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4.4.5 4.4 節のまとめ

4.5 界面活性剤を用いて重水中に分散した SWNTs の偏光発光励起分光

4.5.4 結果と考察

4.5.4.7 軸垂直励起に対する励起子結合エネルギーの見積もり

Fig. 4.29 に,励起子遷移エネルギー,励起子結合エネルギー,準粒子ギャップの関係を表した

模式図を示す.軸垂直励起に関係する第1(もしくは2)価電子サブバンドと第2(もしくは1)

伝導サブバンド間のバンドギャップE12gap,Egap21 (以降,区別しないときはEgap と表記する)は,

定性的に軸平行励起に対する第1サブバンド間のバンドギャップE11gapと第2サブバンド間のバン ドギャップEgap22 から,

0 1 2

Energy [eV]

E11 E22 E12, E21

Exciton

Eb1

Eb2

Eb

Quasi particle band gap

E11 E22

gap

E11 gap

E22 gap 21 gap 12 ,E E

0 1 2

Energy [eV]

0 1 2

Energy [eV]

E12E21

Fig. 4.29 Schematic of excitonic transition energy, exciton binding energy and and quasi-particle band gap.

2 / ) E E (

Egap11gap+ gap22 (4.111)

のように見積もることができる[83].バンドギャップエネルギーE11gap,Egap22 ,Egap と実際に測定さ れた光励起エネルギーE11,E22,Eの差を励起子結合エネルギーEb11,Eb22,Ebと表すと,(4.111)

式より(E+Eb)≈(E11+E22)/2+(Eb11+Eb22)/2となる.Fig. 4.27からわかるように,実際の測定 結 果 に お い て は 明 ら か に E は (E11+E22)/2 よ り 大 き い[ E−(E11+E22)/2>0 ]か ら ,

0 E 2 / ) E E ( 2 / ) E E (

E11+ 22b11+ b22b > となり,軸平行励起の励起子結合エネルギーの平均値 と比べて軸垂直励起の励起子結合エネルギーが小さいことがわかる.軸垂直励起の励起子結合エ ネルギーEbは,

2 ) E E E

2 ( E

Eb≈Eb11+ b2211+ 22 (4.112)

と表されるので,軸平行励起の励起子結合エネルギーEb11,Eb22がわかればEbを見積もることが できる.

E11軸平行励起の励起子結合エネルギーについてはこれまでに2光子吸収実験による測定が行わ れており[13-15],直径が0.7~1 nm程度のSWNTsについて0.3~0.45 eV程度の値が報告されている.

一方,E22遷移の励起子結合エネルギーについては現時点では直接の測定値は得られていないが大 まかに見積もることはできる.Perebeinosら[49]によれば,軸平行励起遷移についての励起子結合 エネルギーEbはEbAbdtα2mα1εαと表される.ここでAb,αは定数,mはバンドの有効質量,

εは実効誘電率であり,α=1.4の値がフィッティングにより求められている.この式から,E22励 起子の結合エネルギーEb22は,近似的に第1サブバンドの有効質量m1と第2サブバンドの有効質 量m2の比を用いて

1 1.2

0.3 0.4

Dukovic et al.

Maultzsch et al.

1/dt (nm–1) Exciton binding energy Eb11 (eV)

Fig. 4.30 Exciton binding energy Eb11 [14, 15] plotted as a function of inverse diameter.

( )

b11 1 1 2

b22 / E

E = m m α (4.113)

と表すことができる.カイラリティごとに有効質量の比は異なるため,ここではJorioら[88]によ り拡張 TB 法を用いて計算された有効質量を用いる.なお,電子と正孔の有効質量は若干異なる ため,比の計算には有効質量として電子と正孔の有効質量の換算質量を用いた.

Eb11の値については,これまでにWangら[13], Dukovicら[14]およびMaultzschら[15]による測定 値が報告されている.それぞれの結果はともに 2 光子吸収測定によるもので,1 光子吸収との選 択則の違いから,1 光子過程では励起できない高次の励起子準位への励起を行い,光学活性な最 低励起子準位のエネルギーと高次の励起子準位のエネルギー差から励起子結合エネルギーを見積 もっている.Fig. 4.30に,Dukovicら[14]およびMaultzschら[15]による励起子結合エネルギーEb11 の測定値をチューブ直径の逆数の関数として示す.Fig. 4.30 から,それぞれの測定値には比較的 大きなばらつきがあるが,大まかには励起子結合エネルギーが直径に反比例していることがわか る.本研究で軸垂直励起エネルギーを測定したSWNTsのうち,(8, 4)SWNTsについては測定値 は報告されていないので,本研究ではDukovicら[14]の結果からfittingによって求めた関係式

dt

314 .

Eb11≅0 (4.114)

を用いて(8, 4)SWNTsのEb11を推定する.ここでは直径の値として,(1.2)式により計算される 値を用いた.その他のカイラリティについては,Dukovicら[14]のEb11の測定値を用いた.

Fig. 4.31 に,式(4.112)によって推定した軸垂直励起に対する励起子結合エネルギーEbと,

軸平行励起の励起子結合エネルギーEb11,Eb22を各カイラリティごとに直径の関数としてプロッ

0.8 0.9

0 0.2 0.4 0.6

(6, 5)

(7, 5) (8, 4)

(7, 6) Eb11

Eb22

Eb⊥

Tube diameter (nm)

Exciton binding energy (eV)

Fig. 4. 31 Comparison of estimated exciton binding energies for excitation by light polarized parallel (black circle) and perpendicular (red triangle) to the nanotube axis.

トしたものを示す.ここでは軸垂直励起エネルギーとして,観測された2つのピークのうち低エ ネルギー側のピークについての測定値を用いた.Fig. 4.31 から,それぞれのカイラリティについ て軸垂直励起に対する励起子結合エネルギーEbは軸平行励起に対する励起子結合エネルギー

Eb11の約半分から3分の2程度の大きさになっていることがわかる.