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第2章 陸上植物における ent- カウレン合成酵素の基質認識多様性 の解析

2.3.1 Ppcps/KS, LsKS, OsKS1 の酵素生産

PpCPS/KSについては各種 CDP立体異性体を基質としたA型環化反応の解析を容易とするため,

ent-CPS活性を失った変異型酵素Ppcps/KSを用いた(Hayashi et al., 2006; 図 2–1)。mRNAの配 列から予想されるORF全長配列に対し, Hayashiらの報告において使用されたPpcps/KS-pTD1コン ストラクトでは, 予想葉緑体移行シグナル配列をコードする N末端側130 a.a.分の配列が削除され

ている。2.2.1.1に示す手順に従いそのORFをPCRにより増幅し, 目的の約2.5 kbのDNA断片を得

た(図 2–4A)。得られた断片をSalI 処理後末端を平滑化したpQE30ベクターとのligation 反応に

供し, ligation液を大腸菌への形質転換に用い6 株の目的ORF保持株を得た(図 2–4B)。これら6

株から3株を用いプラスミド抽出を行い, シークエンス解析により目的ORFが適切にpQE30ベク ターに挿入されているコンストラクト2つを得た。平滑末端でライゲーションを行ったため, シー クエンス解析に供した残り 1つに関しては ORF インサートが目的の逆向きに挿入されていた。目 的配列が適切に挿入されたコンストラクトを用い, 大腸菌 M15 株を宿主株として組換え酵素の生 産を行った。親株の選定を行うにあたり, M15株の他Rosetta-gami株及びRosetta-gami 2株に関して も検討を行ったが, M15株でのみ顕著な目的サイズタンパク質の発現が確認された(図 2–5)。異種 発現, 細胞破砕・分画及び6× His-tag精製を経て, 最終的に800 ml培養液あたり1.2 mgの精製酵素 が得られた(図 2–6)。

LsKSに関しては, 予備検討において pQE30ベクターを用いた場合に組換え酵素の発現がほとん ど見られなかったため, pCold IIベクターを用い組換え酵素の生産を行った。Sawadaらの2008年の 報告において使用されたコンストラクトをもとに, cDNAから予想される全長ORFからN末端側51

a.a.残基を除いた部分を, 制限酵素処理による突出末端を利用しpCold IIベクターに導入した(図 2–

7)。【図 2–7B】に示すように多数の目的 ORF 保持株が得られたが, うち 3 株からプラスミド抽出

を行いシークエンス解析に供した。得られた全ての株について, 適切に目的ORFがベクターのMCS に挿入されていることが確認された。そこで再度このプラスミドを大腸菌 M15 株に形質転換し, SmKS の場合と同様に低温発現誘導条件において組換え酵素の生産を行い, 細胞破砕・分画を経て 6× His-tag精製後, 800 ml培養あたり4 mgの精製酵素が得られた(図 2–6)。

OsKS1については予想ORF全長配列が挿入されたプラスミドを鋳型に, N末端側56 a.a.をコード

する領域を除いたORFをPCRにより増幅し, pQE30ベクターに挿入した(図 2–8)。LsKSの場合

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と同様に多数の目的ORF保持株が得られ, うち3株からプラスミド抽出を行いシークエンス解析に より目的配列が適切に挿入されていることを確認した。宿主株を選択するための予備検討では,

M15, JM109, Rosetta-gami 2株も用いたが,Rosetta-gami株でのみ顕著な組換え酵素の発現が確認さ

れた(図 2–9)。6× His-tag精製後, 最終的に800 ml培養液あたり0.1–0.2 mgの精製酵素が得られ た(図 2–6)。

2.3.2 各種KS酵素の基質立体認識の解析: 酵素反応生成物の定性的分析

【図 2–10】には, ent-CPSと各々のKS酵素を組み合わせて行った反応生成物のGC-MS分析結果

を示した。Ppcps/KSを除くいずれのKSも, ent-kaureneを単一生成物として与えた。Ppcps/KSは ent-CDPからent-16-hydroxykaurane及びent-kaureneの2生成物を合成することがHayashiらの2006 年の報告で明らかとなっており, 今回も同様の結果が確認された。以上により, 生産した各々の精 製酵素がKS活性を持つことが確認できた。

【図 2–11】及び【図2–12】には, 各々normal-CPS, syn-CPSと組み合わせて行った反応生成物の

GC-MS分析結果を示した。ent-CDPを基質とした場合とは異なり, 本来の基質の立体異性体となる

normal CDP, syn-CDPを基質とした場合にはKS酵素により触媒する反応が異なることが明らかとな

った。SmKSはnormal CDPからは保持時間6.22 minの化合物を主とする2生成物を, syn-CDPから は保持時間5.8 minから7 minに検出される複数のジテルペン炭化水素生成物を与えた。Normal CDP から合成される保持時間6.22 minの生成物に関しては, normal CDP–SmDTC3生成物と同じ保持時 間・マススペクトルを示したため, 同じ sandaracopimaradiene と同定された(図 2-13A)。LsKS は SmKS と 比 較 的 似 た 生 成 物 プ ロ フ ァ イ ル を 示 し, normal CDP を 基 質 と し た 場 合 に は

sandaracopimaradiene(図 2-13B)とジテルペン炭化水素と思われる副生成物を合成し, syn-CDPから

は複数のジテルペン炭化水素を合成した。【図 2-14】にSmKS, LsKSがsyn-CDPから合成する主要 な生成物のうち, 近い保持時間を持つもののマススペクトルを示した。保持時間6.78 min, 6.85 min,

6.93 minの化合物に関しては双方のマススペクトルがほぼ同じ特徴を示しており, おそらく同じ化

合物ではないかと考えられる。保持時間5.86 min, 6.03 minの化合物に関しても比較的似たフラグメ ントパターンが見られ, これらの生成物は微量なため完全な同定には至らなかったが, syn-CDP を 基質とした場合SmKS と LsKSでは比較的近い生成物プロファイルを示すことが明らかとなった。

一方, Ppcps/KSの場合にはSmKSやLsKSとは大きく異なり, normal CDPからは保持時間5.98 min, 6.43 min及び6.68 minに検出されるジテルペン炭化水素群を, syn-CDPからは保持時間6.02 minのも

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のを主とする2つのジテルペン炭化水素生成物を合成した。syn-CDPから合成される化合物はSmKS や LsKS の反応生成物でも近い保持時間を示すものが見られるが, マススペクトルが異なるため違 う化合物であると考えられた。

2.3.3 各種KS酵素の基質立体認識の解析: 酵素反応の半定量的評価

2.3.2に示したように, SmKS, Ppcps/KS及びLsKSはSmDTC3と同様に複数のCDP立体を基質と し得ることが明らかとなった。それぞれの CDP に対する親和性や触媒効率に差があるのかを評価 するため酵素反応速度論的解析を行う系の構築を目指したが, 【1】基質の供給の問題, 【2】反応 の追跡の問題により断念せざるを得なかった。【1】基質の供給の問題として, 基質CDPは市販され ておらず, それぞれのCDPすべてを立体特異的に有機合成する手法も確立されていない。CPSを用 い酵素的に合成することは可能であるが, 予備検討で精製段階において基質 2リン酸基が脱離しや すいことが明らかとなり, また正確な定量が可能になるほどの量を酵素合成で調製するのは非常に 困難である。こういった背景を考えると, 初期基質量を厳密に定量しなければ成り立たない酵素反 応速度論的解析は難しかった。【2】反応の追跡の問題として, 酵素反応速度論的解析を行うために は, 反応の進行を基質あるいは生成物の定量などを通し反応の進行を追跡する必要がある。しかし, 基質や生成物の定量に必要な濃度既知の標品が入手できず, また特に生成物の定量を行おうとする 場合各々の反応により生じるジテルペン化合物群は非常に多種多様であることから, GC-MSなどで 正確に定量するのは難しい。Zerbeらの2012年の報告でも, これらと同様の理由によりKSの酵素 反応速度論的解析を断念している(Zerbe et al., 2012)。異なるグループからの報告として, 2つのCDP 立体異性体を基質としたKS様酵素の酵素反応速度論的解析を行ったMorroneらの2011年の報告が あるが(Morrone et al., 2011), 【1】CPSによるGGDPからCDPへの変換が100%進行する, 【2】

CDPはKS様酵素との反応前に分解しない, という 2つの前提に科学的根拠が乏しく, 本研究に適 用するのは不適と判断した。以上の背景をもとに, 本報告では Zerbe らの報告を参考に, 基質量を 各CDP間で揃え, 一定条件・一定時間内に基質CDPがnegative controlと比べどれくらい消費され るか割合を算出し, 各種CDPに対する変換効率を算出することとした(図 2–3)。

2.2.3.1に示す手順により, 各種CPSを用いGGDPを基質にCDP溶液を調製した。CPS反応を停

止させる手法としてボイルによる熱変性も検討したが, 熱変性した CPS酵素を含んだまま次の KS 反応へ供するとKSの反応が著しく阻害されること, 熱変性したCPSを遠心により沈殿として取り 除いても,CDP が沈殿に吸着されるためか KS による反応がほとんど進行せず, 生成物が GC-MS

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でほぼ検出されなかった。そこでCPSに特異的でKS反応を阻害しない阻害剤, AMO-1618を4 mM という過剰濃度(予備検討において0.5 mMで十分に反応を阻害した)になるよう添加することで, CPS反応を停止させた。続くKS反応においては反応液の40–50%程度がCDP基質溶液となるため,

AMO-1618濃度は終濃度2 mM程度となるが, 予備検討において, いずれのCPSに関しても終濃度

0.5 mMのAMO-1618濃度において完全に反応を阻害することを確認している。得られたCDP基質

溶液を用い, 適宜用いるKS酵素量・反応時間を検討し, 最終的に25 gのKS酵素を用い, 1 h反応 を行う条件を実験に用いた。各酵素の分子量が異なることなどを考慮すると, 異なる酵素間での

product formation efficiency絶対値を単純に比較し論じることはできない系であることを注記する。

反応終了後, CDP をalkaline phosphatase 処理により copalolへと変換し, negative control と比較し

copalolがどの程度の割合減少したかをGC-MS分析により確認し, 2.2.3.4に示す式を用い逆算的に

product formation efficiencyを算出した。

【図 2–15】に各種KS酵素に加え, 比較のためのSmDTC3酵素についても各CDP基質に対する product formation efficiencyを示した。LsKSはent-CDPに対する特異性が非常に高く, ent-CDPなら

ば50%程度を変換する条件にも関わらずnormal CDPやsyn-CDPを基質とした場合にはほとんど反

応が進行しなかった。対してSmKSやPpcps/KSに関しては比較的ent-CDPに対する特異性は低く,

normal CDP や syn-CDP を基質とした場合にも比較的効率よく変換を行うことができた。また,

SmDTC3の真の基質は不明であるが, 比較的 normal CDPに選択性が高いことが明らかとなった。

2.2.3の定量的実験により, 酵素反応速度論的パラメータは不明のままであるが, LsKSは本来の基質

ent-CDPに高い特異性を持つ一方, SmKSやPpcps/KSは基質の立体選択性が比較的緩いことが示さ

れた。