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(1)

修士論文

高分解能

CdTe

アレイ検出器の開発と

宇宙観測用ガンマ線イメージャーへの応用

東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 

宇宙科学研究所 高橋研究室

三谷 烈史

(2)

概要

我々は、宇宙からの硬X線・γ線の観測において、高感度観測を実現するために高い阻止能を

もち、優れた撮像・分光能力を持つ、新しいガンマ線検出器を開発している。本研究では、テル

ル化カドミウム半導体(CdTe)の性質を良く理解した上で、1.4 mmの位置分解能と4.5×4.5 cm2

の面積を有し、511 keVでも5%程度の検出効率をもつCdTeガンマ線検出器を、読み出しシステ

ムまで含めて新規開発した。特に、読み出しシステムは、気球・衛星搭載に必須なコンパクトさ と将来における発展と汎用性を考えてモジュール化を心掛けて設計した。

全システムの立ち上げにおいては各段階で試験を行なった。CdTeを用いるにあたって、エネル

ギー分解能と阻止能の両方を十分に引き出す新しい工夫を行ったので、それを単体素子で評価し、

優れた性能を出せることを示した。次に、これを1024個並べた検出器の性能評価を行い、高い阻

止能と撮像能力を持つことを実証した。さらに、新開発の低雑音アナログLSIを動作させ、無負

荷状態でのノイズレベルが57 e−という性能を実証した。そして、開発したLSIのコントロール

システムを用いてLSIの制御と読み出しを実現し、上記の1024チャネルCdTeセンサのうち、ま

ず64チャネルを正しく読み出すことに成功した。また、1024チャネルを読み出す準備もほぼ整っ

(3)

iii

目 次

第1章 Introduction 1

第2章 新しい半導体検出器 -テルル化カドミウム- 3

2.1 半導体検出器 . . . 3

2.2 テルル化カドミウム半導体 . . . 3

2.3 CdTeダイオード . . . 6

第3章 CdTeアレイ検出器を用いたガンマ線撮像観測 13 3.1 ガンマ線撮像観測の意義 . . . 13

3.2 コーデッドマスクを用いた検出器への応用 . . . 14

3.2.1 コーデッドマスク . . . 14

3.2.2 CdTeアレイ検出器の応用 . . . 14

3.3 コンプトンカメラへの応用 . . . 14

3.3.1 コンプトンカメラ . . . 14

3.3.2 半導体コンプトンカメラ . . . 16

3.3.3 CdTeアレイ検出器の応用 . . . 16

第4章 1024CdTeアレイ部の評価 19 4.1 有効厚5 mmの位置検出型CdTeガンマ線検出器 . . . 19

4.2 単素子の評価 . . . 22

4.3 1024素子CdTeアレイの評価 . . . 24

4.4 改良すべき点 . . . 25

第5章 1024チャネルCdTeアレイガンマ線検出器の全体設計 31 5.1 概要 . . . 31

5.2 信号読み出しの流れ . . . 32

5.3 高圧分配器、FastPreAmp . . . 36

5.4 Analog LSI VA32TA . . . 36

5.4.1 チップの概要 . . . 36

5.4.2 VA . . . 38

5.4.3 TA . . . 38

5.4.4 チップ内のシフトレジスタへの書き込み . . . 39

5.4.5 制御信号. . . 39

5.4.6 実際のVA32TAの性能 . . . 39

5.5 Front End Card. . . 40

5.6 バイアス基板 . . . 41

5.7 Interface Card . . . 41

(4)

iv

第6章 システム全体の動作試験 45

6.1 概要 . . . 45

6.2 FECの単体評価. . . 45

6.3 FEC+IFC+ROCの噛み合わせ試験 . . . 46

6.3.1 各種信号のチェック . . . 46

6.4 1024CdTeアレイの信号の読み出し . . . 48

6.4.1 スペクトル取得 . . . 48

6.4.2 16枚のFECの接続. . . 49

第7章 まとめ 53

(5)

v

図 目 次

2.1 主なX線・γ線検出器の吸収係数 . . . 5

2.2 2 mm×2 mm×0.5 mmt のCdTeI-V特性 . . . . 6

2.3 2 mm×2 mm×1 mmtのCdTeダイオードのI-V特性 . . . . 7

2.4 2 mm×2 mm×1 mmtのCdTeによる241Amと57Coのスペクトル . . . . 9

2.5 光子の反応位置(陰極からの距離)と電荷収集効率の関係 . . . 10

2.6 241Amのスペクトルの59.5 keV付近と57Coのスペクトルの122 keV付近の拡大図 11 3.1 シングルコンプトンカメラの概念図 . . . 15

3.2 CGRO衛星搭載のCOMPTEL . . . 16

3.3 半導体多重コンプトンカメラの概念図. . . 17

3.4 1024CdTeアレイ検出器を用いた気球実験の概要図 . . . 17

4.1 厚さの異なるCdTe(0.5 mm, 1 mm, 5 mm)での光子との相互作用の確率 . . . 19

4.2 エッヂオン入射とフェイスオン入射 . . . 20

4.3 1024CdTeアレイの一列(32素子)の構造と電極の引き出しの概念図 . . . 20

4.4 1024CdTeアレイ検出器ヘッドの全体像. . . 21

4.5 エッヂオン照射の計算スペクトル . . . 22

4.6 1024CdTeアレイ用単素子のI-V特性 . . . 23

4.7 単素子でのスペクトル測定のセットアップ . . . 23

4.8 エッヂオン入射とフェイスオン(陰極)入射による57Coのスペクトル . . . 24

4.9 57Coスペクトルの122 keV付近の拡大図 . . . . 25

4.10 1024素子のリーク電流の分布 . . . 26

4.11 CdTeアレイからの信号引き出しの概念図. . . 27

4.12 1024CdTeアレイ検出器と「40チャネルスペクトル取得システム」の概観 . . . 28

4.13 「40チャネルスペクトル取得システム」によるあるチャネルの133Baのスペクトル 29 4.14 1024CdTeアレイ検出器によるイメージ. . . 29

5.1 システムのモジュール化の概念図 . . . 31

5.2 1024CdTeアレイ検出器システムの概念図 . . . 32

5.3 1024CdTeアレイ検出器システムの全体写真 . . . 33

5.4 読み出しシステムの概要 . . . 34

5.5 読み出しシーケンス . . . 35

5.6 高電圧分配器 . . . 36

5.7 VA32TAの概念図. . . 37

5.8 アナログマルチプレクサの制御信号 . . . 40

5.9 VA32TAの読み出しシーケンス . . . 41

5.10 VA32TAを用いて取得したSi-Stripによるスペクトル . . . 42

(6)

vi

5.12 外部から与えるバイアス生成回路 . . . 43

6.1 FEC26枚上のVA32TA 52個のノイズレベル . . . 46

6.2 1024CdTeアレイに用いたVA32TAのノイズレベル . . . 46

6.3 VA32TAのta出力とSlow-Shaperの出力. . . 47

6.4 VA32TAの読み出し制御信号と出力. . . 48

6.5 1024CdTeアレイ検出器システムのあるチャネルの57Coと133Baのスペクトル . . 50

6.6 1024チャネルのノイズ特性 . . . 51

A.1 ガンマカメラを用いて取得した57Coの122 keVによる2つのM8ナットのガンマ 線イメージ . . . 56

(7)

vii

表 目 次

2.1 CdTe半導体の基礎特性 . . . 4

5.1 VA32TAの消費電力の予想値 . . . 38

6.1 Internal DACの設定値 . . . 45

6.2 FECのノイズレベル . . . 46

(8)
(9)

1

1

Introduction

硬X線・ガンマ線のエネルギー領域で宇宙を観測することにより、宇宙で起こっている高エネル

ギー現象、特に、これまで観測されてこなかった、非熱的な現象に迫ることができる。非熱的な 現象の担い手である高エネルギー粒子の加速は、超新星残骸から、銀河、銀河団、そしてブラッ クホールから吹き出すジェットにいたるまで、さまざまな環境でおこる宇宙の普遍的な現象である と考えられるようになっている。これは、非熱的な形態をとるエネルギーが宇宙のエネルギー全 体の中で大きな役割をはたしていることを、示唆する。

こうした、宇宙での高エネルギー現象の極端な例がガンマ線バーストである。これは1日に1回

程度の頻度で全天で突発的に起こり、1秒間で1053ergと言うとてつもないエネルギーを放出する

宇宙最大の爆発現象である。最近の観測により、ガンマ線バーストの発生源が、われわれの銀河

からはるかに離れた所にあり、距離を推定すると70億光年から110億光年にもなることがわかっ

てきた。これほど遠方の現象であるにもかかわらず、非常に高いフラックスをもたらすというこ とは、発生したエネルギーが極めて大きい事を示す。その爆発の現場は、地上では考えられない 様な巨大な加速器となっており、相対論的なジェットが形成されて、その中で激しい粒子加速が行

われていると考えられる。ガンマ線バーストでは、数100 keVから数MeVの領域でもっともエネ

ルギー放出が大きい。そのため、この領域での観測が重要である。さらに、偏光観測を行うこと ができれば、その放射の機構や、加速源の物理状態などに迫ることができると考えられる。

宇宙における粒子加速を、衝撃波における統計加速としてとらえた場合、加速される粒子の最

大エネルギーは、加速源の大きさをR、その中を走る衝撃波の速度をV、そして、磁場の強さを

Bとしたとき、Emax∝V ·B· Rとあらわすことができる。これは、より大きな空間構造を持つ

加速源ほど、高いエネルギーまで加速される事を意味する。例えば、1 kpcの空間的な広がりをも

ち、1ミリガウスの磁場を持つような天体では、1020 eVというような宇宙線の最高エネルギーに

近いエネルギーまで、高エネルギー粒子を加速しうるのである。

こうした、現象を探り、高エネルギー粒子が宇宙においてどのように生成されているかを探る

とともに、非熱的なエネルギーが、宇宙で果たす役割を知るためには、硬X線やガンマ線の感度

の高い観測が必要であり、スペクトルと共に、空間構造を知るために、高いエネルギー分解能で の撮像観測が、重要である。

しかし、硬X線・ガンマ線での高感度観測は進んでいない。それは、このエネルギー領域の光

子と物質とは相互作用しにくくなり、しかも検出器に全てのエネルギーを落としてくれる光電吸 収の確率は減るうえ、コンプトン散乱によってエネルギーの一部を落としたまま検出器のの外に 逃げてしまう光子の割合が増加することに起因している。そのようなイベントは入射光子の総エ ネルギーはもとより、その入射方向を決定するのは容易では無い。こうした事実は、このエネル ギー領域で感度の高い検出器を作ることが難しいことを意味する。さらに、このエネルギー帯で は目的の天体からの信号は少なく、それ以外のバックグラウンドが非常に卓越するために信号対 雑音比が非常に悪いことも観測を困難にしている。

バックグラウンドを除去し、純粋な光電吸収イベントを選択する技術として、イベント情報を読 めるアクティブな物体で検出部をおおうアクティブシールドがある。それを最大限にいかし、従

(10)

2 第1章 Introduction

AstroE2衛星への搭載をめざして、製作中である。しかし、このHXDでは、撮像観測はできず、

また、われわれが、本当に必要とする感度に達するためには、新しい概念にもとづいた検出器を 開発する必要がある。

このHXDのさらに上の感度を持った検出器を開発するには、アクティブシールドの技術だけ

では足りなく、検出器中でおこるコンプトン散乱を積極的に活用するという新しい技術が必要不 可欠である。これを実現するのがコンプトンカメラであり、我々はこれをエネルギー分解能の良

い半導体で実現することで、CGRO衛星に搭載されたCOMPTELなどに比べて、はるかに高い

感度を得る、次世代の半導体コンプトン望遠鏡、の開発を進めている。このコンプトンカメラは、 光子の反応位置とそこで落としたエネルギーを知ることにより、コンプトン運動学を用いて、入 射光子の方向とエネルギーを再構成することができるものである。

この検出器を開発するために重要な点は、

i. 硬X線・ガンマ線のエネルギー領域で光子と相互作用する確率が高い、つまり、阻止能が

高い。

ii. エネルギー分解能が高い

iii. 位置分解能がよい

である。特にiiはコンプトンイベントの再構成にあたって、その入射方向の精度にも大きな影

響を与えるパラメータであり、我々は優れた分解能を持つ半導体を用いてこの検出器を実現しよ うと考えている。さらに、このようなシステムにおいては、

iv. 数千から数万に及ぶチャネルの信号処理

も重要な鍵を握る。特に宇宙観測のために小型・軽量と高速化の両立を図る必要がある。

i、iiを兼ね備えるものとして、我々はテルル化カドミウム(CdTe)と言う新しい半導体検出器を

開発してきた。そして、この半導体検出器を位置検出型のものとして利用するために、読み出し

回路として多チャンネルLSIと多数のLSIの制御システムの開発を進めている。

今回、その基礎技術の確立のために我々は5 mmの有効厚を持つCdTeで作られた1024チャネ

ルの新しい位置検出型のガンマ線検出器を試作した。本論文では第2章でCdTeの特性を述べ、

第3章で新しい撮像型半導体ガンマ線検出器のデザインについてまとめる。第4章では、1024の

CdTeを配列した検出器の基礎評価、第5章で、LSIとその制御を中心とする読み出しシステムの

(11)

3

2

章 新しい半導体検出器

-

テルル化カドミウム

-2.1

半導体検出器

エネルギーが30 keVから数100 keVにいたる硬X線・ガンマ線の検出はこれまで主に無機シ

ンチレータによって行われてきた。シンチレータを使った場合には、面積が大きく、検出効率の

高い検出器を作る事が容易であるが、エネルギー分解能が悪く、662 keVで6 %程度の分解能しか

得られない。またイメージングに必要な高い位置分解能を得るのが難しい。これに代わるものと して半導体検出器があり、その中でも、シリコンやゲルマニウムを用いた検出器がよく使われる。

結晶中に発生した光を集めることで放射線のエネルギーを測定するシンチレータに対し、半導 体検出器は光子の入射により発生した電子と正孔対を集め、その電荷を測定することで放射線の エネルギーを測定する。電子・正孔対をひとつ作るのに必要なエネルギーは、代表的な半導体シリ

コンでは、平均3.6 eVである。したがって100 keVのガンマ線がシリコン中で光電吸収をおこす

と、検出器中に約27000個の電子・正孔対ができる。検出器の理論的なエネルギー分解能は、こ

の統計的な揺らぎに、ファノ因子と呼ばれる量(シリコンの場合は0.1程度)をかけたものとなり、

半値巾で440 eVになる。シンチレータでは、ひとつのキャリア(光電子)をつくるのに、100 eV

程度必要であり、100 keVの光子を検出しても1000個程度のキャリアしかできない。このように、

無機シンチレータにくらべて格段に高いエネルギー分解能が半導体検出器では期待できる。実際 には、半導体検出器のエネルギー分解能は、その漏えい電流(リーク電流)や容量などによって 決まる読み出しの電子回路の雑音によって支配される。

X線CCDなどに代表されるように、X線領域ではシリコンが非常によく使われる。しかし、シ

リコンは密度が小さいために、100 keVのX線に対して有効な検出効率を持つようにするのは難

しい。そこで、ガンマ線検出器として、よく用いられるのはゲルマニウム半導体である。ただ、

−200度の液体窒素温度に冷却して動作させなくてはならず、使用環境が限られてしまうのが難点

である。そのためX線天文学や医療用の検出器として検出効率が高く、またエネルギー分解能の

高い検出器で、室温程度の温度で動作するものが望まれてきた。

2.2

テルル化カドミウム半導体

最近、急速に開発が進んでいるガンマ線検出用の半導体として、テルル化カドミウム(CdTe)、

あるいはテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)がある。これらの半導体は、II-VI族の化合物半導体

に分類され、比較的大きな原子番号(ZCd=48, ZTe=52)を備えている。CdTeの吸収係数を主なX

線・γ線検出器と比較して、図2.1に示す。この図から計算できるように、0.5 mmの厚さの素子の

場合、CdTeでは40 keVのフォトンを約90 %止める事ができるのに対して、ゲルマニウム(Ge)で

は70 %、シリコン(Si)では数%程度しか止めることができない。テルル化カドミウムは、このよう

な高い阻止能に加えて、室温動作を可能にするのに十分なバンドギャップエネルギー(Eg=1.5 eV)

を持つのが特徴である。そのために1970年代より精力的に研究が進めれらてきたが、エネルギー

分解能の高い検出器が作られてこなかった。

(12)

4 第2章 新しい半導体検出器

-テルル化カドミウム-ギー分解能を持つCdTe検出器の開発を行い、その撮像検出器への応用を進めている。テルル化

カドミウム(CdTe)の主な特性を他の半導体検出器と比較したものを表2.1に示す。

表 2.1: CdTe半導体の基礎特性: CdTeの密度はACROTECにおける実測、CdZnTeの密度は

DIGIRAD社のカタログから。[2]

原子番号 密度 比抵抗 バンドギャップ ǫ (µτ)e (µτ)h

Z [ g/cm3 ] [ Ωcm ] [ eV ] [ eV ] [ cm2/V ] [ cm2/V ]

CdTe 48/52 5.85 1 ×109 1.4 4.432×10−3 ∼1×10−4

CdZnTe 48/30/52 5.81 3 ×1010 1.6 4.61×10−3 ∼3×10−5

Si 14 2.33 1 ×103 1.12 3.61 0.42 0.72

Ge 32 5.33 1 ×102 0.72 2.98 0.22 0.84

HgI2 80/53 6.40 2.13 4.2

GaAs 31/33 5.32 1.42 4.3

ǫ : 1対の電子・正孔対を作るのに必要なエネルギー

µτ : 電子または正孔の移動度と寿命の積。添字eは電子、hは正孔を示す。

この表を見ると、CdTeはSi, Geに比べµτ値が小さいことが見て取れる。この点をきちんと理

解してCdTeを用いなければならない。そのために、半導体検出器における信号の生成を簡単に

以下に述べる。半導体検出器においては、電場が形成された検出器内に、光子により電子・正孔 対が生成され、その電子・正孔が電場により移動することにより、電極に誘導電荷が生成され、こ

れが読み出される信号となる。電子・正孔の寿命をそれぞれτe, τhとすれば、光子の入射で電子・

正孔対がn個生成してから経過した時刻tの関数として、電荷q(t)は、

 q(t) =ne0exp

Ã

− t τ(e,h)

!

(2.1)

とかける。e0は素電荷である。検出器内に一様な電場Eがあるとすると、キャリアの速度vは、

µを比例定数として

v(e,h)=µ(e,h)E (2.2)

と書ける。µを移動度と言う。t からt+dtの間に電極に誘導される電荷dQ(t)は

dQ(t)∝q(t)v(e,h)dt (2.3)

である。電極間の距離Dの検出器において、陰極からの距離z=Zで電子・正孔対が生成された

とすると、電子はD−Z、正孔はZ 移動するので、その時間で式(2.3)を積分してやると、電子・

正孔が電極に到達したときに誘導された電荷Qが求まる。このQを、キャリアの寿命が無限大の

ときのQに相当する値ne0で割った電荷収集効率η(Z)は

λ(e,h)(e,h)τ(e,h)E (2.4)

η(Z) = λe

D ·

1−exp

µ

−D−Z λe

¶¸

+ λh

D ·

1−exp

µ

−Z λh

¶¸

(13)

2.2. テルル化カドミウム半導体 5

図2.1: 主なX線・γ線検出器の吸収係数[1]。CdTeは、ガンマ線検出器として広く用いられてい

るNaIシンチレータと同レベルの検出効率を持つ。MeV領域になると、コンプトン散乱が支配的

になる様子が見て取れる。

と書ける(Hechtの式)。λ(e,h)は平均自由行程である。このλが検出器の厚さDに比べ、十分に

大きくないと電極に電荷が到達する前に再結合して消滅してしまうため、ηが1から下がってしま

う。つまり、検出器として動作するにはλ(e,h) ≫Dが必要である。

CdTeの場合、正孔のµτ E が小さいために、0.5 mm厚の素子に対して100 Vを印加しても

λh ∼2 mm程度で、検出器の厚みと同程度にしかならず、電極に収集される前に、正孔がトラッ

プされてしまう(hole trapping)。この場合、プリアンプ(Charge Sensitive Amp)からの信号の大

きさは、ガンマ線が反応を起こした検出器の位置(深さ)によって変化する。したがって、決まっ たエネルギーのガンマ線に対するスペクトルは単一のピークにはならず、低いエネルギー側に幅

広い裾野をひいてしまう(Low-energy tail)。これは、100 keVを超える高いエネルギーのフォト

ンほど、より顕著な効果としてあらわれる[5]。

この低エネルギー側のテールを改善するために、キャリアからの信号を集めきるのに必要なバ イアス電圧をかける事が考えられるが、それに伴うリーク電流の増加が制限となる。半導体検出 器のエネルギー分解能は読みだし回路の雑音によって決まり、回路の雑音は検出器の容量とリー ク電流によって支配される。さらに容量は、素子の大きさによって決まるため、リーク電流を如

何に抑える事ができるかがエネルギー分解能の高い検出器を実現するための鍵を握る。CdTeは

109 Ωcmというような高い比抵抗をもつ素材であるが、従来のCdTe検出器では、リーク電流に

よる雑音の制限から、0.5 mm程度の厚みの素子にたいして、100 V程度のバイアス電圧をかける

(14)

6 第2章 新しい半導体検出器

-テルル化カドミウム-2.3

CdTe

ダイオード

われわれは、CdTe半導体を用い、きわめて優れたエネルギー分解能を得るために、従来のよう

な、オーミック電極を用いるものではなく、ダイオードとして動作する検出器の開発を進めてき

た。この検出器の特徴は非常に低いリーク電流にあり、CdTeやCdZnTeで問題となっていたホー

ルの移動度や寿命が低い状況でも、高い電場をかけてキャリアを集めきった上で、優れたエネル ギー分解能を得ることができる。

従来は陽極・陰極ともにプラチナ(Pt)を用いていて、基本的にオーミックな接触をしていた。

CdTeダイオードは、p型の半導体であるACRORAD社のCdTe(Cl)に対して、陽極側をインジ

ウム(In)、陰極側をPtにすることよって、表面障壁を作り、リーク電流を低く抑えることによっ

て、高いエネルギー分解能を得ようとするものである。CdTeダイオードは、図2.2に示すように、

ダイオード特性をとる。In側を陽極として用いることにより、低いリーク電流のまま高いバイア

スをかけることができる。

図 2.2: 2 mm×2 mm×0.5 mmt のCdTeI-V特性: 実線は陽極をInにしたCdTeダイオード、

点線は陽極・陰極ともにPtを用いた場合。図中にCdTeダイオードに逆バイアスを印加したとき

の様々な温度でのI-V特性も示す。;片方の電極にInを用いると、ダイオード特性を示すことが

わかる。また、両電極ともにPtの場合にくらべ、CdTeダイオードに逆バイアスをかければリー

ク電流が非常に少ない。

われわれは、ACRORAD社と共同で、様々な厚み、大きさの検出器を製作し、電極形成やCdTe

ウェハーに対して、最適な製造条件を探るとともに、検出器からの信号を、増幅するための低雑 音荷電増幅器の開発を行ってきた。

本論文でとりあつかう、CdTe素子を用いた撮像素子の開発にあたって、最初に、現時点での製

造条件による、CdTeダイオードのスペクトル性能を調べるために、厚さ1 mmの2 mm角素子

(2 mm×2 mm×1 mmt)の検出器を4個製造し、その特性を評価した。図2.3に、これらのうち、

典型的なものの、様々な温度で測定したリーク電流を示す。リーク電流の測定には高精度ソース

メジャーユニットKeithley237を用いた。この図を見ると、−20◦C程度まで冷やせば、1000 Vで

20 pAといった非常に低いリーク電流を示している。これは、通常のシリコンPINダイオードな

どで用いられるような結合コンデンサを用いたAC接合のプリアンプで電荷を増幅するのではな

(15)

2.3. CdTeダイオード 7

ンサを介さないためより良い分解能を追求できることを意味する。  

図2.3: 2 mm×2 mm×1 mmtのCdTeダイオードのI-V特性。−25Cから+25◦Cまでの様々な

温度における特性を示す。

DC接合のプリアンプであるCP5109LSII(クリアパルス社)にこの素子をつけ、−25Cで取得

した241Am57Coのスペクトルを図2.4に示す。60 keV1 keVを切る分解能を達成している。

また、122 keVでも1 keV近い分解能を達成している。しかし、低エネルギー側の14 keVガン

マ線では回路系の限界をしめすテストパルスと同程度の分解能を達成しているにもかかわらず、

122 keVでは電荷収集効率の違いに起因するテールによる分解能の劣化が見られる。

このスペクトルの構造を式(2.5)を用いて解釈するために、200 V, 400 V, 600 V, 1000 Vにつ

いて計算したCdTeの電荷収集効率を図2.5にしめす。光子の反応位置を陰極からの距離として

横軸にとり、その時の電荷収集効率を式(2.5)から計算した。電子はµτ 値が正孔に比べ大きいた

め、一番ドリフト距離が長い陰極付近で反応しても200 Vでも99%集められ、ピークの位置は200

から1000 Vではほとんど変わらない。しかし、ホールのµτ値は小さく、陽極近傍での反応では

200 Vでは78%、600 Vで91%、1000 Vでも94%しか効率を持たない。これは、スペクトルの低

エネルギー側のテール成分として現れる。つまり、1000 Vの場合でも、陽極付近で光子が反応す

れば、95%程度の効率しか得られず、122 keVの光子であれば、116 keV相当のエネルギーとして

しか感知されない。

実際に、検出器にかける電圧によるスペクトルの相違を見るために、3種類の電圧値で取得した

スペクトルの60 keVと122 keVのピークを拡大したものを図2.6に示す。線源は、陰極に垂直に

照射している。検出器にかける電圧を高くしないと正孔の収集が効率良く行われないため、低エネ ルギー側に裾を引く形となり、エネルギー分解能を劣化させてしまう様子が見てとれる。60 keV

と122 keVでテールの引き方に違いがあるのは、より高いエネルギーの光子のほうが、検出器の

(16)

8 第2章 新しい半導体検出器

-テルル化カドミウム-出器で122 keVを効率よく収集するためには少なくとも1000 Vといった高い電圧が必要である。

そのため、−20C程度までの冷却は必要となることがある。ただ、最近の開発で、CdTeダイオー

ドにガードリングを設けることにより、従来の2桁程度小さいリーク電流を達成することに成功

し、常温で1000 V印加して動作させることも可能となった。この結果については、[17], [14]に詳

しくまとめられている。  

(17)

2.3. CdTeダイオード 9

図2.4: 2 mm×2 mm×1 mmtCdTeによる241Am(上図)57Co(下図)のスペクトル。 印加電

(18)

10 第2章 新しい半導体検出器

-テルル化カドミウム-図 2.5: 1 mm厚のCdTeについて計算した光子の反応位置(陰極からの距離[mm])と電荷収集効

率の関係。(µτ)e= 2×10−3, (µτ)h= 1×10−4と仮定し、200, 400, 600, 1000 Vでの電荷収集効

率を示す。上から順に、1000 V(赤)、600 V(青)、400 V(緑)、200 V(桃)である。陰極から遠いほ

どバイアス電圧による違いが顕著になる。1 mm厚の素子で陽極付近でも90 %の電荷収集効率を

(19)

2.3. CdTeダイオード 11

図2.6: 241Amのスペクトルの59.5 keV付近と57Coのスペクトルの122 keV付近の拡大図。異な

るバイアス電圧(200, 600, 1000 V)での違いをみるために横軸はADCチャネルとしている。波形

(20)
(21)

13

3

CdTe

アレイ検出器を用いたガンマ線撮像

観測

3.1

ガンマ線撮像観測の意義

0.5から10keVのX線領域では,日本の「あすか」衛星や欧米の「チャンドラ」衛星、「ニュー

トン」衛星に代表されるように,極めて高い感度で、遠方の暗い天体の観測が可能となっている。

それに対して、集光のできないガンマ線領域では、こうした感度を得ることが難しい。特に、硬X

線あるいはソフトガンマ線とよばれるエネルギー領域(数10keVから数MeVのエネルギー範囲)

では,コンプトン散乱が支配的な反応になり、散乱された光子が検出器から抜けて出てしまう事 がおこるため、全エネルギーを検出器に与える確率が小さい。したがって、バックグラウンドと なるガンマ線を遮蔽することも、また、信号となるべき、観測対象からのガンマ線をとらえるこ とも容易ではない。

Astro-E2衛星に搭載されるHXD検出器は、BGOシンチレータをアクティブなコリメータとし

て用いることで、視野角をせばめ、視野角全体からの宇宙X線背景放射や、狙った天体以外の天

体からの混入ガンマ線の量を抑える工夫をしたものである。このような検出器は、CGRO衛星に

搭載されたOSSE検出器など、従来の広い視野を持つ検出器に比べ、感度の高い観測をすること

ができるが、撮像能力をもたないため、広がった天体からのガンマ線放射などを研究する上では、 最適なデザインではない。さらに、撮像能力をもたないため、目的以外の天体からの信号(バッ クグラウンド)の混入を除去し、その天体方向からの信号のみをとりだすためには、バックグラ

ウンドの正確なモデル化が必要となる。HXDは、検出器部分のほとんどの立体角をシールドで取

り囲む構造を持つため、バックグラウンドが極めて低くおさえられるが、最終的に到達できる検 出感度は、このバックグラウンドのモデル化の精度によってしまう。

われわれは、こうした状況で、HXDよりも感度が高く、かつ、撮像が可能な新しいガンマ線検

(22)

14 第3章 CdTeアレイ検出器を用いたガンマ線撮像観測

3.2

コーデッドマスクを用いた検出器への応用

3.2.1

コーデッドマスク

X線領域では、数秒角を上回るような極めて高い角分解能を持つ画像をとることができるX線

望遠鏡の技術が確立しているのに対し、ガンマ線は、波長が短いため、集光鏡を応用することが

できない。そのため、数10 keVから数MeVの領域ではコリメータを用い、少しずつ観測の方向

をずらしながら画像を構築する方法の他、GLANAT衛星のSIGMA検出器のように符合化マスク

(コーデッドマスク)と位置検出型の検出器を組み合わせてガンマ線画像を取得する方法が用いら

れてきた。

コーデッドマスクを用いた撮像では、検出器の上部にガンマ線を通す部分と遮る部分とが、ほ ぼ半々の割合で配置されたマスクがおかれている。この場合、ひとつひとつの開口部が、ピンホー ルカメラの穴に対応していると考えればよく、検出器に観測される画像は、複数のピンホールカメ ラの画像の重ねあわせになる。したがって、取得した画像から、フーリエ変換などの、数学的な手

法を用いて光源の像を再構成することになる。2001年に打ち上げられたESAのINTEGRAL衛

星、およびガンマ線バースト探査用のSwift衛星(2003年打ち上げ予定)でも、こうしたコーデッ

ドマスクが用いられている。取得される画像の分解能はマスクに空いている穴の大きさとマスク

の検出器までの距離、および検出器の位置分解能によって決まり、INTEGRAL衛星のSPI検出

器は、2度角、またIBIS検出器は、12分角、またSwift衛星のBATの場合は24分角である。

SPI検出器では、ゲルマニウム半導体素子を19個並べることで、優れたエネルギー分解能に若

干のイメージング能力を加えたものであるが、IBIS検出器では、4mm角で2mm厚のCdTe素子

が16384個、また、BAT検出器には、同じ大きさのCZT素子が32768個も、しきつめた撮像検

出器がマスクの下におかれている。

3.2.2

CdTe

アレイ検出器の応用

 コーデッドマスクによる検出器では、観測の効率をあげ、一度に沢山のガンマ線源からの信 号を取得するために、一般的に、視野角が広くとられる。これはガンマ線バーストのように、ど こで発生するかわからない現象の探索のためには有効である。一方、様々な方向からマスクを通 過して検出器に到達するガンマ線がすべて雑音としても寄与することになる。さらに、明るい点 源が視野内にいる場合には、その点源からのガンマ線が他の点源にとっては雑音ガンマ線になっ

てしまう。INTEGRAL衛星のSPI検出器やIBIS検出器は、エネルギー分解能、イメージング能

力、有効面積など、このエネルギー領域で、過去のガンマ線検出器を凌駕するものであるが、雑 音のレベルが高く、感度という点においては、さらに改良の余地が残されている。

我々が開発しているCdTeアレイ検出器は、第4章に述べるような工夫により、より厚いデバ

イスを実現し、より高いエネルギーまでを検出できる。さらに、リーク電流が少ないと言うCdTe

ダイオードの特徴を活かして、より優れたエネルギー分解能を持ち、宇宙から来る核ガンマ線の 同定や検出器バックグラウンドのライン成分の除去などを実現できる。

3.3

コンプトンカメラへの応用

3.3.1

コンプトンカメラ

コンプトン散乱が主な反応となるMeV領域でのガンマ線観測は、他のエネルギー領域に比べて

(23)

3.3. コンプトンカメラへの応用 15

効果に比べて小さいのに加え、検出器中に入ってきたガンマ線が、検出器中の電子にエネルギー を部分的にわたし、その後検出器から抜けてしまうことが起こるためである。一方で、散乱され た2次ガンマ線を独立に検出することによって、入射ガンマ線のエネルギーばかりではなく、そ の到来方向をも求めることができる。このような考え方に基づいているのが、これから紹介する コンプトンカメラである。

図3.1のように、2層の位置検出型のガンマ線検出器があり、1層目でコンプトン散乱し、2層目

で光電吸収されたとする。入射ガンマ線のエネルギーEin、1度目でのエネルギー損失E1、2層目

の光電吸収されたエネルギーE2とすると、エネルギー保存則と運動量保存則から、式(3.1), (3.2)

が成立する。

θ

E

in

E

1

E2

図3.1: シングルコンプトンカメラの概念図

Ein= E1+ E2 (3.1)

cosθ= 1−mec2

µ 1 E2

− 1 E1+E2

(3.2)

これから、入射ガンマ線光子の到来方向を頂角θを持つ円錐面に制限することができ、天空上

では円環として与えられる。また、電子のエネルギーばかりではなく、散乱した方向をも検出す ることが可能であると、ガンマ線源の方向は、円環上で、一点あるいは弧として求まる。円環の

線幅、あるいは、点の大きさは、エネルギーE1、E2を、どれだけ精度良く測定できるかによって

いる。したがって、角度分解能の高いコンプトン望遠鏡を開発するためには、構成する検出器が、 位置分解能ばかりではなく、エネルギー分解能にも優れていることが不可欠である。また、コン プトンカメラはその原理から、偏光まで測れる可能性を秘めている。偏光した光子が入ってきた 場合、その散乱方向は偏光の向きに依存する。つまり、コンプトン過程を再構成することにより、 偏光を検出できるはずである。

この原理を応用したガンマ線検出器がコンプトン望遠鏡である。CGRO衛星に搭載された

COMP-TEL検出器(図3.2)は、実用化された唯一の例であり、2層の検出器を用い、1層目を散乱体とし

て用いて、この層でコンプトン散乱を起こして散乱された電子と、散乱後、2層めの吸収体で吸収

(24)

16 第3章 CdTeアレイ検出器を用いたガンマ線撮像観測

量保存則とエネルギー保存則とから、入射したガンマ線の方向を求める。散乱体には、液体シン チレータのように、コンプトン散乱の確率が、光電吸収の確率に比べて大きくなるように原子番

号の低い検出器を用い、吸収体には、ヨウ化ナトリウム(NaI)結晶で作られたシンチレータを用

いている。それぞれの検出器には複数の光電子増倍管がつけられており、ガンマ線光子の反応場

所を知る事ができるようになっている。2つの層における反応時刻を用いて、イベントの選別を行

うため、システムは1.7 m×2.6 mという巨大な検出器である。COMPTEL検出器はMeV領域で

これまでで最高の感度の観測を行った。ただし、カウント数をそれほど稼げなかったので、偏光 検出には成功していない。

図3.2: CGRO衛星搭載のCOMPTEL

3.3.2

半導体コンプトンカメラ

検出器の中でおこるコンプトン散乱を効率よく利用し、バックグラウンドとなるガンマ線を識 別する次世代技術として、半導体コンプトン望遠鏡の考えがある。この検出器は、ストリップ検 出器やピクセル検出器のような、半導体撮像素子を、数十層にわたって積層し、その中で起こる コンプトン散乱を再構成するものである。シリコンやテルル化カドミウムを組み合わせることで、 従来のように、散乱体と吸収体にわけて考えられていたコンプトン望遠鏡ではなく、それらが一 体となったものを作ることが可能である。この検出器では、複数回散乱してから吸収されるよう な事象をも積極的に使う事で、検出効率を増やすことができ、より小さな検出器で大きな有効面 積を得られる。

多重コンプトン散乱の再構成においては、ガンマ線の入射方向を精度よく決定するためには、各 ステップでの反応位置を正確に測定すると同時に、吸収されたエネルギーを正確に求めることが 必要である。われわれは、高いエネルギー分解能を持つテルル化カドミウム半導体撮像素子、ま た、シリコンストリップ検出器などを用い、SLAC、広島大学、大阪大学などと共同で、この原理 にもとづく半導体多重コンプトン望遠鏡の開発を行っている。

3.3.3

CdTe

アレイ検出器の応用

今回開発した1024チャネルCdTeアレイ検出器は1.4 mmの位置分解能を持ち、5 cm×5 cm

広い面積を持っている。また、CdTeで5 mmの厚さを持つため、100 keVの光子はほとんど光電

吸収し、500 keVでも20%以上の確率でコンプトン散乱または光電吸収といった相互作用を起こ

(25)

3.3. コンプトンカメラへの応用 17

図3.3に示すように、この検出器の上に、散乱体として例えば両面シリコンストリップ検出器

(DSSD)を多層に重ね、シリコンストリップで散乱させたものをCdTeで吸収すると言うコンプト

ンカメラをつくることができる。

E

E1

E2

φ

図3.3: 半導体多重コンプトンカメラの概念図

図3.4は、我々が2004-5年度のフライトを目指して開発を進めている大気球実験のセットアッ

プである。これを用いて、コンプトンカメラの実証を行っていく。

momentum wheel Crab Nebula

TLM, CMD etc Att.

Ctrl

Ballast

Si strips

CdTe array

Front End Elec. Mask and Window

HV Read Out Elec.

Serial I/O

Active Shields about 40 cm Gamma

-rays

(26)
(27)

19

4

1024CdTe

アレイ部の評価

4.1

有効厚

5 mm

の位置検出型

CdTe

ガンマ線検出器

CdTeダイオードの∆E∼1 keVという高いエネルギー分解能は、魅力的である。しかし図4.1

に示すように、0.5 mmという厚さでは、数100 keVのガンマ線の検出効率は数%と極めて低い。

より高エネルギーのガンマ線を検出するためには、最低数mmの厚さが必要となってくる。一方、

前述したように、CdTe半導体では、電荷の転送特性が悪いため、単純に厚い結晶を用いた検出器

を作っても、実際には半導体内で生じた電荷を集めることができず、めざす検出効率を得ること ができない。

われわれは、511keVのガンマ線に対して、20%程度の有効面積を持ち、1 mm程度の位置分解

能をえるために、検出器の電極面に垂直な方向からではなく、平行な方向から入射させるエッジオ

ン入射の方式を採用したCdTeアレイ検出器の開発をおこなった。エッヂオン入射では、図4.2の

ように、通常の陰極側からの照射(フェイスオン)とは異なり、光子の入射方向に対して垂直に電場

をかける。これにより、電荷を集めるのに必要な、高い内部電場を維持したまま、ガンマ線に対し

て有効な厚みを得ることができる。今回、開発したシステムは、5 mmの厚さ、1.2 mm×1.2 mm

の断面積を持つCdTeダイオード素子を1024個1.4 mmピッチで並べた検出器である。エッジオ

ン入射を採用することにより、図4.1に示すように、100 keVで99 %、511 keVでは20 %の確率

で相互作用する。

図 4.1: 厚さの異なるCdTe(0.5 mm, 1 mm, 5 mm)での光子との相互作用の確率

32×32のマトリック状に、配置されたCdTeダイオード素子からの信号を、引き出し、後段の

増幅回路に接続するために、図4.3のように32素子を1列に並べ、陽極を側面(1.2 mm×5 mm

(28)

20 第4章 1024CdTeアレイ部の評価

Anode

Cathode

γ

-ray

"Edge-On"

γ

-ray

"Face-On"

図4.2: エッヂオン入射とフェイスオン入射

造をとる。これらの電極に上から、スプリングピンで接触をとることで、アクセスし、各素子の

信号を読み出した。32素子を一列とし、それを32列ならべたものが、CdTeアレイ検出器のヘッ

ド部にあたる。

Anode

Cathode(common)

CdTe x 32

図4.3: 1024CdTeアレイの一列(32素子)の構造と電極の引き出しの概念図。陽極は各素子からL

字型に上部に引き出している(青斜線部)。陰極は32素子で共通電極とし、左右両端でL字型に上

(29)

4.1. 有効厚5 mmの位置検出型CdTeガンマ線検出器 21

図4.4: 1024CdTeアレイ検出器ヘッドの全体像 上面中央に1024の電極があり、左右両端に共通

(30)

22 第4章 1024CdTeアレイ部の評価

4.2

単素子の評価

これまでに陰極側からガンマ線を当てていたのに対し、エッヂオン入射にしたことによる影響

を見るため、まず単素子の性能評価を行った。図4.5にCdTeの典型的なµτ値を用いて計算した、

エッヂオン入射時のスペクトルを示す。エッヂオン入射なので、電極間での光子の反応は完全にど の位置でも等確率で起こり、そこでの電荷収集効率がそのまま見える。図から分かるように、出

来るだけ高いバイアスをかけることが重要であり、例えば、素子の全ての領域において90 %以上

の電荷収集を実現するには、800 V以上の電圧を加えねばならない。

図4.5: 電極間が1.2 mmのCdTe素子についてエッヂオン照射とした場合に100 V, 400 V, 800 V

でHechtの式から計算したスペクトル(µτ)e=2×10−3, (µτ)h=1×10−4と仮定した。

図4.6に、エッヂオン入射で用いた1.2 mm×1.2 mm×5 mmCdTeダイオードのI-V特性を

示す。測定はKeithley237を用い、恒温槽中で行った。エッヂオン入射を採用した場合、結果とし

て電極の面積は大きくなるためリーク電流は若干大きくなり、−20C, 800 Vでは200 pA程度と

なる。

次に実際にこの素子でガンマ線のスペクトルを測定した。図4.7に大まかなセットアップを示

す。測定は、図4.7のように恒温槽中に素子とプリアンプCP5102BS(クリアパルス)を配置し、波

形整形増幅器としてはORTEC570、高電圧源としてはCP6641(クリアパルス)、MCAはpocket

MCA8000A (Amptek)を用いた。図4.8にエッヂオン、フェイスオン両方の時について−20C,

800 Vのときの57Coののスペクトルを示す。122 keVのラインについてはテール成分に大きな違

いはない。

(31)

4.2. 単素子の評価 23

図4.6: 1024CdTeアレイ用単素子(1.2 mm×1.2 mm×5 mm)I-V特性。エッヂオン入射で用い

るので、1.2 mm×5 mmの面に電圧を印加した。

を図4.9に示す。このとき、線源−素子間の距離の不定性のため、縦軸は122 keVのピークのカ

ウント数で規格化した。図より、400 Vでは若干の差は見られるものの、800 Vを印加していれ

ば、122 keVのテール成分は入射方向によらずほとんど変わらないことが見て取れる。また、テー

ル成分の幅は400 V印加で、∼20 %, 800 V印加で∼10 %と、図4.5の計算とよく合っていること

がわかる。これからエッヂオン入射であっても800 V程度を印加すれば、良いエネルギー分解能

が得られることが示された。

Thermostat Chamber

PreAmp Shaping Amplifier

ORTEC 570

High Voltage CP6641

Pocket MCA

Amptek 8000A PC

CdTe Case

RI

(32)

24 第4章 1024CdTeアレイ部の評価

図4.8: エッヂオン入射[左図]とフェイスオン(陰極)入射[右図]による57Coのスペクトル。印加

電圧: 800 V,波形整形時定数: 1µsec,温度: −20◦C。低エネルギー側の相違は、素子をマウントす

るケースの厚さによる違いである。

4.3

1024

素子

CdTe

アレイの評価

実際に我々が用いたCdTeアレイに使用した1024素子のリーク電流の分布を図に示す。常温、

700 Vを印加したとき、リーク電流の平均値は1.5 nAで、そのばらつきは1 nA程度である。用

いた素子は、10分間700 Vをかけ続けた時にリーク電流が10 nAを越えないという基準で選ば

れた。

1024CdTeアレイからの信号の引き出しの概念図を図4.11に示す。CdTeの検出器と同じ大きさ

の中に、電極と同じ間隔でスプリングピンが電極と同じ数だけ並んだスプリングコネクタをCdTe

センサに押し付けて、電気的な接触を図った。基板側にも電極と同じ間隔で接触できる部分があ り、そこから信号が基板の逆面にあるファインピッチのコネクタに引き出されている。このコネ

クタを利用すれば、アナログLSIと違った読み出しシステムに信号をつなぐことができる。

スプリングコネクタ、ピッチ変換基板、コネクタまでを含めた1024チャネルCdTeアレイのス

ペクトル性能を確認するために、我々はこのコネクタに16本の同軸ケーブルがついた信号引き出

し基板をさした。同軸ケーブルは、潤工社のDAS502(96 pF/mの容量をもつ)を用い、その長さ

は30 cm程度とした。

まず、スプリングコネクタと基板を介して、センサの電極からの導通が取れているかを確かめ

るために、CdTeダイオードに順方向の電圧がかかるように、共通電極側に+5 Vを印加し、電流

が流れるかを各チャネルごとにチェックした。その結果、2列については、高電圧をかける電極が

接触していないことが分かった。

これを10チャネルハイブリッドプリアンプアレイ4セットと、NIMビン対応の波形整形増幅器、

そして、VME-ADCで構成される「40チャネルスペクトル取得システム」に接続(図4.12)し、32

チャネルずつ信号を読み出した。このときは、検出器の前には、タングステンでできたコリメータ

を設置してある。このコリメータは1.2 mm×1.2 mmの穴がちょうどCdTeアレイの大きさにあ

うように32×32個開けられている。検出器からプリアンプまでは少しでも低温にするために恒温

槽の中に入れ冷却するが、セットアップの都合上、32回に分けて測定する必要があり、そのたび

に同軸ケーブル基板をつけかえる作業を伴うため、結露を気にせずに作業できる+10◦Cに恒温槽

を設定し、試験を行った。前節で示したように、本来は800 Vを印加すべきではあるが、+10◦C

におけるリーク電流は500 Vで典型的に1 nAに達してしまい、これ以上のバイアスでは分解能

(33)

4.4. 改良すべき点 25

図 4.9: 57Coスペクトルの122 keV付近の拡大図。印加電圧: 400 V or 800 V, 波形整形時定数:

1µsec,温度: −20◦C。エッヂオンの場合とフェイスオンの場合を直接比較するために縦軸は規格

化している。

この状態であっても、ノイズが急増するチャネルが全体の9 %程あり、そのチャネルはトリガから

外すことで対応した。

このシステムで得られたあるチャネルの133Baのスペクトルを図4.13に示す。5 mm厚の高い

阻止能をいかし、30 keVや81 keVのラインだけでなく、300 keV付近のラインも高い計数が得ら

れている。エネルギー分解能は81 keVのガンマ線に対し、3.6 keVであった。

133Baソースの位置を動かし、全チャネルで133Baのスペクトルを取得してゲインのキャリブ

レーションをした後、固定された4つの133Baに対して1024チャネルのスペクトルをとった。こ

のとき、81±5 keVのエネルギー領域のカウント数を全チャネルで求め、イメージに変換した。図

4.14にそれを示す。32×32チャネルのイメージには、コリメータを通してCdTeで吸収された4

つの133Ba線源の位置がきれいに受かっている。図を見ても分かるとおり、前節で示した、共通

電極側が未接触であるために1列×2が信号が検出されていなかったり、ノイズが高すぎるために

イメージに参加出来ていないデッドピクセルは全体の15 %程度である。

以上の実験により、1024チャネルのCdTeダイオードアレイが高い阻止能をもった撮像素子と

なっていることが示された。

4.4

改良すべき点

図4.14のイメージは必ずしも均質では無く、前出のデッドピクセルや逆に不自然にレートが高

いピクセルなど混在している。1024にも及ぶCdTe素子の個性の問題もあるが、現状で最も解決

すべき問題は、接触不良のチャネルである。今回我々はCdTe素子の電極の読み出しの部分にス

プリングピンを使ったが、これはSiウェハの回路素子などのテストに用いるものをそのまま用い

(34)

26 第4章 1024CdTeアレイ部の評価

図4.10: 常温で700 Vを印加したときの1024素子のリーク電流の分布

でしまうという問題が発生した。接触不良の多くは、この問題に起因すると考えられる。今回は スペーサ−を用いて出来る限りピンの圧力を弱めたが、今後はこの最適化が必須である。基板が たわまないように補強したり、ピンの最適化を図ると言った改良に加えて、そもそもスプリング コネクタを用いない新しい手法の模索もすべきである。

もう一点注意すべきことは、CdTe素子からLSIの入力にいたる部分までに使用する材質であ

る。一般的にセンサから電荷増幅器(CSA)の入力までに使う素子や基板には細心の注意をして選

択しないと、CSAの入力容量を増やしたり、信号を損失したりする結果となり、ノイズ特性を悪

(35)

4.4. 改良すべき点 27

CdTe

Spring

Connector

Pitch Adapter

PreAmp

Coaxial Cable

(DAS502 30cm)

FEC

New System

OR

Connector

(36)

28 第4章 1024CdTeアレイ部の評価

図4.12: 1024CdTeアレイ検出器と「40チャネルスペクトル取得システム」の概観。1024CdTeア

レイ(右手前)からの信号を30 cm程度の同軸ケーブルでプリアンプに導入した。4つの金色の箱

が10チャネルずつのプリアンプで、差動電流出力となる。この図のシステムを大きな恒温槽にい

(37)

4.4. 改良すべき点 29

図4.13: 「40チャネルスペクトル取得システム」によるあるチャネルの133Baのスペクトル。印

加電圧: 500 V,波形整形時定数: 3µsec,温度: +10◦C。

図4.14: 1024CdTeアレイ検出器によるイメージ。133Ba線源4つが確認できる。黒いチャネルは

(38)
(39)

31

5

1024

チャネル

CdTe

アレイガンマ線検出

器の全体設計

5.1

概要

本論文で研究を行った、1024チャンネルCdTeアレイ検出器は、気球実験等に用いることを最

初から考えて開発されている。その場合、半導体素子、格納容器、信号の引き出し方などととも

に、1024もの独立した半導体素子からの信号を、高速に処理するための、コンパクトで消費電力

の小さなデータ収集システムの開発が鍵を握る。我々は、NIMやCAMACあるいはVMEなどの

既存の回路モジュールを用いることなく、新しく、0からシステムを設計した。

図5.1に、簡略化したブロック図を示す。CdTeダイオードの信号は、電荷増幅、整形、アナロ

グ値のデジタル化(ADC)の処理が行われる必要があり、また、天体からのガンマ線観測のよう

に、外部からトリガー信号を与えられない場合は、自己トリガーの信号を作り出さなければなら

ない。われわれは、1024チャンネルという、極めて多数の信号処理を、新開発のアナログVLSI

を用い、随所に、小型化の工夫をこらしながら、各段階で機能をまとめたモジュール化を行うこ

とで、10cm3程度の体積の中に収まる回路系を実現した。

Detector

Analog LSI(FEC)

LSI Control/Readout

&

I/O

Unit Control

図5.1: システムのモジュール化の概念図

基本的には、

(40)

32 第5章 1024チャネルCdTeアレイガンマ線検出器の全体設計

ii. その読み出し用のアナログLSIを載せたフロントエンドカード(FEC)

iii. 数百といったLSIのコントロール&リードアウト +データ転送

で1ユニットを構成し、複数のユニットを1つのプロトコルで制御するものである。iiiは、再設

定可能な(Reconfigurable)FPGAを用いて設計することにより、回路に柔軟性を持たせることに

し、設計から試験のサイクルを早く行えるようにした。

高速なデータ収集システムをモジュール化に基づいた設計を行う場合、各モジュール間の通 信が重要である。われわれは、次世代の衛星内バス用に、検討が進んでいる高速シリアル通信

SpaceWire(IEEE 1355)を導入した。この規格は、一系統で、400MBPSまでの通信が可能である

が、ルーターの機能を持った回路を経由させて、複数の系統を同時に使ったパケット通信を行う

ことにより、1GBPSまで転送速度をあげることができる。また、転送の経路を制御(ルーティン

グ)することにより、回線の不良が発生した場合でも、対応が容易である。

今回、開発した1024CdTeアレイ検出器の概念図を図5.2に、全体写真を図5.3に示す。CdTe

アレイが約5 cm×5 cmの大きさであるので、その後ろに出来る限り同じ大きさでシステムが入る

ように設計した。

pitch adapter

CdTe x 1024

LSI on FEC

Interface Card

Bias Supply

Readout Card

SpaceWire

High Voltage

High Voltage

SpaceWire to VME

PC

図5.2: 1024CdTeアレイ検出器システムの概念図

本システムは、小型ではあるが、極めて高機能であり、また構造も複雑である。そのため、宇宙

科学研究所を中心に、大阪大学、広島大学、SLACのグループが協力して設計を行い、ACRORAD

社、三菱重工業、クリアパルスの技術者の協力を得て開発が行われた。全体くみ上げから、パー ツごとの試験、さらに全体試験は宇宙科学研究所において行った。

5.2

信号読み出しの流れ

 読み出しに関する全体の構成を図5.4に示す。後述するように、CdTe半導体素子からの信号

は、スプリングピンを経由して、64素子ごとに、ピッチ間0.4 mmというマイクロコネクタを実

装した基板に導かれる。一つのマイクロコネクタには、フロントエンドカード(FEC)が一枚実装

(41)

5.2. 信号読み出しの流れ 33

(42)

34 第5章 1024チャネルCdTeアレイガンマ線検出器の全体設計

各FECには、32チャンネルの入力を持つ、低雑音アナログVLSI VA32TAをが二つ実装され、

一枚で、64チャンネルの処理を行うことができる。VA32TAは、IDEAS社と共同で、低雑音化に

重点をしぼると共に、耐放射線、コントロール信号の簡略化などを行って、新しく開発したもの である。

図5.4: 読み出しシステムの概要

FECからの信号は、電圧レベルの変換を行うと当時に、FECアドレスの選択を行うために、一

度インターフェースカード(Interface Card:IFC)を経由したあと、リードアウトカード(Read Out

Card :ROC)に送られる。ROCでは、全体の読み出しシーケンスを制御すると同時に、ホールド

した信号のA/D変換を行う。

読み出しシーケンスは図5.5のようになる。

VA32TAチップでは、ヒットのあったチャンネルの信号のみを読み出すことをせず、32チャン

ネルのパルス信号のホールド値を、シフトレジスタを通じて、全数読み出す設計になっている。こ れは、ヒットのないチャンネルの出力値から、コモンモードノイズを測定するためである。従来、 このアーキテクチャのチップを、複数用いる場合、全てのチップをデージーチェーンでつないで、 全てのチャンネルを読み出すような簡便な方法がとられることが多い。

我々は、検出器のデッドタイムをできるだけ低減するために、トリガーをFEC単位で扱うよう

な設計を行った。IFCの中で、トリガーをORして、ROCに送っているのはこの目的にためであ

る。また、デジタル処理を行う前に、FEC全てに、hold信号を送り、続けてはいるトリガーを禁

止することによって、ノイズの低減をはかっている。さらに、テストパルスをIFCから各FECに

導入できるようにした。ROCは外部トリガでも一連の読み出しシーケンスを走らせることが可能

である。

また、VA32TAはセットアップ信号として、199ビットのシフトレジスタを持ち、その値を指

定するために199ビットのシリアル信号とラッチするためのクロックを送る必要がある。これを

各FECには独立にいくようにするために、レジスタ設定用のクロックをいれるFECを選択でき

(43)

5.2. 信号読み出しの流れ 35

各FECのVA32TAからトリガ信号が生成され、IFCに送られる

IFCでORされたトリガがROCへ送られる、

IFCはトリガのあったFECを記録する。

ROCは全FECに対しHold信号を送る

ROCはi-th FECにトリガがあったかを

問い合わせる信号(request信号)をIFCへ送る

IFCはi-th FECにトリガがあれば、ready信号を返し、

無い場合はnot-readyを返す。

ready not ready

shift in b, clock b 64個

を送り、A/D変換

Loop through i from 0 to 15

イベントデータのパケット生成、リセット

(44)

36 第5章 1024チャネルCdTeアレイガンマ線検出器の全体設計

5.3

高圧分配器、

FastPreAmp

CdTeアレイが必要とする数百Vから1 kV程度までの高圧を1つの高圧電源から分配する。イ

ベント検出の際に共通電極側に誘導される電荷を吸収するためにCdTeアレイ全体の容量にくら

べ100倍程度の大きなコンデンサをつけるようにした。図5.6に簡単な回路図を示す。CdTe検出

器の容量は128個の素子で80 pF程度であり、この図にあるように、22 nFの大容量・高耐圧の

コンデンサをつけた。また、共通電極側からトリガー信号を生成することが出来るように、速い 時定数を持つプリアンプにもジャンパで繋がるようにした。この際、上記と同じようにプリアン

プが大きなコンデンサとして機能しなくてはいけないため、A×Cf (Aは開利得、Cfはプリアン

プのフィードバックコンデンサ)が十分大きなものを選んだ。

22 nF 128 CdTe High Voltage(Negative) 1MΩ Α 22 nF Cf Fast PreAmp VA32TA

図5.6: 高電圧分配器

5.4

Analog LSI VA32TA

5.4.1

チップの概要

VA32TAは32チャネルからなる低雑音・低消費電力のアナログLSIである。本LSIはこれま

でのVATAチップと比較して、我々とSLACの田島らによって、特にノイズの低減を重視した改

良が施されており、優れたノイズ特性が期待される。チップは0.35 µmのプロセスで製造され、

20 MRadまでの放射線耐性が実験で確かめられている[9]。各チャネルはプリアンプとその後ろに

つく2種類の信号処理回路からなる。図5.7にこのLSIの概念図を示す[12]。

1つはVAと呼ばれ、遅い時定数(1-4 µsec)をもつ波形整形回路(以下、Slow-Shaper)とサン

プルホールド機能をもち、32チャネル分の出力はアナログスイッチにより1チャネルずつが出

力バッファに繋がるようになっている(アナログマルチプレクス)。出力はコモンモードノイズに

強いように、差動電流出力となっている。もう1つはTAと呼ばれ、速い時定数(75 nsecまた

は300 nsec)を持つCR-RC波形整形回路(以下、Fast-Shaper)を含み、その出力はレベルディス

クリミネータに入力され、トリガが生成される。各チャネルのトリガは32チャネルでワイヤー

(45)

5.4. Analog LSI VA32TA 37

Buffer

Semigaussian

"slow" shaper

S/H

Semigaussian

"fast" shaper

Vfsf,

Ifsf

-+

Inv

M

u

l

t

i

p

l

e

x

e

r

outp

outm

Wired OR

ta, tb

mux

mux

select

Monostable

Level sensitive

Discriminator

Charge Integrator

(PreAmp)

VA

TA

High-Pass filter

32 channel

32 channel

ibuf

Vfp,

Ifp

Vfs,

Ifss

Vthr

obi

Sha_bias

Pre_bias

vrc

sbi

hold

trigwbias

表 2.1: CdTe 半導体の基礎特性 : CdTe の密度は ACROTEC における実測、 CdZnTe の密度は DIGIRAD 社のカタログから。 [2] 原子番号 密度 比抵抗 バンドギャップ ǫ (µτ ) e (µτ ) h Z [ g/cm 3 ] [ Ωcm ] [ eV ] [ eV ] [ cm 2 /V ] [ cm 2 /V ] CdTe 48/52 5.85 1 ×10 9 1.4 4.43 ∼ 2 × 10 −3 ∼ 1 × 10 −4 CdZnTe 48/30/52 5.8
図 2.2: 2 mm×2 mm×0.5 mm t の CdTe の I-V 特性 : 実線は陽極を In にした CdTe ダイオード、
図 2.4: 2 mm×2 mm×1 mm t の CdTe による 241 Am( 上図 ) と 57 Co( 下図 ) のスペクトル。 印加電
図 2.6: 241 Am のスペクトルの 59.5 keV 付近と 57 Co のスペクトルの 122 keV 付近の拡大図。異な
+7

参照

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