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KEn=∞

G- band (Raman)

2.4 第 2 章のまとめ

第2章では,様々なCVD温度でアルコールCCVD(ACCVD)法[36, 37, 64]によって合成され たSWNT試料のPL測定による相対発光強度の比較を行い,CVD温度を変化させることで各PL

ピークの相対発光強度が変化することが明らかとなった.このような相対発光強度の変化につい て詳細に検討した結果,直径が細いSWNTsについてはアームチェア型に近いナノチューブの相対 発光強度が大きくなることがわかった.次に,理論研究[19, 20]からのカイラリティごとに固有の 発光強度の予測値を用いて各カイラリティごとの相対存在比を推定し,発光測定の結果と吸光測 定の結果の詳細な比較によりその妥当性を検討した.その結果,光吸収測定においても直径の細 い領域ではアームチェア型に近いタイプのSWNTsの相対吸光度が大きいことがわかった.このこ とは,直径の細い領域における相対発光強度のカイラリティ依存性は内部緩和確率の違いのみに よらず,実際のカイラリティ分布の偏りを反映している可能性が高いことを示唆している.そこ

で,SWNTs初期生成核であるキャップ構造のカイラリティごとの安定性の違いに着目し,直径の

細い場合にカイラリティ分布が偏るメカニズムを提案した.また,分子動力学法によるエネルギ ー計算によりそのようなモデルの妥当性を検討し,カイラリティ制御合成に向けた指針を示した.

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単層カーボンナノチューブの発光励起スペクトルにおける 同位体効果

3.1 はじめに

本章では,炭素13同位体からなる単層カーボンナノチューブ(SW13CNTs)の合成と,SW13CNTs を用いた発光励起スペクトル中の励起子・フォノン散乱ピークの同定について述べる.

界面活性剤溶液中に分散したSWNTsの発光励起スペクトルには,チューブ軸平行偏光による励 起に対応する主吸収ピーク以外に幾つかの起源の不明なサブピークが存在する.したがって,各 カイラリティごとの相対発光強度を正しく見積もるために,それぞれのサブピークの起源を解明 し,カイラリティごとの励起スペクトル形状の詳細ついての知見を得る必要がある.

一般的に,固体の励起子吸収スペクトル中にはゼロフォノン線と呼ばれる励起子直接遷移の吸 収線の他に,フォノンサイドバンドと呼ばれる励起子-フォノン散乱に伴う吸収線が現れる[50].

SWNTsの励起スペクトル中にもこのようなフォノンサイドバンドが存在することが予想され,理

論的にも明確な励起子フォノンサイドバンドの存在が示唆されている[70].また,それらの理論的 予測に基づいて,実験で測定された励起スペクトル中のサブピークをフォノンサイドバンドとし てアサインし,励起子-フォノンカップリングのカイラリティ依存性を見積もる試みも行われてい る[18].

しかしながら,従来の実験的研究[17, 18]ではピークの位置と形状のみに基づいてフォノンサイ ドバンドをアサインしており,サブピークの起源についての実験的な検証は未だなされていない.

また,従来研究は,波長可変のTi:sapphire レーザを用いた近赤外領域の E11遷移付近のピーク構 造の観測に限られており,可視光領域の励起スペクトルについての研究は行われていない.主に カイラリティ分布の見積もりに重要な E22励起子の励起エネルギーは可視光領域から近赤外領域 にわたっており,可視光領域での励起スペクトルの詳細は,相対蛍光強度の正確な測定のために 極めて重要である.

フォノン関連の光学遷移ピークの同定には,同位体効果の測定が有効である.そこで,本研究 では炭素13同位体置換エタノールを原料ガスとして用いたアルコールCVD 法によりSW13CNTs

を合成し,界面活性剤溶液中に分散したSW13CNTsと通常のSWNTsの励起スペクトルの比較から,

フォノンサイドバンドピークの同定を試みた.

同位体置換エタノールは非常に高価であることから,本研究ではCVD実験装置と手順を少量の 原料エタノールからの合成を可能とするものに最適化した.3.2節では励起子フォノンサイドバン ド,3.3節ではフォノンエネルギーの同位体シフトについて説明し,3.4節にてSW13CNTsの合成 方法を述べる.3.5.1節では合成したSW13CNTsの共鳴ラマン分光測定について述べる.ラマン分 光法により,SW13CNTs 中のフォノンエネルギーが炭素質量の違いによってどのように変化する かを確認することができる.3.5.2節では界面活性剤中に分散したSW13CNTsの発光励起スペクト ルを通常のSWNTsの励起スペクトルと比較し,フォノンサイドバンドピークを同定する.