7.4 AKSZ シグマ模型間の双対性
8.1.1 導来括弧から導かれる境界上の Poisson 括弧
以下では時間方向Rを特別扱いしたn+ 1次元世界体積X= Σ×Rを考える.超空間へ埋 め込む場合,世界体積Xの空間方向Σを超空間Σ=T[1]Σに置き換え,それが標的空間M へ埋め込まれている状況を考える.標的空間である超空間M上に次数nのP 構造が存在す る場合,標的空間にPoisson括弧が自然に定まる(定義3.1).ただし,nはシンプレクティッ ク構造ωのゴースト数(次数)である.ここから境界上の自然なPoisson括弧を導くことが 出来るが4,本研究ではQ構造,すなわちΘの幾何学情報を境界理論のPoisson括弧に組み込 むことを考える.これは導来括弧を使って同時刻面∂Σ上のハミルトン形式に移ることで実 現される.
4ハミルトニアン形式に移るため,同一時刻面上で考える.空間方向の超多様体Σがn次元であるため,µ 積分は次数−nを持つ.したがって,引き戻しによって定まる写像空間上の次数付きシンプレクティック構造 ω=µ∗ev∗ωは全次数が2になる.結果,このωにより構成される次数付きPoisson括弧は次数0で,通常の Poisson括弧{−,−}P Bと同じになる.しかし,この方法で構成されるPoisson括弧は,標的空間の幾何学情報 Θを反映しておらず,フラックスを含まない.[44]ではこの問題を解消するため,シンプレクティック構造にB 変換を施しH フラックスを組み込んでいた.
AKSZ構成と同様に標的空間に対応した超空間である次数nのQP 多様体(M, ω,Θ)を考 える.ハミルトニアン形式を考える場合には,標的空間に埋め込まれている部分空間である ラグラジアン部分多様体Lが,境界∂Σを含んでおり,境界の埋め込み座標が力学的自由度 となる.膜の境界は閉弦に対応するため,この埋め込み座標は標的空間上の閉弦の運動を記 述する.
導来括弧{{−,Θ},−}を用いて,ラグラジアン部分多様体L上のPoisson括弧を次のように 定義する:
定義 8.1 (ラグラジアン部分多様体L上のPoisson括弧) (M, ω,Θ)をQP多様体,ωに対す るラグラジアン部分多様体をL,pr:M → Lを自然な写像とする.このとき,導来括弧をL 上に制限したものをL上の次数付きPoisson括弧とする.
{f, g}L≡ {{pr∗f ,Θ}, pr∗g}
L (8.187)
ただし, f, gはL上で定義された関数とする.
この境界上のPoisson括弧{−,−}Lは次数−n+ 1で,反対称でLeibniz則とJacobi恒等式を 満たす.
証明
|Θ|=n+ 1, |{−,−}|=−n (8.188) であるため,|{−,−}L|={{pr∗−,Θ}, pr∗−}
L= (n+ 1)−2n=−n+ 1である.ラグラジ アン部分多様体L上ではシンプレクティック形式が消えるω|L = 0ため,L上の関数f, gに対 して{pr∗f , pr∗g} = 0である.このことから,自動的にLeibniz則及びJacobi恒等式が成り 立つ.
定義8.1て定義されたラグラジアン部分多様体L上のPoisson括弧を部分写像空間Map(∂Σ,L) 上へ持ち上げる.ただし,Σ=T[1]Σである.µ∗ev∗Θ = S1であるため,写像空間Map(∂Σ,L)
上のPoisson括弧は以下のように定義出来る:
定義 8.2 (写像空間Map(∂Σ,L)上のPoisson括弧) 部分写像空間Map(∂Σ,L)上のPoisson 括弧を写像空間Map(∂Σ,M)上の導来括弧により以下と定義する:
{F, G}P B ={{prb∗F , S1},prb∗G}b
L . (8.189)
標的空間
時刻 世界体積
同時刻面 (膜)
境界
図 2: n= 2の場合に標的空間Mを運動する膜Σの作る世界体積Xの図である.膜 の境界は∂Σである.ハミルトニアン形式ではM,Σがそれぞれ超空間M,Σ へ拡張される.超空間では∂Σは超空間Mの部分空間であるラグランジアン 部分多様体Lに埋め込まれている.Lは超空間上で定義されるため,本図には 描かれていない.
ただし,F, G∈Lb=Map(∂Σ,L)であり S1 =
Z
∂Σ
µ∂Σ(z) Θ(Z(z)) (8.190)
である.また,写像pr:M → Lを写像空間に引き上げた写像prb : Map(∂Σ,M)→Lbを用い た.この写像空間上のPoisson括弧は次数0である.
証明 境界∂Σはn−1次元多様体であるため,|S1|=|µ∗ev∗Θ|= (n−1) + (n+ 1) = 2であ る.写像空間M上のシンプレクティック形式ω = µ∗ev∗ωはゴースト数n−(n−1) = 1で あり,M上のPoisson括弧は次数−1である.従って,写像空間Lb上のPoisson括弧は次数 2−1−1 = 0である.