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図3.49.一NH2伸縮振動バンドに対するイオン対の効果.(A)および(B)は,・それぞれHF法 およびラマン測定により得られた結果を示している.
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3.8.溶媒和構造とガラス転移
溶媒和構造とガラス転移との関連性について考察する.これまでに2成分系 のTgの異常を説明するモデノ?がいくつか提案されている.アミンーアルコール 系で見られるTgのピークは,混合による水素結合密度の変化から説明されてい
る[26,33].また,目立った異常が現れない正則溶液系のTgは,混合による構造 変化が小さいことによって説明されている[71].これらのモデルは,ガラス転 移の異常を1つのメカニズムによって説明している.一方,複数のメカニズム がガラス転移を支配している場合には,そのメカニズムのクロスオーバーに よってTgに異常が現れる可能性がある. Wahab et al.は,チオシアン酸カリウム のメタノールー水混合系溶液の電気伝導度を測定して,溶液のモル伝導率を支配 する相互作用が濃度によって異なり,これらがクロスオーバS一一一一・することを報告
している[72].彼らは,希薄な溶液では,溶媒心あるいは溶媒一イオン間の相 互作用が支配的であるが,濃厚な溶液では,イオン問の相互作用が支配的にな
ることを提唱した.また,K6hlerθ≠鳳は, LiCl一グリセロール系の分子運動につ いて,低塩濃度ではグリセロールの配向運動が支配的であるが,高塩濃度では イオンの並進運動が支配的になることを報告している[73]。
12PDA溶液のTgには,ラマン分光測定の結果にほぼ一致して,低塩濃度域で は溶媒の影響が強く,高塩濃度域では溶質の効果が顕著に現れる.これまでの 議論から,溶媒分子間水素結合から,イオン間あるいはイオンー溶媒分子間の 相互作用へのクロスオーバーが,(NaClO4)x(12PDA)1.xのTgの濃度依存性に反映
されると予想される.(NaClO4)。(12PDA)1.xでは,溶解度の限界によりx>0.40で
のTgは不明である.多くの物質では, Tgが融点の2/3程度となることが報告さ れている[74,75].この結果から類推して,NaClO4の融点を分解温度の753 K[59]
として仮定すると,NaClO4のTgは503 Kと見積もられる. x>0.40では, Tgが 503Kまで単調に増加することが予想される. x≧O.30での濃度変化をx>0.40 に外挿して推測されるTgの濃度依存性を図3.50に示す.支配的な相互作用の過 渡的な変化が,Tgの濃度依存性に反映されている.すなわち, x≦0.25およびx≧
0.25におけるTgは,それぞれ溶媒本来の水素結合構造とイオン間相互作用に支 配された溶媒和構造を反映している.図350に示した破線は,予想される各濃 度変化を延長して示している.競合する2つの相互作用のクロスオーバーが,
x=・O.25付近に変曲点を示すTgの異常として観測されている.
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図3.50.(NaC104)x(12PDA)1.、におけるTgの濃度依存性.実験データは□で示され, x≦0.25 およびx≧O.25の濃度範囲におけるフィソティング曲線がそれぞれ破線で示され ている.実線は全濃度域におけるTgの濃度変化を示している.挿入図は, x<0,5 の濃度域におけるTgの濃度変化を拡大して示している.
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4.結論
溶液の構造と動的性質は,その物理的性質を理解するための本質的な特性で ある.これまでの溶液の研究は,室温にある水やアルコールの希薄溶液が主流 であり,濃厚溶液や過冷却液体についての知見は比較的少なかった.また,非 水溶液系の中でも,アミンを対象とした研究はきわめて少なかった.本研究で は,無機塩の溶解度が高くかつ容易に過冷却液体となる多価アミン溶液に着目 し,この溶液の溶媒和構造と動的性質ついて新たな知見が得られた.水素結合 構造とガラス転移温度との関連性が幅広い濃度および温度範囲に亘って研究さ れた.詳細な融点相図を得ることにより,(NaClO4)。(12PDA)1「xでは,今まで知
られていなかった溶融化合物が存在することに加え,分子のダイナミクスを反 映する結晶化やガラス転移に異常が現れることが明らかにされた.また,この 溶液の構造を支配する相互作用は,塩濃度の増加に伴って,溶媒分子間水素結 合からイオン間あるいはイオンと溶媒分子との相互作用へと過渡的に変化する ことが明らかにされた.12PDA溶液内のアニオンおよびカチオンは,直接相互 作用してイオン対を形成することが量子化学計算によって検証された.さらに,
塩添加に伴う溶媒和構造の変化がガラス転移温度の異常として反映され,ガラ ス転移温度の濃度依存性は,競合する2つの相互作用のクロスオーバーで説明 された.低温で溶媒本来の水素結合構造が回復:するという水溶液やアルコール 溶液の結果とは対照的に,濃厚な12PDA溶液では,低温でも溶媒本来の水素結 合が回復しないことが明らかにされた.溶媒和構造と動的性質に対する理解を
より深めるためには,種々の溶質および溶媒について,幅広い温度および濃度 範囲をカバーする詳細な研究が必要である.本研究は,アミンを用いた研究が 過冷却液体の構造と動的性質をより理解するために有用であることを実証した,
今後,12PDA以外の多様なアミン溶液についても研究が拡がり,水やアルコー ルの結果と比較しながら,過冷却液体の構造と動的性質の本質について明らか
にすることが必要である.
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謝辞
本研究を行うにあたり,研究の基盤となる物理的な基礎知識だけでなく,研 究の計画から論文のまとめ方まで幅広く御記導いただいた鳴門教育大学准教授 本田亮博士に心より感謝する.理論と実験の両面から溶液化学の豊富な知見を 御教示いただいた岡山大学教授喜多雅一博士に感謝する.理科教育の視点から,
研究の展望について御教示いただいた兵庫教育大学教授松本乱臣博士に感謝す る.また,実験手法を中心に,研究の構想から論文執筆まで昼夜這わず長期間 にわたって懇切丁寧に御助言いただいた鳴門教育大学准教授武田清博士に感謝 する.兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程の講義や試験を通し て,研究に関わる有益な情報を御提供いただいた鳴門教育大学教授今倉康宏博 士,同教授村田守博士および同教授近森憲助博士,岡山大学教授稲田佳彦博士,
上越教育大学教授小林辰至博士の各位に感謝する.研究の継続を奨励してくだ さった鳴門教育大学自然系コース(理科)の先生方に感謝する.この研究を始める 機会を与えていただいた徳島県立那賀高等学校元校長渡部俊雄氏,研究を継続 できるよう御支援いただいた徳島県立三好高等学校校長松村茂氏,同高等学校 前校長(現徳島県立城西高等学校校長)瀬部昌秀氏をはじめ所属校の教職員なら びに徳島県教育委員会関係者各位に感謝する.実験において,器具や試料の準 備,装置の調整等で協力してくれた研究室の大学院生,学部生諸氏に感謝する.
最後に,常日頃よりこの研究を温かく見守り精神的に支えてくれた三訂友子と 長女いろはに感謝する.
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