J- PARC
2.3 実験装置
2.3.7 Time Projection Chamber
Time Projection Chamber (TPC)は、ドリフト部とMulti Wire Proportional Chamber
(MWPC) 部の 2つから構成されるガス検知器である。図 2.20 が本実験で用いられている
TPCであり、図2.21, 2.22 に、模式図 及び 断面図を載せる。また、概要を表2.5にまとめ た。動作ガスとして、中性子に対して散乱・吸収断面積が小さい4Heを85 kPaと クエンチガ スの役割を持つCO2 が15 kPaの混合ガスを用いている。また、中性子の流量測定用に3He
をおよそ100 mPaほど導入している。
TPCでは次のステップを経て信号が検出される。
1. ドリフト部を荷電粒子が飛ぶとTPC動作ガスが電離され、電子・イオン対がその飛程 上に発生する。
2. ドリフト部には上下方向に一様電場がかけられており、電子は上方にイオンは下方に一 定速度で移動する。
3. MWPC部に到達した電子はアノードワイヤー近傍の強力な電場で急激に増幅されワイ
ヤーに信号が発生する。
4. アノードワイヤーでの電子増幅と同時にフィールド / カソードワイヤーに信号が誘起 される。
5. MWPCの雪崩増幅で発生したイオンはカソードワイヤーで、ドリフトされたイオンは
下面のアルミナイズドマイラーで吸収される。
TPC中での座標軸は有感領域の中心を原点として、中性子ビームの進行方向をz 方向に、
地面から天井に向かってy方向、BL04側からBL06側をx方向と定義する。アノード信号、
信号時間、カソード信号からそれぞれx, y, z で荷電粒子の飛跡を3次元的に再構成すること ができる。ただし、y方向に関してはドリフトされた電子を検出しているため相対的な位置関 係はわかってもイベントの絶対位置を知ることはできない*5。
ドリフト部の基礎構造とMWPC部のワイヤーフレームは、低バックグラウンド化のため に放射性物質の混入の少ないPEEK材*6 で作られている。TPC下面のアルミナイズドマイ ラーに−9000 Vの電圧を与え、MWPC面の電圧を0 Vにすることで上下方向の電場を作り、
周囲に巻かれたドリフトワイヤーで平行一様電場に整形している。TPC の内壁は全て6LiF のタイルで覆われておりガスで散乱された中性子を吸収する。
6Li +n →α(2.07 MeV) +t (2.72 MeV) (2.4) α粒子や三重水素tがTPCに戻り信号を作らないようにするため、6LiFのタイルの表面はカ プトンテープで覆われている。
*5TPCを上下に通過したイベントのみy方向の絶対位置を知ることができる。
*6PolyEtherEtherKetone
2.3 実験装置 37
図2.20 Time Projection Chamber
Drift cathode
Beam catcher
Drift direction
Cathode wires (bottom)
6Li tiles
Beam axis Neutron beam bunch
e -Sense/field wires
Cathode wires (top)
Drift wires
図2.21 TPCの模式図
5.9 keV X-ray
Beam entrance / exit
Preamplifiers
Fe source
& collimator Rotation stage
Drift
MWPC plane
Aluminized PET film Resistor chain
6Li tiles Signal readout
Drift HV
Drift wires
50cm y
x
55
図2.22 TPCの断面図
有感領域 290 mm (x)× 300 mm (y)× 960 mm (z)
動作ガス 全圧 50 - 100 kPa
混合比 4He : CO2 : 3He = 85 : 15 : a few ppm
アノード ワイヤー φ20µm W(Au鍍金)
ジオメトリ 24本 12 mmピッチ (z方向) フィールド ワイヤー φ50µm CuBe
ジオメトリ 24本 12 mmピッチ (z方向)
カソード ワイヤー φ50µm CuBe
ジオメトリ 162本×2組6 mmピッチ(x方向) アノード電圧 +1200 - +1720 V
ドリフト電圧 −6000 -−9000 V
表2.5 TPCの概要:MWPCはアノードとフィールドワイヤーはz方向に交互に張られ、
その上下をx方向に張られたカソードワイヤーが挟む構造を持つ。ドリフト電圧はTPC 底面のアルミナイズドマイラーで与えられている。
2.3.8
55Fe X 線源台
本実験ではTPCのアノードワイヤーのエネルギーキャリブレーションに55Fe X線源を用 いている。放出されるX 線のエネルギーと割合を表2.6にまとめる。55Fe X線源台はTPC 側部に取り付けられステッピングモータで線源の位置をコントロール(図2.24)し、側面のス
リット(図2.23)に合わせることでTPC内にX 線を入射する。入射されたX 線はTPCガ
スで光電吸収され、電子が周囲の電子を更に電離することによって数mm程度の点状に電離 電子が生成される。スリットにはMWPCからの距離が75 mmのNear (Up)と225 mmの
Far (Down)の2つが存在しており、両者のデータを比較する事でドリフト中の電子の減衰・
拡散を見積もることに利用されている。
EX [keV] 放出確率[%] 準位 EX[keV] 放出確率[%] 準位
0.556 0.037±0.010 Mn Ll 5.770 (6.9±0.4)×10−6 Mn Ka3
0.568 0.025±0.006 Mn Lh 5.888 8.5 ±0.4 Mn Ka2
0.637 0.028±0.007 Mn La2 5.899 16.9 ± 0.8 Mn Ka1
0.637 0.25±0.06 Mn La1 6.490 1.01 ±0.05 Mn Kb3
0.640 0.0022±0.0006 Mn Lb6 6.490 1.98 ± 0.10 Mn Kb1
0.648 0.19±0.05 Mn Lb1 6.536 0.00089±0.00005 Mn Kb5
0.720 0.011±0.003 Mn Lb4 6.539 (8.5±0.5)×10−8 Mn Kb4 0.720 0.017±0.005 Mn Lb3
表2.6 55Fe X線源のエネルギーEX(半減期2.73年)[26]:表中で太字でないX線はTPC で検出できない低エネルギーか放出確率が小さいため、太字の4つが出ているとして解析 する。55Fe核のβ崩壊を100%としているためX線の放出確率の和は100%にならない。
図2.23 ビームダクト下流から覗いたTPC:右 手に見えるスリットの上側Near (Up)または下側 Far (Down) の一方から55Fe線源のX線を入射 する。
図2.24 55Fe X線源台:6LiF板でTPC のスリットを塞いでいる状態。ステッピ ングモータが左右に90°回転することで
55Fe線源からX線を入射する。
2.3 実験装置 39