第 2 章 meso-2,3-butanediol dehydrogenase 由来部位特異的変異 L -2,3-butanediol
2.3 結果および考察
2.3.1 酵素の精製
3PLBDH-F212Y の精製表を表2.4 に、各精製段階におけるSDS-PAGEを図2.1 に示 した。硫安分画、疎水性相互作用クロマトグラフィ、強陰イオン交換クロマトグラフィの 3段階の精製により、29 KDa付近に単一バンドを確認した。アミノ酸一次配列より推定 される3PLBDH-F212Y単量体の分子量が26,671 Da であり、BDに対してそれぞれ29 U/mg の活性を示すことから、このバンドが3PLBDH-F212Y によるものと確認された。
2.3.2 3PLBDH-F212Yの触媒効率
表2.5に3PLBDH、3PLBDH-F212YおよびBsLBDHの動力学的パラメータを示した。
3PLBDH-F212YはL-BDに対するkcat、Kmともに3PLBDHから改善され、kcat/Kmは 3PLBDHの8.1倍となり、F212Yの変異によって3PLBDHの触媒効率が改善されたこ とが確認された。しかし、3PLBDH-F212YのL-BDに対するKmがBsLBDHの230倍、
kcat/Kmが1/87倍であるため、BsLBDHの触媒能に及ばないことも確認された。また、
3PLBDH-F212Yはmeso-BDに対する触媒効率も上昇し、基質認識が緩んだことも確認 された。
表 2.5: 3PLBDH、3PLBDH-F212YおよびBsLBDHの動力学的パラメータ kcat
(sec−1)
Km (mM)
kcat/Km
(sec−1·mM−1)
Ratio of kcat/Km Enzyme Substrate
3PLBDH L-BD 45 ±1 67 ±3 0.67 ±0.01
-meso-BD - >400 -
-3PLBDH-F212Y L-BD 95 ±7 18 ±3 5.4 ±0.5 8.9
meso-BD 63 ±7 100±10 0.61 ±0.02 1
BsLBDH L-BD 37 ±3 0.080 ±0.010 470±40 960
meso-BD 0.99 ±0.02 2.0±0.1 0.49 ±0.02 1
2.3.3 3PLBDH-F212Yの結晶化
3PLBDH-F212Y (APR複合体)の結晶化は、初期のスクリーニングでは沈殿剤にPEG6000
またはPEG4000を使用した条件で針状の結晶や棒状の微結晶が確認された。これらの条
件を最適化することで、3PLBDH-F212Yはタンパク質溶液が10 mg/mL、10 mM Tris-HCl (pH8.0)、1 mg/mL APR、リザーバー液が50 mM MESバッファ(pH6.2)、27.5%PEG4000、 15%グリセロールの条件で、長さ約 100µmの棒状の単結晶が形成された (図2.2)。
図2.1: 3PLBDH-F212Yの精製段階におけるSDS-PAGE。12%ポリアクリルアミド、6×6 cm ゲル使用。AはCFE、Bは硫安分画後、Cは疎水性相互作用クロマトグラフィ後、D は強陰イオン交換クロマトグラフィ後、mは分子量マーカー。各レーンタンパク質量5µg 供試。
表2.4: 3PLBDH-F212Yの精製表
Process Activity
(U)
Protein (mg)
Specific Activity (U/mg)
Yield
(%) Fold 無細胞抽出液 (CFE) 490 73 6.6 100 1.0
硫安分画 200 38 5.2 41 0.8 疎水性相互作用クロマトグラフィ 90 4.2 21 18 3.2 強陰イオン交換クロマトグラフィ 50 1.7 29 10 4.4
図2.2: 3PLBDH-F212Y結晶。タンパク質:10 mg/mL、1 mg/mL APR。リザーバー液:50 mM MES酸バッファ (pH6.2)、27.5%PEG4000、15%グリセロール。
2.3.4 X線回折像の撮影と構造解析
表2.6に3PLBDH-F212Y (APR複合体)結晶の回折データと精密化の統計値を示した。
3PLBDH-F212Y (APR複合体)結晶構造も3PLBDH (APR複合体)結晶構造同様、サブ ユニット A-Cについてはすべての残基の座標を決定できたが、サブユニットDについて
は200-204番残基の座標は電子密度が不明瞭なため決定できなかった。各サブユニットを
重ね合わせたところ、3PLBDH (APR複合体)結晶構造同様、サブユニットA-Cは閉構造 であることが確認され、サブユニットDも閉構造であることが推測された。以後、サブユ ニットAを3PLBDH-F212Y (APR複合体)結晶構造の単量体閉構造として代表させた。
3PLBDH-F212Y (APR複合体)結晶構造はすべてのサブユニットにAPRの電子密度を 確認し、座標を決定した。
2.3.5 3PLBDHおよび3PLBDH-F212YのAPR複合体結晶構造の基質結合 サイトの比較
3PLBDH (APR複合体)結晶構造および3PLBDH-F212Y (APR複合体)結晶構造の基 質結合サイトを比較したところ、3PLBDH-F212Y (APR複合体)結晶構造では、Trp190側 鎖が3PLBDHよりもわずかではあるが、さらに基質結合サイトへ内傾いていた(図2.3-A)。 しかし、3PLBDH (APR複合体)結晶構造のTrp190側鎖とPhe146側鎖、Trp190側鎖と Tyr212側鎖の最短距離はそれぞれ3.9 ˚A、4.1 ˚Aであったのに対して、3PLBDH-F212Y (APR複合体)結晶構造のTrp190側鎖とPhe146側鎖、Trp190側鎖とTyr212側鎖の最短
表 2.6: 回折データと精密化の統計値
3PLBDH-F212Y bound APR
Data-collection statistics
Beamline PF-AR NW-12A
Wavelength (˚A) 1.0000
Space group P212121
Cell parameters
a (˚A) 76.7
b(˚A) 118.4
c(˚A) 158.1
Resolution range (˚A) 50 - 2.48 (2.56 - 2.48)
Unique reflection 51523
Completeness 99.5 (96.9)
Average redundancy 6.8 (5.2)
Rmerge 4.5 (12.6)
⟨I⟩/σ⟨I⟩ 35.6 (12.6)
Refinement statistics
Resolution range (˚A) 47.4 - 2.48 Rwork/Rfree 0.2387 / 0.2810 RMSD
bonds(˚A) 0.002
Angles(◦) 0.646
Modeled molecular
Protein 4
Ligand 4 APR
Solvent 56
Average B-factor
Protein 27.0
Ligand 27.7
Solvent 22.6
Ramachandran favored (%) 96.9 Ramachandran outliers (%) 0.0
距離はそれぞれ4.1 ˚A、4.5 ˚Aであったため、F212Yの変異により疎水性相互作用が軽減 されたことは確認され、これによりNAD+と基質を結合した閉構造をとりうるTrp190の 配向の範囲が広がり (図2.4)、Kmが下がったものと推測された。
3PLBDH-F212YはL-BDに対する触媒効率が3PLBDHよりも向上したが、BsLBDH の1/112倍と依然小さかった。この原因を考察するため3PLBDH-F212Y (APR複合体) 結晶構造とBsLBDH (APR複合体)結晶構造の基質結合サイトを比較した結果 (図 2.3-B)、3PLBDH-F212YのTrp190のCα-Phe146のCα間が12.4 ˚Aであり、これに相当する BsLBDHでの距離が14.0 ˚Aであった。このことより、3PLBDHおよび3PLBDH-F212Y が閉構造時にTrp190-Phe146間で疎水性相互作用が生じる原因はTrp190とPhe146が含 まれている主鎖間がBsLBDHよりも近いためと推測された。
そこで、Trp190が含まれる3PLBDH (APR複合体)結晶構造の基質結合ループと、
Phe146が含まれているβE-αE間のループの主鎖骨格を重ね合わせて比較した (図2.5、 2.6)。この結果、3PLBDHのTrp190のCα自体はBsLBDHのTrp192と1.2 ˚Aの偏差で あったが、基質結合ループ内で最大3.8 ˚Aの違いがあった。3PLBDHのPhe146も同様に、
Cα自体は0.7 ˚Aの偏差であったが、Pro147では1.4 ˚Aと、βE-αE間のループ最大の偏差 があった。このことより、3PLBDHの触媒効率改善には、主鎖骨格を変えるためのさらに 広範な残基の変異を検討する必要があると推測された。