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cLBDH 変異体の基質結合サイト周辺と BsLBDH および cLBDH に

第 4 章 ドメインキメラ L -2,3-butanediol dehydrogenase の基質認識能向上

4.3 結果および考察

4.3.5 cLBDH 変異体の基質結合サイト周辺と BsLBDH および cLBDH に

図4.20: cLBDH-V254L/T165A/D169E結晶構造のデータセット1による基質結合サイト のFo−Fcオミットマップ(3.0 σレベル、緑)とデータセット2による異常分散フーリエ マップ (3.0 σレベル、オレンジ)

4.3.5 cLBDH変異体の基質結合サイト周辺とBsLBDHおよびcLBDHにお

cLBDH-V254LIle140の配向が、一部BsLBDHと同様になるようになったものの、ま だcLBDHと同じ配向が存在しているのは、cLBDHcLBDH-V254LIle140配向a

Phe146の側鎖の最短距離が保たれていることから、このループがBsLBDHよりも基質結

合サイトに近い位置にあるため、Ile140の側鎖に対してPhe146の側鎖ベンゼン環から斥 力が加わっているものと推測された(図4.21-Aおよびa).さらに、cLBDHおよび cLBDH-V254LのL-BDのkcat/KmがBsLBDHに対してそれぞれ0.27倍、0.37倍と低い原因は、

このループの違いにあることも推測された。

図 4.21: cLBDH-V254L結晶構造のBsLBDHおよびcLBDH結晶構造との比較。A 基質結合サイト周辺で、abはそれぞれIle140 の側鎖配向。BはサブユニットA Phe146-Ile148の主鎖周辺。サーモンピンクがcLBDH-V254L、黒がcLBDH、明るい灰色

がBsLBDH。残基番号の上付きの添字は属するサブユニット名を示す。

cLBDH-V254L/T165Aの基質結合サイト周辺

cLBDH-V254L/T165A結晶は、Ile140の側鎖配向がBsLBDHと一致し (図4.22-A)、 Phe146-Ile148の主鎖はBsLBDHとほぼ一致した (図4.22-B)。これによりPhe146のCβ およびCγの位置もBsLBDHと一致し、Phe146の側鎖ベンゼン環の位置は、cLBDH-V254L

よりもBsLBDHに近くなったことが確認された。cLBDH-V254L/T165AcLBDH-V254L に対して、Phe146の側鎖ベンゼン環はIle140との最短距離が0.1 ˚A広がり、Trp190との最

短距離が0.1 ˚A近くなっただけであるが、このわずかな違いによって基質結合サイトがより

L-BDの結合に適した形状になり、cLBDH-V254L/T165AのL-BDのkcat/Kmが cLBDH-V254Lの約2.8倍になったと推測された。しかしcLBDH-V254L/T165AのPhe146の側 鎖配向はBsLBDHとχ2で33の差があり、このことがL-BDのkcat/KmがBsLBDHに 及ばない原因であると推測された。cLBDHおよびcLBDH-V254LにおけるPhe146-Ile148 の主鎖のBsLBDHとの違いは、cLBDH-V254Lの最も近接するThr165の側鎖O原子と Phe146の主鎖O原子の距離が2.8 ˚Aであり、cLBDH-V254L/T165Aではそれがサブユ ニットBのAla165 (Ala165B、以下上付きの大文字のアルファベットは属するサブユニッ トを示す)のCβとPhe146Aの主鎖O原子で3.5 ˚Aと広がっていたことから、Thr165B の側鎖O原子の存在によって斥力が加わっていたことにその一因があると推測された(図 4.22-C)。しかしAla165Bに近接しないPro147およびIle148は結晶中で2つのコンフォ メーションが存在することから、Thr165Bの側鎖O原子が無くなることでPhe146-Ile148 の主鎖が不安定化することも示唆された。

cLBDH-V254L/D169Eの基質結合サイト周辺

cLBDH-V254L/D169E結晶では、Ile140の側鎖配向がBsLBDHと一致し、Phe146 一つの配向 (配向a、占有率0.55)cLBDH-V254Lとほぼ同様であったが、Trp190に近 い、もう一つの配向(配向b、占有率0.45)も存在した(4.23-A)Phe146の配向aは、側 鎖ベンゼン環はIle140との最短距離が3.4 ˚Aであり、cLBDH-V254Lの3.6 ˚Aよりもわず かに近かった。このため、Ile140のCδからPhe146の側鎖ベンゼン環に斥力が掛かり、結 晶中でPhe146が配向bとなる割合が増えたと推測された。cLBDH-V254L/D169EのBD のC2の光学異性認識がcLBDH-V254L/T165Aより緩い原因は、溶液中でPhe146の側鎖 がcLBDH-V254L/T165Aよりも不安定であり、BDC1メチル基と疎水性相互作用する ポケットの形状が崩れるためと推測された。しかし、Phe146の側鎖は不安定であるが故 に、L-BDに適したポケットの形状になる機会も増え、このことがL-BDのkcatが cLBDH-V254Lの3.2倍と大きかった原因であることも推測された。またcLBDH-V254L/D169E のL-BDに対するkcatは、BsLBDHよりも高いことから、Phe146側鎖の配向aはIle140 とともにL-BDの結合にBsLBDHよりも適したポケットを形成すると推測されるが、Km

がBsLBDHの約2倍程度になるのは、Phe146の側鎖は不安定さによりその機会が減るた めと推測された。結晶中のPhe146が側鎖ベンゼン環がTrp190に近い配向bである割合 が大きいのは、L-BDのC1に相当する炭素がないBMEを結合しているためと推測され、

cLBDH-V254L/D169E結晶内でのBMEの結合様式がBsLBDHや他のcLBDH部位特異 的変異体結晶と異なっていたことも、Phe146の側鎖の不安定さによるものと推測された。

cLBDH-V254L/D169E結晶ではPhe146-Ile148の主鎖はBsLBDHcLBDH-V254Lの中 間に位置した (4.22-B)。このPhe146-Ile148の主鎖の位置がPhe146の配向の不安定さ の原因と推測される。cLBDH-V254LではPro147AAsp169Bの最短距離は、Pro147A CβとAsp169Bの側鎖O原子間の3.2 ˚Aであったが、cLBDH-V254L/D169EではPro147A のCβとGlu169BのCγ間の3.6 ˚Aと広がったことから、cLBDHおよびcLBDH-V254L の の主鎖が と異なっていたのは、 Bの側鎖 原子から

図4.22: cLBDH-V254L/T165A結晶構造のBsLBDHおよびcLBDH-V254L結晶構造との 比較。Aは基質結合サイト周辺、BはサブユニットAPhe146-Ile148の主鎖周辺。ベージュ がcLBDH-V254L/T165A、サーモンピンクがcLBDH-V254L、明るい灰色がBsLBDH 残基番号の上付きの添字は属するサブユニット名を示す。

Pro147AのCβに斥力が加わっていたこともその一因であると推測された。また、 cLBDH-V254L/D169E結晶内では、サブユニットBのGlu169の側鎖は、サブユニットAのIle148 のN原子と水素結合を形成すると同時に、サブユニットAのL95のN原子とも水素結合を 形成していた。これらはcLBDHcLBDH-V254Lでは形成されていないため、 Phe146-Ile148の主鎖の位置に影響を与えると同時に、Phe146-Ile148の主鎖の安定化に寄与して いるものと推測される。

図 4.23: cLBDH-V254L/D169E結晶構造のBsLBDHおよびcLBDH-V254L結晶構造と の比較。Aは基質結合サイト周辺、BはサブユニットAPhe146-Ile148の主鎖周辺。緑 がcLBDH-V254L/D169E、サーモンピンクがcLBDH-V254L、明るい灰色がBsLBDH 残基番号の下付きの添字は側鎖配向を、上付きの添字は属するサブユニットを示す。

cLBDH-V254L/T165A/D169Eの基質結合サイト周辺

cLBDH-V254L/T165A/D169E結晶においては、Ile140の側鎖配向がBsLBDHと一致 し(図4.24-A)、Phe146-Ile148の主鎖もBsLBDHとほぼ一致した(図4.24-B)。Phe146の 側鎖は、Cβの位置もBsLBDHと一致し、側鎖ベンゼン環の配向の違いはχ1で1χ1

、と の配向 よりも に近づいた。また、

cLBDH-V254L/T165A/D169EPhe146側鎖の平均温度因子はサブユニットAの平均温 度因子の1.5倍であり、BsLBDH1.1倍には及ばないものの、cLBDH2.1倍、 cLBDH-V254Lの2.5倍、cLBDH-V254L/T165Aの2.2倍、cLBDH-V254L/D169Eの2.6倍より

も低く (表4.14)、これらよりも結晶中で安定的にこの配向で存在していることが示さ

れ、このことと、Phe146-Ile148の主鎖がBsLBDHとほぼ一致し、cLBDH-V254L/T165A やcLBDH-V254L/T165Aのような2つのコンフォメーションで存在する残基が存在し なかったことから、Ala165Glu169Phe146-Ile148主鎖およびPhe146の側鎖を安 定的にL-BDを結合するために適切な位置にしていることが示された。また、 cLBDH-V254L/T165A/D169EBDC2の光学異性をBsLBDHよりも厳格に認識することか ら、cLBDH-V254L/T165A/D169E結晶のPhe146側鎖の配向は、BsLBDHよりもL-BD に適していると推測された。しかし、cLBDH-V254L/T165A/D169EのL-BDのkcatに 対するKmはBsLBDHよりも高かった (表4.8)。これはPhe146側鎖の温度因子の倍率 がBsLBDHよりも高いことから (4.14)、溶液中でL-BDを結合していない cLBDH-V254L/T165A/D169EPhe146側鎖のベンゼン環の平均的な配向はBsLBDHよりも L-BDの結合に適しているが、不安定であるため、実際にL-BDを結合できる配向を持っ た分子が存在する割合はBsLBDHよりも少なく、L-BDの濃度が高まり、結合する機会が 増えるほど、Phe146側鎖のベンゼン環の配向のばらつきが少なくなり、結合に適した位 置になる酵素分子の数が増えるためと推測された。

表4.14: 単量体全体の平均温度因子に対するIle140とPhe146の平均温度因子の割合

enzyme Ile140 Phe146 Phe146-Ile148

main/side

BsLBDHa 0.6 / 0.7 0.9 / 1.1 0.9 / 1.0

cLBDH 0.8 / 1.5 1.4 / 2.1 1.6 /1.8

cLBDH-V254L 0.8 / 1.0b 1.8 / 2.5 1.7 / 2.0 cLBDH-V254L/T165A 0.7 / 1.0 0.8 / 2.2 0.9 / 1.3b cLBDH-V254L/D169E 0.7 / 1.0 0.8 / 2.6b 0.8 / 2.0 cLBDH-V254L/T165A/D169E 0.7 / 1.0 0.8 / 1.5 0.7 / 1.2 cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169E 0.8 / 1.1 0.9 / 1.2 0.9 / 1.1

a BsLBDHIle142Phe148Phe148-Ile150の値。

b 2つの側鎖配向の平均。

cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169Eの基質結合サイト周辺

cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169E結晶において、Ile140 の側鎖配向はBsLBDH と一致し (図4.24-A)、Phe146-Ile148の主鎖もBsLBDHとほぼ一致した (図4.24-B)。 Phe146の側鎖は、cLBDH-V254L/T165A/D169Eと同様、Cβの位置がBsLBDHと一致 し、側鎖ベンゼン環の配向の違いはχ1で4χ1で11、BsLBDHに近かった。 cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169EPhe146Aの側鎖の平均温度因子は、サブユニットA 体の1.2倍とcLBDH-V254L/T165A/D169Eよりも結晶中で揺らぎが少なかった。この

図4.24: cLBDH-V254L/T165A/D169E結晶構造のBsLBDHおよびcLBDH-V254L結晶 構造との比較。Aは基質結合サイト周辺、BはサブユニットAのPhe146-Ile148の主鎖周 辺。黄色がcLBDH-V254L/T165A/D169E、サーモンピンクがcLBDH-V254L、明るい灰

色がBsLBDH。残基番号の上付きの添字は属するサブユニットを示す。

ことから、溶液中でもR168Qの変異によって、Phe146Aの側鎖は安定化されたことが推 測された。cLBDH-V254L/T165A/D169E結晶ではArg168が2つのコンフォメーション で存在していたが、cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169EのGln168は単一のコンフォ メーションで存在し、BsLBDHと一致した。これよりcLBDH-V254L/T165A/D169E 168番残基の側鎖はArgでは不安定であり、Glnでは安定であることが示された。 cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169EのサブユニットBGln168側鎖のO原子は、サブユニッ トAのGly145主鎖のO原子と水素結合を形成していたが (図4.26-A)、

cLBDH-V254L/T165A/D169EのArg168側鎖は、一つの配向は

cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169EのサブユニットBのGln168と同様にサブユニッ トAGly145主鎖のO原子と水素結合を形成し、もう一つの配向では、サブユニットB にP軸対称で隣接するサブユニットB’Ser215Gly252およびMet253の主鎖O原子 と水素結合を形成していた (4.26-B)。このことから、R168Qの変異によるPhe146A 鎖の安定化は、Argの場合、側鎖が水素結合を形成する配向が2つあり、かつ負に強く帯 電しているので、周囲に電場の変動を起こすためによるものと推測された。

cLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169EのL-BDのKm

cLBDH-V254L/T165A/D169E 0.55倍と小さいことは、溶液中でL-BDを結合して いないcLBDH-V254L/T165A/D169EおよびcLBDH-V254L/T165A/R168Q/D169E Phe146側鎖は平均的には近い配向であるが、cLBDH-V254L/T165A/D169EではArg168B 側鎖には2つの安定的な配向が存在するため、Phe146側鎖が不安定となり、同じL-BD濃度 で実際にL-BDを結合できる配向を持った分子が存在する割合はcLBDH-V254L/T165A/D169E のほうが少ないことによるものと推測された。