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KEn=∞

G- band (Raman)

3.6 第 3 章のまとめ

本章では少量の同位体置換エタノールからのナノチューブ合成に最適化したACCVD法により SW13CNTsを合成し,共鳴ラマン分光によりフォノンエネルギーが原子質量の平方根 12/13だけ 小さくなっていることを確認した.さらに,SW13CNTsを界面活性剤中に分散した系においてPLE 測定を行い,通常のSWNTsのPLEスペクトルと比較することで,(7, 5)および(6, 5)の励起子 フォノンサイドバンドを同定した.

0.2 0.3

0.5 0.6 0.7

Emission Intensity (arb. units)

(b)

C'

Eex – E22 (eV) +

13C

12C +

13C

12C

1.8 2 2.2 2.4

1 2

Emission Intensity (arb. units)

B' C'

(a)

Excitation energy (eV) E22 (6, 5)

E22 (8,3)

Fig. 3.9 (a) PLE spectra of (6, 5) nanotubes around the E22 transition energy, and (b) magnifications of the PLE spectra around peak C′ for (6, 5) nanotubes plotted as a function of energy difference from the E22 energy. Each spectrum-intensity is normalized by the E22 intensity and the peak-top intensities are leveled in (b) for comparison.

4

単層カーボンナノチューブの発光励起スペクトルの 光学異方性

4.1 はじめに

本章では,PLEスペクトルにおけるSWNTsの光学異方性を明らかにし,これまでに起源の同定 されていないPLEピークがナノチューブ軸に対して垂直な偏光による励起に起因するものである ことを示す.

第 3章では,励起子・フォノン相互作用に起因する励起子フォノンサイドバンドピークの同定 を行った.一方で,すべてのサブピークがフォノン関連のものではないことも明らかとなった.

フォノンサイドバンドピーク以外でPLEスペクトル上に現れるピークがあるとすると,次にその 起源として疑われるものとしてSWNTsの光学異方性があげられる.SWNTsの光学応答はその一 次元性により,入射光の軸方向に対する偏光角に大きく依存して変化する.理論的には,SWNTs の光学遷移は軸方向と直径方向の偏光に対して異なる遷移則に支配されており,軸平行偏光と軸 垂直偏光に対するバンドギャップは大きく異なることが予想されている[72-74].軸に対して一定 の角θを持つ偏光の場合は,その光電場ベクトルを軸平行成分と軸垂直成分に分解して考えるこ とができる.選択則の詳細は4.2節にて説明する.

ここ数年,発光励起分光法(PLE spectroscopy)は半導体SWNTsの電子構造を調べるために広 範に用いられている[6-18, 75].これらPLEを用いた研究は主にSWNT軸に平行な遷移モーメント に注目して行われている.最近では,理論と実験の両面から,SWNTsの光学遷移エネルギーは電 子-正孔の強い束縛状態である励起子の形成に支配されているということが明らかとなりつつあ る[46-49].

一方で,SWNTs軸に垂直な偏光に対するPLE測定はこれまでほとんど行われてこなかった.反

電場の効果によって,1電子近似の範囲内では軸垂直偏光の吸収はほぼ0となることが理論的に 予測されており[72],多くの従来研究では軸垂直励起については無視できるとして解析が進められ てきた.なお,反電場の効果とは,入射光の電場により誘起される表面電荷の作り出す電場によ って,実効的な電場がほとんどゼロになってしまう効果である[72].

軸垂直励起に関するPL 測定の従来研究としては,現在までに,Lebedkin ら[8]によって,レー ザー蒸発法により合成されたSWNTsを界面活性剤で重水中に孤立分散したサンプルのPL測定実 験において,PL anisotropy(後述)[76]の測定が行われている.Lebedkinら[8]は,数種類の励起エ ネルギーにおいてPL anisotropy スペクトルを測定している.彼らの報告では軸垂直励起による明 確なピーク構造は観測されていないが,SWNTsの光学励起において,軸垂直方向の遷移モーメン トの寄与が励起エネルギーに依存して変化するという報告がなされている.

バンドルSWNTsサンプルに対するラマン分光や光吸収測定の報告では,軸垂直励起の存在を示 唆するものが幾つか報告されている[77-80].しかしながら,チューブ間相互作用によりバンドル

状SWNTsの光学応答は孤立系とは大きく異なっており[6],一般にバンドル状SWNTsは発光しな

い.したがって,PLE測定には孤立系のSWNTsを用いる必要がある.

本研究では,SWNT 軸垂直偏光による励起ピークをとらえるために 2 種類の方法を用いた.1 つ目の方法では,孤立分散したSWNTsをある程度配向させてゼラチン薄膜中に固定し,薄膜に対 する偏光PLE測定によってPLEスペクトル中の各ピークの偏光依存性を観測した.この方法のメ リットは,薄膜中でSWNTsが物理的に配向しているため,軸垂直励起によるピークをダイレクト に捕らえられることである.一方で,SWNTsの凝集を防止するマトリックスとしてゼラチンを用 いるため,ゼラチンとSWNTsの相互作用がPLEスペクトルに与える影響が避けられないという デメリットがある.また,本研究で使用するXeランプ光源の出力では,液中分散の場合と比較し て高いS/N比を得ることは難しく,測定可能なのは発光強度の強い一部のカイラリティに限られ

るうえ,SWNTsを完全に配向させることは極めて難しく,作成可能な不完全な配向のサンプルで

は強い軸平行励起のピークのオーバーラップにより小さい軸垂直励起ピークの同定が難しい.

そこで,2つ目の方法として,物理的にSWNTsを配向させるのではなく,PL 測定に一般的に 用いられている界面活性剤分散SWNTsサンプルを用いて,入射励起光の偏光と観測される発光の 偏光の関係から軸垂直励起ピークの同定を試みた.本研究では L-format 法[76]と呼ばれる方法を 用いた.この方法のメリットとして,一般的に使われている界面活性剤分散系のSWNTsを用いる 測定でありゼラチンなどの影響を考慮しなくてよいことがあげられる.また,PL anisotropy の理 論[76]を用いて,SWNTsの軸平行励起と軸垂直励起に対する PLE スペクトルを分解することで,

軸平行励起と軸垂直励起のPLマップをそれぞれ作成することが可能となる.また,液中分散系の サンプルを用いるので,本研究で用いた Xe ランプ光源の出力でも充分なS/N比を得ることがで き,様々なカイラリティについての軸垂直励起のエネルギーを測定することができる.

本章では,4.3節にて配向をもつSWNTs試料の偏光吸収および発光の定式化を行い,4.4節では

SWNTs配向ゼラチン膜の作成と,偏光光吸収,PLE測定について述べる.偏光PLE測定により,

第3章において明確な同位体シフトを示さなかったPLEピーク(Fig. 3.5 ピークBなど)が,チ ューブ配向方向に対して垂直な偏光の入射光に対するスペクトルにおいて相対的に強調されると いう結果を得た.4.5節では,軸垂直偏光に対する幾つかの PLE ピークの相対的な強調が,界面 活性剤分散ランダム配向SWNTs のL-format 偏光測定によっても観測できることを示す.また,

PL anisotropyを用いて,各励起と発光のエネルギーにおける軸平行励起と軸垂直励起の寄与を求

め,PL マップを軸平行,軸垂直吸収それぞれに対応する成分に分解して,「純粋な」軸垂直励起 PLマップを作成する.さらに,得られた軸垂直励起に対する遷移エネルギーをTight-Binding(TB)

法による計算と比較する.測定された軸平行,軸垂直遷移エネルギーは,1電子近似の範囲内で 定性的に予想される軸平行,軸垂直遷移エネルギーの関係と大きく異なっており,その定性的な 違いについて励起子効果を考慮して議論する.