• 検索結果がありません。

音文化財のあるがまま記録・伝送 に関する研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "音文化財のあるがまま記録・伝送 に関する研究"

Copied!
117
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

音文化財のあるがまま記録・伝送 に関する研究

Recording and Transmitting Acoustical Heritage as it is

2006 年 2 月 

早稲田大学大学院国際情報通信研究科 国際情報通信学専攻 音響情報処理研究Ⅱ

武岡 成人

(2)

目次

第1章 序論

1.1 音場の収録・再生技術......................................1 1.2 先人の優れた技術 と今後...................................2 1.3 音文化財の あるがまま 伝送..............................3 1.4 研究の位置付け............................................4 1.5 本論文の構成と概要........................................5

第2章 レーザ光全面読み出しによる蝋管・レコードのあるがまま再生 9 2.1 まえがき.................................................. 9 2.2 蝋管...................................................... 10 2.3 計測装置.................................................. 11 2.4 計測結果.................................................. 14 2.5 音情報の抽出.............................................. 16 2.5.1 音溝の特定........................................16 2.5.2 クラスター分析の導入.............................. 17 2.5.3 音溝全面を用いた雑音の抑圧........................ 20 2.5.3.1 SP レコードの雑音の抑圧......................... 20 2.5.3.2 一般化調和解析と音溝全面による収録音の抽出..... 22 2.6 破損した蝋管からの再生....................................24 2.6.1 破損面の結合......................................24 2.6.2 欠落部の補間......................................26 2.7 走査型顕微鏡を用いた音溝の観察............................29 2.8 むすび.................................................... 32

第3章  3次元音場伝送を目的とした電気音響変換器 33 3.1 まえがき.................................................. 33 3.2 コンデンサスピーカを用いた1bit波面再生システム........... 34 3.2.1 概要.............................................. 36 3.2.2 キルヒホッフの積分公式に基づく音場再生............ 35 3.2.2.1 キルヒホッフの積分公式..........................36 3.2.2.2 実現可能な系での境界面制御......................37 3.2.3 コンデンサスピーカ................................38

(3)

3.2.3.2 フレキシブルコンデンサスピーカ..................39 3.2.3.3 コンデンサスピーカによる境界面制御..............42 3.2.3.4 キルヒホッフ型音響実験室....................... 44 3.3 Σ⊿変調へのランレングスリミテッドコーディングの導入...... 46 3.3.1 概要.............................................. 46 3.3.2 ランレングスリミテッドコーディング................ 47 3.3.3 Σ⊿RLLCの最適符号化.......................... 49 3.3.4 ダイレクトスイッチングシステム.................... 50 3.4 相変化を利用したスピーカ..................................52 3.4.1 概要.............................................. 52 3.4.2 相変化の音源としての利用.......................... 53 3.4.2.1 水の相変化..................................... 53 3.4.2.2 制御方法........................................55 3.4.3 制御装置.......................................... 56 3.4.3.1 試作装置....................................... 56 3.4.3.2 端子間抵抗..................................... 61 3.4.4 高次歪の軽減......................................63 3.4.5 測定.............................................. 67 3.4.5.1 抵抗値による出力音の変化....................... 67 3.4.5.2 出力特性・周波数特性........................... 69 3.4.5.3 指向特性....................................... 71 3.4.6 むすび............................................ 74

第4章 半導体1bitレコーダを用いた分散収録システム 77 4.1 まえがき.................................................. 77 4.2 高速1bit信号処理..........................................78 4.3 分散収録システム..........................................79 4.4 半導体1bitレコーダ....................................... 82 4.4.1 半導体1bitレコーダ ...............................82 4.4.2  LEDを用いた同期実験............................. 84 4.4.3 GPSを用いた同期実験............................ 85 4.5 多様性に富んだファイルフォーマットの提案.................. 86 4.5.1  WSDフォーマット.................................86 4.5.2  WSD準拠1bitマルチチャンネル半導体レコーダ...... 87 4.5.3 分散収録・再生システムコンサート実験.............. 88 4.6 マルチチャンネル型分散収録システム........................ 90

(4)

4.6.1 マルチチャンネル型分散収録システム................ 90 4.6.2 提案するシステムによる収録活動.................... 94 4.7 高品質アーカイブを目的とした収録システム..................97   4.7.1 高速1bit信号処理における量子化雑音制御............97   4.7.2 Σ⊿変調..........................................98   4.7.3 低時∑⊿変調高品質アーカイブ収録..................99 4.8 むすび.................................................... 101

   

第5章 総括 103

謝辞 105

参考文献 106

(5)

図目次

図−1−1  本論文の構成......................................... 8 図−2−1  測定装置とその近影................................... 12 図−2−2  超音波洗浄........................................... 13 図−2−3  測定結果............................................. 15  図−2−4  音溝の特定........................................... 16 図−2−5  劣化の激しい蝋管..................................... 17  図−2−6  クラスター分析を導入した音溝の位置推定............... 19 図−2−7    形状の異なる再生針を用いた収録....................... 20  図−2−8   再生信号同期加算による雑音の抑圧..................... 21 図−2−9  音溝壁面の様子とその平均............................. 22  図−2−10 再生針による再生波形および再合成された音波形......... 23 図−2−11 破損した蝋管......................................... 24  図−2−12 破損した蝋管の測定................................... 25 図−2−13 破損した蝋管の音溝の位置推定......................... 25 図−2−14 一般化調和解析を用いた欠落部の予測................... 26 図−2−15 破損した蝋管の音波形の再生音......................... 27  図−2−16 欠落部の補間......................................... 28 図−2−17 レーザ顕微鏡を用いた音溝の観察....................... 30 図−2−18 顕微鏡により得られた情報の3次元表示................. 31 図−3−1  空間の標本化定理を満たす制御系....................... 37  図−3−2  閉空間を構成する制御系............................... 37 図−3−3  1 bitアンプ駆動コンデンサスピーカ..................... 38 図−3−4  フレキシブルコンデンサスピーカ....................... 40 図−3−5  円筒型フレキシブルコンデンサスピーカ................. 40 図−3−6  制御電極を4分割したコンデンサスピーカ............... 41  図−3−7  振動板測定結果....................................... 41 図−3−8  12ch分割コンデンサスピーカ.......................... 42 図−3−9  実験結果............................................. 43 図−3−10 部屋全体の音場制御実験室図面......................... 45  図−3−11 高電圧スイッチングによる駆動回路..................... 46 図−3−12  RLLを導入した2次Σ⊿変調器........................ 47 図−3−13  1kHz正弦波入力時のスペクトル........................48 図−3−14 試作機外観........................................... 51 

(6)

図−3−15 水の液気相変化と音波の発生........................... 54  図−3−16 実験装置図........................................... 57  図−3−17 測定の様子........................................... 58  図−3−18 平行面電極........................................... 59  図−3−19 平板電極............................................. 60  図−3−20 NaCl 水溶液の濃度と導電率............................. 62  図−3−21 出力波形............................................. 62  図−3−22 2乗波形との比較..................................... 64 図−3−23 直流成分非印加時の出力信号スペクトル................. 64 図−3−24 直流成分印加時の出力信号スペクトル................... 65 図−3−25 プリディストーションを施した波形..................... 65 図−3−26 プリディストーションを施した出力信号スペクトル....... 66 図−3−27 濃度−出力特性....................................... 67  図−3−28 電極板面積−出力特性................................. 68  図−3−29 電力−音響出力特性................................... 70  図−3−30 周波数特性........................................... 70  図−3−31 平行板及び針電極による指向特性....................... 72  図−4−1  分散収録システム図................................... 80  図−4‐2  分散収録システム単体の構成........................... 81  図−4−3  半導体メモリおよびその制御部......................... 83  図−4−4  試作した小型半導体レコーダ........................... 83  図−4−5  LED 駆動回路.......................................... 84  図−4−6  GPSを用いた同期収録システム....................... 85  図−4−7  WSDフォーマット概要............................... 87  図−4−8  試作した8ch小型半導体レコーダ..................... 88  図−4−9  音源と同一配置の再生系による3次元音場再現実験....... 90  図−4−10 マルチチャンネル分散収録システム概念図............... 92 図−4−11 マルチチャンネル小型半導体収録システム............... 93  図−4−12 PC接続型スタンドアロン収録システム................. 93  図−4−13 ナイアガラでの収録の様子............................. 94  図−4−14 6方向HD収録システム............................... 95  図−4−15 イスタンブールでの収録風景........................... 96  図−4−16 Σ⊿変調............................................. 98  図−4−17 n次Σ⊿変調......................................... 98 図−4−18 2次Σ⊿変調器と制御系............................... 100

(7)

第1章 序論 

本論文は近年の半導体技術や光半導体技術を利用し,レコード等の文化遺産及び 伝統芸能や演奏等音場を中心とした文化財に対しできる限り対象に影響をあたえ ず,かつ細大漏らさず情報を読み取り再生する手法の確立を目的として行った研 究について論ずる.先人の優れた技術や工夫を,音場の収録の基本原理を見直し それらに現在の技術を用いることによる新しい音場の収録技術を確立しようとい うものである.

1.1  音場の収録・再生技術

約 150年前のLeon Scottの,あるいは約 130年前の T.A.Edisonの蓄音機に始まる 音の記録・再生は機械式から電気式,更にはアナログからディジタルへと様々な 変革を経て現在はディジタル記録された情報をハードディスクや半導体メモリに 格納するシステムが主流となっている.ディジタル信号処理の導入は収録技術,

収録環境に大きな変化をもたらし現在も多様化の一路を辿っている.音楽情報の 記録メディア・方式はその際たる例である.CD の登場により一旦は 44.1kHz・

16bitPCM符号化信号が世界中で扱われてきたが近年はSACDやDVD-AUDIOに代

表されるようなより高品質な音場の再生を目指すメディアが展開される一方で,

ネ ッ ト ワ ー ク 上 で の 制 限 や 携 帯 及 び 格 納 時 の 扱 い や す さ か ら MPEG Audio Layer-3(MP3)や Advanced Audio Coding (AAC)といった圧縮技術を用いた音質より も利便性を追求する方式が携帯型端末を中心に爆発的に普及しており今後どのよ うな形式が一般に音楽を楽しむ方法として定着するかは断言できない状態である.

事の是非はともかく極論すればディジタル信号処理技術の結晶でありながら20年 前の技術と比して音質を「劣化させた」信号を生成する技術が普及していること は音の記録を考える上で状況に応じた適切な技術を選択する重要性を示している.

(8)

1.2  先人の優れた技術と今後

現在広く使われている電気音響変換器,ダイナミックスピーカは1925年にアメ

リカの C.E.Riceと E.W.Kellogにより発表されたものに基づいている.その後様々

な検討が積み重ねられ今日の性能を得るに至っているが,その原型は80年近く変 わっていないと言える.電気音響変換効率に着目すると真空管増幅器の時代でこ そホーンを併用し 10%近くあったが,近年ではトランジスタの登場などもあり容 易に大出力が得られることから性能に重きが置かれ 1%以下となっているのが現 状である.一方で蝋管を始めとする機械式蓄音機は原理自体は実にシンプルであ りながら非常に精巧に作られており時間軸の送りにゼンマイの力を使うものの録 音自体はホーンによって集められた音の力とてこの原理により行われており,電 気のような外力に頼ることなく驚くほどの音量で再生することができる.更には 実に単純な構成であることから単なる「モノラル」収録としての意味合いだけで はなく音の到来方向など様々な空間情報が原理上は多少なりとも記録されている はずである.

音場の記録・再生へのディジタル技術の導入の原点は「量子化雑音による宿命的 なノイズとディジタル信号処理による利便性とのトレードオフ」であったことも 忘れてはならない.アナログ信号を量子化するということは必ず量子化雑音が発 生しそのことは理論上不可避である.アナログ収録を現在の技術で改良・実用す べきかディジタル収録時の量子化雑音の制御こそがこれからなすべき収録技術な のか議論がなされぬまま利便性もしくは商業的な意味合いによりすぎているので はないだろうか.

このように現状の技術が全ての点において進歩しているとは言いがたく,ホーン や機械式録音のような先人の知恵を見直しその上で現在の技術を十分に活用する ことこそ新しい音場収録の道を開く技術であるように思われる.

(9)

1.3  音文化財の あるがまま 伝送

早 稲 田 大 学 山 崎 研 究 室 は ユ ネ ス コ の N e w Te c h n o l o g y f o r C u l t u r e プ ロ ジ ェ ク ト と 連 携 し 世 界 文 化 遺 産 の あ る が ま ま 記 録 , 伝 送 を 目 標 に 文 化 財 の 細 大 も ら さ ぬ 保 存 及 び 伝 送 に 関 す る 活 動 を 進 め て い る . ま た 早 稲 田 大 学 と し て も 2 0 0 0年 3月 に ユ ネ ス コ と 包 括 協 定 を 締 結 す る と と も に 各 種 文 化 遺 産 や 文 化 を 支 え る 技 術 活 動 を 行 っ て い る .

レコードや建築物等文化遺産は時間と共に少なからず経年変化し,また演劇・

伝統芸能など空間情報を含む文化財においては全く等しい表現・演奏は実際には 2度とありえないといった側面を有している.よってそれらの保存は利便性にと らわれるのではなく,内容はもちろん材料や空間情報にいたるまでをその時点で のできる限り高品質な収録手法により行われるべきである.それ故に保存作業は 本来それにより対象を傷つけたり演奏の妨げになりうる手法ではあってはならな い.保存に際しては歪みを軽減するような信号処理ですら源信号を少しでも損ね る可能性があるのであれば後世の段階での最新の技術にゆだねるべきで,現状に 忠実な記録をなすべきである.本論文はそのような観点から音情報を含む文化財 に対してできる限り対象に影響を与えない高品質な収録手法,またそれらの再生 手法の確立を目指して行った研究に関して論ずるものである.

(10)

1.4  研究の位置付け 

現在貴重な文化財であるレコードやテープに記録された映像や音を再生し,CD, DVD等のディジタルメディアに記録保存するといういわゆるディジタルアーカイ ブ作業が盛んに行われている.これらは多くの場合レコードプレーヤやテープレ コーダを使って再生した信号をディジタル収録したうえ,信号処理技術により雑 音や歪の軽減処理を施しディジタルメディアに記録しているのが現状である.し かし,レコードやテープをアナログ再生する場合,針や再生ヘッドにより対象物 が傷んでしまい収められていた情報が失われる可能性が大きい.また音溝は全面 に音情報が刻まれているが再生針による接触再生は音溝の一部しか触れていない.

早稲田大学山崎研究室において2000年に大石・山岡らはレコードに吹き込まれた 本来の再生音を取り出す手法として音溝全面に着目し複数の再生針による再生音 の 同 期 加 算 に よ る 雑 音 の 抑 圧 を 行 っ た[1,2]. ま た 非 破 壊 で の 再 生 手 法 と し て は 1984年に伊福部らにより音溝をレーザ光でトレースすることによる再生音を得る 手法の報告がなされている[3].本研究ではレコードやテープ等文化遺産に対しレ ーザ光を用い非破壊で全面を読み出し音溝のみではなくレプリカの作成も可能で あるようなできる限りの3次元情報の読み取りを行った[4].  

芸能や演奏などの音場を含む文化財の保存に際してはいわゆるサラウンドシス テムなどトランスオーラルシステムに基づく収録・再生が広く用いられている.

これらは両耳付近の音場を制御することにより立体再生を行うものであるが,聴 者の人数や位置への制約を伴っている.それら頭部伝達関数に囚われない音場再 生技術としてキルヒホッフの積分公式に基づく音場の再生手法[5]が知られてい るが制御点が膨大になるという問題があった.また,実際の収録現場における通 常のマルチチャンネル録音時おいては演奏者などの周りに多数のマイクロホンや ケーブルを配置することになり,時として演者に影響を与える可能性がある.本 研 究 で は 頭 部 伝 達 関 数 に よ ら な い 音 場 の 記 録 と 再 生 を 目 的 に , コ ン デ ン サ ス ピ ー カ や 相 変 化 を 利 用 し た ス ピ ー カ を 利 用 し た 境 界 面 制 御 に よ る 3 次 元 音 場 の 再 生 や 高 速 1 b i t 小 型 半 導 体 収 録 機 を 利 用 し た 音 源 収 録

(11)

1.5 本論文の構成と概要

以 下 に 本 論 文 の 構 成 を 示 す . ま た , 図 −1 に 本 論 文 の 構 成 を 示 す .

第 1 章 「 序 論 」 で は , 文 化 財 の 保 存 手 法 の 現 状 と あ る べ き 姿 に つ い て 述 べ , 本 研 究 の 位 置 づ け を 述 べ る .

第 2 章 「 レ ー ザ 光 全 面 読 み 出 し に よ る 蝋 管 ・ レ コ ー ド の あ る が ま ま 再 生 」 で は , 貴 重 な レ コ ー ド 等 失 わ れ つ つ あ る 文 化 財 の 非 接 触 ・ 非 破 壊 で の 細 大 漏 ら さ ぬ 保 存 手 法 の 確 立 及 び 内 容 の 抽 出 法 に 関 し て 述 べ る .

レ ー ザ 測 距 計 を 用 い 蝋 管 ・ レ コ ー ド の 音 溝 ば か り で は な く 全 面 を 非 接 触 で 読 み 出 し , で き る 限 り 詳 細 な 3 次 元 形 状 の 記 録 を 試 み た .

得 ら れ た 3 次 元 形 状 か ら の 音 情 報 の 抽 出 手 法 に 関 し て 検 討 を 加 え た . 音 情 報 が 音 溝 全 体 に 含 ま れ て い る と い う 点 及 び 経 時 と と も に 劣 化 し て い く 文 化 財 に 対 し 現 在 の 技 術 を 用 い て で き る 限 り 詳 細 な , 必 要 に 応 じ て レ プ リ カ の 作 成 も 可 能 と な る よ う な 情 報 を 記 述 す る こ と に よ り 後 世 の 段 階 で の 最 善 の 手 法 で 所 望 の 情 報 を 抽 出 す る 事 が 可 能 と な る よ う な 文 化 財 の 保 存 手 法 の 確 立 を 目 指 す も の で あ る . 劣 化 の 激 し い 対 象 , 破 損 し た 対 象 に 関 し て も 全 面 読 み 出 し , 音 溝 の 推 定 , 計 算 機 上 で の 修 復 を 行 っ た .

第 3 章 「3 次 元 音 場 再 生 を 目 的 と し た 電 気 音 響 変 換 器 」 で は キ ル ヒ ホ ッ フ の 積 分 公 式 に 基 づ く 境 界 面 制 御 に よ る 3 次 元 音 場 の 実 現 手 法 に つ い て 述 べ る .

3 次 元 音 場 の 再 生 手 法 と し て キルヒホッフの積分公式に基づく手法が知ら れている.これ は 閉 曲 面 上 で の 音 圧 と 法 線 方 向 の 粒 子 速 度 を 再 現 す る こ と に よ り 境 界 面 内 の 領 域 の 音 場 を 再 現 す る も の で あ る が , 制 御 点 数 が 膨 大 に な る こ と が 問 題 と な る . 本 章 で は 3 次 元 音 場 再 生 を 目 的 と し た 電 気 音 響 変 換 器 の 検 討 を 行 い,そ れ を 用 い た 実 現 手 法 に つ い て 述 べ る . 

構 成 の 自 由 度 の 高 い フ レ キ シ ブ ル コ ン デ ン サ ス ピ ー カ を 用 い た 実 現

(12)

可 能 な チ ャ ン ネ ル 数 で の キ ル ヒ ホ ッ フ の 積 分 公 式 に 基 づ く 3 次 元 音 場 再 生 シ ス テ ム を 構 築 し 効 果 を 確 か め た . ま た コ ン デ ン サ ス ピ ー カ の 駆 動 に 際 し て 有 効 性 が 確 認 さ れ て い た ラ ン レ ン グ ス リ ミ テ ッ ド コ ー デ ィ ン グ に 最 適 符 号 化 を 導 入 し た 高 能 率 符 号 化 に つ い て 述 べ る . 

形 状 の 自 由 度 が 高 く , 将 来 的 に は 電 磁 波 等 の 利 用 に よ り 非 接 触 走 査 駆 動 に よ る 連 続 面 再 生 を 期 待 で き る 電 気 音 響 変 換 器 と し て 相 変 化 を 利 用 し た ス ピ ー カ の 提 案 ・ 実 験 を 行 っ た . 塩 化 ナ ト リ ウ ム 水 溶 液 の 相 変 化 を 利 用 し た 電 気 音 響 変 換 機 を 試 作 し 各 種 測 定 , 歪 み の 軽 減 を 行 い , 相 変 化 に よ る 音 響 信 号 の 再 生 が 可 能 で あ る こ と を 示 し た .

 

  第 4 章 「 半 導 体 1 b i t レ コ ー ダ を 用 い た 分 散 収 録 シ ス テ ム 」 で は 演 劇 や 合 唱 な ど の 文 化 財 に 対 し て 音 源 自 体 を 収 録 ・ 再 生 す る こ と に よ る 頭 部 伝 達 関 数 に よ ら な い 音 場 の 再 生 シ ス テ ム を 提 案 す る と と も に 演 者 に 機 器 の 存 在 を 感 じ さ せ な い 収 録 手 法 に 関 し て 述 べ る .

第 3 章 に お い て 境 界 面 制 御 に よ る 3 次 元 音 場 の 伝 送 手 法 を 検 討 し た が , 原 理 上 シ ス テ ム が 大 規 模 に な る こ と は 避 け ら れ な い . そ こ で 本 章 に お い て は 生 成 音 場 の 収 録 を 目 指 す の で は な く 音 源 周 辺 に 小 型 の 収 録 機 を 設 置 し , 同 一 の 配 置 で 再 生 す る こ と に よ り 極 め て 簡 単 か つ 聴 者 の 位 置 に 寄 ら な い 3 次 元 音 場 の 再 生 シ ス テ ム を 提 案 し 構 築 し た . ま た マ ル チ チ ャ ン ネ ル 収 録 時 に は 機 器 の 存 在 や マ イ ク ロ ホ ン と 収 録 機 を 結 ぶ ケ ー ブ ル が 存 在 自 体 や 心 理 面 に お い て 表 現 の 妨 げ に な る こ と が し ば し ば あ っ た . そ こ で 本 研 究 で は そ れ ぞ れ が 独 立 し ケ ー ブ ル を 必 要 と し な い 小 型 か つ 高 性 能 な レ コ ー ダ を 多 数 配 置 し 何 ら か の 方 法 で 統 合 制 御 す る こ と に よ り ス タ ン ド ア ロ ン か つ 同 期 運 転 す る マ ル チ チ ャ ン ネ ル 収 録 手 法 を 提 案 ・ 開 発 し た .

本 シ ス テ ム は 収 録 に 際 し て 通 常 の シ ス テ ム で は ハ ー ド ウ ェ ア で 決 ま る チ ャ ン ネ ル 数 に 制 限 が な い と い う 特 徴 も 有 し て お り , 必 要 に 応 じ て 任 意 の 標 本 化 周 波 数 も 選 択 も 可 能 で あ る .

(13)

に 基 づ き 作 成 し た 小 型 半 導 体 レ コ ー ダ に つ い て 論 じ る . ま た 応 用 と し て 複 数 チ ャ ン ネ ル の 小 型 半 導 体 レ コ ー ダ を 作 成 し 簡 便 か つ 存 在 を 意 識 さ せ い な い 規 模 で の 高 品 質 な マ ル チ チ ャ ン ネ ル 収 録 が 可 能 と な る シ ス テ ム を 構 成 し 行 っ た 録 音 活 動 を 述 べ る .

第 5 章 「 総 括 」 で は 本 研 究 を 総 括 し , 今 後 の 課 題 に つ い て 論 ず る .

(14)

音場の連続記録・再生 レーザ光全面読み出しによる蝋管・ レコードのあるがまま再生 レーザを用いた非接触全面読み出し ・音溝全体を考慮した録音の再生 ・劣化・破損した対象からの再生   

第2章第4 半導体1bitレコーダを用いた  分散収録システム ・半導体1bit小型コーダ ・非結線統合制 ・アーカイブ用1bit符号化

3次元音場伝送を目的とした 電気音響変換器 ・コンデンサスピーカを用いたキルヒホ フの積分公式づく ・相変化を用ピーカ

第3

音文化財の あるがまま記録・伝送

対象に影響を与えない収録 音源収録による音場の伝送 図−1−1 本論文の構成

光を用いた全面読み取境界面制御による再生 頭部伝達関数によらない音場再現 演者に存在を意識させない収録ザ光る非破壊

(15)

第2章 レーザ光全面読み出しによる 

蝋管・レコードのあるがまま再生 

2.1 まえがき

  近年レコードやテープに記録された映像や音情報を再生し CD/DVD 等のディ ジタルメディアに記録保存する,いわゆるディジタルアーカイビングが盛んに行 われている.これらは多くの場合アナログのレコードプレーヤやテープレコーダ を用いて再生した信号をディジタル収録し,必要に応じて雑音や歪の軽減処理を 施しディジタルメディアに記録している.

 通常レコードをアナログ再生する場合再生針は音溝全面には接しておらず,音 溝に刻まれた音情報全てを読み取っているわけではない.また,接触再生である 以上再生による媒体の劣化は不可避である.特に対象が損傷の激しい貴重な文化 財などに対しては,非接触非破壊再生方法を模索する必要がある.レーザを用い てトラッキング制御し音溝を読み取る蝋管の再生方法については 1984 年に伊福 部,朝倉らによって報告されている.本論文では音溝ばかりではなく全面読み出 しを行い,S/N の改善と共に文化財保存の観点からレプリカの作製をも可能とす る3 次元情報の保存を試みた.また前述のように蝋管やレコードの音溝には全体 に音情報が記録されている.アナログ再生時に雑音の要因となる音溝上の傷は主 に再生針との接触による傷とそれ以外の様々な要因によるものがある.前者は各 再生針と音溝との接触点付近において起こり,後者は刻まれた音信号とは無相関 に音溝内の様々な場所に現れる.そこで針の接触する点以外も含む音溝全体から 音情報が抽出できればS/Nの改善が期待できる.2000年に大石・山岡らが円盤型 レコードに複数のカートリッジを用いて音溝の様々な接触点での再生を行い,そ れらの再生音を同期加算することによる雑音の抑圧を試みている.

 本章ではレーザを用いて蝋管や円盤型レコード全表面の 3 次元情報を記録する 手法について述べ[6],次に得られた音溝全体の情報を用いた音情報の抽出と一般 化調和解析による雑音の抑圧,劣化の激しい蝋管からのクラスター分析を用いた 再生,最後に破損した蝋管からの再生について述べる[7].

(16)

2.2 蝋管

  一般に蝋管(wax cylinder)と呼ばれる円筒型の記録媒体は音声波形が深さ方 向の縦振動として螺旋状に記録されている.広く普及したエジソン社のシリンダ ーレコードは直径56mm,長さ105mm程度で収録時間は2 分と4分用の 2種類が ある(ただし筒の両端の内径は異なる).2分用は 1888年より製造され主成分は蝋 である.4分用は 1908年より製造され,後にプラスチック等比較的頑丈な素材と なった.音溝のピッチはそれぞれ約188µm,94µmである.音溝の深さは録音条件 により大きく異なるが,今回測定した2分用の蝋管は最大で270µm,4分用は最大 180µm程度であった.また,回転数はそれぞれ毎分 144回転,160回転である[8].

(17)

2.3 計測装置

 自作した測定装置は図−2−1に示すようにレーザを用いた測距計,回転ステ ージ,1軸ステージを使用した.蝋管や円盤レコードを回転ステージ上に置き,1 軸ステージに固定したレーザヘッドを直線移動させることによって蝋管やレコー ドの全表面の深さ情報を読み取り3次元情報を得ている.

 レーザ変位計には最小スポット径 35×20µmの赤色半導体レーザのキーエンス社 製LC2440を用いてPSD(Position Sensitive Detector)センサによって深さを分解 能 0.2µmで読み出している.読み出し点は 1 周回につき 76800 点(蝋管の表面と しては約4.6µm毎),1軸方向には10µm毎である.蝋管の本来の使用回転数を考

慮すると2分用で約 184kHz,4分用で約205kHzの標本化と等価であり,内容を読

み取るに充分である.

(a) 測定装置外観

(18)

(b) 蝋管測定の様子

(c) SPレコード測定の様子

(19)

また,特に劣化の激しい蝋管以外は図−2−2に示す様に測定前に超音波洗浄(出

力600W,周波数26kHz~100kHz)を施している. 

図−2−2 超音波洗浄

(20)

2.4 計測結果

2分用,4分用の蝋管それぞれを読み取った結果の一部を図−2−3に示す.各 蝋管の外観,表面の3次元情報の一部を示している.3次元情報に関してはその高 低情報を濃淡で表しており,A−A’,B−B’,C−C’での各断面図を示している   4分用の蝋管には 2分用の約2倍のピッチで音溝が刻まれていることや,リプロ デューサの改良により音溝が比較的浅く刻まれていることなど蝋管に刻まれた傷 も含めた表面の3次元情報を読み取ることが出来る. 

(21)

図−2−3 測定結果  A’

C’

B’

A C B

A’

C’

B’

A C B

A C

A’

C’

B’

A’

C’

B’

A C

B A B

C C’

B’

A’

C C’

A’

B B’

[mm] 

[mm]  0 0 0 0

2 2

0.2 0.2

[mm] 

[mm] 

A’

C’

B’

A C B

A’

C’

B’

A C B

A C

A’

C’

B’

A’

C’

B’

A C

B A B

C C’

B’

A’

C C’

A’

B B’

[mm] 

[mm]  0 0 0 0

2 2

0.2 0.2

[mm] 

[mm] 

(22)

2.5 音情報の抽出

  前述の様に蝋管は縦振動で音情報が記録されている.よってレーザ測距による 非接触再生においては音溝の位置を特定することが重要になる.以下に読み取っ た形状から音溝を特定する手法,クラスター分析を導入した音溝の特定手法につ いて述べる.また音溝全面の情報,一般化調和解析それぞれを用いた S/N の改善 について述べる. 

2.5.1 音溝の特定

  保存状態の良好な蝋管に対しては得られた 3 次元情報からは比較的容易に音溝 の位置を特定することができる.音溝の位置特定の際に傷などにより局所的に深 くなっている個所と音溝を区別する必要がある. 

 刻まれた音溝に対して傷の量が充分に少ないと仮定すると,音溝を横切る方向 に対して溝ピッチ毎に最も深い個所とその周辺の形状を蝋管全体で求め平均する ことにより蝋管の溝の平均的な形状を特定することができる.それらに対して相 関の高い個所を結んで音溝の位置を推定した.その結果を図−2−4に示す.細 く線状に示されているのが推定結果で,ほぼ音溝の中心をなぞっている. 

 

(23)

2.5.2 クラスター分析の導入

 2 分用の蝋管は蝋を主成分としており非常に劣化しやすい.加えてそれらは製造 されてから 100 年近く経過し変質,破損したものが多く存在する.図−2−5に 劣化の激しい蝋管を読み取った結果を示す.変質,腐食が非常に進んでおり,音 溝を目視確認することすら困難である.このような読み取り結果からクラスター 分析を用いて音溝の位置を推測する手法について述べる. 

 

  図−2−5 劣化の激しい蝋管  

   

(24)

クラスター分析とは外的基準なしに分類を行うデータ解析法である.今回用いた K‑平均法(K‑means)はデータをユークリッド距離の 2 乗を非類似度として予め指 定された数のクラスターに分類する.分類手順を以下に示す[9]. 

1) 初期クラスターを作成し,中心v1・・・,vcを計算する. 

2) 全てのxk,k=1,・…,n について 3)を繰り返す. 

3) xkGqの時,次式を計算する. 

  2

1min

arg k j

c

r j x v

v = −

      (2.1) 

  rqならば,次式によりvr,vq,Gr,Gqを更新する. 

 

1

1 + +

= +

r k r

r r

r G

v x G

v G           (2.2) 

 

1

1 − −

= −

q k q

q q

q G

v x G

v G           (2.3) 

  Gr =Gr ∪{xk}            (2.4) 

  Gq =Gq −{xk}            (2.5) 

4) 全てのxk,k=1,・…,n についてクラスターの移動がなくなるまで 2)を繰り 返す. 

 図−2−4の各成分に関して 50×50μm 四方の情報を要素としクラスター分析 を行った.音溝を意識する事無く各成分を 6 つのグループに分類し色分けした様 子を図−2−6(a)に,それらを更に 2 つのグループに分類した様子を図−2−6 (b)に示す.溝状になった個所が抜き出されている.以上のように外的基準を必要 とせず 3 次元情報の特徴抽出ができる事から,この手法を応用して本来収音を目 的としていない絵画や筆跡からの音情報の抽出も試みている.  

(25)

(a) クラスター分類結果(クラスター数6) 

 

(b) クラスター分類結果(クラスター数2) 

 

図−2−6 クラスター分析を導入した音溝の位置推定

(26)

2.5.3 音溝全面を用いた雑音の抑圧 2.5.3.1 SP レコードの雑音の抑圧 

  前述のように機械吹き込み式レコードの音溝には全面に音情報が刻まれており,

音溝全面を利用することにより白色性の雑音を抑圧することが可能である.図−

2−7に 2000 年に大石らが行った実験の様子を示す.同一内容を含む2枚の SP レコードに対し11種類の形状の異なる再生針を用い音溝の様々な箇所をトレー スし再生音を得,それらを同期加算することにより雑音の抑圧が可能であること を示している.図−2−8(a)に単一の再生針での再生信号を,図−2−8(b)に 得られた22信号を同期加算した信号を示す. 

 

  図−2−7 形状の異なる再生針を用いた収録 

(27)

                   

 (a)単一のカートリッジ(DL‑102)により得られた再生信号   

                   

(b)22種類の再生信号の同期加算 

図−2−8 再生信号同期加算による雑音の抑圧 

(28)

2.5.3.2 一般化調和解析と音溝全面による収録音の抽出 

一般化調和解析は 1933 年に N.Wiener により提案された周波数解析手法の一つ である.観測区間内で原信号から残差が最小となる正弦波を逐次抽出し,その残 差成分に対し同様の処理を繰り返す[10].非周期的信号に対し窓の影響を受ける 事なく細かい周波数成分まで解析できる.定常的でない信号の解析が可能であり,

大きな成分から逐次処理していく特徴は今回の対象の様に欠落や湾曲などの影響 を受けた音信号の雑音の抑圧には有効である.窓の影響を受けずに前後の予測が 可能であり欠落部の再生音の補間にも有効である. 

 2.5.1 節において得られた音溝の位置より,音溝の底部を加算平均し一般化調和 解析を用いて音情報を抽出する.図−2−9に 2.5.1 求めた音溝の中心より10µm 間隔の壁面の様子を細線で,それらの平均を太線で示す.音溝各位置に含まれる 細かい傷に起因する雑音が平均化することにより軽減されている.  

   

  図−2−9 音溝壁面の様子とその平均 

   

(29)

  音溝周辺の3次元情報各点の間をsync関数とblackman窓を用いて128点補間し,

溝の底部分 300 点を平均して音信号を得た.またそれらに対して一般化調和解析 を行い 300 の周波数成分を抽出した.再合成した音波形および同一な蝋管の通常 の再生針を用いた再生音の音波形を図−2−10に示す.同一の内容が再生され ていることがわかる. 

測定時に回転軸が完全に蝋管の中心に一致しておらず,また蝋管自身もゆがんで いて多少のワウフラッタは発生したが,聴感上は問題の無い再生音が得られた. 

   

(a) 通常の再生針による再生音   

   

(b) 再合成された音波形   

図−2−10 再生針による再生波形および再合成された音波形

(30)

2.6 破損した蝋管からの再生

2.6.1 破損面の結合

    図−2−11に破損した蝋管の外観を示す.図−2−12に示すように個々 の破片を回転軸に貼り付けこれまでと同じ装置により 3 次元読み取りを行った.

溝に直交する方向の周波数成分から溝の存在する範囲を求めると共に,2.5.1 で示した手法により音溝の位置を推定した. 

 結果を図−2−13に示す.推定された音溝の端点の座標から測定時の回転方 向の観測誤差を求め,音溝の傾きを一定にすることにより補正する.それぞれの 破片における音溝の端点の位置関係同士の相関を取ることにより接していたと思 われる破片とその位置を推定した.実験では 9 個に分かれた破片から結合点を一 意に決定することができた.

  図−2−11 破損した蝋管 

(31)

図−2−12 破損した蝋管の測定

図−2−13 破損した蝋管の音溝の位置推定

(32)

2.6.2 欠落部の補間       

  図−2−11に示した破片の他に粉状になった破片も多く結合面での欠落部分 があり,音波形として再現するにはそれらを補間する必要がある.そこで一般化 調和解析を用いた欠落区間の予測を行った.得られた音情報のうち断面を挟む両 観測区間に対し一般化調和解析を行い両区間内の同一周波数・同一振幅の成分を 抽出し,それら周波数成分の内振幅の大きな10成分の位相差から信号の欠落区間 の長さを予測した.

 予測された欠落区間に対して両観測区間で得られた周波数成分を元に予測し両 側からの線形重み付けにより補間した.結果を図−2−14に示す.縦線にはさ まれた区間が距離を予測し,補間された区間である.

図−2−14 一般化調和解析を用いた欠落部の予測

(33)

  これらの作業によって復元された蝋管の再生波形を図−2−15(a)に示す.ま た,この蝋管が破損する前に記録してあった再生針による同一区間の再生波形を 図−2−15(b)に示す.4つの破片からなるが,同一の内容が読み出されている.

     

図−2−15(a) 通常の針再生による再生音

   

図−2−15(b) 再合成された音波形  図−2−15 破損した蝋管の音波形の再生音 

(34)

 同様の処理を音溝方向全面に行うことによって 3 次元形状の欠落部を補間でき る.結合面の様子を図−2−16(a),(b)に示す.これらを計算機上で結合し欠落部 を補間したものを図−2−16(c)に示す.このような手法を用いることによって 計算機内に破損前の3次元形状を再構築することができる. 

 

図−2−16 欠落部の補間

(35)

2.7 走査型顕微鏡を用いた音溝の比較  

プレス技術により大量生産されたレコードにおいて,原盤とプレス盤の音溝の 詳細な比較技術の確立はプレス過程における音情報の劣化傾向の把握や経年変化 の傾向把握が可能となり原音推定技術に寄与するところ大である.

記録メディアの大容量化により業務用映像の分野ではテラバイト単位の収録が 実用されている.現在の技術での最大限のレコードの非接触全面読み取りの基礎 実験として走査型レーザ顕微鏡(VK-9500,キーエンス社)を用いて同一レコード の金属原盤,プレス盤を測定し観察した.その様子を図−2−17に示す.また,

得られた情報を 3 次元視した様子を図−2−18に示す.同一箇所を観察するこ とができる.本方式を用いることにより0.01µmの分解能で3 次元測定が可能であ るが測定時間および記録容量に今後の課題を残した.

(36)

(a) 金属原盤の音溝の様子

 

(b) プレス盤の音溝の様子

(37)

(a) 金属原盤の音溝(凸溝)の様子

(b) レコード盤の音溝(凹溝)の様子

図−2−18 顕微鏡により得られた情報の3次元表示

(38)

2.8 むすび

 貴重な有形文化財である蝋管やレコード全面をレーザ光を用いて非接触非破壊 で読み取ることによりできる限り ありのまま 保存する手法について論じた. 

 レーザ測距計を用いて非接触非破壊で全面を読み出し,レプリカの作成も可能 であるような 3 次元形状測定装置を作成し有効性を確認した.再生針で傷つけら れていない部分を含む音溝全体の情報を利用することにより,再生針やホーンの 特性から再生音に含まれることのなかった音情報の抽出や再生信号の S/N の改善 が可能であることを示した.また,劣化により音溝の確認が目視困難である蝋管 に対してクラスター分析を導入し音溝の位置推定を行い音情報を抽出した.破損 していくつかに分かれてしまった蝋管に対しては,各破片の形状の特徴を用い接 合面を決定し計算機上で再結合し再生音を得た. 

 レーザ光測定により再生針では届かない箇所の情報の抽出が可能である一方ホ コリによる影響や変形した対象においては死角が発生するなどの問題も一部の蝋 管では問題となることがあった.超音波測定の併用技術を現在摸索中である. 

また特に劣化の激しい蝋管においては超音波洗浄では拭い去ることのできないカ ビや素材の変形による雑音が目立った.隆起部での元波形の予測のみでなく洗浄 方法の改善や透過性のある測定機なども検討している. 

クラスター分析による音溝の位置推定では外的な基準を与えることなく特徴抽 出を行うことができた.蝋管はてこやゼンマイの力は借りるものの原則としては 音の力のみで録音する非常に優れた録音機といえる.そのようなシンプルな構成 であるがゆえに音溝は単にいわゆるモノラルでの記録ではなく音の到来方向等空 間情報が刻まれているはずである.更には同様の原理から録音を意図していない 絵画や筆跡等にも音情報は含まれることがあり[11],それら前情報のない収録情 報の読み出しに際して本手法は有効である.今後はそのようないわば 音響考古 学 としての研究を進めるとともにそれら先人の優れた技術を活かしより積極的 に3 次元音場の記述と再生を行う新しい音場収録システムの研究を行っていく. 

 試作した装置では蝋管 1 本全面を読み取るのに数日間かかってしまうなどの課 題を残している.特に貴重な対象においては再生に時間はかかっても構わないが

(39)

第3章  3次元音場の伝送を目的とした電気音響変換器 

   

3.1  まえがき

人間は前方の情報を主に視覚に頼り,周囲情報は聴覚に頼るところが大きいといわ れている.音楽や演劇,人々の営みの様子も含めた音場は本来 3 次元情報であり,音 場を 3 次元で保存・伝送することは円滑なコミュニケーションシステムの構築におい て非常に重要な技術である. 

音場を制御する手法は 2 種類に大別される.ひとつはバイノーラルシステムやトラ ンスオーラルシステムに代表される両耳を中心とする点音場を制御する手法である.

理論上は 2 つのスピーカを用いて両耳の音場を制御することにより正確な音場の再現 が可能であるが,点音場の制御であることから受聴者の両耳の位置が制御点とみなせ る範囲外にずれると制御系が成り立たなくなってしまい,受聴者の人数や向きに制限 が不可避である. 

もうひとつの方法は領域の制御を行う手法である.制御を点ではなく領域全体に行 うことにより領域内における受聴者の位置や向きによらない 3 次元音場の再生が可能 である.境界面制御により領域内の音場を再現する手法としてキルヒホッフの積分公 式に基づく手法が知られている.音源を内包しない閉曲面上の音圧と粒子速度を一致 させることにより閉曲面内の任意の音場を再生可能とするものであるが例えば可聴域

を20kHzまでとして音場を完全再生するには空間の標本化定理から境界面上約1cm四

方に制御点を設置せねばならず制御点が膨大になることからこれまでほとんど実用が なされていない. 

そこで本章では近年の伝送容量の増大から実現可能な範囲でのキルヒホッフの積分 公式に基づく 3 次元音場の再生に関する研究としてコンデンサスピーカを用いた 1bit 波面再生システムの提案を行い,駆動信号の諸問題に対しランレングスリミテッドコ ーディング及び最適符号化を導入したΣΔ変調を用い有効性を示す.また,膨大な制 御点を光や電磁波を用いて走査し制御する手法のキーテクノロジとして相変化を利用 したスピーカを提案し有効性を示す.

(40)

3.2  コンデンサスピーカを用いた 1bit 波面再生 

 

3.2.1 まえがき 

我々は均一で明瞭な拡声を目的に平面型スピーカを提案,実用してきた[12].平面型 スピーカは平面波駆動ができ距離減衰が極めて少ない.ネオジムマグネット及びボイ スコイルパタンからなるマルチセル型平面スピーカや,構造が簡単でボイスコイルの 直流抵抗成分が無いコンデンサスピーカと1bit アンプとを組み合わせた高効率なシス テムを提案してきた[13].

3 次元音場を再現する手法としてキルヒホッフの積分公式に基づく手法が知られて いる.これは閉曲面上での音圧と法線方向の粒子速度を再現することにより境界面内 の領域の音場を再現するものであるが,制御点が膨大になることが問題となる.

近年の高能率符号化と伝送容量の広帯域化により 100 チャンネルを越える制御系も 実現可能となってきた.そこで本研究では境界面制御の実用技術の研究として制御範 囲を限定する手法,空間全体を実現可能な制御点数でとりかこむ手法を提案する[14]. 

制御系の基礎実験としてコンデンサスピーカの特徴を生かしマイクロホンとしても 利用することにより録音信号をそのまま再生する簡潔な系を試作した.

また 1bit 信号にランレングスリミテッドコーディングを導入したトランスを用いな いコンデンサスピーカの直接駆動に関する検討も行ったので報告する.早稲田大学本 庄キャンパス内において提案する手法を導入したキルヒホッフ型音響実験室を紹介す る.

(41)

3.2.2 キルヒホッフの積分公式に基づく音場再生 3.2.2.1 キルヒホッフの積分公式

ある閉曲面内に音源が存在しない場合,キルヒホッフの積分公式により境界面上の 音圧と粒子速度を一致させることにより所望の音場をその閉曲面内に再現することが 可能である.音源を含まない閉曲面S を想定した場合,キルヒホッフの積分公式は次 式で表される.

( )

dS

R e n

r p R

e r n p r

p

s jkR

S

jkR

s 

∂ +∂







=41

( )

)

( π         (3.1) 

これは閉曲面 S 上の音圧p(rs)と法線方向nの粒子速度を制御することが出来れば閉 曲面Sの内部で原音場を再現可能なことを示している.

また,境界面Sを無限大と考えるとキルヒホッフの積分公式はレイリー積分に収束 し

= S

jkR

s n R dS

R e r R p r

p ( ) cos( , ) 1

2 ) 1

(

π

          (3.2) 

となり境界面上の全ての点での音圧を制御することにより所望の音場を再現が可能 である.

(42)

3.2.2.2 実現可能な系での境界面制御 

キルヒホッフの積分公式に基づく境界面制御において,人間の可聴域まで空間の標 本化定理を満たすには少なくとも波長の半分の間隔に制御点を設ける必要がある.可 聴域において条件を満たすには制御点が膨大になってしまうことから実現は困難であ るとされてきた.しかしながら近年の高能率符号化及び伝送容量の広帯域化から部屋 全体には及ばないまでも 100 チャンネルを越える制御系が実現可能である.そこで本 研究においては出来る限りの制御点を用いた境界面制御を試みる.

実現可能な境界面制御として

・ 制御領域を制限するが聴覚に基づく空間の標本化定理を満たす境界面制御

・ 空間の標本化定理を必ずしも満足せず用途は限定されるが,空間全体を囲む境 界面制御

を提案する.それぞれの概念図を図−3−1,図−3−2に示す.いずれの手法にお いても境界面制御により受音領域内の任意の点において 3 次元音場が再現される.ま た,前者において音源そのものを取り囲むことによる音源の3次元再生も可能である.

人間の両耳での位相差のみによる音像定位能力は一般に1.5kHz程度までであるが経 験や自らの移動により多くを補うことができ,想定する空間のナイキスト周波数は可 聴域とされる20kHzとの間に設けるのが適切であると考えられる.また,感度差から 水平方向に密に制御点を設ける方が効率的である.

(43)

 

図−3−1 空間の標本化定理を満たす制御系   

図−3−2 閉空間を構成する制御系

(44)

3.2.3 コンデンサスピーカ 3.2.3.1  コンデンサスピーカ

コンデンサスピーカは構造がコンデンサそのものであり,ボイスコイルの直流抵抗 成分がなく電圧と電流の位相差がほぼ90度になる.これはコンデンサスピーカ自体で は電力は消費されずそのほとんどが無効電力となることを示す.1bitやPWMといった スイッチング方式のアンプでは無効電力は電源に回生されるので,コンデンサスピー カをスイッチングアンプで駆動することによって効率のよい電気音響変換を実現可能 である.

電極

電極 1  bit アンプ 振動板

出力信号

コンデンサスピーカ

多段倍圧整流回路(240倍)

トランス

4.5 kV

図−3−3  1 bitアンプ駆動コンデンサスピーカ

参照

関連したドキュメント

氏は,まずこの研究をするに至った動機を「綴

以上の結果について、キーワード全体の関連 を図に示したのが図8および図9である。図8

が作成したものである。ICDが病気や外傷を詳しく分類するものであるのに対し、ICFはそうした病 気等 の 状 態 に あ る人 の精 神機 能や 運動 機能 、歩 行や 家事 等の

旅行者様は、 STAYNAVI クーポン発行のために、 STAYNAVI

図 21 のように 3 種類の立体異性体が存在する。まずジアステレオマー(幾何異 性体)である cis 体と trans 体があるが、上下の cis

① 小惑星の観測・発見・登録・命名 (月光天文台において今日までに発見登録された 162 個の小惑星のうち 14 個に命名されています)

LF/HF の変化である。本研究で はキャンプの日数が経過するほど 快眠度指数が上昇し、1日目と4 日目を比較すると 9.3 点の差があ った。

定的に定まり具体化されたのは︑