基礎統計学(第
8
回)
4
確率
4.1
確率の概念
確率(probability)という言葉には本来2つの意味がある。1つは「ある仮説のそれにまつわる判断材料から
導かれる蓋然性(その事柄が実際に起こるか否か真であるか否かの確実性の度合)」であり、もう1つは「確率
過程的なふるまい(?)」である。イメージをより鮮明にするために例を挙げると、前者は「証拠Aが人物X
を犯人とみなす確信度」のような内容を扱うのに対し、後者は「サイコロを1回投げたときに出る目の相対的
な頻度」のような内容に対応する。前者の歴史は非常に古く、裁判等において確信が持てない証拠の信憑性を
評価するといった活用例が知られている。後者については、中世において、主に賭け事におけるオッズや保険
料の算出といった問題で取り扱われている。ここでは、後者の立場で確率について理解を深めることとする。
ある事がら(以下、「事象」という)が起こるか起こらないか確実には分からないとき、その事象の起こる確
からしさの程度を表す尺度を「確率」という。この確率の評価に関する考え方として、次の4つの考え方が存
在する。
(1)先験的アプローチ · · · ある事象Aの起こる確率P(A)は、起こり得る事象について、そのあらゆる場合
の数nと、その事象の起こる場合の数nAによって以下のように定められるという考え方
P(A) = nA
n (43)
(2)経験的アプローチ · · · 確率P(A)は、観察回数n を大きくしたときのその事象の起こる相対的頻度で定
められるという考え方
P(A) = lim n→∞
nA
n (44)
(3)主観的アプローチ · · · 1回限りもしくは同じ条件下で何度も反復して観察することができないような事
象を前提としたとき、その確率P(A)をそれを取り扱う人の個人的な確信度によって定めるという考え方
(4)公理的アプローチ · · · 確率を以下の3つの性質を満たす確からしさの尺度とするという数学的な考え方
公理1 任意の事象Aにおいて、確率P(A)は0≤P(A)≤1 を満たす。
公理2 あらゆる可能な事象の全体集合をSとしたとき、その確率P(S)は1である(P(S) = 1)。
公理3 同時に起こり得ない(互いに排反)有限個の事象A1, A2,· · · , An について、A1, A2,· · · , Anのい ずれかが起こる確率P(A1∪A2∪ · · · ∪An)は、以下の式で表される。
P(A1∪A2∪ · · · ∪An) = n
i=1
P(Ai) (45)
[確認課題10] 「確率を評価するためのアプローチ」
次のそれぞれの場合において、確率を評価するための適当なアプローチを答えよ。
(a) サッカー欧州選手権(EURO2016)で、開催国のフランスが優勝する確率
(b) 1組のトランプのカードから1枚引いたとき、そのカードがダイヤである確率
(c) ある部品製造会社で作られている部品の1セット(1000個)あたりの不良品の数
4.2
標本空間
サイコロを1回投げるという簡単な実験(以下、「試行」という)について考えてみると、可能な事象として
は、1, 2, · · · , 5, 6 の6つがある。これらの事象は、以下のような記号で表すことができる。
S={1, 2, 3, 4, 5, 6}
この集合Sを標本空間(sample space)という。また、標本空間における個々の事象を標本点という。先験的
アプローチの立場においては、これらの標本点に対応する事象の確率は全て等しい とみなされる。このことか
ら、サイコロの出目の確率は、サイコロに特別な細工が施されていない限り、いずれの出目においても 1 6 と なる。
(例) 硬貨2枚を投げ、表が出た場合をH、裏が出た場合をT と表す。このとき、HとTを用いて標本空間
Sを表し、標本点に対する事象とその確率を確認せよ。 また、表が1枚だけ出る事象Bの確率P(B) を
求めよ。
硬貨2枚の出た側を(1回目,2回目)と表すと、標本空間Sは、
S ={(H, H),(H, T), (T, H), (T, T)}
と表すことができる。標本点に対応する事象の確率は全て等しいことから、これらの確率は全て 1 4 であ
る。一方、この試行において、表が1枚だけ出る事象Bは、
B ={(H, T), (T, H)}
であるから、その確率はP(B) =
|B| |S| =
1
2 となる(| · |は·の基数である)。
なお、標本空間Sのイメージをより鮮明にするために、次のような図を用いることがある。
図4.1: 標本空間のグラフの例
[確認課題11] 「標本空間と標本点」
硬貨3枚を投げ、表が出た場合をH、裏が出た場合をT と表す。このとき、
(a) HとTを用いて標本空間Sを表せ。
(b) 3枚全て表となる確率を求めよ。
(c) 2枚以上表となる確率を求めよ。
[確認課題12] 「標本空間と標本点」
サイコロ2個を投げ、出た目を(1回目,2回目)と表す。このとき、
(a) 標本空間Sを表せ。
(b) サイコロの出目の和が7になる確率を求めよ。
(c) 1回だけ3の目が出る確率を求めよ。
(参考)モンティ・ホール問題
(引用「Wikipedia」https://ja.wikipedia.org/wiki/)[問題] 1990年9月9日発行の雑誌「Parade」における読者投稿
「プレーヤーの前に閉まった3つのドアがあって、1つのドアの後ろには景品の新車が、2つのドアの後ろ
には、はずれを意味するヤギがいる。プレーヤーは新車のドアを当てると新車がもらえる。プレーヤーが
1つのドアを選択した後、司会のモンティが残りのドアの内ヤギがいるドアを開けてヤギを見せる。ここ
でプレーヤーは、最初に選んだドアを、残っている開けられていないドアに変更しても良いと言われる。
プレーヤーはドアを変更すべきだろうか?」
この質問における選択肢は次の3つである。
(a) ドアを変更する
(b) ドアを変更しない
(c) ドアを変更してもしなくても新車がもらえる確率は同じである
実は、この答えは「(a)ドアを変更する」である。ここで、このゲームのルールを整理すると、
(1) 3つのドア(A, B, C)に(景品,ヤギ,ヤギ)が無作為に入っている。
(2) プレーヤーはドアを1つ選ぶ。
(3) モンティは残りのドアの内1つを必ず開ける。
(4) モンティの開けるドアは、必ずヤギの入っているドアである。
(5) モンティはプレーヤーに「ドアを選び直して良い」と必ず言う。
となる。この問題の最も重要なポイントは、どのような標本空間を設定するかである。(2)において、1つ
ドアを選んだ後の状況を考えると、次の3つのパターンが考えられる。
表4.1: 最初のドア選択後の状況
選択したドア 残りドア1 残りドア2
パターン1 景品 ヤギ ヤギ
パターン2 ヤギ 景品 ヤギ
パターン3 ヤギ ヤギ 景品
パターン1においては、いずれのドアを開けてもヤギがいるから、ドアを変更すると景品はもらえない。
一方、パターン2と3については、モンティがヤギのいるドアを開けると、景品のあるドアが残されるこ
とになる。このことから、ドアを変更すると景品がもらえる確率は 2
3 となり、変更しない場合の
1 3 よ り高いことが分かる。ただし、選ぶべき選択肢は、このルールの変更により変わることがある。
[確認課題13] 「モンティ・ホール問題(改訂版)」
先ほどのゲームのルールに変更があり、
(1) 3つのドア(A, B, C) に(景品,ヤギ,ヤギ)が無作為に入っている。
(2) モンティはドアの内1つを必ず開ける。
(3) モンティの開けるドアは、必ずヤギの入っているドアである。
(4) プレーヤーはドアを1つ選ぶ。
(5) モンティはプレーヤーに「ドアを選び直して良い」と必ず言う。
となった場合、ドアを変更をすべきであろうか。
4.3
順列と組合せ
全ての可能な事象を数え上げる際に、順列や組合せと呼ばれる考え方がよく用いられる。ここでは、その基
本的な知識をまとめておく。
(1)順列(permutation)· · · n個の要素の内r個の 並べ方 の数(n≥r)
nPr =
n!
(n−r)! (46)
ただし、n!はnの階乗といい、n! =n×(n−1)× · · · ×2×1 である。
(例) 5つの文字a, b, c, d, eの内3つを選んで並べる方法は何通りあるか。
n= 5, r= 3 であるから、
5P3= 5!
(5−3)! = 5×4×3 = 60
となり、その並べ方は60通りである。
(2)組合せ(combination)· · · n個の要素の内r個の 選び方 の数(n≥r)
nCr= nPr
r! =
n!
r! (n−r)! (47)
(例) 6人の生徒A, B, C, D, E, F の内2名を選ぶ方法は何通りあるか。
n= 6, r= 2 であるから、
6C2 = 6! 2! (6−2)! =
6×5 2×1 = 15
となり、その選び方は15通りである。
これまでの説明においては、「いずれの要素も同じものは存在しない」という前提があった。ここでは、同
じものが含まれている場合の順列(重複順列)について考える。
n個の要素があり、それらの内にはk種類の異なるものがあるとする。それぞれの種類の要素の個数がそ
れぞれn1, n2, · · · , nk であるとき、これらの n個の要素の並べ方は、
n!
n1!n2!· · ·nk! (48)
となる。
(例) 5つの文字F, U, K, U, I の順列を考えると、
5!
1!×2!×1!×1 = 60 (49)
であるから、その並べ方は60通りとなる。
[確認課題14] 「重複順列」
8つの文字K, A, N, A, Z, A, W, Aの並べ方は何通りあるか。