実験所だから出来る研究です。
いきもの/生命進化
臼尻で見つかったウスジリカジカ 准教授
宗
むね
原
は ら
弘幸
ひ ろ ゆ き
出身高校:北海道小樽潮陵高校 最終学歴:北海道大学大学院水産学研究科
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どんな研究成果がありましたか?
私の研究は、対象生物を北海道とその周辺の海の生き物に限定しています。一方で、不 思議に思ったことを明らかにするためには、研究分野の壁を持たず、生理学や遺伝学など 様々な専門家に教えを請い、研究ツールの引き出しを増やしてきました。
魚類の繁殖には、体外受精と体内受精があります。 交尾する種は体内受精で、すべて胎生魚だと思われて いました。しかし、交尾しても受精は体外で始まる卵 生魚がカジカにいることが分かりました。特殊な生殖 様式ですが、一つの発見がブレークスルーとなり、カ ジカ類とは分類学的に大きく異なる魚類でも報告が続 きました。水中で産卵し卵に精子をかけることが一般 的な魚類で、交尾が進化する要因は何か、また交尾の 進化にどれだけの時間を要するか、カジカ類を例に調 べています。
私が大学院の時から研究しているアイナメ類でも面白いことが見つかりました。雑種は、 たいていの場合生存出来ても子孫を残せません。それは異種間のゲノム同士では配偶子が うまく作れないためです。しかし、アイナメ属の雑種は、母親のゲノムだけを伝える方法 で受精可能な卵を作り、子孫を残せます。現在は、こ
の遺伝様式の分子基盤を解明したいと模索しています。 30年間研究を続けて、研究ツールの引き出しも増え ました。しかし、何より必要な研究ツールは、常識や 雑念で曇ることがない自分の直感を信じられる観察眼 だと思います。最近は、鈍ってきたせいか、アイナメ 類の雑種研究では、大学院生からヒントを受けてス ルー出来ました。
実験所の未来は何を目指しますか?
今日のネットワーク社会では、どこにいても情報はすぐに得られ、誰かの体験さえバー チャル的に共有することもできます。こうした時代になると、自然の中にある実験施設は、 大学にとって貴重な教育現場です。実験所で涵養される自然や生き物との距離感は、どん な職についても生涯にわたる財産だと思います。だから、実験所は自然環境を保全し、学 生・院生を含め多くの生物が共生する、野外キャンパスでありたいと思っています。自然 の中で研究し、科学的解決方法を学ぶこと、大学生にとって必要な時間だと思います。
参考書
(1) 宗原弘幸・後藤晃・矢部衛編,『カジカ類の多様性』,東海大学出版会(2011)
トクビレ科魚類の卵塊(写真中央)
アイナメの生態調査。雄は黄色く婚姻色となる
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