おいしい霜降り肉ができるメカニズムを探る
大学院農学研究院・大学院農学院 教授
西邑 隆徳
に し む ら た か の り
(農学部畜産科学科)
専門分野 : 食肉科学,筋細胞生物学
研究のキーワード : 食肉,骨格筋,筋細胞,脂肪細胞,細胞外マトリックス HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/animproduct/meat/
何を目指しているのですか?
食肉の主体は家畜や家禽の骨格筋です。私たちは、肉用家畜や家禽を様々な飼育方式で 肥育することによって、筋組織を肥大化させて効率的に赤身肉を生産したり、骨格筋内に 脂肪組織(筋肉内脂肪組織)を蓄積させて美味しい霜降り肉を生産したりしています。
家畜骨格筋における筋組織や脂肪組織の発達はどのように制御されているのでしょうか。 筋組織は、単核の筋芽細胞が分化・融合した多核の筋細胞(筋線維)の集合体です(図1)。 これらは線維芽細胞が作り出す細胞外マトリックスからなる結合組織によって支持され ています。また、筋肉内脂肪組織は、前駆脂肪細胞が分化して細胞内に脂肪滴を蓄えた脂 肪細胞の集合体です。したがって、骨格筋を構築する細胞群(筋細胞や脂肪細胞、線維芽 細胞など)の挙動が家畜骨格筋における筋組織と脂肪組織の発達に大きく影響し、最終産 物である食肉の量と質を決定するのです。
上記の各種細胞は骨格筋という同一空間内でそれぞれの組織を構築します。私たちは、 これらの細胞がどのようにコミュニケーションをとり、互いの増殖・分化を制御している かを追究することによって、筋肥大・脂肪蓄積
のメカニズムを解明しようとしています。細胞 間コミュニケーションツールとしての生理活性 因子を網羅的に探索して、生理活性因子を介し た細胞間コミュニケーション機構を解明し、さ らに、コミュニケーションの場としての細胞外 マトリックスの役割を解明しようとしています
(図2)。
出身高校:滋賀県立虎姫高校 最終学歴:北海道大学農学部
食料生産
図1 骨格筋を構築する細胞群
図2 筋細胞−脂肪細胞間コミュニケーション
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どんな装置を使ってどんな実験をしているのですか?
培養筋細胞や脂肪細胞を用いて、これらの細胞が増殖・分化過程でどのような生理活性 因子を分泌しているかをプロテオミクス(タンパク質網羅的解析)によって調べています。 また、生理活性因子が筋細胞や脂肪細胞の増殖・分化に及ぼす影響をタイムラプス顕微鏡
(一定培養経過時間毎に細胞の様相を撮影)や共焦点レーザー顕微鏡によって観察すると ともに(図3)、筋分化および脂肪分化のマーカー遺伝子の発現をPCRで調べています。
生理活性因子と細胞膜上の受容体との結合、あるいは抑制因子との相互作用については タンパク質相互作用解析装置(図4)などを用いて調べています。また、筋細胞(脂肪細 胞)で産生・分泌された生理活性因子が標的細胞である脂肪細胞(筋細胞)に作用する様 子を共焦点レーザー顕微鏡などで観察しています。さらに、走査型電子顕微鏡などを使っ て家畜骨格筋の構造を解析しています(図5)。
私たちの生活にどのように関わってきますか?
骨格筋における異種細胞間コミュニケーションを担う生理活性因子とその作用機序が明 らかになると、これを制御する遺伝子をマーカーにした育種改良技術や飼料の開発に繋が り、家畜生産段階で筋・脂肪組織の発達を制御する食肉生産技術の確立が期待されます。 また、家畜における筋肥大や脂肪蓄積の研究成果は人間の筋研究にも応用可能で、加齢性 筋萎縮、難治性筋疾
患、肥満症などの治 療や予防方法の開発 にも貢献できると考 えています(図6)。
図4 タンパク質相互作用解析装置。 図5 走査型電子顕微鏡(左)を用いて筋肉内結合組織構造(右)を観察。 図3 タイムラプス顕微鏡装置(左)を用いて脂肪細胞(中央)の分化様相を観察。培養筋細胞の共焦点レーザー顕微鏡像
(右)。筋細胞内でミオシン(GFP 標識、緑の縞模様)が規則正しく配列して筋原線維を形成している。
図6 研究のアウトリーチ
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