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4.4.5 4.4 節のまとめ

4.5 界面活性剤を用いて重水中に分散した SWNTs の偏光発光励起分光

4.5.2 ランダム配向 SWNTs 試料の偏光発光励起分光

4.5.2.1 光学系と試料の配置

Fig.4.19に,本節で使用した光学系と試料の配置の概略を示す.入射光側モノクロメータによっ

E

I

VV

I

VH

Detector

Quartz depolarizer Glan-Taylor

polarizing prism

Quartz depolarizer NIR polarizing filter

micelle- z suspended SWNTs

Light Source

y

x IR transmitting filter

Fig. 4.19 Schematic diagram of experimental set up for polarized PLE measurement.

て単色化された入射光は,まず石英偏光解消板(SIGMA-KOKI,DEQ-2S)を通り装置依存の偏光 が解消された後,試料の手前に置かれたグランテーラー偏光プリズムを通って z 軸方向の直線偏 光となり試料に入射する.入射光により励起された試料からの発光は,z軸および入射光側と垂直 な方向に置かれた近赤外用偏光子を通り,検出器側モノクロメータの手前に置かれた石英偏光解 消板により再び偏光解消されて検出器側モノクロメータに入射し,発光強度が検出される.Fig.

4.19に示すように,検出器側偏光子は,入射光偏光方向に対して平行(IVV)もしくは垂直(IVH) 方向に向けて測定を行った.なお,偏光子のアラインメントは,z軸方向の直線偏光を入射したと きのシリカ微粒子の希薄コロイド溶液によるレイリー散乱光を IVV,IVHの偏光子配置にて測定す ることで確認した[76].

4.5.2.2 測定データの補正

測定したデータについては,通常のPLE測定と同様に装置関数,検出器ダークカウントについ て補正するとともに,偏光子,偏光解消板などの光学素子の透過率のエネルギー依存性について も補正を行う必要がある.最終的に補正された,入射光強度で規格化されたPL発光強度のスペク トルをIPL,補正をかけていない発光強度の検出信号の生データをS,入射光強度の検出信号の生

データをR,検出器ダークカウントをDで表すと,IPLSの関係は次式のようになる.

mf mp m dp xp x dp c

c

PL RRT T T T T

S D

I = (S− ) (4.75)

ここで,Scは装置依存の検出感度のエネルギー依存性,Rcは入射光強度リファレンスの検出感度 の光子エネルギー依存性を補正する装置関数である(第1章1.3.5節, 付録A.1参照).TdpxTxp

m

Tdp, TmpTmfはそれぞれ,励起光側偏光解消板の透過率,入射光用偏光プリズムの透過率,発光 側偏光解消板の透過率,発光側偏光子の透過率,そして発光側赤外透過フィルターの透過率の光 子エネルギー依存性である.本節でスペクトル補正に用いたそれぞれの光学素子の透過率の光子 エネルギー依存性を付録A.1に示す.なお,Tdpm, Tmpについてはその積TdpmTmpを示した.

上記の補正の他に,IVVIVHの比についての補正も必要である.測定系の偏光依存性や偏光子を 回転したときの微妙な光路のずれなどに起因して発光の検出感度には偏光子角度依存性があるた め,それに関する補正も必要となる.式(4.75)で補正した発光強度をそれぞれIVV',IVH'と表し,

z軸方向偏光(“V”偏光)に対する発光測定系全体の感度をSV,y軸方向偏光(“H”偏光)に対 する感度をSH,と置くと,真の発光強度IVVIVHとの関係は,偏光角度によらない比例定数をk として

VV V VV kS I

I '= (4.76)

VH H

VH kS I

I '= (4.77)

のように表される.これらから,IVV',IVH'とIVVIVHの関係は,

VH VV VH

VV H V VH VV

I G I I I S S I

I = =

'

' (4.78)

となる.したがって,右辺の係数G=SV/SHがわかれば正しいIVVIVHの比を求めることができ る.係数Gの値を求めるには,入射光偏光の方向をx軸方向として,IHV(z軸方向偏光の発光), IHH(y軸方向偏光の発光)のシグナルを測定する.入射光偏光方向をx軸方向にとった場合,入 射光によるランダム配向SWNTsの励起強度分布はx軸に関して対称になるので真の発光強度IHV

IHHは等しく,その比は1になるはずである.したがって,測定された発光強度をそれぞれIHV',

HH'

I とおくと,

S G S I I S S I I

H V HH HV H V HH

HV = = ⋅1=

'

' (4.79)

により,係数Gの値が求まる.本研究で用いた光学系に対しては,1.92 eV (645 nm)の励起光によ るIHV',IHH'スペクトルの測定により,G=1.15±0.04の値を得た.以下,IVVIVHの比の補正に はこの値を用いる.

4.5.2.3 SWNTsの光学遷移の選択則と発光偏光の関係

Fig. 4.20 に,SWNTsの光学遷移の選択則と,観測される発光の偏光方向の関係の概略を示す.

E

Incident light polarized for z-axis

I VV I VH

Randomly oriented SWNTs

v1 v2 c1 c2

v1 v2 c1 c2

Z

(a) (b) (c)

y

x

Fig. 4.20 Schematics of optical transitions in SWNTs corresponding to (a) parallel and (b) perpendicular absorption and emission dipoles. Solid and dotted arrows indicate ∆l=0, and ∆l=±1 transitions, respectively. (c) Schematic diagram for the measurement of PL anisotropies of randomly oriented SWNTs.

Fig. 4.20(a,b)には,選択則と光吸収,発光の双極子モーメントの方向とSWNTs軸方向の関係を示 した.4.2 節で述べたように,SWNTs 軸に平行な偏光による励起の場合には,円周方向の波数ベ クトルを変えないような遷移(∆l=0遷移, Eii 遷移)が許容となるのに対し,軸垂直励起の場 合には,円周方向の波数ベクトルを±K1だけ変化させるような∆l=±1遷移が許容となる.ここで,

lはグラフェンの2次元Brillouin zone内のサブバンド(カッティングライン)指数を表す.

本研究で注目する軸垂直偏光の吸収による第1サブバンドと第2サブバンド間の遷移は,E12 遷移およびE21遷移と呼ばれる.E12 とE21の2通りがあるのは,Fig. 4.20からわかるように第 1 サブバンドと第 2 サブバンドのどちらの価電子バンドからどちらの伝導バンドに電子が励 起されるかによって2通りの過程があることによる.なお,E12 遷移とE21遷移に対応するバ ンドギャップは,価電子バンドと伝導バンドが対称的な場合には縮退するが,価電子バンド と伝導バンドが非対称な場合には縮退しない[83].

前述のとおり,SWNTsの発光は主として最低エネルギーギャップを持つ第1サブバンド内 の電子と正孔の再結合による発光であるから,発光の双極子モーメントは常にSWNTs軸に平 行だと考えられる.Fig. 4.20cは,本研究での偏光PLE測定で,z軸方向の偏光により励起される

SWNTs の軸方向と光吸収の双極子モーメントおよび発光の偏光方向の関係を示したものである.

定性的には,ナノチューブの軸方向と発光側偏光子の方向が一致する場合にそのナノチューブか らの発光のシグナルが最も強調されるため,発光側偏光子の方向が,ランダム配向している SWNTsの中から主として測定されるSWNTsを決めることになる.したがって,Fig. 4.20cからわ かるように,IVVスペクトル中では,軸平行励起に起因する発光(∆l=0吸収 → l=0発光) が強調されるのに対して,IVH スペクトル中では軸垂直励起吸収に起因する発光(∆l=±1 absorption → ∆l=0 emission)を強調することが出来る.