J- PARC
5.3 低ガス圧化
5.3 低ガス圧化
ガス起因事象の絶対数を減少する方法として、TPC動作ガスの圧力を減少する事が挙げ られる。ガス起因事象は、単純にガス圧を下げることに比例して減少していくと考えられ る。実際に、全圧100 kPaにおいて(0.29±0.02)%であった散乱中性子の3He 吸収反応の 割合(図4.20)は、全圧50 kPa *1において(0.16±0.03)%であるため(図5.2) おおよそ半減 (0.55±0.11)している事が分かっている。
Field Center [wire]
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22
Count
−1
10 1 10 102
103
104
3He Neutron Capture Reaction
Experiment MC Neutron Beam MC Scattered Neutron
3He Neutron Capture Reaction
図5.2 散乱中性子3He吸収反応 (50 kPa):横軸Field Center はフィールドワイヤーへ のエネルギー重心位置である。中性子ビーム由来の3He吸収反応は6 - 16に分布し、散 乱中性子の3He吸収反応は全体に分布している。100 kPaに比べp, tの飛程が伸びるため ビーム軸が広がって見える。
5.3.1 TPC ガスの選定
現在のTPCは、CO2 : Heの混合ガスを用いているが、単純にガス圧を下げるだけでなく 動作ガスを選定し直す事が考えられる。本実験においてガスに求められる条件は次の通り。
• 中性子の散乱断面積・吸収断面積が小さいこと
• MWPCでの電子雪崩増幅で高いゲインが得られること
• 荷電粒子に対してエネルギー損失を得るために密度が高いこと
• 中性子吸収後長い半減期を持つ核種にならないこと
• 1回毎におよそ500L消費するため安価であること
*1CO2: He = 7.5 kPa : 42.5 kPa
表5.1や表B.1, 図C.1,C.2 に示すように他のガスは、散乱・吸収断面積が大きく放射化を する。Neガスは散乱・吸収断面積は比較的小さいが高価であることから、再考の結果として、
He とCO2 が本実験に適していると考えられる。荷電粒子のエネルギー損失はガス密度に依 存するため、密度の高いガスは高い検出効率に貢献する。散乱や吸収を抑えるためにはCO2
ガスを減らすことが効果的であるがゲインの低下に繋がる。
ガス密度 [kg/m3] 散乱断面積 [barn] 吸収断面積 [barn]
3He 0.1339 6 5333
4He 0.1785 1.34 0
Ne 0.900 2.628 0.039
Ar 1.784 0.683 0.675
Kr 3.739 7.68 25
Xe 5.887 ― 23.9
CH4 0.717 415.63 1.33
CO2 1.977 18.40 0.0039
表5.1 主なガスの標準状態 STP (Standard Temperature and Pressure:0◦C 1 atm) でのガス密度と熱中性子に対する散乱及び吸収断面積[31]。散乱断面積は半古典近似計算 によるもので、中性子のエネルギーに大きく依存する。
5.3.2 検出効率の低下
図5.3 に宇宙線のトリガーレートとガス圧の関係を示す。ガス圧の減少に伴いアノードが 放電するため印加電圧を1720 Vから下げる必要がある。CO2 とHeを混ぜた全圧 100 kPa
*2の宇宙線に対する検出効率は 99.9%以上であることが確かめられているが、印加電圧を下 げることでゲインが低下するためトリガーレートが減少している事がわかる。そのため、低ガ ス圧下のデータ収集にはアンプのゲインを増強する必要がある。
5.3.3 プリアンプの発熱による温度勾配
現在用いられているプリアンプ(2.3.9節)の1チャンネルあたりの消費電力は500 mW/ch であるため全チャンネルを合わせて64 Wの大きな発熱量を持っている。このプリアンプを低 圧力下で用いると図5.4に示すように熱がガスによって均一化 及び 冷却される効果が小さく なるため TPCの内部に大きな温度勾配が生じる。これによって3He吸収反応が起こるビー ム軸上の3He 密度が変動し寿命に対する不定性となることが予想される[15]。そのため、低 ガス圧下のデータ収集では真空容器中に導入するプリアンプの発熱を抑える必要がある。
*2CO2: He = 15 kPa : 85 kPa
5.3 低ガス圧化 83
CO2 Pressure [kPa]
0 2 4 6 8 10 12 14 16
Trigger rate [cps]
0 10 20 30 40 50 60
TPC cosmic ray trigger rate
Mix Gas CO2:He = 15:85
CO2 Only CO2:He =100: 0
TPC cosmic ray trigger rate
図5.3 宇宙線のトリガーレートとガス圧の関係:それぞれのガス圧でアノードワイヤーが 放電しない最大の印加電圧のTPCで取得した宇宙線トリガーレート。CO2とHeを混ぜ たガス と CO2のみのガスの両方を載せている。
Gas pressure [kPa]
0 20 40 60 80 100
Temperature [K]
290 300 310 320 330 340 350
Temperature of TPC
L1 L2 L3 L4 L5 L6 L7 L8
Temperature of TPC
図5.4 ガス圧とTPC内部の温度の関係:アンプに近い部分の温度が高く、離れるほど低 くなっている。また、ガス圧が小さいほど温度差が増加している。温度計の設置位置は図 5.5を参照。
図5.5 温度計の設置位置:L1,5はビームダクトの上、L2はTPC底面、L3はTPC上面 の6LiF板、L4は欠番、L6 - 8はプリアンプボードの上に設置されている。
5.3.4 新 ASIC アンプ
本実験のために低発熱のApplication Specific Integrated Circuit (ASIC)アンプGTARN が開発されている[32]。現行アンプのおよそ1/50の発熱で同程度のゲイン、半分のノイズ性 能を持つ(表5.2)。真空容器内に低発熱のASICアンプ、真空容器外にポストアンプを設置す ることで発熱とゲインの問題を克服し低ガス圧下でのデータ収集を可能にする。ASICアンプ を載せたテストボードの試験が九州大学で進んでおり、今後ASICアンプ実装基板やポストア ンプの開発を行っていく。
現行アンプ 新ASICアンプ
ゲイン 1 V/pC 1 V/pC
消費電力 500 mW/ch 9 mW/ch
等価雑音電荷 8000 4000
表5.2 現行アンプとASICアンプの性能比較[32]
図5.6 ASICアンプテストボード:中央のASICア ンプへの入出力系と電源供給回路が備わっている。
図5.7 中性子寿命測定用ASICア
ンプ GTARN:テストボードの中
央にワイヤーボンディングされて いる。