• 検索結果がありません。

TIMSS の結果と授業分析の 2 視座から複合的に見た理科授業の特徴

ドキュメント内 学習到達度調査と授業分析に基づく (ページ 96-99)

第6章 本研究の総括と今後の課題

6.3. TIMSS の結果と授業分析の 2 視座から複合的に見た理科授業の特徴

TIMSSによる生徒の到達度・質問票の分析と,M-GTAによる授業分析の2視座から本研

究に見られるバングラデシュの初等理科教育に固有の特徴を複合的に考察すると,次のよ うなことが見えてくる。

まず,バングラデシュの児童の理科の到達度をTIMSS参加国の平均と比べた時,認知領 域の中の推論が特に低いことが明らかになった。その背景にある要因として,バングラデシ ュの授業では探究型の学習手法を取り入れようとしながらも,最終的には教師の教えたこ とを反復させ,一つの問いに対して唯一の正答を求める詰込み型の授業展開に陥っている ことなどが示唆された。

Prediction(推測(推理)する)」はScience - A Process Approach (SAPA)の6つのBasic Process

Skillsのうちの一つであるが,推測する材料としての状況把握を行い,他者に伝達できるた

めの論述を練り,推論する段階にまで達するには,観察の時間を含め,ある程度の考えるた めの時間の確保が必要である。バングラデシュの授業後半の山場で見られた活動は,習った ことの確認・定着に関する活動であり,「板書」は質問の回答の記録として,「グループワー ク」は習った内容の定着度合いを確認するために用いられていた。限られた一つの授業の中 で推論の能力を磨くためには,理由を問うような「思考を促す質問」への回答を考える活動 にも,多くの時間を配分することが必要となる。また,実験観察が授業に組み込まれたとし ても,その観察は教師によって仕組まれたものであり,生徒の自由な発想を求めるものでは ない。実験観察のあとの作業で生徒は観察から得られた情報を暗記する作業に移行してい

87

た。そのような授業形態では,習った内容の中で求められている,教師が意図した唯一の正 答は得られるものの,教授内容から外れた問題が出た時の応用力に限界が生じる。それが結

果的にTIMSSの生徒の思考力を測る問題での得点力の少なさや記述問題で正答が解らない

時の回答に詰まるという行動をもたらし,特に認知領域における「推論」の得点率が抑えら れるという現状に繋がっていることが予想される。

M-GTAから得られたバングラデシュの理科授業を教育目標のタキソノミーの項目を基に

して俯瞰すると,16項目中の14の項目に当てはまる活動が実施されていた。しかし,分析 した授業の中には見られなかった 2 項目は,情意的領域と精神運動的領域の最上位レベル

(5.0)の「個性化」と「自然化」であり,上位のレベルの項目が授業中に見られなかった。

また,実施されている授業を省察してみると,結果的には14項目が出現していたが,大部 分の項目は教師が誘導して形のみの実施となっており,生徒の能力を育むというこの観点 から見ると,その効果には疑問が残る。つまり,バングラデシュの授業では教育の質として 上位の領域までの知識や認知力の育成まで到達していないことが伺える。このような授業 の構造も,TIMSS の「推論」のような応用的な力を測る問題の点数を抑える結果を引き起 こす一要因となったと推察される。

TIMSS の推論の領域の得点に課題が見られたことと,授業で行われている生徒の推論の

育成を合わせて考察すると,以下のことが示唆される。バングラデシュの教師は,主に具体 物を用いた観察,グループワーク,教員からの既知の知識との統合に関する活動を行ってい る。しかしTIMSSの到達度を参加国平均と比較すると,十分な推論の力の育成が行われて いるとは言い難い。「質問」,「実験」,「証拠評価」,「推測」,「議論」,に関わる思考スキルに 関連させたり,帰納的,演繹的,分析的,総合的な思考などによって,自然事象の原理・法 則を利用して論理的な推測させたりすることにつながる,「思考を促す」のような質問はあ まり行われていなかった。そのため,授業の中で思考を促す質問を増やすことで,推論の力 の育成が促進される可能性が示唆される。また,自分の考えを深めるような「個人作業」の 時間も,あまり時間がかけられていなかった。一方で,グループワークには多くの時間をか けていたが,プロトコルから読み取ると,授業前半で既に学習した内容を定着させる活動と して位置付けられていた。そのような展開ではなく,思考を促す発問を投げかけた後で,生 徒に質問の答えを与える前にグループワークを入れることで,推論の力の育成に関する視 点の一つである「他者と練り合う時間を十分に確保すること」の効果を高められると考えら れる。

また,図 6-1は,第4章で明らかになったバングラデシュの一般的な理科授業の概念図 に,推論の育成に関する概念の位置に色を付けたものである。この図に,本研究でバングラ デシュの理科授業によく見られた特徴を示す。観察の活動の中では,教室の中に見えるもの や,ポスターに書かれたものにどんなものがあるかを答えるような活動が,多くの教員の授 業の中で見られた。教員 C の授業のように,見たものの背景にある科学的な事象を考えさ せる授業展開の方が,生徒の推論の力を育成するために,効果的だと考えられる。教師と生

88

徒の質問と回答のやりとりにおいては,教師が求める答えとは違った回答を行った生徒の 意見は無視されることも多く,正しく答えられた生徒を称賛する場面も多く見られた。この ような雰囲気を作り出すことは,生徒の自由な発想を抑制し,教師の顔色を見ながら正しい 答えを暗記しようという気持ちを生み出す原因になると考えられる。グループワークや個 人作業は,授業の前半で学習した内容を正しく理解,暗記しているかを確認するための活動 として利用されていることが多かった。そのような確認作業として用いるのではなく,観察 などを通して明らかになった事象の背景理由や根拠を,科学的に思考するための活動とし て位置付けた方が,生徒の推論の力を育成するためには,効果があると思われる。

図 6-1 推論の育成に関する概念と授業の特徴

学習内容の確認 作業が生徒の

活動の中心 生徒の誤答を利用

せず,模範的な解 答を求める雰囲気 見えるもの

を答えるだ けの観察

89

ドキュメント内 学習到達度調査と授業分析に基づく (ページ 96-99)