第3章 世界から見たバングラデシュの生徒の理科到達度
3.4. 因子分析,重回帰分析,共分散構造分析による分析
3.4.1. 到達度と生徒質問票の分析
(1) 因子分析
因子分析では主因子法30を用い,プロマックス斜方回転31を行った。その際,生徒の性別 については,ダミー変数32を用いて女子生徒を0,男子生徒を1とし,「男子生徒」と名付け て分析を行った。その結果,各因子の中で因子負荷量33が0.4を超えた項目のみを抽出する と,第1因子として「理科が好きか」,「算数が好きか」,「理科は将来に有益か」,「算数は将 来に有益か」の項目が,第 2因子として「父学歴」,「母学歴」が,第 3因子として「本の 数」,「読書時間」が抽出された。そこで,各因子を構成している主要素の特徴から,第1因 子を『意欲』,第2因子を『親学歴』,第3因子を『読書』と命名した。
30 因子を求める方程式に推定された共通性を代入し,その解から寄与率の大きい順に因子 を取り出す方法のこと.
31 解釈を行いやすくするため,方向性の似たいくつかの変数群をうまく説明できるように 斜交回転を行うことで因子軸を近づける方法.因子間相関があるものと前提する.
32 質的変数を回帰式の中で表現するために疑似的に振り分けて導入する変数のこと.
33 因子分析の場合,共通因子と分析に使用された変数との相関係数のこと.
図 3-7 生徒質問票からの因子分析結果と分析簡略図
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表 3-9 生徒質問票からの因子分析結果(プロマックス回転後の因子パターン)
第1因子 第2因子 第3因子 1 理科は将来有益か 0.54 0.10 -0.17 2 理科が好きか 0.53 -0.06 0.06 3 算数は将来有益か 0.52 0.01 -0.09 4 算数が好きか 0.50 -0.02 0.18
5 母学歴 0.02 0.71 -0.04
6 父学歴 -0.01 0.69 0.13
7 読書時間 -0.03 0.08 0.54
8 本の数 0.06 -0.08 0.54
9 勉強時間 -0.05 0.09 0.39
10 家電の数 0.01 -0.01 0.03
11 男子生徒 -0.10 0.05 -0.09
12 幼稚園 -0.04 0.00 0.01
因子間相関 0.14 0.18 0.18
(2) 重回帰分析
重回帰分析を行う際には,多重共線性があると偏回帰係数の誤差が大きくなり,分析の妥 当性を確保する事ができなくなる。そこで,上述の因子分析の結果を基に,因子として抽出 された質問の中の一つのみで重回帰分析を行った。影響度を見る事で,『意欲』の因子から は「理科が好きか」,『親学歴』からは「父学歴」を,『読書』の因子からは「本の数」をそ れぞれの代表的要素として選出した。また,分析の方法は,影響を与えている要因のみを明 確に抽出するためステップワイズ法34を用いた。
多重共線性への配慮を施した後,「男子生徒」,「幼稚園」,「豊かさ」,「本の数」,「父学歴」,
「勉強時間」,「理科が好きか」を理科到達度の従属変数として選出し分析を行った。その結 果3つの要素が抽出され,調整済みR2乗35=0.036, F=12.591,有意確率p=0.000の値が得 られた。抽出されたそれぞれの要素とその標準化係数β36の値は,「男子生徒」0.123***,「父
学歴」0.100**,「本の数」0.083**であった。また,多重共線性の診断についても許容範囲内
の値を得る事ができた。
34 独立変数を徐々に増やして式をたてる.独立変数が未確定な時に行われる.
35 重線形回帰モデルにおいて,調整済み R 二乗は説明変数によって説明される従属変数 における変動の割合を測定し,平方和に関して比較的自由度がある.通常,R 二乗よりも 正確な適合度指標であると見なされる.
36 他の変数の影響を一定にして,一つの変数にのみ絞ったその変数の全体への影響を示し たもので,平均0,分散1に標準化してあり,-1≦β≦+1の範囲の値を取る.
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(3) 共分散構造分析
共分散構造分析を行うに当たって,因子分析より抽出された因子を参考にして主要構成 要素をそれぞれ構成概念化し,適合の高いモデルとなるように考慮した。また,トライアン ドエラーを繰り返す事で適合するモデルを模索し,下記の図 3-9のパス図に示すように,
矢印の推定値37(標準化38推定値)は全て5%水準で有意であり,CFI39=0.910,RMSEA40=0.043 の許容範囲内の適合度41を持つモデルを確定することができた。詳しいパス図や推定値,そ れぞれの構成概念,観測変数42の理科到達度への直接効果,間接効果及び総合効果の値は,
図 3-10と表 3-10に示す。また,矢印で示されている推定値は全て標準化された値で あり,5%水準で有意な値を示したもののみを図示している。
37 変数の値を確定するためのデータが不十分な場合,その値を推定(推計)するための試 みがなされることがある.この過程は推定と呼ばれ,得られた値は推定値(推計値)と呼ば れる.
38 変数の尺度(原点および単位)を変換して,平均値や標準偏差が特定の値になるように すること.データの標準化は,一般に平均値が0,標準偏差が1になるように行われる.
39 分析したモデルのモデル適合の良さを評価する適合度指標のうちの一つ.一般的に0.90 以上(書物によっては0.95以上)あれば,適合が良いと判断される.
40 分析したモデルのモデル適合の良さを評価する適合度指標のうちの一つ.一般的に0.05 以下であれば,適合が良いと判断される.
41 モデルの当てはまりの良さ.CFIやRMSEAは適合度を表す指標の一種である.
42直接的に質問票などによって測定された変数のこと.
図 3-8 生徒質問票からの重回帰分析結果と分析簡略図(ステップワイズ法)
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(CFI=0.910,RMSEA=0.043,重相関係数の平方=0.043) 図 3-10 因果モデルに基づく生徒質問票からの分析結果
図 3-9 生徒質問票からの共分散構造分析結果とモデル簡略図
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表 3-10 理科到達度への標準化総合効果
図 3-10の標準化された効果の値を見ると,直接効果の影響が大きいが,間接効果も少 なからず理科到達度へ影響している様が見て取れる。その双方の効果を合わせた総合効果 で要素の強度を比較すると,最も強い作用を示したものは『親の学歴』であり,次に「男子 生徒」について,続いて『読書』についてであった。
次に,パス図を解析して理科の到達度への背景要因の観点からショドール市の特徴を抽 出する。まず『親の学歴』をからの矢印を洞察すると,最も影響を与えているのは「家電の 数」の0.23であった。また,『意欲』や『読書』に対しても比較的高い効果を示しているこ とが分かる。「男子生徒」に目を移すと,「家電の数」,『読書』,「理科の到達度」に正の因果 関係が示されているが,「幼稚園」には負の因果関係が見られたため,男子生徒よりも女子 生徒を幼稚園等の就学前教育にアクセスさせ易い傾向にある事が解かる。また,『読書』に 影響を与えている主要素は「勉強時間」と「家電の数」であった。