3.1 序論
第 2 章で、Mu ファージのネックサブユニット gp36(Mu gp36H)の構造解析に成功し、
本研究の目的である Mu ファージのネックの配置について、Mu gp29 と Mu gp36 の配置が 予想できた。また、当研究室で進めている全サブユニットの構造解析に向けて 1 歩前進し た。本章では、Mu gp36H に続いて、それ以外のネックサブユニットの構造解析に向けて、
Mu ファージのネックサブユニットであると予想された Mu gp29、Mu gp35、Mu gp37、
Mu gp38 について[1-3]、Mu gp36H と同様に単離精製と構造解析を試みた。
3.2 Mu ファージのネックサブユニットの大量発現と単離精製
3.2.1 Mu gp35H、Mu gp37H、Mu gp38H、T7-gp29、Mu gp29H 発現ベクターと発現菌 の作成
Mu gp35H、Mu gp37H、Mu gp38H 発現ベクターは、gp36H 発現ベクターと同様に PCR 法によっ DNA 断片を増幅し、pET21a(+)に導入した。プラスミドベクターの精製と増幅は アルカリ SDS 法で行い、シーケンス解析によって塩基配列に変異がないことを確認した。
Gp29 発現ベクターは、当研究室で過去に精製実績があった T7-gp29 発現ベクター(N 末 端に T7-tag が付加するようにプライマーを設計した)を利用して単離精製まで行い、続い て精製条件の検討と収量の確保のため、C 末端に 6xHis-tag が付加した Mu gp29H の発現 ベクターを作成した。T7-gp29 発現ベクターはと gp29H 発現ベクターは pET21a(+)のマル チクローニングサイトの、それぞれ BamHI と SalI の間と NdeI と XhoI の間に gene29 を挿 入した。調製したプラスミドベクターで大腸菌 BL21(DE3)pLysS 株を形質転換し、Mu フ ァージのネックサブユニットを発現する発現菌を作成した。目的タンパク質の発現は 15%
ポリアクリルアミドゲルを用いた SDS-PAGE で確認した。
3.2.2 T7-gp29、Mu gp29H、Mu gp35H、Mu gp37H、Mu gp38H の大量発現と単離精製 Ampicillin を終濃度 50 µg/mL になるように加えた 3L の LB 液体培地で発現菌を 18℃で 培養し、OD600 = 0.6 のタイミングで IPTG を終濃度 1mM で加えて発現を誘導し、18℃で 24 時間振とう培養した。回収した発現菌を 10 倍量(w/v)の TE buffer で再懸濁した。そ れぞれの単離精製の過程と結果を以下に示した。
57 3.2.2-1 Mu gp35H の単離精製
ゲルろ過カラムで Mu gp35H の精製を行った。Mu gp35H は 280nm のモル吸光係数の低 さのため、ペプチド結合に由来する 210nm の吸収を利用して観察した。精製の結果を、図 3.1 に示した。図 3.1 左に、溶出液の 50 本の画分と溶出体積に対する 210 nm の吸光度を示 し、図 3.1 右に、SDS-PAGE による溶出液の分析を示し、gp35H の溶出位置の確認と、結 晶化が可能な純度であるかを確認した。
Mu gp35H の溶出は、460 mL~490 mL の溶出体積で確認された。SDS-PAGE で単一な バンドが確認できたため、限外ろ過で濃縮した。最終精製物の濃度測定を Bradford 法によ って行い、発現菌の培養に用いた LB 液体培地の量に対する gp35H の収量は 19 mg/L であ った。
その後、Crystal screen(Hampton Research)による 96 種類の沈殿剤を用いた結晶化の スクリーニングを試みたが、結晶は得られなかった。原因や検討については後述し、また沈 殿剤の組成は Appendix に記載した。
3.2.2-2 Mu gp37H の単離精製
Mu gp37H をゲルろ過カラムで精製した結果を、これまでと同様に図 3.2 に示した。340 mL~440 mL の溶出体積で gp37H の溶出が見られた。280 nm の吸光度と SDS-PAGE のバ ンドの濃さから、溶出の頂点は 400 mL 付近であった。Gp35H、gp36H の溶出範囲が 40 mL 程度であったことと比較して gp37H の溶出範囲が 100 mL であったことから、Mu gp37H は溶液中で多量体を形成していると予想した。これについては電子顕微鏡で観察すること で検討を行った。Mu gp37H の溶出液をまとめて限外ろ過し、280 nm の吸光度から濃度と 収量を計算し、培養に使用した LB 液体培地に対して 26 mg/L が得られた。
その後 Mu gp35H と同様に結晶化を試みたが、結晶は得られなかった。
kDa
30 97 45
20 14
Mu gp35H
図 3.1 Mu gp35H (14.8 kDa) をゲルろ過カラムで精製した結果、広い範囲で 210 nm の吸光度が 検出された(左)。15 %ポリアクリルアミドゲルを用いて SDS-PAGE を行った
0 0.4 0.8 1.2
A280
0 100 200 300 400 500
Elution (mL)
58 3.2.2-3 Mu gp38H の単離精製
Mu gp38H の分子量とカラムの分画範囲の関係から、Mu gp35H、Mu gp36H、Mu gp37H の精製に利用した Sephacryl S-500HR に対して、Mu gp38H は Sephacryl S-300HR を利用 して精製した。
結果を図 3.3 に示した。300 mL~330 mL の溶出体積で Mu gp38H の溶出が見られた。
SDS-PAGE で単一なバンドが確認できたため、限外ろ過で濃縮した後に、280 nm の吸光度 から濃度と収量を計算し、培養に使用した LB 液体培地に対して 7.3 mg/L を得た。
Mu gp38H についても結晶化を試みたが、結晶は得られなかった。
(A) (B) (C)
kDa
30 45 97
20
14
Mu gp37H (A) (B) (C)
図 3.2 Mu gp37H(21.4 kDa)をゲルろ過カラムで精製した
15 %ポリアクリルアミドゲルを用いて SDS-PAGE を行い、Mu gp37H の溶出を 確認した。
0 0.2 0.4 0.6 1.0
A280
0.8
100 200 300 400 500
Elution (mL)
kDa
30 45 97
20
14 Mu gp38H
図 3.3 Mu gp38H ( 8.1 kDa)をゲルろ過カラムで精製した結果、400 mL
付近にタンパク質の溶出が見られた(左)。15 %ポリアクリルアミドゲル を用いた SDS-PAGE で分離した
0 0.2 0.4 0.6
A280
0 100 200 300 400 500 600
Elution (mL)
59 3.2.2-4 T7-gp29 の単離精製
当研究室で過去に T7-gp29 の精製を行った実績があり、過去の手順に従って、以下のよ うに単離精製した。各段階の操作手順については Appendix に記載した。まず、TOYOPEARL DEAE 650M(東ソー、カラム体積 100 mL、以下 DEAE カラム)で単離精製を試みた。平 衡化バッファーに 0.05 M Tris-HCl, pH8.0 を利用し、2 mL/min の流速で NaCl の濃度を 0 M、0.1 M、・・・1 M と段階的に上昇させて T7-gp29 を分離した。次に T7-gp29 を含む溶出 液に硫酸アンモニウムを終濃度 1M で加えて硫安沈殿を行った。更に、TOYOPEARL Phenyl 650M (東ソー、カラム体積 100 mL、以下 Phenyl カラム)に遠心上清を 2 mL/min の流 速でチャージし、0.5M 硫安/0.05 M Tris-HCl, pH 8.0 を平衡化バッファーに用いて硫安の 濃度を徐々に下げながら溶出液を分画した。最後にゲルろ過カラム Sephacryl S500HR で、
前述のネックサブユニットの精製と同様に、0.05 M Tris-HCl, pH8.0 /150 mM NaCl を移動 相に用いて単離精製した(図 3.4)。280 nm の吸光度から収量を測定し、培養に用いた LB 液体培地に対して 8 mg/L を得た。
3.2.2-5 超遠心分析による T7-gp29 の分子量の測定
Gp36H と同様に、沈降速度法による分子量測定を行った。アミノ酸配列から計算した T7-gp29 の分子量(Mw)の計算値は 56.9 kDa であり、実測値は 58.3±3.8 kDa であったこと から、単離精製した T7-gp29 は主に単量体であったことが確認できた(図 3.5)。一方で、
高分子量側に広く分子が存在していたため、凝集体が存在している可能性があった。
kDa
30 45 97
20 14
T7-gp29 (A) (B)
(A) (B)
図 3.4 T7-gp29 をゲルろ過カラムで精製した
15 %ポリアクリルアミドゲルを用いた SDS-PAGE で T7-gp29 の溶出を確認した。
0 0.4 0.6 0.8 1.0
A280
0.2
0 100 200 300 400 500
Elution (mL)
60 3.2.2-6 gp29H の単離精製
単離精製した T7-gp29 の結晶化を gp36H と同様に試みたが、条件検討を行っても結晶は 得られなかった。超遠心分析で観察された高分子量の凝集体または不純物が結晶化を妨げ ていると思われた。原因は不明だが、ゲルろ過カラムで得られた単量体が既に変性しており、
精製後に徐々に凝集したのではないかと考えた。加えて、T7-gp29 の単離精製では収量が LB 液体培地 1L あたり 8 mg 程度と、結晶化などに十分な純度と収量を得られなかった。そ こで、Mu gp29 の C 末端に 6xHis-tag を付加した組み換え体 Mu gp29H の発現ベクターを 作成し、発現菌を Ni-NTA カラムとゲルろ過カラムで精製することにした。
発現ベクターの作成は前述したとおりにおこない、発現菌を超音波破砕した懸濁液を Ni-NTA カラムとゲルろ過カラムによって精製した。Ni-Ni-NTA カラムの平衡化バッファーには 0.04M イミダゾール/0.02 M リン酸 Na, pH8.0/0.5 M NaCl を利用し、0.5 M イミダゾール で溶出した。ゲルろ過カラムは Sephacryl S-300HR と平衡化バッファーに 0.05 M Tris-HCl, pH8.0 / 150 mM NaCl を利用した。Gp29H の検出には 280 nm の吸光度と、15 %ポリア クリルアミドゲルによる SDS-PAGE を利用した。
その結果、420 mL~470 mL に gp29H の溶出が見られ、収量は LB 液体培地 1L あたり 18 mg と、結晶化には十分な量が得られた (図 3.6)。一方で、T7-gp29 の精製では見られな かった 220 mL~250 mL(排除体積)に溶出が見られた。この排除体積の溶出は凝集体また は多量体だと予想したが、T7-gp29 の精製では見られず gp29H でのみ見られた原因が分か らなかった。これについて、精製条件を変更して T7-gp29 の精製を再度試みることにした。
420 mL~470 mL 付近の溶出は 280 nm の吸光度から収量を測定し、培養に用いた LB 液体 培地に対して 11 mg/L であった。
図 3.5 T7-gp29 の沈降速度法による超遠心分析の結果を示した。
T7-gp29
計算値:56.9 kDa 実測値:58.3±3.8 kDa
61
3.2.2-7 Phenyl カラム精製によって凝集体が沈殿していた
ゲルろ過カラムで精製した Mu gp29H は、排除体積に溶出が確認された。これについて、
T7-gp29 の精製段階のうちで最も苛烈なバッファー環境だと思われた Phenyl カラム(と硫 安沈殿)を除外し、DEAE カラムとゲルろ過カラムのみで単離精製した。その結果、T7-gp29 でも Mu gp29H と同様にゲル濾過カラムで排除体積に T7-gp29 の溶出が見られた(図 3.7)。 このことから、硫安沈殿や Phenyl カラムの過程で 1 M 硫安濃度環境下においた T7-gp29 は、排除体積に溶出する T7-gp29 が沈殿して単量体のみが可溶性に存在できることが分っ た。また、排除体積の T7-gp29 を回収し、P22 gp1 のように 12 量体リングなどの構造が見 られないか透過型電子顕微鏡で観察することにした。なお、280 nm の吸光度から T7-gp29 単量体の収量を計算し、培養に用いた LB 液体培地に対して 22 mg/L となった。
(A) (B)
Mu gp29H kDa
30 45 97
20 14
(A) (B)
図 3.6 Mu gp29H をゲルろ過カラムで精製し、220 mL と 320 mL 付近
にタンパク質の溶出が見られた(左)。15 %ポリアクリルアミドゲルを用いて
SDS-PAGE を行い、Mu gp29H が 220 mL と 320 mL の両方に溶出したことと、320 mL の溶出は SDS-PAGE で単一なバンドになるまで精製できたことを確認した(右)。
0 0.1 0.2 0.3 0.5
A280
0.4
100 200 300 400 500