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N

2

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の温度コントローラ上での加熱炉の出力を記録し、別途温度測定のみを行った。

図③-(2)-1.23 に ITO/PET 基材が軟化を開始する条件を△シンボルで示す。この結

果から、本構成で各基材線速において設定可能な炉内ガス温度(加熱炉出力)が判明 した。基材上に溶液が塗布され他状態においては基材が変形することなく搬送可 能な雰囲気ガス温度は基材のみの場合と比較して高温であると考えられる。しか し、溶液の供給が途切れるなどした場合の基材の断線防止を考え雰囲気ガス温度 は図の△で示した温度で示した以下であることが望ましい。これらの条件に合致 する溶液種、塗膜厚の選定が必要である。次に、PEDOT:PSS 水分散液(Heraeus,

CLEVIOS P AI 4083)を塗布溶液とした膜を行った。PEDOT:PSSは使用した溶液の

中で最も熱処理にエネルギーを要する材料であり、この溶液の熱処理条件が見出 せれば他の成膜種についても同様の基材線速での成膜が可能と考えられた。基材 としては基材のみでの加熱試験と同様のものを用い、乾燥後の膜厚が約 100nmと なるようにPEDOT:PSS水分散液を塗布した。結果、熱処理部を二段通過させ、一 段目のガス温度を図③-(2)-1.23中の〇シンボル、二段目のガス温度を同図中の□シ ンボルの値としたとき、基材は断線することなく十分に溶媒が蒸発した状態で薄 膜が得られた。続いてP3HT:PCBMトルエン溶液(P3HT:PSBM重量比1:0:8、3wt.%)、 PVDFメチルエチルケトン溶液(2wt.%)、PMMAメチルエチルケトン溶液(2wt.%)に ついて同様の熱処理条件で成膜を行い、それぞれ180nm、 670nm、79nmの膜厚で 成膜に成功した。予想膜厚との差を表③-(2)-1.2 に示す。以上のようにして、目標 とした各成膜種について基材線速 50m/min での成膜が実現できた。現状の装置構 成では多段の熱処理を行った場合熱処理部間の雰囲気制御が十分に行われておら ず、乾燥中の膜が大気にさらされることで酸化などを伴う可能性がある。そのた め、デバイス作成への利用を前提とした成膜では1段の加熱部で熱処理が可能な 基材線速を調べてこの線速で薄膜を形成した。

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0 100 200 300 400 500 600 700 800

0 10 20 30 40 50 60

炉内温度( ℃ )

基材線速( m/min

加熱炉1 加熱炉2 基材変形炉温

図③-(2)-1.23 ITO/PET基材及びPEDOT:PSS成膜基材の熱処理実験

表③-(2)-1.2 成膜実験結果

膜種 有機半導体 圧電体 導体 絶縁体

材料 P3HT:PCBM

(1:0:8) PVDF PEDOT:PSS PMMA

溶媒 トルエン MEK 水 MEK

濃度 [wt%] 3 2 1 2

粘度 [cP] 0.9 23 24 23

想定膜厚

[nm] 150 301 100 454

測定膜厚

[nm] 146 310 92 440

(2)-1-3-3 電子デバイス向け成膜における長手方向膜厚制御性の確認

基板技術として開発してきた手法・装置がデバイスの構成要素を形成するのに 十分な能力を有することを実証するために、有機半導体膜および導電膜について、

実際の素子作成の一部として成膜を行い、これらの膜について膜厚制御性を確認 した。デバイス向け成膜の具体例として成膜条件詳細と共に結果を記す。

手法適用の対象としたデバイスは有機薄膜太陽電池である。有機薄膜太陽電池 は、材料としてポリマー系半導体材料やフラーレンなどが用いられ塗布プロセス による作成可能で、塗布成膜による低コストでの製造が可能とされる。塗布成膜

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の手法としてはスピンコートなどによるバッチプロセスの他、低コストで形成の ための成膜技術として、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、

スプレーコート、スロットダイコーティング、ブラシプリントなどが研究されて おり 8,9)、これらを用いた Roll to Roll での素子作成についても数十 cm/min~数

m/minでの成膜などが報告されている。また、軽量性やフレキシブル性といった付

加価値を付与しやすい特長をもつ。本研究では有機薄膜太陽電池の形成において スピンコート法を用いて塗布成膜が行われている工程について、ダイコート法に 置き換えた成膜を試みた。

作成した有機薄膜太陽電池の構成概略を図③-(2)-1.24に示す。発電領域は、透明 基板、透明電極層、正孔注入層、バルクヘテロ活性層、裏面電極の積層構造とな っている。発電時、まず透明電極側より入射した光が活性層で吸収され、光励起 によって励起子が発生する。pn 接合の界面へと拡散して電荷が解離した後、正孔 と電子が両面の電極層へと導かれる。本研究では基板として表面に透明導電膜で あるIndium tin oxide (ITO) が成膜されたPolyethylene terephthalate (PET)材料を用い た 。 こ の 基 材 の ITO 側 に 塗 布 成 膜 に よ っ て 正 孔 注 入 層 と な る poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrene sulfonate) (PEDOT:PSS)層を形成し、さ らに積層して活性層の塗布成膜を行った。活性層はp型有機半導体のRegioregular poly(3-hexylthiophene) (P3HT) と n 型 有 機 半 導 体 の[6,6]-phenyl C61-butyric acid methyl ester (PCBM)を混合して形成され、P3HTおよびPCBMはナノレベルで相分 離したバルクヘテロ構造となっている。P3HTとPCBMはそれぞれp型、n型半導 体として代表的かつ入手しやすい材料で、有機薄膜太陽電池等に広く用いられる。

以下、このデバイスへの適用を目指した具体的な成膜手順を記す。

バルクヘテロ層 →塗布成膜

電子供与体:poly(3-hexylthiophene) (P3HT)

電子受容体:[6,6]phenyl-C61-butyric acid methyl ester (PCBM) の混合層

裏面電極(Cathode) アルミ二ウム

正孔注入層 →塗布成膜

導電性ポリマー:Poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(4-styrenesulfonate) (PEDOT:PSS)

透明電極(Anode)

ITO/透明基板

受光

図③-(2)-1.24 作製した太陽電池の膜積層構造概略

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使用したITO/PET基材はフィルム状の PET(厚さ100±5μm)の表面にITO膜を形

成したもの(帝人化成, 500Ω/☐規格サンプル品)を材料とし、幅5mmのスリット加 工を施したものである。塗膜乾燥後の各ダイコート層の膜厚が数百nm以下となる ことから、基材表面の ITO 層の平坦性が形成後のデバイス特性に大きく影響する 可能性がある。そこで、幅5mmのスリット加工を施したITO/PET基材の表面状態 について走査型電子顕微鏡(SEM) (日立, S-4800)で観察したところ、基材の長さ方 向全てにおいて基材端から幅 10μm 程度の範囲ではITO層にクラックが生じてい た。基材幅方向全面にわたる観察の結果、こうしたクラックは基材端部のみに存 在することがわかった。これは基材のスリット加工によるものと考えられる。PET フィルム上に ITO 層が形成された後にフィルム裁断の加工が施されることから、

裁断が鋭い刃などで行われる場合には切断部の ITO がダメージを受けることとな る。デバイス向け薄膜の作成にあたっては、このクラックによる影響を避けるた めに基材端部のITOは事前にエッチングによって除去することとした。

基材中央付近の ITO層表面についての原子間力顕微鏡(AFM) (SIIナノテクノロ

ジー, L-Trace)による観察を行った結果、洗浄後の基材の表面粗さRaは約2.4nmで

あり、試作に十分利用可能とわかった。

バルクヘテロ活性層の材料となるP3HT:PCBM溶液の調合としてP3HT (MERCK, Lisicon SP001)とPCBM (Luminescence Technology, LT-S905)を電子天秤で質量比が

1:0.8の割合となるように秤量し、P3HT:PCBMの濃度は3.0wt.%となるようにトル

エンを加えてスクリュー管瓶で撹拌した(80℃、500 rpm、15 h)。成膜を行う基材と してはITOが成膜されたPET基材(幅5mm、厚さ100 ± 5μm) (帝人化成, 500Ω/☐規 格サンプル品)を用いた。基材の幅方向両端についてはITO層のエッチング処理を 行い、基材の中央に幅2mmのITO層を得た(図③-(2)-1.25(a))。エッチング液(佐々 木化学薬品, エスクリーンIS-3)による処理をお得た基材に対して純水で5分×3回 の洗浄を行った。さらにこの後、デバイス形成部とする前後の約20cmをビーカー に入れ、2-プロパノールおよびアセトンで超音波洗浄を行った。さらに 30分間の UVオゾン洗浄(エム・ディ・エキシマ, MEIRH-S-1-110-H)を行った。これらの洗浄 工程は後にスピンコート成膜によって作成したサンプルとデバイス性能面での比 較を行う際に条件を揃えるためのものである。

ダイコート成膜は基材搬送装置、フロート式の膜厚自動調整機構および塗布ダ イの予備加熱機構を備えたダイコーティング装置、IR 加熱炉を熱源とする雰囲気 加熱装置を用いて行った。ダイのキャビティ形状はx = 0(テーパー始端)から10mm までが角度20°のテーパーをもって、x=10mmから20mmまでが角度1°のテーパ

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ーとなり、x=20から23mmまでが基材進行方向に平行な平坦部となるよう作成し た。成膜時の基材搬送速度は主に熱処理部の出力により決定される。本試作では 作成後のデバイス性能を考え塗膜乾燥までに十分な雰囲気制御が行える500mmの 熱処理部1段で成膜可能な基材搬送速度を採用した。まず、ITO/PET基材を基材搬 送装置の巻出し側ロールにセットし、プロセス(ダイコーティング、熱処理)部を通 過 さ せ て 巻 取 り ロ ー ル ま で の 初 期 配 置 を 行 っ た 後 、 正 孔 注 入 層 形 成 の た め PEDOT:PSS水分散液(Heraeus, CLEVIOS P AI 4083)のダイコーティングを行った (図③-(2)-1.25(b))。このとき成膜条件は基材線速 5m/min、塗布ダイス温度 80℃、

窒素雰囲気加熱、目標膜厚 150nmとした。熱処理工程後、搬送される基材両端約 1mm について純水を含ませたベンコットで成膜層を除去した。次に、同じく基材 連続搬送下でP3HT:PCBM溶液を供給しダイコーティングを行った。このときの 条件は基材線速20m/min、塗布ダイス温度80℃、窒素雰囲気加熱、目標膜厚は150nm とした。

(a) a

(b) (c)

b a’

c b’

c’

PET substrate ITO

PEDOT:PSS