広 瀬 訓
1.アフリカの現状と現行援助の問題点
(1)はじめに
「アフリカ」と一口に言っても、そこには様々な地域、様々な国があり、ひと くくりに扱うことはできない。援助の対象としても、ケニアやタンザニアのよう に場合によっては火種を内包しながらある程度安定し、経済成長が軌道に乗りか けている国々から、ナイジェリアのように大きな人口と天然資源を有しながら低 迷している国、シエラレオネやリベリアのようにようやく内戦が終わったばかり の最貧国、あるいはスーダンのように内戦が続いている国、また、ソマリアのよ うに内戦から事実上無政府状態になった、「破綻国家」あるいは「崩壊国家」と呼 ばれている地域まで、実に多種多様である。これが「アフリカではありとあらゆ る開発の問題を見ることができる」と言われる所以である。したがって、「対アフ リカ援助政策」という一本化した政策を立案しようとすること自体、大きな無理 があるといわなければならない。とくにアフリカの場合には、ケース・バイ・ケ ースで検討しなければならない問題の比重が非常に大きいことを念頭において議 論を進めなければならないと言える。
また、今回の調査では、とくに今年(2008年)日本で開催される第4回アフリ カ開発会議(TICAD IV)および主要8カ国(G8)首脳会議(洞爺湖サミット)
を念頭において、これらの国際的な舞台において日本に期待されている役割につ いても積極的な調査を行い、その結果も含めている。したがって、最近の動向だ けでなく、日本に対する助言、苦言も多く含まれている。当然それらの中には、
日本にとって厳しい指摘も尐なくないが、裏を返せば、日本に対する国際的な期 待がそれだけ大きいと言うことができる。そのようにご理解いただければ幸いで ある。
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(2)ミレニアム開発目標(MDGs)
現在のところ、国際的な開発の枞組みとしては、2000年の国連ミレニアム・サ ミットで採択されたミレニアム宣言およびその後設定されたMDGsが具体的な目 標として重視されているが、この基準に照らして現在のアフリカの抱えている問 題を挙げてみたい。
① アフリカの中では「優等生」とみなされている国々
これらの国々の場合、ある程度MDGsの達成は可能だとみなされている。しか し、問題は、その水準を自力で維持できるかどうかである。つまり、国民の生活 水準がある程度まで向上した段階で、東アジアの国々のように、きちんと被援助 国から「卒業」できるかどうかはまだはっきりとしていない。最大の問題は、依 然として経済基盤が脆弱だということである。現在のところは、国際的な援助を 活用することにより、MDGsの達成へ向けての進展が見られるが、援助が将来的 に縮小された場合、自力でその水準を維持できるレベルまでの経済力はまだ育成 されていない。むしろ、MDGsの達成へ向けて、社会セクターが重視された結果、
経済成長、とくにプライベート・セクターの開発がやや軽視される傾向が散見さ れる。これではせっかく人々の健康状態や教育水準が向上し、マンパワーが育成 されたとしても、それが適切な雇用と、それによる経済の向上に反映されない可 能性が出てくることが危惧されている。
② 資源を有しながら開発が低迷している国々
最大の問題はガバナンスが貧弱なことである。これらの国々は、資源を輸出す ることにより、かなりの外貨収入を得ている場合が多く、経済援助の必要性は比 較的低いと言える。しかし、その外貨収入が必ずしも人々の生活の向上や産業基 盤の多様化による経済の強化につながっていない。結果として国民の大多数は貧 しいままであり、人間開発指標(HDI)やMDGsの達成度では低迷する傾向が強 い。また、特定の資源の輸出への依存度が高いために、国際市場の価格変動によ る影響を受けやすく、経済が極めて不安定であり、輸出する資源の価格が長期に わたり低迷するような事態が発生した場合、経済に深刻なダメージをこうむる可 能性も高い。また、国内での産業と人材の育成が遅れているということは、資源 を加工することによって付加価値を付けることが難しいということであり、この 点でも経済的には不利な状況に置かれていると言わなくてはならない。
③ 「最貧国」と呼ばれている極めて貧しい国々
その多くはサブサハラと呼ばれるサハラ以南の地域に集中している。これらの
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国々にとっては、2015年までにMDGsを達成することはほとんど不可能な課題で ある。すでに、MDGsの策定当初より、これらの国々におけるMDGsの達成は疑 問視されていたが、スケジュールの半ばに差し掛かってもその達成度ははかばか しいものではなく、MDGsを開発計画の目標として掲げること自体、現実的では ないとの批判も出されている。また、これらの国々に対する国際的な援助も、社 会水準の向上というよりは、最低限の保健、衛生、教育等を提供するという性格 が強く、実質的には開発援助というよりは、人道援助の延長と呼ぶべきものが大 半を占めている。その結果、これらの国々においては、政府が国際的な援助に依 拠して最低限の公共サービスを提供していると言うべき側面があり、本当の意味 での自立へ向けての歩みは必ずしも明確ではない。しかし、いつまでも援助に依 存し続けるような体質が、援助国、被援助国の双方にとって望ましくないことは、
言うまでもない。また、これらの国々の多くは、ガバナンスの点でも改善の余地 が大きく、現在の状況のままで援助を増やしたとしても、果たしてそれを有効に 活用するだけの能力があるかどうか疑問が大きい。
④ 国内が極めて不安定な国々
これらの国々の中には、依然として内戦状態が続いている国、一応停戦が成立 しているが、依然として政情が不安定な国、あるいは事実上統治機能が麻痺もし くは崩壊している国が含まれる。これらの国々に生活する人々はほとんどの場合 最も厳しい生活を強いられており、日常的に生命の危険にさらされているケース も珍しくない。また、難民もしくは国内避難民として実質的に生活基盤を失って いる場合も多い。その意味では最も緊急かつ切実に国際的な支援を必要としてい る地域であるということができる。しかし、現実には、これらの国々に対して有 効な援助を実施することは物理的に極めて困難であり、また大きな危険を伴う場 合がほとんどである。さらに、これらの国々を放置することにより、難民の流出 が継続、拡大したり、戦闘行為がエスカレートした場合、周辺諸国にも深刻な影 響が出ることが懸念されており、そのような観点からも、何らかの対策が求めら れている。
(3)援助の偏りと被援助国の能力不足
全般的な傾向としては、やはり「アフリカ=貧しい」というイメージが先行し ているためか、保健衛生、教育といった社会セクターに対する援助が他の地域に 比べると重視され、まだ社会基盤の整備が十分ではないというイメージともあい
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まって、経済開発のための協力が後手に回っているとの危惧が援助関係者の間で 広がっている。当然のことながら、後天性免疫不全症候群/エイズ(HIV/AIDS)・ マラリアのような感染症予防や、識字率の向上はいずれにしても不可欠の分野で あり、それらの分野に対する援助の重要性は否定できないものの、その成果が開 発に結びつくような、次のステップに対する協力が極めて不十分であり、せっか くの社会セクターでの成果が経済セクターへ十分に波及していないと言うことが できる。
また、ガバナンスの低さや透明性、アカウンタビリティ等、受入国側の能力の 問題も大きく、かりに援助を拡大しても、果たして受入国がきちんとそれを消化 し、有効に活用できるかどうかという疑問も大きい。とくにこの問題は、最近の 中国のアフリカ諸国に対する「ばら撒き」援助の拡大等により、真面目にガバナ ンスを要求する援助が、場合によっては忌避される可能性が出てきている。
さらにもう一つの問題は、アフリカ諸国が直面している問題には人々の生存そ のものにかかわるような切迫したものが多く、常に目の前の深刻かつ具体的な問 題の対応に追われ、環境問題、とくに地球温暖化のように長期的かつ地球的な規 模での問題に対しては、「そこまで手が回らない」という消極的な姿勢が目立ち、
これらの問題に対する援助の受け入れには、あまり熱心ではない点である。しか し、アフリカだけでなく、世界的な対応が必要とされているこのようなグローバ ルな問題に、今後どのようにアフリカ諸国を巻き込んでゆくかも課題である。
2.対アフリカ協力の見直しの動向
(1)アフリカ重視
第1節で述べたようなアフリカの現状と問題点を踏まえて、主要各国および国 際機構ともアフリカへの支援を重視する姿勢が、近年極めて顕著に見られるよう になってきている。具体的には、アフリカ関係の部局の新設や拡大、またアフリ カにおけるプロジェクトの増加やアフリカに対する予算の拡大などが見られる。
その背景としては、もちろんアジアやラテンアメリカ各国に対する援助の必要性 が、それらの国々の開発の進展に伴って減尐していることや、旧ソ連の中央アジ アの数カ国を除いては、旧ソ連東欧諸国に対する支援が一段落したことにより、
アフリカの立ち遅れが目立つようになったことが挙げられる。とくに最貧国とそ こで生活する絶対的貧困層の大部分がアフリカに集中しており、援助の必要性が