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4.4.5 4.4 節のまとめ

4.5 界面活性剤を用いて重水中に分散した SWNTs の偏光発光励起分光

4.5.4 結果と考察

4.5.4.3 PL マップの分解

ともにおおよそ10対1程度となっている.また,軸垂直励起ピークは非対称な形をしており,高 エネルギー側に長いテール構造を伴っている.一方,軸平行励起のE22ピークは高エネルギー側に 第3章で同定したフォノンサイドバンドピークを伴っているが,大きなテール構造はほとんど見 られない.

ー側にある E11フォノンサイドバンドピークも主として軸平行励起のIT//のマップに現れている.

E22フォノンサイドバンドもIT//のマップに分離されており,軸平行励起の主吸収ピークに伴うフォ ノンサイドバンドと,ITのマップに分離された軸垂直励起に伴う低エネルギー側のサイドバンド の起源が明確に異なることが確認できる.ITのマップでは,(7, 5),(6, 5)SWNTsの発光ライン 上で強度の小さいピーク(励起エネルギー1.5~1.55eV付近)がG'バンドのラインに乗っているよ うに見える.この結果については何らかの物理を反映している可能性があるが,今回の測定のS/N 比では議論は難しく,今後のレーザー光源を使った精密な測定が望まれる.

4.5.4.4 様々な(n, m)SWNTsの軸垂直励起PLマップ

本研究では,(6, 5), (7, 5)以外のカイラリテイのSWNTsについても軸垂直励起による明確なピー クが存在するかどうかを調べるため,さらに低発光エネルギー側での PL マップ測定を行った.

(7,6) (8,4)

(8,6) (9,4)

(a) (b) (c)

G’ G’

(d) (e)

(7,6) (8,4)

(7,6) (8,4)

//

IT IT

IVV IVH rexp

Fig. 4.26 (a, b) PL and (c) anisotropy maps in the emission energy range of 1.03-1.15 eV.

Decomposed PL maps for (d) collinear (I//) and (e) perpendicular (I) dipoles. Dotted lines in (d) and (e) indicate the emission energies of respective SWNTs. Solid lines indicate the position of Raman lines for the G' band.In Fig.4(e), PL peaks for I spectra are indicated by arrows.

Fig. 4.26に,1.03 eV ~ 1.15 eVの発光エネルギー領域における,IVVIVHrexpIT//ITのマッ プを示す.IVHは係数Gによる補正を行ったものであり,IT//ITの計算には,r// =0.31を用いた.

IVVIVHを比較すると,IVV のマップと比べてIVHのマップでは各ピークの発光強度は半分程度と なり,ピークの数が増えている.rexpについては,(7, 5),(6, 5)SWNTsの場合と同様それぞれの

(n, m)SWNTsのE22ピークトップにおける値は~0.3程度とほぼ等しくなっている.E22ピークは 軸平行励起によるものであるため,E22ピークトップでのrexpr//に近づく.

このエネルギー領域では,(7, 6),(8, 4)SWNTsの発光ピーク強度が大きく,Fig. 4.26ではこ れらのカイラリティの SWNTs について明瞭な軸垂直励起ピークが観測されている.直径の太い

SWNTsの発光に対応する低発光エネルギー領域では様々なカイラリティに対応するPLピークが

近接して存在しているため,IVVIVHの違いだけからは様々なピークのオーバーラップにより軸 垂直励起ピークの詳細を見極めるのは難しいが,PL anisotropyを用いてIT//ITのスペクトルに分 解したことで,(7, 6),(8, 4)SWNTsについても(7, 5),(6, 5)SWNTsの場合と同様に,2つの 軸垂直励起ピークが存在することが確認できる.この結果は,軸垂直励起に対して2つの近接し たピークが観測されることが,特定のSWNTsに特有の事例ではないことを示唆している.

4.5.4.5 軸平行励起と軸垂直励起に対するPLEピーク位置の比較

Fig. 4.27に,本研究で測定された軸平行励起,軸垂直励起それぞれに対するPLEピークのエネ

0.8 0.9

1 1.5 2

Tube Diameter (nm)

Excitaiton Energy (eV)

(6, 5)

(7, 5) (7, 6)

(8, 4)

E12 E21

(a) (b)

0.8 0.9

1 1.5 2

Tube Diameter (nm)

Excitation Energy (eV)

(6, 5) (7, 5)

(7, 6) (8, 4)

// ⊥ (E11+E22)/2

E11 E22

( )( )

Fig. 4.27 (a) Observed peak positions in PLE spectra for several (n, m) types. Symbols in parentheses are ambiguous by approximately 40± meV due to overlap of other large PL peaks. (b) Calculated transition energies for ∆l=0 (black cross) and ∆l=±1 (red circle) transitions within the TB approximation.

ルギーのプロットと,SWNTsの曲率を考慮したTight-Binding(TB)近似により計算された結合状 態密度のピーク位置[84]のプロットを比較して示す.Fig. 4.27bに示したTB近似による計算結果 から,軸垂直励起遷移に対してE12,E21遷移に対応する 2種類の励起ピークの存在が期待される ことがわかる.TB近似のような1電子近似の範囲内の計算では,価電子バンドと伝導バンドの非 対称性が無視できる場合,E12とE21のバンドギャップエネルギーは縮退し,そのエネルギーはE11 とE22遷移のエネルギーの平均値(E11 + E22)/2と一致する.しかしながら,価電子バンドと伝導バ ンドの非対称性を考慮する場合にはE12とE21は縮退せず,2つのピークのエネルギー差は価電子 バンドと伝導バンドの非対称性を反映して決まる[83].

Fig. 4.27からわかるように,SWNTsの曲率を考慮し価電子バンドと伝導バンドの非対称性も考

慮した TB計算から,本研究での測定結果と同様に,E11ピークとE22ピークの間に軸垂直励起に 対して2つのピークが予測され,観察された2つのピークエネルギーの差もTB近似による計算 結果とよく似ている.したがって,それぞれの(n, m)SWNTsに対して2つずつの軸垂直励起ピ ークが観測されたことについては TB 近似による結果と矛盾せず,測定されたピーク対は E12と E21遷移に対応するものだと考えられる.

一方,軸垂直励起ピークと軸平行励起ピークの相対的なピーク位置に注目すると,測定結果は 1 電子近似による予測と矛盾している.観測された軸垂直励起ピークの対と E11,E22遷移エネル ギーを比較すると,観測された軸垂直励起ピークは1電子近似による予測値(E11 + E22)/2から明

らかに200 ~ 300 meV程度ブルーシフトしている.バンドギャップだけを考慮した1電子近似の

範囲内ではこのような大きなブルーシフトは説明できない.しかし,励起子効果を考慮すると,

このような違いは軸平行励起と軸垂直励起遷移に対する励起子結合エネルギーの違いとして説明 できる.

軸垂直励起遷移についての励起子効果については,現在までにZhaoとMazumdar[85]およびUryu とAndo[86, 87]による理論研究が行われている.ZhaoとMazumdar[85]は,電子相関を考慮してE12 と E21のエネルギーが縮退する場合について計算を行い,E11 ,E22のエネルギーと比べて軸垂直 偏光による光学遷移エネルギーが大きくブルーシフトすることを予測している.一方,Uryu と Ando[86, 87]は,軸垂直励起に対する励起子効果と反電場効果[72]を考慮した最近の計算で,励起 子効果を考慮しない場合には反電場効果により観測できない軸垂直励起遷移のピークが,励起子 効果を考慮すると観測可能なピークとして現れ,そのエネルギーは大きくブルーシフトするとい う結果を報告している.