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1.3 結果および考察

1.3.6 BsLBDH の基質結合による構造変化

3PLBDH (APR複合体)結晶構造との比較のため、BsLBDHAPRとの複合体で結晶 化し、構造解析を行った。その結果、BsLBDHTrp192の側鎖はNAD+およびBME の複合体結晶構造ではχ1 =117χ2 = 105であったが、APRとの複合体結晶構造では χ1=91、χ2 = 96となり、基質結合サイトに内傾していた(図1.13)。また、その近傍の Tyr214側鎖もNAD+およびBMEとの複合体結晶構造ではχ1 =78、χ2 = 59、APRと の複合体結晶構造ではχ1 =101、χ2 = 80であった。すなわち、BsLBDHはNAD+お よび基質を結合する時にTrp192Tyr214に構造変化を必要とすることが明かになった。

また、SDR famliy酵素は、NAD+のニコチンアミド環のNH2基とりん酸基が、基質結合 ループ上に存在するThr (BsLBDHではThr189)と水素結合を形成することで反応に必要 な閉構造が誘導されるとされているが[Oppermannet al., 2003; Paithankaret al., 2007;

Nakashima et al., 2009], 3PLBDH (APR複合体)結晶構造から、りん酸基との水素結合 だけでも閉構造が誘導されることも明かになった。

図 1.12: Aは3PLBDH (APR複合体)結晶構造 (スカイブルー)とKpmBDH (NAD+、 BME複合体)結晶構造(ダークグレー)の基質結合サイトの比較。B3PLBDH (APR 合体)結晶構造とBsLBDH (NAD+BME複合体)複合体結晶構造 (ライトグレー)の基 質結合サイトの比較。

図 1.13: BsLBDH (APR複合体)結晶構造(黄色)3PLBDH (NAD+BME複合体) 晶構造 (ライトグレー)の基質結合サイトの比較。

1.3.7 3PLBDHおよびBsLBDHにおけるAPR複合体の基質結合サイトの比 較とKmに関する考察

BsLBDH (APR複合体)結晶構造においてもTrp192は基質結合サイトに内傾していた が、Phe148とTrp192の側鎖の最短距離は6.9 ˚Aであり、3PLBDH (APR複合体)結晶構 造の3.8 ˚Aには至らなかった(図1.14)。

以上の結果からBsLBDH3PLBDHKmについて次のように考察した。

開構造時にリガンド(NAD+L-BD)がそれぞれの結合サイト周辺に入り込み、NAD+ が酵素タンパク質と水素結合や疎水性相互作により徐々に閉構造を誘導していくが、閉構 造になる直前、BsLBDHのTrp192と3PLBDHのTrp190の側鎖配向はそれぞれのAPR 複合体結晶構造の配向が安定であり (図1.15-a)、この配向を平均として、熱運動のため 一定の分散を持った配向分布状態にあると考えられる (図1.16)。基質濃度が低くても、

BsLBDHTrp192の側鎖配向の平均はリガント結合時の配向と異なるものの、そのほと

んどがリガントを結合して閉構造を形成できる範囲にあるため、高い活性を示すと考えら れる。一方、3PLBDHTrp190の側鎖配向の平均は基質結合サイトに内傾しているこ とにより、リガントを結合して閉構造を形成できるものも存在するが、多くはPhe146と の疎水性相互作用によりリガントを追い出してしまうため、活性が低いと考えられる (図 1.15-b、図1.16-a)。基質濃度が低いときは、リガンドが外れた後にほとんどの酵素分子 のTrpはAPR複合体結晶構造の配向、即ち安定な配向に戻ろうとするが、基質濃度が高 くなるとリガントが外れた直後に次のリガンドが入り込む機会が増えるため、リガントを 結合して閉構造を形成できるTrpの配向を持った酵素分子の割合が増えると考えられる。

BsLBDHは元々リガントを結合して閉構造を形成できる酵素分子が多いため、基質濃度

が高くなってもその数は大きく変わらない、即ち基質濃度が少し高くなっただけでVmax 付近に至るが (図1.16-b)、 3PLBDHは、Vmax付近に至るまでにさらに高い基質濃度が 求められると考えられる (図1.16-c)。

以上のことから、BsLBDHKmは低く、3PLBDHは高いと考察した。

また、3PLBDH (APR複合体)結晶構造ではPhe146Phe212の側鎖間の最短距離は 3.3 ˚Aであったことから、3PLBDHNAD+と基質を結合しない状態で閉構造となるとき に、Phe146とPhe212の側鎖間にも疎水性相互作用が生じることが推測された。3PLBDH のPhe212は、BsLBDHでは疎水性尺度が低いTyr214に対応するため、Phe146とTrp190 の疎水性相互作用に寄与していることが推測された。