第4章 平和構築と政府開発援助
⑥ OECD/DAC
先進国を中心とする加盟国からなる国際機関である OECD の開発援助委員会
(DAC)は、先進ドナー諸国の開発援助政策にかかわる広範な課題に関する政策 討議の場である。DACでは様々な課題を討議するための下部組織が設けられてい るが、このうち平和構築支援にとくに関係が深いのは、「紛争・平和と開発協力ネ ットワーク(Network on Conflict, Peace and Develoment Cooperation: CPDC)」およ び「脆弱国家グループ(Fragile States Group: FSG)」である。DACは独自の「支援 現場」を持つわけではないが、ドナー各国の2国間援助の様々な経験・知見・教 訓を持ち寄り、平和構築にかかわる様々な課題の概念整理、指針・マニュアル作 りを行っている。国連と異なり途上国主権への過度の配慮の必要性はなく、紛争 予防、脆弱国家への支援、安全保障制度改革支援などの分野で率直な討議と指針 作りの作業が行われている。全体戦略の観点から重要であるのは、第1に、DAC は政治・経済・安全保障の3分野を不可分のものとして認識し、より包括的な支 援体制を組むことを強調していることである。そして第2に、すべての開発支援 活動に「紛争配慮(conflict sensitive)アプローチ」、「紛争予防の視点(conflict prevention lens)」を採用することを求め、紛争の構造的要因にODAを効果的に利
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用し働きかけて暴力紛争勃発の予防に資することを目指していることであろう。
⑦ 世界銀行
世銀が現在のような形で紛争後の平和構築支援にかかわるようになったのは、
1994 年にヨルダン川西岸・ガザ地域への支援に関与し、さらに 1995年のデイト ン和平合意締結後のボスニア復興支援に取り組んで以来のことである。1997年に は社会開発部にポストコンフリクト・ユニット(Post Conflict Unit: PCU)が設置 され、ポストコンフリクト基金(Post Conflict Fund: PCF)が設立された。2001年 には「紛争と開発に関する業務指針(Operational Policy on Conflict and Development
Co-operation、通称OP2.30)」が制定され、紛争と開発の明確な関連性が世銀内で
公式に認識されることとなった。この指針においては、支援対象国を、紛争に対 する脆弱性を持つ国(countries vulnerable to conflict)、紛争中の国(countries in conflict)、紛争状態から移行しつつある国(countries in transition from conflict)に 分類し、それぞれに適した支援策を提示している。
さらに、3節で述べるように、統治機能の脆弱な国家に対する支援を可能にす るための体制が整えられている。
2.移行期の支援と人間の安全保障
(1)人道から開発への継ぎ目なき支援の必要性
国際社会が平和構築支援に取り組み始めたのは、1990年代初頭のいわゆる「複 合的人道危機」への対応からであった。複合的人道危機とは、紛争や国内での政 治的対立・大規模人権侵害などの複数の要因が絡み合いながら大規模かつ急激に 進行する人道危機のことである。通常、大規模な人口移動を伴うこれらの危機の 解決には、難民・避難民支援やその他様々な緊急人道支援活動とともに、紛争の 解決への政治的な活動を必要とするが、人道支援から復興・開発支援への橋渡し がスムーズに行かないという問題が生じるようになった。
これにはいくつかの要因がある。人道支援とは19世紀以降の赤十字活動にその 源流を持ち、国際人道法の原則に基づいて戦争中に中立的な人道組織が文民の保 護と援助を行う活動であり、極端な混乱状況下でなければ、紛争中から、または 紛争終結直後から現場での支援活動を行うことへの躊躇はない。中立性、不偏性、
独立性という人道的原則に基づいて、紛争当事者との交渉によって犠牲者に直接 支援する長年の活動経験を、人道支援機関は保持している。これに対し、開発援
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助機関は、伝統的に安定した国内政治・治安状況下に相手国政府をパートナーと して長期的に取り組む支援である。したがって、紛争後の不安定な社会で復興支 援に迅速に取り組む知見には限られたものがあった。また、支援プログラム策定 や資金拠出の面でも、人道支援に比べて復興・開発支援の出遅れが散見された。
緊急人道援助は、いわゆる「CNN効果」もあって目に見えやすい、成果が明確に 見える支援である。ドナー諸国にとっては、人道支援への資金拠出は国内的な説 明も容易である。他方、復興・開発支援は、中・長期的な取り組みであってその 支援プログラム策定も、現地社会のオーナーシップや能力育成などを考慮して持 続性のあるものとしなければならない。そもそも、紛争後の支援のうち何が人道 支援で何が復興支援であるかの厳密な区別などは不可能なのだが、平和構築支援 において、緊急支援から復興・開発支援への間に「継ぎ目」が生じ、様々な障害 が発生することとなった。
復興支援開始の遅延は、人道支援機関の活動の終結を遅らせ、人道支援への現 地社会の依存を生みやすいだけでなく、紛争の終結が生活の向上に直結すること
(これを「平和の配当」とも呼ぶ)を目に見える形で民衆に納得させ、ボトムア ップでの平和の持続化を図るという、平和構築支援のひとつの重要な戦略にも悪 影響を及ぼす。事実、統計上紛争の約44%は5年以内に再発しており(Paul Collier et al., Breaking the Conflict Trap: Civil War and Development Policy, Washington DC:
The World Bank, 2003, p. 83)、紛争終結後早い時期に復興支援を軌道に乗せ、国内 状況の向上を図らなければならないことが明らかになった。そして、Collier らの 2006 年の研究によれば、紛争再発のリスクは経済復興の達成と国連 PKO部隊な どの展開による治安確保によって軽減されることが検証されているのである。
(2)スムーズな移行期支援のための各国の努力
継ぎ目なき支援の重要性は、1990 年代後半以降、国連難民高等弁務官事務所
(UNHCR)などの呼びかけによる国連開発計画(UNDP)や世銀などとの協力に よって、支援コミュニティーの主要課題になった。その成果もあり、1990年代の 終わりごろから、各国はいわゆる移行期における迅速で柔軟な支援を可能にする ために、新たな予算スキームの設立などの方策を講じている。日本においても緊 急無償支援や平和構築無償スキームなどの設置がなされたが、主要ドナー国にお ける傾向を概観する。
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① イギリス
イギリス国際開発省(UK Department for International Development: DFID)は1997 年に紛争および人道問題部(Conflict and Humanitarian Affairs Department)を設置 した。それぞれの地域部が人道・開発双方の支援プログラム策定を行うが、紛争 分析を通して一貫した支援アプローチを採用している。さらに2001年にはサハラ 以南アフリカと、世界の他の地域をカバーする、2つの「紛争予防(予算)プー ル(Conflict Prevention Pools: CPPs)が、DFID・国防省・外務省の共同で設置され た。純粋な人道支援、難民支援および地雷除去のための拠出はそれぞれ個別の予 算枞があるためCPPからはなされない。CPPは移行期における人道・復興にまた がる多面的な支援を可能にしただけでなく、後述する全政府アプローチを推進す る上でも重要な意味を持っている。
② アメリカ
アメリカ国際開発庁(US Agency for International Development: USAID)は1994 年に民主主義・紛争・人道支援局(Bureau for Democracy, Conflict and Humanitarian Assistance)内に、移行期イニシアティブ室(Office for Transition Initiative: OTI)
を設置した。OTIは、緊急人道支援フェーズ後の2-3年間の移行期に焦点を当 て、長期的な開発支援を可能とするような基盤を確立するための様々な支援を行 っている。OTI は迅速で柔軟な支援プログラム運用を重視し、緊急予算執行など が可能な体制を保持している。
③ 北欧諸国
2002年にノルウェーが設置した移行期予算ライン(Transition Budget Line)は、
人道から復興へのギャップを埋める国際社会の努力にひとつのモデルを提供した と言われている。この予算からは、紛争から平和への移行期にある国々への支援 がなされるが、この分野における国際社会全体の効果的な支援能力構築も目的の ひとつとされており、通常の2国間援助のドナーが拠出を躊躇するようなハイリ スクの状況での活動も積極的に支援する。デンマークやオランダも、迅速な移行 期支援を可能とする特別な予算枞組みを設置している。
これに対し、スウェーデンは特別な予算枞組みは設置せず、2つの方策によっ て継ぎ目のない支援に貢献している。1つには、通常の予算枞組みを一層柔軟に 運用することによって、人道・開発支援予算の双方が移行期の様々な支援活動に 支出されるよう努力することである。そして2つ目には、移行期に各種の支援プ ログラムを運用しているマルチの機関(国連など)に積極的に資金を拠出するこ
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④ 世銀
世銀は前述のように、1997年にポストコンフリクト(脱紛争)基金(Post Conflict Fund: PCF)を設立し、世銀の通常の支援が可能でない、または適当でない紛争後 の国々に、開発支援フェーズの始まる前の移行期から関与できるようにした。PCF からの支援はとくに、創造的な手法を用いた平和構築アプローチや、2国間ドナ ー、国連、NGOとパートナーシップを組んだプログラムへの支援を優先対象とし て掲げている。また、後述するように、世銀はいわゆる脆弱国家支援においても 積極的な取り組みを始めており、この分野では「緊迫した状況下にある低所得国
(Low Income Countries Under Stress: LICUS)イニシアティブが2002年に設立され ている。
⑤ 国連
国連システムの継ぎ目なき支援確立のための努力は、移行期における各機関の 資金調達プロセスと、支援プログラムのニーズ・アセスメントおよびプランニン グの両方を、共同で行う枞組み作りがその中核をなしている。2002年には、人道 支援諸機関からなる国連システム内の人道問題執行委員会(Executive Committee on Humanitairna Affairs: ECHA)と、開発援助機関からなる国連開発グループ(UN Development Group: UNDG)が共同で移行期課題作業部会を設置した。資金調達 に関しては、既存の統一資金アピール・プロセス(Consolidated Appeals Process:
CAP)を強化することによって、同じドナー諸国から活動資金を調達しなければ ならない国連の人道・開発諸機関が、「資金の奪い合い」といった競合関係に陥ら ないようにし、また資金調達アピールのベースとなる活動プログラム策定もより 一貫性のあるものになるよう、ニーズ・アセスメント段階からの調整・協力を促 進している。
(3)人間の安全保障
移行期の継ぎ目のない支援を促進するのに役立っているのが、日本が概念整理 に中心的な役割を果たした「人間の安全保障」の考え方である。人間の安全保障 は、個人の物理的安全から基本的人権の保護、そして食料・教育・保健など基本 的なニーズの提供までを含むため、概念としてあまりに幅が広くわかりにくいと の批判も一部研究者からある。しかしこの包括性こそが、移行期における援助の 現場では、それぞれの支援セクター・マンデートによって分断的に設置され、官