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S.スタブリアーノス(Leften Stavros Stavrianos) 86) は『グローバルヒストリー(A Global History)』の中で, 「月からの眺望(observer perched on the moon) 87) 」を唱えて,今日の「地

第2章 グローバルヒストリー研究の援用

L. S.スタブリアーノス(Leften Stavros Stavrianos) 86) は『グローバルヒストリー(A Global History)』の中で, 「月からの眺望(observer perched on the moon) 87) 」を唱えて,今日の「地

球村(global villege)」もしくは「地球共同体(global community)」が如何に形成されてき

【表2-3:『新・世界の歴史』の章立て】

第一章 親族世界

①人間の起源,②霊長類社会から人間社会へ,③クン族,

④命綱

○エコロジー,○男女関係,○社会関係,○戦争 第二章 貢納社会

①親族社会から貢納社会へ,②貢納社会の特質,③貢納社会の世界的な多様性

④命綱

○エコロジー,○男女関係,○社会関係,○戦争 第三章 資本主義社会

①貢納社会から資本主義社会へ,

②商業資本主義 15001770

○創造性

・新しい考え,・新しい政治,・新しい経済

○破壊

③産業資本主義 17701940

○創造性

・新しい考え,・新しい政治,・新しい経済

○破壊

○苦難の時代 191440

④ハイテク資本主義 1940年以降

○創造性

○破壊

・第三世界,・第一世界,・第二世界,・新しい難局の時代 1975年以降

⑤命綱

○エコロジー,○男女関係,○先進世界,○発展途上の世界,○社会関係,○戦争 第四章 人類の行く末

①新しい軸の時代,②選択肢のある資本主義へ,③第三世界の選択肢,④生きがいのある世界への命綱,

⑤未来への展望

(小項目の各①②・・や,○,・は筆者が加筆)

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-たかについて,「超国家(Supra-national)」の視点で歴史を論じることを主張した。彼は

1989

年に刊行された代表作『新・世界の歴史(LIFELINE FROM OUR PAST, A New World

History)』

88)において,表2-3のように,人類の歴史を狩猟採集社会から農耕社会,そ

して資本主義社会へと生産技術の革新を軸に区分し,“親族社会”“貢納社会”“資本主義 社会”“人類の未来”といった時代区分を行っている。また,それぞれの時代の社会は“

エコロジー”“男女関係”“社会関係”“戦争”といった視点(命綱;lifeline)から描いて いる。そこでは,人類の歴史を,国家に制約された歴史でもなく,また,キリスト教史観 やマルクス史観などによって構成された普遍史とも異なる,まさに地球全体を一つのもの として月から眺めるような視点で一元的に語ることが試みられている。

また,スタブリアーノスに続いて,地球全体の一元的な歴史の構築を提唱したマズリッ シュは,「世界史はグローバルヒストリーへと飛躍しなければならない」と主張し 89),従 来の世界史とグローバルヒストリーとの区別を明確にしようとした。彼は,厳密な意味で のグローバルヒストリーを,「地球村(global villege)」や「地球共同体(global community)」

といった地球全体を展望する視点から描く歴史として定義し,「宇宙船地球号(Spaceship

Earth)」を宇宙から眺めたような歴史として描かれるべきものと主張した

90)。宇宙から眺

めた「宇宙船地球号」には,国境など見えない。彼にとってグローバルヒストリーとは,

明確にナショナルな存在を超えようとする試みであり91),その取組を通じて,グローバル アイデンティティ(global identity),つまり,すべての人類が共有できるアイデンティティ の醸成をめざすことができる92)と主張した。

同じく,「中心を持たない歴史」を主張するクロスリーは,この狭義のグローバルヒス トリーを「発散」「収斂」「伝染」「システム」の方法論的パターンに分類して検討してい る。ここで言う「発散」とは人類そのものの拡散の物語,「収斂」とは多様な人類の発展 も最終的には同じ終着点に到達するという,マルクスの発展段階論などに代表されるよう な物語,「伝染」とは人類と寄生生物や病原菌がもたらす社会の変化という,マクニール の『疫病と世界史』や

J.ダイヤモンド(Jared Mason Diamond)の『銃・病原菌・鉄』など

に代表される物語,「システム」とはウォーラーステインらのシステム論に指摘される西 洋中心史観を排した,グローバルな世界システムとしての物語の構築を指している93)

さらに,D.クリスチャン(David Christian)94)は,地球共同体としての歴史を構築する 立場,地球を宇宙から俯瞰するように歴史を構成するだけでなく,人類を地球を構成する 一部分ととらえる歴史を主張した。彼の主著である『時間の地図-ビッグヒストリーへの

序章』95)では,表2-4のように,自然科学的な内容に基づいた宇宙史や人類史が導入さ れ,地球の誕生から人類の登場の前までという従来の世界史では先史時代としてふれられ る程度の期間が,第

1

章と第

2

章として六つの時代区分のうちの二つを占めており,その 取り上げ方が一般的な世界史よりもかなり大きいことにも特徴がある。このことから,彼 のビッグヒストリーとは,宇宙・地球・生物・人類の歴史を学際的な方法で統合的に理解 しようとする試み96)であると同時に,天文学や地理学,生物学などの自然科学の研究成果 も取り入れながら,人間中心の歴史認識を脱却して,宇宙や自然といった環境・生態系の 一部として人間を位置付けて歴史をとらえ直そうとするものであることが分かる。また,

人間の歴史が扱われる第3章以降は,「たくさんの世界(Many Worlds;第3章)」「いく つかの世界(Few Worlds;第4章)」「一つの世界(One World;第5章)」という副題がつ けられ,人類の歴史がまさにグローバリゼーションの歴史として構成されている。

【表2-4:『時間の地図-ビッグヒストリーへの序章』の構成】

第1章 生命のいない宇宙

最初の300,000年;宇宙,時間,空間の誕生

銀河と星の誕生;複雑性の始まり 地球の起源と歴史

第2章 地球上の生命

生命の発生と進化の理論 生命の進化と生物圏

第3章 初期の人類史;たくさんの世界(Many Worlds)

人類の進化 人類史の始まり

第4章 完新世(12,000年前);いくつかの世界(Few Worlds)

増加と農業の始まり

自然を越える力から人々を越える力へ;都市,邦,「諸文明」

10 農業的「諸文明」の時代の長期的動向 第5章 近現代(Modern Era);一つの世界(One World)

11 近代への接近

12 グローバリゼーション,コマーシャルゼーション,イノベーション 13 近代の誕生

14 20世紀の大いなる加速 第6章 未来への視点

15 未来

日本においても,羽田正は地球市民が共有する地球社会の世界史の構築を唱え,「漠然 としている地球市民という帰属意識を私たちの身近なものとし,ただひとつの地球の上で

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-生きる人々が共同で難問に立ち向かうための知識の基盤を形成すべきである。これまでの 世界史は,日本人の世界史,イギリス人の世界史,タイ人の世界史など,国民ごとの世界 史だった。現代では,それらはもはや不十分である。現代にふさわしい地球社会の世界史 を作り出さねばならない」97)と論じている。これも,超国家史型のグローバルヒストリー を支持する立場と言えよう。

以上のように,従来の国際史が国家および国家間の関係性を考察していたのに対して,

「超国家史型グローバルヒストリー」では,世界の歴史を一元的な視点から描くことによ って,国民国家を相対化していることが分かる。ただし,教育として考える場合,世界の 歴史を一元的な視点から描くことは,生徒に世界を一面的にとらえさせてしまうことには ならないだろうか。また,特定の史観を教授することによって,一定の価値観を固定的に 注入するような事態を招かないだろうか。「超国家史型グローバルヒストリー」について は,これらの懸念を払拭し,歴史教育としてどのように実践されるかが問われよう。

5.諸類型とアイデンティティ,シティズンシップ

前節では,近代歴史学が国家の起源・発展と国家間の関係の研究を主眼としていたこと,

そしてそれは,国民国家に正当性を与え,国民のナショナルアイデンティティを醸成する 上で重要な役割を果たしていたことを確認した。そこでは,歴史教育も,歴史を用いてナ ショナルアイデンティティを涵養し,国民を創造する重要な装置であった。では,類型Ⅰ の多文化史型グローバルヒストリー,類型Ⅱの越国家史型グローバルヒストリー,類型Ⅲ の超国家史型グローバルヒストリーは,それぞれ,どのようなアイデンティティやシティ ズンシップを培うことになるのだろうか。

表2-5は,グローバリゼーションを背景とした歴史の多様化に伴う区分とその性格に ついて整理したものである。一般に「世界史」という場合,国際関係史,類型Ⅰの多文化 史型グローバルヒストリー,類型Ⅱの越国家グローバルヒストリーがその範疇にあるとさ れるが,特に,マズリッシュはその中の類型Ⅰの多文化史型グローバルヒストリーと類型

Ⅱの越国家グローバルヒストリーを,グローバリゼーションを背景とした「現代世界史

(Modern World History)」という新しい世界史として位置づけている98)。そして,類型Ⅲ の超国家史型グローバルヒストリーは,グローバル化した地球・人類全体からの視点を重

【表2-5:グローバリゼーションを背景とした歴史の多様化に伴う区分とその性格】

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-視した歴史として,狭義のグローバルヒストリーとされる。この現代世界史と狭義のグロ ーバルヒストリーは,いずれも国民国家を相対化するという点において共通した特徴を持 つ。その意味で,類型Ⅰの多文化史型グローバルヒストリー,類型Ⅱの越国家史型グロー バルヒストリー,類型Ⅲの超国家史型グローバルヒストリーを本研究では広義のグローバ ルヒストリーとして考察をすすめる。

これらの3類型は,それぞれ国民国家を相対化する視点が異なっており,類型Ⅰの多文 化史型グローバルヒストリーは,多様な文化や文明,民族,およびそれらの諸関係として 世界の歴史をとらえるという意味で「多元化」の視点から国民国家を相対化し,類型Ⅱの 越国家史型グローバルヒストリーは,国民国家の枠組みを越えた多様な諸地域にまたがる 歴史的諸事象を取り扱うという意味で「一体化」の視点から国民国家を相対化し,類型Ⅲ の超国家史型グローバルヒストリーは,まさに人類の歴史を「一元化」する視点から描く ことによって国民国家を相対化するものとなっている。

この国民国家を相対化する視点の違いは,歴史教育を通じたアイデンティティ形成やシ ティズンシップ育成に密接に関わってこよう。つまり,これまでも国民国家を「絶対化」

する国家史や国際関係史では,ナショナルアイデンティティと,それに基づいたナショナ ルシティズンシップの涵養が目指されてきたし,成果もあげてきた。そうであるならば,

類型Ⅰの多文化史型グローバルヒストリーと類型Ⅱの越国家史型グローバルヒストリーで は,多重的アイデンティティと,それに基づいた多重的シティズンシップが培われ,類型

Ⅲの超国家史型グローバルヒストリーでは,グローバルアイデンティティと,それに基づ いたグロバルシティズンシップが培われることになる。

そして,グローバルヒストリー教育が生徒の歴史認識を「閉じた」ものとして実践され れば,生徒は,それぞれの類型が対象にしている集団の構成員「である」ことを引き受け る他なくなり,「動員のアイデンティティ」が培われることになる。それ故,「参加のア イデンティティ」に基づくシティズンシップを培う為には,生徒の歴史認識を「閉じた」

ものにしないことが肝要となろう。