7.3.1 自明な境界を持つAKSZシグマ模型
本節ではPoisson Courant algebroidから構成されるAKSZシグマ模型を構成する.
境界のある3次元多様体Xを考える.世界体積は超多様体X =T[1]Xである.X の局所 座標は(σµ, θµ)とする.ただし次数は|σµ| = 0, |θµ| = 1である.写像空間Map(X,M)の元 は世界体積X 上の座標を引数に取り,標的空間Mの値を返す超場である.以後超場は太文 字で書く.
写像空間Map(X, T∗[2]T∗[1]M)上のAKSZ構成法はバルクのAKSZシグマ模型を与える.
Map(X, T∗[2]T∗[1]M)の基底はMの基底xi, ξi, pi, qi を引き戻し写像x∗(x : X → M)に よってそれぞれ引き戻した超場xi(σ, θ),ξi(σ, θ),pi(σ, θ),qi(σ, θ)である.
このとき,写像空間Map(X,M)上のP 構造は,転入写像µ∗ev∗と標的空間のP 構造ω = dxi∧dξi+dqi∧dpiから次に定まる:
ω = Z
X
µ (δxi∧δξi+δqi∧δpi). (7.162) α= 0の場合,作用(Q構造)は次の形となる:
S = Z
X
µ
ξidxi−pidqi+πij(x)ξipj −1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk
. (7.163) (7.163)のことをPoisson Courantシグマ模型もしくは双対Courantシグマ模型と呼ぶ.この 作用Sの変分をとると,
δS = Z
X
µ δξidxi+ξidδxi−δpidqi−pidδqi +δ
πij(x)ξipj− 1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk
. (7.164) が得られる.この変分により運動方程式を求めることが出来る.運動方程式を求める際に
(7.164)の第二項および第四項について部分積分を行うと,以下の境界項
δS|∂X = Z
∂X
µ∂X ξiδxi+piδqi
|∂X, (7.165)
が現れる.運動方程式が定まるために,この境界項が消える条件(7.165) = 0を要請すると境 界条件が定まる.仮にLiouville 1形式 が境界上でev∗ϑ = 0であれば,δS|∂X = 0が成り立つ ため,境界∂X がラグラジアン部分多様体L内のev∗ϑ= 0を満たす部分多様体内にあること は,δS|∂X = 0が成り立つための十分条件であり,以下ではこの境界条件:
∂X ,→ Lϑ (7.166)
を要請する.ただし,Lϑ=L ∩ {ev∗ϑ = 0} ⊂ Mである.
この境界条件と同時に,AKSZ形式として無矛盾となるためには写像空間Map(X, T∗[2]T∗[1]M) 上の古典マスター方程式{S, S}BV = 0を満たす必要がある.古典マスター方程式を計算すれ ば次が得られる:
{S, S}BV = Z
∂X
µ∂X
ξidxi−pidqi+πij(x)ξipj − 1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk ∂X
. (7.167) ここで,先の境界条件ξi
∂X = 0かつpi
∂X = 0を課すと,境界項(7.165)は消え,古典マス ター方程式{S, S}BV = 0も満たされる.すなわち標的空間の言葉で書けば
ξi =pi = 0 (7.168)
は一つの境界条件であり,これを自明な境界条件と呼ぶ.この境界条件によって定まる部分 空間はT M ⊕T∗M上のPoisson Courant algebroidのDirac構造[17]T∗Mに対応する.
7.3.2 正準関数により非自明な境界を持つAKSZシグマ模型
次により非自明な境界を持つAKSZシグマ模型,特にQ構造 が正準関数α = 12Bij(x)qiqj によって変更されている場合を考える.
まず,正準変換によって境界条件を変更する一般的な手法を導入する.{α, α} = 0なる特 別な場合について,(7.160)式の変換で得られたS′に対し,写像空間上で正準変換e−δαˆ を施 し,S′′を求める.ただし,αˆ=µ∗ev∗αである:
S′′ =e−δαˆS′
=S0− {S0,αˆ}+µ∗ev∗Θ
=S0− LDˆ µ∗ev∗α+µ∗ev∗Θ
=S−µ∂X ∗(i∂×id)∗ev∗α (7.169) ここで,{α, α}= 0のため,正準変換はe−δαˆS0 =S0− {S0,αˆ}と第二項で止まる.{S0,αˆ} は境界項S∂X = −µ∂X ∗(i∂×id)∗ev∗αを生成する.S′ がマスター方程式を満たすため,その 正準変換であるS′′もマスター方程式{S′′, S′′}= 0を満たす.
従って正準関数αを用いて作用Sを標的空間で正準変換し,写像空間で逆の正準変換を行 うと,作用には境界項S∂X =−µ∂X ∗(i∂×id)∗ev∗αが加わり,新たなAKSZシグマ模型となる.
以下ではα=−12Bij(x)qiqjの場合を考える.Bijは弦理論に零モードとして現れるKalb–Ramond 2形式 場B = 12Bij(x)dxi∧dxj由来である.このαにより変更されたS′′は以下になる:
S′′ = Z
X
µ
ξidxi−pidqi+πij(x)ξipj− 1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk
+ Z
∂X
µ∂X 1
2Bij(x)qiqj, (7.170)
このS′′を変分し,運動方程式を求める.その際に現れる境界項は次である:
δS′′|∂X = Z
X
µd −ξiδxi−piδqi
− Z
∂X
µ∂XBij(x) δqi
qj (7.171)
= Z
∂X
µ∂X
−ξi− 1 2
∂Bij(x)
∂xi qiqj
δxi+ −pi+Bij(x)qj δqi
. (7.172) 写像空間Map(X, T∗[2]T∗[1]M)上の外微分dについて部分積分する際にdがpiを飛び越え るときに符号が出ることに注意する.(7.172)より以下の境界条件:
ξi|∂X =−1 2
∂Bjk(x)
∂xi qjqk|∂X, pi|∂X = Bij(x)qj|∂X. (7.173) はδS′′|∂X = 0を満たす.加えて古典マスター方程式{S′′, S′′}BV = 0からは次の境界条件が 出る:
{S′′, S′′}BV = Z
∂X
µ∂X
πij(x)ξipj− 1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk
= 0.
πij(x)ξipj− 1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk ∂X
= 0. (7.174)
(7.173)式の境界条件は(7.174)マスター方程式{S′′, S′′}= 0も同時に満たす.
自明な境界の場合と同様に,(7.173), (7.174)を標的空間の言葉で書き直すと以下になる:
'
&
$
%
以下の条件
L′ϑ: ξi|∂X =−1 2
∂Bjk(x)
∂xi qjqk, pi
∂X =Bij(x)qj (7.175) で定義されるラグラジアン部分多様体L′ϑ上で
Θ =πij(x)ξipj− 1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk= 0 (7.176) が成り立つ.
(7.175)を(7.176)に代入すると次を得る:
Θ =πij(x)ξipj− 1 2
∂πjk
∂xi (x)qipjpk+ 1
3!Rijk(x)pipjpk (7.177)
=
−1
2πlm∂Bij
∂xl Bmk− 1 2
∂πlm
∂xi BjlBkm− 1
3!RlmnBilBjmBkn
qiqjqk= 0. (7.178) 1. B =π−1のとき
(7.178)は
H =dB =∧3B♭R (7.179)
を意味する.
2. B 6=π−1のとき
Poisson Courant algebroidのDorfman括弧はKoszul括弧[−,−]πであり,QP多様体の 手法ではKoszul括弧はΘR=0 =πijξipj− 12 ∂iπjk
qipjpkに対する導来括弧と一致する.
したがって,導来括弧を用いてKoszul括弧[B, B]πを計算すると以下となる:
[B, B]π = 1
2Bijqiqj,1
2Blmqlqm
π
= 1
2Bijqiqj, πijξipj− 1 2
∂πjk
∂xi qipjpk
,1
2Blmqlqm
=
πlm∂Bij
∂xl Bmk+∂πlm
∂xi BjlBkm
qiqjqk (7.180) (7.178)はKoszul括弧を使って[B, B]π =−2∧3 B♭Rと書き直せる.ただし,準同型写 像B♭: T M →T∗MはB♭(X) =B♭(Xi ∂∂xi) = BijXi ∂∂xj で定義される.ただしベクトル 場X =Xi(x)∂/∂xiである.B場のKoszul括弧による交換子が3ベクトル場Rにより 変形されている.
7.3.3 境界上に現れる位相的弦理論
これまで境界のある膜の世界体積に現れるAKSZシグマ模型を議論してきた.本節では膜 の境界の作る世界面にどのような理論が現れるのかを調べる.以下ではポアソン構造πが非 退化な場合を考える.このとき,π−1はシンプレクティック構造である.
作用(7.170)を変分するとξiについての運動方程式pi =πij−1dxjが得られる.これを作用 (7.170)に代入しStokesの定理を用いることで次のT[1]∂X上の境界作用を得る:
S= Z
∂X
µ∂X
π−ij1qidxj − 1
2Bij(x)qiqj
+ Z
X
µ1
3!Rijk(x)πil−1πjm−1π−kn1dxldxmdxn. (7.181) ここでπ−1 ∈ Γ(∧2T∗X)はシンプレクティック構造であるからd(π−1) = 0を用いた.この AKSZシグマ模型の作用(7.181)は第1項が2次元世界面上の積分であり,第2項はWZ項で ある.これは先行研究[40, 41, 42]にて議論されているPoissonシグマ模型にWZ項[43]が加 わったものである.
この作用(7.181)はゴースト場を含んでいる.以下,ゴースト場を取り除き物理的な作用を
求める.まず各超場を局所座標θµに対して級数展開する:
Φ(σ, θ) = Φ(0)(σ) + Φ(1)µ (σ)θµ+1
2Φ(2)µν(σ)θµθν. (7.182) θµは反対称なため,級数展開は有限項で止まる.この展開した各超場を作用(7.181)に代入 し,作用を成分表示する.次にθµ方向について積分を実行し,非零の次数を持つゴースト場 を零におく.残る次数零の場のみで書かれた作用は物理的な作用となる:
S =− Z
∂X
πij−1qi∧dxj +1
2Bij(x)qi∧qj
+ Z
X
1
3!Rijk(x)π−1il πjm−1πkn−1dxl∧dxm∧dxn. (7.183) ただしxi = x(0)i, qi =qµ(1)idσµ である.この境界上の2次元AKSZ作用は位相的ではあるが Rフラックス を数学的に無矛盾に含んだ弦理論の作用となっている.
上でも述べたとおり(7.183)は2次元の位相的作用であり,運動項を含まない.この作用に 運動項を手で加えることでRフラックス を含む弦理論のダイナミカルな作用を書くことが出 来る:
S=1 2
Z
∂X
Gij(x)dxi∧ ∗dxj− Z
∂X
πij−1qi∧dxj +1
2Bij(x)qi∧qj
+ Z
X
1
3!Rijk(x)πil−1π−jm1πkn−1dxl∧dxm∧dxn. (7.184) ただし,運動項を手で加えたことによりこの作用(7.184)はAKSZ構成方法からは外れたもの となっている.