• 検索結果がありません。

VRDGKTDPG

D-- PVISYI

図 2.20 Mu gp36H と Phi29-gp10 の立体構造の重ね合わせと、対応するアミノ酸配列の比較を行った。

橙:Mu gp36、水色:HK97-gp6、アミノ酸配列の網掛けと「.」は立体構造が重なった領域の アミノ酸配列、「|」は一致したアミノ酸、「:」は類似の性質を持つアミノ酸を示した。

48 2.4.3-3 P22 gp4 との比較

P22 gp4 は、アミノ酸配列の相同性は 13 %であり、アミノ酸配列の有意な相同性は見ら れなかった。P22 gp4 の 166 残基に対して 82 残基が重なっており、Cα rmsd 値は 3.0Å と、構造には相同性があると言えた(図 2.20)。C末端側に 27 残基の非構造領域が存在し、

Mu gp36 のC末端側の 33 残基の非構造領域の構造が今後決定できれば、更に重なる残基数 は増えると期待できた。

P22 ファージのネックサブユニットである P22 gp4 は、溶液中で単量体で安定であり、

P22 gp1 の 12 量体存在下で重合してリングを形成すると報告されていた(図 2.21)[11]。

この報告と Mu gp36H の構造から、Mu gp36 の配置を含む Mu ファージのネックサブユニ ットの配置を一部推測した。具体的な内容は後述した。

4 20 40 60 ATVNDLCARYTRTRLDILTRPKTADGQPD--DAVAEQALADASAFIDGYLAARFVLPLT---

|....|...|..|: .. ...|...|....|... ..

AALRKLGVASDATLTDV---EPQSMQDAVDDLEAMMAEWYQDGKGII---TGYVFSDDENPPA 12 30 50

80 100 ---VVPSLLKRQCCVVAWFYLNE---SQPTEQITATYRDTVRWLEQVRDGKT ...|...:.. .:.|..|.||.:...|...

EGDDHGLRSSAVSAVFHNLACRIAPDYALEATAKIIATAKYGKELLYKQTAISR 70 90 110

図 2.20 Mu gp36H と P22-gp4 の立体構造の重ね合わせと、対応する アミノ酸配列の比較を行った。

橙:Mu gp36、水色:HK97-gp6、アミノ酸配列の網掛けと「.」は立体構造が重なった領域の アミノ酸配列、「|」は一致したアミノ酸、「:」は類似の性質を持つアミノ酸を示した。

図 2.21 P22 ファージのネック構造

P22 ファージのネックはポータルサブユニット gp1 と、もう 1 つの ネックサブユニット gp4 が重合して形成されている[11]

49 2.4.3-4 SPP1 gp15 との比較

SPP1 gp15 は、アミノ酸配列は相同性が 14 %であり、有意な相同性があるとは言えなか った。一方で立体構造は、102 残基中の 71 残基が Mu gp36H の構造と重なり Cα rmsd 値 は 3.3 Åと、構造に相同性があると言えた(図 2.22)。

SPP1 ファージのネックはヘッドの末端に位置するポータルサブユニット gp6、ネックサ ブユニット gp15、gp16、テイルチューブサブユニットと結合する gp17 の 4 つのサブユニ ットから構成されており、Mu gp36H と構造に相同性が見られた SPP1 gp15 は P22 gp4 と 同様にポータルサブユニットと隣接していた(図 2.23)[18, 19]。このことから、Mu gp36H はポータルサブユニットと隣接している可能性が高いと言える。

13:A 30:A 50:A 70:A YTRTRLDILTRPKTADGQPDDAVAEQALADASAFIDGYLAAR-FVLPL---TVVPSLLKRQCCVVAWF ..:..|.|. .|...|...::... ... .:....|...:

RVKRLLSIT---NDKHDEYLTEMVPLLVEFAKDECHNPFIDKDGNESIPSGVLIFVAKAAQFY 40:A 60:A 80:A 90:A

YLNESQPTEQIT---ATYRDTVRWLEQVRDGKT ..|... . ...:.|...|....

MTNAGLTG---RSMDTVSYNFATEIPSTILKKLNPYRKMAR 100:A 120:A

図 2.22 Mu gp36H と SPP1 gp15 の立体構造の重ね合わせと、対応するアミノ酸配列の比較を行った。

橙:Mu gp36、水色:HK97-gp6、アミノ酸配列の網掛けと「.」は立体構造が重なった領域の アミノ酸配列、「|」は一致したアミノ酸、「:」は類似の性質を持つアミノ酸を示した。

図 2.23 SPP1 ファージのネック構造

Mu gp36H と構造に相同性が見られた SPP1 gp15 は、ヘッドの末端の SPP1 gp6

(ポータル)と結合し、反対側で SPP1 gp16 と結合している。更に SPP1 gp16 は SPP1 gp17 と結合している[18, 19]。

50 2.4.4 C 末端の比較と Mu gp36 の重合条件の考察

立体構造の重ね合わせによって、Mu gp36H と HK97 gp6 の立体構造は高い相同性が見 られることが分った。しかし一方で、大腸菌 BL21(DE3)pLysS 株によって発現させた組み 換え体の Mu gp36H は結晶中で単量体で安定していたのに対し、HK97 gp6 は 13 量体のリ ング構造を形成したことが報告されてた[10]。反対に、P22 gp4 は Mu gp36H と有意な相 同性が見られたが、Z-score は P22 gp4 と Mu gp36H の値より低かった。一方で溶液中と 結晶中で単量体であったと報告されており、溶液中や結晶中での振る舞いは HK97 gp6 よ りも Mu gp36 に近かった[11]。

この性質の違いを引き起こす原因を構造の比較から考察した(図 2.24)。Mu gp36 には C 末端に 33 残基の構造不明の領域が存在し、P22 gp4 にも 28 残基の非構造領域が存在した が、一方で HK97 gp6 対応する残基が見られなかった。このことから、Mu gp36 と P22 gp4 の C 末端に存在する非構造領域は重合を阻害するという同じ働きをしてしているのではな いかと考えた。

図 2.24 HK97-gp6(左、PDB: 3JVO)、SPP1-gp15(左中、PDB: 2KBZ)、

Mu gp36 (右中、PDB: 5YDN)、HK97-gp6 (右、PDB: 5GAI)の比較 Mu gp36 の C 末端の 33 残基の構造不明領域に対応する残基の有無や、

溶液中で重合するかに注目して比較した。

51

2.4.5 Mu gp36 の重合体におけるサブユニット同士の重合境界面の予想

Mu gp36 と最も構造が類似した HK97 gp6 と、溶液中での振る舞いや C 末端の残基の点 で Mu gp36 に近い P22 gp4 は、どちらもネック領域のサブユニットであり、リング状に重 合した構造が PDB に登録されていた。これらの構造を鋳型として、MolFeat v.2.6 (FiatLux, Japan)によって Mu gp36H の構造を重ねて重合した際の予想図を作成した(図 2.25)。 どちらの予想図でも Mu gp36H の結合境界面は一致しており(図 2.26)、少なくとも 5 つ のアミノ酸残基間で塩橋または疎水性相互作用が形成されると思われた。しかし Mu gp36H を単離精製した際には、Mu gp36H は溶液中で単量体であった。5 つの残基側鎖間の相互作 用は、Mu gp36H の重合後の安定化には寄与するが、重合が始まるためのきっかけは別に存 在するものと思われた。

また両方の予想図で、中心の孔の表面に正電荷(青く記載)が分布していた。ファージの 形態形成において、コネクターはポータルと結合してヘッドに詰められたゲノム DNA の漏 出を抑える、ストッパーの働きを持つことがわかっていた。また感染の際には構造変化を起 こして DNA が通過できるようになると言われていた。この仕組みは解明されていないが、

本研究で Mu gp36H で見られた正電荷は、DNA と相互作用してストッパーとしての機能を 果たすのかもしれない。

図 2.26 リング形成時の Mu gp36 の 3 量体と、結合境界面の予想図

(青: 塩 基 性 ア ミ ノ 酸

: 酸 性 ア ミ ノ 酸 紫: 芳 香 族 ア ミ ノ 酸

緑: 疎水性アミノ酸

灰: 中性アミノ酸)

図 2.25 P22-gp4(A)と HK97-gp6(B)を鋳型に Mu gp36 を重ねた図

A B

52

2.4.6 P22 gp4 から予想される、Mu ファージのネック領域の構造と重合の条件の予想 P22 gp4 の C 末端の非構造領域は P22 ファージのポータルサブユニット gp1 の 12 量体 リングと相互作用し、P22 gp4 の重合を可能にすることが報告されていた。Mu ファージの ネックにおいて Mu gp36 がポータルサブユニットと隣接することは、P22 ファージ以外で も SPP1 ファージのネックの構造から予想されたことであり、第 2 章のここまでの結果か ら、Mu ファージのネックの配置を一部予想することができた。加えて、P22 gp4 は溶液中 で単量体であることや、C 末端側に非構造領域が存在する点で Mu gp36H と一致していた ことから、対比することで、Mu gp36 と、ポータルサブユニット Mu gp29 の配置を図 2.27 のように予想した。P22 gp4 の C 末端の 28 残基が、P22 gp1 の 2 量体の表面に結合してお り、Mu gp36 の C 末端 33 残基が P22 gp4 の C 末端 28 残基と同じ働きをし、Mu gp36 の 重合条件も P22 gp4 と同様にポータルサブユニットの 12 量体と相互作用することで可能に なるのではないかと考えた。しかし、Mu gp29 のリング形成は成功せず、P22 gp1 の重合 条件がそのまま Mu gp29 に当てはまるわけではないと思われた。

図 2.27 P22 のポータルサブユニット gp1 の 12 量体と P22-gp4(リボン図)の 12 量体の複合体

(左、PDB:5GAI)と、P22-gp1 と P22-gp4 の結合部位の拡大(右図)

53 2.5 本章のまとめ

第 2 章では、Mu ファージのネックサブユニットの配置を明らかにするために、まず Mu gp36H の立体構造の決定と、Mu gp36H と構造に相同性がある他のファージの構造既 知のサブユニットの検索を行った。大腸菌を利用した組み換え体タンパク質として Mu gp36H を大量発現し、Ni-NTA カラムとゲル濾過カラムで単離精製した。結晶化に成功 し、X 線結晶構造解析で Mu gp36H の立体構造を決定した。

Mu gp36H の立体構造と構造に相同性があるファージのサブユニットを探索し、

Siphoviridae

Family に属するファージである HK97 ファージのネックサブユニット gp6

と、

Podoviridae

Family に属するファージである P22 ファージの gp4 が、

Myoviridae

Family に属するファージである Mu ファージのネックサブユニット gp36 と構造に相同性 があることを見出し、Mu gp36 の構造が 3 つの Family の間で共通していたことを示し た。これはネックサブユニットの構造について、3 つの Family の間で共通した構造を見出 した初めての発見であり、このことから Mu ファージのネックの構造を、テイルの構造が

異なる

Siphoviridae

Podoviridae

との比較によって検討できると示された。

Mu gp36H の構造と相同性があった P22 gp4 は Mu gp36H と同様に溶液中で単量体で、

立体構造を見ると Mu gp36H の C 末端 33 残基の電子密度が得られなかった領域に対応す る構造として、C 末端側に非構造領域が存在していた。P22 gp4 の重合開始条件は、12 量 体を形成したポータルサブユニット gp1 と相互作用して重合するというものであり、溶液 中の振る舞いや構造の特徴が類似していた Mu gp36H も、Mu ファージのポータルサブユ ニット gp29 の 12 量体存在下で重合すると予想した。Mu gp36H の重合開始条件を確認す るため、後述した gp29 の単離精製物(Mu gp29H)を P22 gp1 が 12 量体のリングを形成 する条件で処理したが、現在に至るまでリング形成を確認できていない。

以上の経緯から、Mu ファージのネック領域におけるサブユニットの配置について、Mu gp36H の構造から図 2.28 のように配置を予想することができた。ヘッドの末端に位置す るポータル Mu gp29 とテイルの末端に位置するテイルターミネーターMu gp37 は以前か ら予想できており、Mu gp36H の立体構造によって Mu gp36 がポータル Mu gp29 と相互 作用すると予想されたことで、ポータルの直下に位置すると予想された。ポータルとテイ ルターミネーターの間の領域はファージにおいて「コネクター」と呼ばれているため、

Mu gp36 は Mu ファージのコネクターであると予想した。Mu gp35 と Mu gp38 の配置を 決めるため、3 章で更にネックサブユニットの構造解析に向けた研究をつづけた。

図 2.28 Mu gp36H の立体構造から予想した Mu ファージのネック領域のサブユニットの配置