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Swift v. Tyson 事件の概要

ドキュメント内 目次 第一章 目的・方法・観点 (ページ 95-98)

第四章 コモン・ロー・憲法・商業

2. Swift v. Tyson 事件の概要

Swift v. Tyson事件とは、メイン州民であり、為替手形の所持人である原告のSwiftが、

為替手形(bill of exchange)の支払いを求め、手形の引受人であるニューヨーク州民の

Tysonを被告とし、州籍相違管轄としてニューヨーク南部連邦巡回裁判所(Circuit Court

of the United States for the Southern District of New York)に訴えを提起した事案であ る。証拠開示手続き(discovery)における原告の主張、そしてそれに対する被告の抗弁か ら明らかになる事実は、当該為替手形が、Norton 及び Keith によって振り出され、被告

Tysonによって引き受けられたが、その為替手形の引受は、引受人が、手形振出人(Norton

及びKeiths)から、メイン州における土地を購入する際の対価としてなされたものであっ

た。

ところが、手形振出人は、その土地について何らの権原を有しておらず、引受人による その土地の購入は手形振出人の詐欺行為によって仕向けられたものであった。そこで、被 告側は、原告の主張に対する抗弁として、振出人との土地取引における約因(consideration)

に瑕疵があり、この瑕疵について、取引の相手方である振出人に対してのみならず、為替 手形の振出人と引受人の土地取引の瑕疵について善意で、為替手形を譲り受けた為替手形 の所持人である原告にも対抗できると主張した。

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ニューヨーク南部連邦巡回裁判所は、この争点に関する法律問題について2名の裁判官 の意見が一致しなかったため、連邦最高裁判所の判断を求める意見確認(certification)

がなされた。

3.争点

この事件における争点は、まず、被告が、振出人との土地取引における約因の瑕疵の証 拠を原告に対して主張することが可能で、それを証拠として提出できるかであった。そし て、この争点は、ニューヨーク南部連邦巡回裁判所による意見確認によれば、さらに以下 の二つに分節化される。

(1)既存債務(pre-existing debt)が有価約因を構成するか

為替手形の引受人と所持人の間の取引に基づく現存債務(existing debt)ではなく、既 存債務(preexisting debt)の弁済として手形を譲り受けた善意の為替手形の所持人である 原告に対して、振出人と引受人の間の契約の瑕疵を対抗することができるかという問題で ある。原告側は、ニューヨーク州の先例では、既存債務の弁済(payment)において流通 証券を受け取ることは、流通証券の被裏書人たる所持人の権利に関して、金銭、あるいは、

全ての他の有価約因を提供する場合とまったく同様に保護されるとする。

これに対して、被告側は、そもそも、ニューヨーク州の判例に関する原告の理解は、誤 りであるとも指摘する。被告側によれば、むしろ原告の理解とは反対の原理を確立してい るのであって、被裏書人が既存債務の弁済において手形を受け取ることは、「取引の通常の 過程」(usual course of trade)においてなされたものではなく、そうした受け渡しは、手 形に対する権利を与える根拠となる有価約因を構成するものではないとしている、とする。

先例において示された、「取引の通常の過程」とは、debt を弁済する場合を言うのであっ て、「取引の通常の過程」は「現存債務」を弁済することと同義に使われ、他の裁判例でも これは踏襲されているとする。

そして、既存債務の弁済として手形を受け取ることは、有価約因を構成せず、本件がま さにその事例であるとする。例えば、既存債務の当事者である、為替手形の振出人と所持 人の間で為替手形が受け渡された場合のように、既存債務の当事者間において為替手形が 受け取られ、その際に対価として、その額の金銭を相手方に支払った場合には、対価性が 認められ、有価約因が存在し、被裏書人は引受人と同様の権利が与えられるが、本件のよ うな引受人と所持人の間では、対価性が無く、有価約因も存在しないもとされるのである。

(2)当該事件での判決準則は何によるべきか

~1789年裁判所法第34条(section 34 of The Judiciary Act of 1789)の解釈

本事件について判決を下す際の準則は何によるべきであるのか。手形が裏書きされたニ ューヨーク州の判例法理によるべきなのか、それとも、連邦裁判所が独自に判例形成でき

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1789年裁判所法(The Judiciary Act of 1789)は、「合衆国の憲法、条約または制定法

(statutes)が特段の要求または規定をしない限り、諸州の法(laws)は、それらが適用 される事件において、合衆国裁判所におけるコモン・ロー裁判での判決準則とされなけれ ばならない」と規定していた。Swift v. Tyson 事件で特に問題となったのは「諸州の法

(laws)」の意味である。

原告側は、1789 年裁判所法第 34 条の「諸州の法(laws)」の意味として、州の成文憲 法や制定法のみを意味するものとする。原告側は、この文言に関する当時の立法者の意図 などを考察し、もし、立法者たちが州裁判所の判決によって示される州のコモン・ローを その条文の中に含めることを意図していたのなら、その条文に、より一般的な「法の体系

(system of laws)」という言葉を代わりに用いるか、あるいは付け加えただろうとする。

その上で、1789 年当時、法(laws)の一般的な慣用として、立法府の制定法を意味して いたとし、州の判例法理は含まれないとするのである。こういった理由から、1789年裁判 所法第 34 条は、本件の為替手形がニューヨーク市で裏書きされたものではあるが、州制 定法によって何ら影響を受けない目下のような一般的な問題について、連邦裁判所が自ら の判例法理を無視し、ニューヨーク州の判例法理に従うことを義務付けるものではないと する。

これに対して、被告側は、当該手形の裏書きがニューヨーク州でなされているため、ニ ューヨーク州の判例法理に基づけば、既存債務の弁済のための為替手形の譲渡は有価約因 を構成しないという前提に立って、ニューヨーク州の判例法理に依拠すべきとする。さら に、その前提として、裁判所法第 34 条の解釈として、「諸州の法(laws)」には、州裁判 所の判例法理も含まれるとし、連邦最高裁は州裁判所の判断に拘束されるとする。

他方で、以下のように、本件のような地域的な問題ではなく一般的、すなわち連邦全体 や外国との通商に関わる商業的な問題をいかに扱うべきかが争点として指摘されている。

外国人や様々な州の市民、文明化された商業社会(civilized commercial world)は相互に 深く利害関係を持つようになっており、連邦最高裁は、商業や取引が為替手形と同様に広 く拡大している合衆国全体の裁判所と見なされているのであって、立法者たちが意図した と原告が主張するような裁判所法第 34 条の解釈が採られないならば、その法は本来の性 質を失い、その法がもたらしたであろう利益も失われ、害悪だけをもたらすであろうとす る。この結果、連邦裁判所は合衆国人民の理性(reason)や愛着(affections)をいかに コントロールできるのか、こうしたコントロールを維持できるのは連邦裁判所裁判官の自 由な学識(learning)と判断が可能するのである、とされる。

また、アメリカにおけるコモン・ロー継受のあり方に関する論点も指摘されている。ア メリカにおける法解釈、法的手続きにおいて現存する法システム、すなわち、コモン・ロ ーが基礎となることを認めつつ、連邦裁判所の管轄の範囲とは国全体ではあるが、州裁判 所も存在するのであり、州と連邦裁判所の恒久的な対立が生じるおそれがあるとする。ま た、コモン・ローの構造がどれほど完璧であったとしても、アメリカにおける状況には適 用できない個別性(peculiarities)を有しているのであって、コモン・ローは起業精神を 持った人々の活力に合うように修正されなければならず、現実にそのような修正は行われ ている。それ故に、コモン・ローの全体系のうちに個別性を有しながら、諸州によって修

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正されつつ継受され、連邦裁判所は州裁判所と調和することを強いられ、州の法が維持さ れていくものとされる。

加えて、United v. Hudsonなど、合衆国憲法では規定されていない、コモン・ロー上の 刑事犯罪の管轄権(jurisdiction)が問題となった判例(United States v. Hudson. 11 U.S.

(7 Cranch) 32など)を挙げ、この問題の背景には、コモン・ローが継受されたのかどう

か、管轄権の源、判決準則としてコモン・ローが存在しているのかどうかという一般的な 問題が存在していたと指摘される。諸州と同様に、連邦の判例法理の基礎においてもコモ ン・ローが存在すると想定される必要があり、裁判所の判決は管轄権が存在すると主張さ れる根拠とともに存在すると見なされていたとする。そして、ケントの『アメリカ法釈義』

やストーリーの『合衆国憲法釈義』における植民地時代以来のコモン・ロー継受の歴史を 指摘した部分を引用しながら、コモン・ローの継受の問題が様々な著者たちに論じられて おり、本件でも、この問題を考察する必要があると指摘される。続けて、同じくストーリ ーのコモン・ロー継受論を引用し、コモン・ローの継受について合衆国憲法や制定法にお いて必ずしも明確に規定されてはいないものの、憲法はコモン・ローの存在を前提とし、

文言の解釈においてはコモン・ローに依拠しなければならないとの論が紹介される。

他方で、ヴァージニアや他州での憲法批准会議での議論に触れながら、制定法なしには、

コモン・ローは連邦の判決準則となり得ないものとし、連邦レベルのコモン・ローが判決 準則となるのを制限しようとする被告側の議論も展開されている。

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