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共発現系による Mu ファージのテイルファイバーの複合体の形成

5.1 序論

5.1.1 本章の目的

Caudovirales Order に属するファージは、感染の際にテイルファイバーが宿主細菌の表面 構造を特異的に認識して結合することによって、特定の細菌にのみ感染する。テイルファイ バーはファージの感染において重要な働きを持つことから構造解析による理解が進められ ている。テイルファイバーの形態形成において、ファージ由来のシャペロンまたはテイルフ ァイバーに存在するシャペロンドメインの働きにより、テイルファイバーは球状にならず に繊維状の三量体構造を形成する[1-9]。ファージのテイルファイバーを形成するサブユニ ットの数や配置はネックと同様に Species ごとに異なり、類似した繊維状構造を多様なサブ ユニットで形成している。

Mu ファージは広い宿主範囲を持ち、遺伝子の水平伝搬に大きな役割を果たしている[10-13]。これは Mu ファージがテイルファイバーを 2 つ持つことによる特性で、また両方のテ イルファイバーは、塩基配列から繊維状のタンパク質をコードすると予想される遺伝子と、

シャペロンをコードすると予想された遺伝子の 2 つの遺伝子が必要であることが判明して いたことから、Mu ファージのテイルファイバーを構成するサブユニットの特定を行うこと にした。これは、Mu ファージのテイルファイバーのサブユニットの配置が T5 ファージの ように 2 つのサブユニットから構成された数少ないテイルファイバーの 1 例かもしれない という期待と、将来的に広範囲の宿主を認識できるテイルファイバーの宿主認識の仕組み を詳細に理解するための構造解析を視野に入れた研究である。また同時に、2 つ存在するテ イルファイバーとシャペロンらしきタンパク質について、同じ Mu ファージのテイルファ イバーに対するシャペロンが基質特異性を持つのかの検討を行い、更に複合体形成を Mu gp35 + Mu gp36 の複合体形成に利用した共発現によって行うことで、ネックサブユニット 以外でも共発現による安定な複合体の形成が可能なのかを示した。

5.1.2 Mu ファージのテイルファイバー領域のサブユニット

Mu ファージのテイルファイバーは 2 つ存在し、これにより広い宿主範囲を持つことがわ かっていた。変異体解析とゲノム解析によって、テイルファイバーと思われた遺伝子とシャ ペロンと思われた遺伝子は、それぞれ gene49 と gene52、gene50 と gene51 であると予想 されていた。gene49~gene52 の遺伝子領域は G region と呼ばれている。G region は反転 が可能であり、gene product (gp)49-gp50、または gp52-gp51 のどちらかの遺伝子産物が発 現してテイルファイバーを構成する。Gp49-gp50 複合体が発現した Mu ファージは Mu G(+)株、gp52-gp51 複合体が発現した Mu ファージは Mu G(-)株であり、異なる宿主細菌 において表面の LPS を認識して結合し、Mu ファージの感染を可能にしている(図 5.1)

[14-17]。

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本研究を開始した当時、それぞれのサブユニットについて立体構造は不明であった。また、

Mu ファージは 2 つのテイルファイバーを持つことで、Mu ファージの大きな特徴の 1 つで ある広い宿主範囲を実現している。遺伝子の配置から gp50 と gp51 が、テイルファイバー gp49 と gp52 にそれぞれ特異的に働くシャペロンであると思われたが、これまで実験的に 確認されたことはなかった。

5.2 Mu ファージのテイルファイバーとシャペロンの単離精製 5.2.1 テイルファイバーとシャペロンの単独発現ベクターの作成

テイルファイバーとシャペロンのそれぞれの発現ベクターを作成した(図 5.2)。発現の 際に、組み換え体タンパク質の C 末端側には 6xHis-tag が付加するように設計した。これ は、テイルファイバーとシャペロンがどちらも可溶性に発現した際に、Ni-NTA カラムとゲ ル濾過カラムで単離精製し、ゲル濾過カラムでの溶出位置から凝集の有無を検討すること を企図していた。なお、発現ベクターのうちで gene51 は pACYCDuet-1 に導入した。これ は、テイルファイバーとシャペロンの特異性を検討する方法の 1 つとして、複製起点が異 なるプラスミドに組み込んだテイルファイバーとシャペロンの発現ベクターを、同一菌体 内に導入して共発現することを考えた措置であったが、実際には試みなかった。

Mu ファージは多くのファージと異なり 2 つのテイルファイバーと 2 つのシャペロンを 持つと予想され、天然の組み合わせは、図 5.1 に示したように Mu gp49+ Mu gp50、Mu gp51+ Mu gp52 である。これについて pET21a にテイルファイバーの遺伝子を導入し、複 製起点が異なるベクターにシャペロン Mu gp51 の遺伝子を導入することで、ホモとヘテロ

図 5.1 Mu ファージのテイルファイバーとシャペロンをコードする遺伝子領域 G region の模式図(左)と、

Mu G(+)株と Mu G(-)株のテイルファイバーサブユニットの違いによる宿主範囲の変化(右)

G region は反転可能な遺伝子領域であり、テイルファイバーの遺伝子(gene49、gene52)と、どち らかのテイルファイバーと同時に転写されるシャペロンの遺伝子(gene50、gene51)がコードされて いる。G region の反転によって Mu ファージは 2 つの株(Mu G(+)株と Mu G(-)株)に分けられ、

Mu G(+)株は

E. coli

K-12 株と S. enterica serovar Arizonae cells に感染し、Mu G(-)株は

E. coli

C、

S. sonnei

C. freundii

E. carotocora

E. carotocora、E. cloacae

に感染することが確認されていた[17]。

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な組み合わせで共発現を検討した。可溶化の有無によって、Mu gp50 と Mu gp51 による Mu gp49 と Mu gp52 のフォールディングを検討した。

手順としては、PCR 法によって各 DNA 断片を増幅し、制限酵素処理とライゲーション を行って pET21a(+)に導入した。アルカリ SDS 法で抽出と増幅を行い、シーケンス解析で 塩基配列が正確であることを確認した。それぞれの発現ベクターと発現したサブユニット は、発現の際に 6xHis-tag が N 末端側に付加する場合はサブユニット名の左側に H-をつけ、

C 末端側に付加する場合は右側に H をつけて、それぞれ Mu gp49H、Mu gp50H、Mu H-gp51、Mu gp52H と表記した。

5.2.2 Mu ファージのテイルファイバーとシャペロンの発現の確認

Mu gp49H 、 Mu gp50H 、 Mu H-gp51 、 Mu gp52H 発 現 ベ ク タ ー で 発 現 性 大 腸 菌 BL21(DE3)pLysS 株を形質転換し、50 mL の Amp 入り LB 液体培地に植菌して、20℃で振 とう培養した。OD600 = 0.6 の際に IPTG を終濃度 1 mM で加えて更に培養した。SDS-PAGE で発現の有無を確認し、Mu gp49、Mu gp52 の分子量に対応するバンドが 20℃で不 溶性に発現し、Mu gp50H と Mu H-gp51 は可溶性に発現が見られた(図 5.3)。Mu ファー ジのテイルファイバーMu gp49H と Mu gp52H は単独で発現すると凝集して沈殿すること が示されたため、Mu gp50 と Mu gp51 がシャペロンとしての働きを持つことは間違いない だろう。同一の菌体内でなければ Mu gp49 と Mu gp52 のフォールディングが起こらない と思われたため、共発現系を利用して発現することにした。

図 5.2 (A)Mu ファージのテイルファイバーMu gp49H の発現系と、対応するシャペロン Mu gp50H の発現系

(B)Mu ファージのテイルファイバーMu gp52H の発現系と、対応するシャペロン Mu H-gp51 の発現系

(A)

(B)

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5.2.3 Mu ファージのシャペロンの大量発現と単離精製

5.2.2 で発現が確認できた発現菌のうち、可溶性に発現したシャペロン gp50H、H-gp51 を 3L の培地で大量培養し、Ni-NTA カラムとゲル濾過カラムで単離精製した。

手順としては、3 L の Amp 入り LB 液体培地に植菌し、発現誘導後 18℃で 24 時間振と う培養した。菌体を回収して TE buffer で再懸濁し、超音波破砕して Ni-NTA カラムで平 衡化バッファーに 0.02 M イミダゾール/0.02 M リン酸ナトリウム, pH7.4/0.5 M Nacl、溶 出バッファーに 0.5 M イミダゾール/0.02 M リン酸ナトリウム, pH7.4/0.5 M Nacl を用いて 精製した。続いて溶出液をゲルろ過カラムで精製した。カラムは Sephacryl S-300HR を用 い、平衡化バッファーに 0.05 M Tris-HCl, pH8.0/150 mM NaCl を用いて精製した。タンパ ク質の 280 nm の吸光度を測定し、SDS-PAGE で確認した。単離精製の結果を以下に示し た。

5.2.3-1 Mu gp50H の単離精製

シャペロンタンパク質 gp50H は単独で可溶性に発現することが判明したため、本研究の 目的にはないが、単離精製を試みた。以下の図 5.4 に示したように、最終的にゲルろ過カラ ムで精製し、SDS-PAGE で単一なバンドになるまで精製することができた。

図 5.3 Mu gp49H、Mu gp50H(左)と、Mu H-gp51、Mu gp52H のそれぞれの発現の、

15 %ポリアクリルアミドゲルを用いた SDS-PAGE による観察

テイルファイバーMu gp49H(56.5 kDa)、Mu gp52H(53.4 kDa)の分子量に対応す る バ ン ド が 不 溶 性 画 分 ( P) に 見 ら れ 、 シ ャ ペ ロ ン Mu gp50H(21.1 kDa) 、 Mu H-gp51(21.1 kDa)に対応するバンドが可溶性画分(S)に見られた。

Mu gp50H

S P S P

Mu gp49H

kDa

30 42 66

20

Mu gp49H

Mu gp50H

Mu gp52H

S P S P

Mu H-gp51

kDa

30 42 66

20

Mu gp42H

Mu H-gp51

87 5.2.3-2 Mu H-gp51 の単離精製

Gp50H と同様に、H-gp51 の精製を行った。結果を図 5.5 に示した。Mu gp50H はプラ スミドベクターに pET21a(+)を選択したことにより C 末端側に 6xHis-tag を付加しており、

一方で H-gp51 は pACYCDuet-1 を選択したため N 末端側に 6xHis-tag が付加しているが、

どちらも問題なく精製が可能であった。

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0 100 200 300 400 500

140426 Uda

Elution (mL)

A 280

0 f100 f200 ff 300 f400 f 500 0.8

0.6 0.4 0.2 0 1.0

図 5.5 Mu H-gp51 をゲル濾過クロマトグラフィーSephacryl S-300HR による精製

溶出体積に対する 280 nm の吸光度を測定した(左)。吸光度が高かった 300 mL の画分 を 15 %ポリアクリルアミドゲルを用いた SDS-PAGE で分析し、Mu H-gp50 の溶出を 確認した(右)。

kDa

30 42 66

20

Mu H-gp51

Elution (mL)

A 280

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

0 100 200 300 400 500

Data 1

0 f100 f200 ff 300 f400 f 500 0.8

0.6 0.4 0.2 0 1.0

図 5.4 Mu gp50H をゲル濾過クロマトグラフィーSephacryl S-300HR による精製 溶出液の 280 nm の吸光度を測定した(左)。吸光度が高かった 280 mL の画分を 15 %ポリアクリルアミドゲルを用いた SDS-PAGE で分析し、gp50H の溶出を確認 した(右)。

kDa

30 42 66

20 Mu gp50H