第 6 章 量子重力と共形場理論 75
6.7 BRST 演算子
はスピン項が存在するために満たさない。プライマリー場のデッセンダ ントも変換則が乱れているので条件を満たさない。
物理的演算子Oの最も簡単な例はhα = 4を持つ演算子Vα(6.5.6)であ る。条件式hα = 4を解くとRiegert電荷は
α= 2b1
(
1−
√
1− 4 b1
)
(6.6.2) と決まる。このとき、二つある解のうち、重力場と結合している物質場の 数を無限大(ラージN極限)にする古典極限b1 → ∞でαが正準値4に近 づく、すなわちVαが古典的な体積要素√−gに近づく方を選んでいる。こ の値を持つVαのことを量子論的な宇宙項演算子と呼ぶ。ここで、(6.1.4) よりb1 >4なので、αは実数で与えられ、この演算子は重力理論から期 待されるように実演算子となる。
同様に、hβ = 2を持つプライマリスカラー場Rβは物理条件を満たす。
条件式を解いて、古典極限b1 → ∞で正準値2になる解を求めるとRiegert 電荷は
β = 2b1
(
1−
√
1− 2 b1
)
(6.6.3) と決まる。この解を持つRβを量子論的なRicciスカラーと呼ぶ。実際、
古典極限でβ →2、β/hβ →1となって定義式(6.5.8)から古典的なRicci スカラー√
−gRが得られることが分かる。
一般的には、hγ = 4−2mを満たすRiegert電荷γ = 2b1(1−√1−(4−2m)/b1) を持つプライマリースカラー場R[m]γ はRicciスカラーのm乗√−gRmに 相当する物理的演算子である。
6.7 BRST 演算子
この節では一般座標変換(6.2.4)のBRST演算子を考える。BRST変換 は15個のゲージ変数ζµをゲージゴーストcµに置き換えた変換である。
ゲージゴーストは15個のGrassmannモード、cλ−、cµν、c、cλ+を用いて cλ = cµ−(ζTλ)
µ+ cµν(ζLλ)
µν+ cζDλ + cµ+(ζSλ)
µ
= cλ−+ 2xµcµλ+xλc +x2cλ+−2xλxµcµ+
と展開される。ここで、cµνは反対称で、ゲージゴーストはHermite演算 子である。cとcµνは無次元で、cµ−とcµ+はそれぞれ次元−1と1を持つ。
同時にゲージゴーストと同じ性質を持った15個の反ゴーストモードbλ−、 bµν、b、bλ+を導入する。ゲージゴーストとの反交換関係を
{c,b}= 1, {cµν,bλσ}=ηµληνσ −ηµσηνλ, {cµ−,bν+}={cµ+,bν−}=ηµν
と設定すると、ゲージゴースト部分の共形代数(2.2.1)の生成子は Pghµ = i(−2bcµ++ bµ+c + bµλcλ++ 2bλ+cµλ),
Mghµν = i(bµ+cν−−bν+cµ−+ bµ−cν+−bν−cµ++ bµλcνλ −bνλcµλ), Dgh = i
(
bλ−c+λ−bλ+c−λ
)
, Kghµ = i
(
2bcµ−−bµ−c + bµλcλ−+ 2bλ−cµλ
)
で与えられる。以下、ゲージゴースト部分には“gh” をつける。
これらの生成子を用いると、BRST変換の生成子は QBRST = cµ−
(
Pµ+1 2Pµgh
)
+ cµν
(
Mµν +1 2Mµνgh
)
+ c
(
D+ 1 2Dgh
)
+cµ+
(
Kµ+1 2Kµgh
)
= c(D+Dgh)+ cµν(Mµν+Mµνgh)−bN −bµνNµν+ ˆQ と定義される。ここで、Pµ、Mµν、D、Kµはゲージゴースト部分以外の 共形変換の生成子の和である。その他の演算子は
N = 2icµ+c−µ, Nµν = i 2
(
cµ+cν−+ cµ−cν+)+icµλcνλ, Qˆ = cµ−Pµ+ cµ+Kµ
6.7. BRST演算子 97 で与えられる。BRST演算子の冪ゼロ性は生成子Pµ、Mµν、D、Kµが満 たす共形代数を用いて
Q2BRST= ˆQ2−N D−2icµ+cν−Mµν = 0
と示すことが出来る。BRST演算子と反ゴーストとの反交換関係は {QBRST,b}=D+Dgh, {QBRST,bµν}= 2(Mµν+Mghµν), {QBRST,bµ−}=Kµ+Kghµ, {QBRST,bµ+}=Pµ+Pghµ
で与えられることから、冪ゼロ性は[QBRST, D+Dgh] = 0等を表している。
BRST変換は一般座標変換のゲージ自由度ζµをゲージゴースト場に置 き換えたものになる。 Riegert場のBRST変換はその共形変換則からす ぐに
i[QBRST, ϕ(x)] =cµ∂µϕ(x) + 1
4∂µcµ(x)
と導ける。前節で求めたVαやRβのようなプライマリースカラー場Oの BRST変換はその共形次元を∆とすると、
i[QBRST,O(x)] =cµ∂µO(x) + ∆
4∂µcµO(x)
と変換することが分かる。これより、前に示したように、∆ = 4のとき、
i[QBRST,
∫
d4xO(x)] =
∫
d4x∂µ{cµO(x)}= 0
のようにBRST不変になる。これは物理条件(6.6.1)を書き換えたもので ある。
ゲージゴースト場を使うとBRST不変な局所演算子を構成することが 出来る。完全反対称テンソルで足をつぶしたゲージゴーストの関数
ω= 1
4!ϵµνλσcµcνcλcσ を導入する。ゲージゴースト場のBRST変換は
i{QBRST, cµ(x)}=cν∂νcµ(x)
で与えられることから、関数ωは
i[QBRST, ω(x)] =cµ∂µω(x) = −ω∂µcµ(x)
と変換する。このとき二番目の等式でcµω = 0を使った。この交換関係 を使うと、ωと共形次元∆ = 4のプライマリースカラー場の積は
i[QBRST, ωO(x)] = 1
4(∆−4)ω∂µcµO(x) = 0 のようにBRST不変な局所演算子になる。
このように、BRST不変な場の演算子は共形次元が4のプライマリー スカラー場で与えられる。一方、プライマリーテンソル場やデッセンダン ト場全般は、スピン項の存在や良い変換性をもたないことのためBRST 不変にならないので、一般座標不変な物理演算子から排除される。