第 6 章 量子重力と共形場理論 75
6.3 重力場の量子化
6.3.1 Riegert 場
Riegert-Wess-Zumino作用(5.2.2)は、Minkowski背景時空では、−(b1/8π2)×
∫ d4xϕ∂4ϕで与えられる。このときRiegert場ϕに比例した項は消える。
その項の寄与は次節で導入するストレステンソルに現れる。
高階微分場である重力場をDiracの処方箋に従って正準量子化する。こ こでは共形モードについて議論する。新しい変数
χ=∂ηϕ (6.3.1)
を導入するとRiegert場の作用は SRWZ =
∫
d4x
{
− b1 8π2
[
(∂ηχ)2+ 2χ∂|2χ+(∂|2ϕ)2
]
+v(∂ηϕ−χ)
}
のように2階微分の作用関数に書き換えることができる。最後の項は La-grange未定定数(Lagrange multiplier)である。これよりχ、ϕ、vの正準 共役運動量Pχ、Pϕ、Pvを求め、Poisson括弧
{χ(η,x),Pχ(η,x′)}P={ϕ(η,x),Pϕ(η,x′)}P
={v(η,x), Pv(η,x′)}P =δ3(x−x′) を設定する。
新しい場χ は時間について2階微分なので通常の運動量変数 Pχ =
−(b1/4π2)∂ηχを持つが、ϕとvはそれぞれ1階及び0階微分なので拘束 条件5
φ1 =Pϕ−v ≃0, φ2 =Pv ≃0
5Lagrange未定定数項を(v∂ηϕ−ϕ∂ηv)/2のように対称化して考えると、拘束条件 はφ1=Pϕ−v/2とφ2=Pv+ϕ/2になるが結果は同じである。
になる。拘束条件は六つの変数、ϕ、χ、v及びその共役運動量Pϕ、Pχ、 Pv、が張る位相空間のなかの部分空間を表す。弱い等式はそれらが部分 位相空間上で等式として成り立つことを意味している。
拘束条件の間のPoisson括弧は Cab ={φa, φb}P=
0 −1 1 0
となる。ここでは簡単のため3次元デルタ関数を1と表している。detCab ̸= 0を満たすことから、これらは第2種拘束条件と呼ばれるものである。第 二種拘束条件を扱うためにDiracの処方箋に従ってDirac括弧
{F, G}D={F, G}P− {F, φa}PCab−1{φb, G}P
を導入する。Dirac括弧はPoisson括弧が満たす基本的な性質を満たして いる。任意関数F にたいして拘束条件が{F, φa}D = 0を満たすことか ら、Dirac括弧は部分位相空間上のPoisson括弧と見ることができる。F
としてHamilton関数を代入するとこれは拘束条件が時間発展しないこと
を表し、最初にφa = 0と置けば0が保たれることを意味する。したがっ て、Dirac括弧を使えば拘束条件は厳密な等式としてゼロと置くことがで きる。
部分位相空間の四つの変数の間のDirac括弧は
{χ(η,x),Pχ(η,x′)}D={ϕ(η,x),Pϕ(η,x′)}D =δ3(x−x′) で与えられ、Hamilton関数は
H =
∫
d3x
{
−2π2
b1 P2χ+Pϕχ+ b1 8π2
[
2χ∂|2χ+(∂|2ϕ)2
]}
(6.3.2) と書ける。これより運動方程式は
∂ηϕ = {ϕ, H}D =χ, ∂ηχ={χ, H}D =−4π2 b1 Pχ,
∂ηPχ = {Pχ, H}D=−Pϕ− b1 2π2∂|2χ,
∂ηPϕ = {Pϕ, H}D =− b1
4π2∂|4ϕ (6.3.3)
6.3. 重力場の量子化 83 となる。
正準量子化はDirac括弧を交換子に置き換えて
[ϕ(η,x),Pϕ(η,x′)] = [χ(η,x),Pχ(η,x′)] =iδ3(x−x′) (6.3.4) と設定する。その他の交換子は消える。運動量変数は(6.3.3)より
Pχ=− b1
4π2∂ηχ, Pϕ=−∂ηPχ− b1
2π2∂|2χ (6.3.5) で与えられる。
Riegert場の運動方程式は∂4ϕ = 0で与えられる。運動量変数を用いて 表すと∂ηPϕ=−(b1/4π2)∂|4ϕとなる。その解はkµxµ =−ωη+k·xとす ると、eikµxµとηeikµxµ及びその複素共役で与えられる。ここで、ω=|k| である。
Riegert場はこれらの解を用いて展開される。場を消滅及び生成部分に
分けてϕ=ϕ<+ϕ>と書くと ϕ<(x) = π
√b1
∫ d3k (2π)3/2
1
ω3/2{a(k) +iωηb(k)}eikµxµ
ここで、ϕ> =ϕ†<である。これを変数の定義式(6.3.1)と(6.3.5)に代入す ると、それぞれの変数の消滅部分は
χ<(x) = −i π
√b1
∫ d3k (2π)3/2
1
ω1/2 {a(k) + (−1 +iωη)b(k)}eikµxµ, Pχ<(x) =
√b1
4π
∫ d3k
(2π)3/2ω1/2{a(k) + (−2 +iωη)b(k)}eikµxµ, Pϕ<(x) = −i
√b1 4π
∫ d3k
(2π)3/2ω3/2{a(k) + (1 +iωη)b(k)}eikµxµ となる。正準交換関係(6.3.4)から各モードの交換関係
[
a(k), a†(k′)] = δ3(k−k′),
[
a(k), b†(k′)] = [b(k), a†(k′)]=δ3(k−k′),
[
b(k), b†(k′)] = 0
を得る。Hamilton演算子はモードを使って表すと H =
∫
d3kω{a†(k)b(k) +b†(k)a(k)−b†(k)b(k)}
となる。ここで、Hamilton演算子は(6.3.2)を正規順序付けしたもので ある。