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PEDOT:PSS P3HT:PCBM

V- 1075 e. プロセス安定性

製織ガイドの高速・連続インプリントを行うプロセスについて、その安定性 の評価を行った。隣り合う矩形状の製織ガイド構造のピッチについて、インプ リントの元になる円筒モールド上のピッチを基準とし、送り速度20 m/minにて 高速連続インプリントを行った時の、インプリントされた製織ガイド構造のピ ッチ変動を計測した。(1)円筒モールド 1 周分、(2)1 日(6 時間)連続運 転の2種類について行った。プロセスが安定しない場合には、基準となる円筒 モールド上のパターンピッチの平均値、ばらつき(標準偏差)に対して、変化 が現れると予想される。円筒モールド 1 周分については、ばらつきが増大し、

1日連続運転においては平均値の時間変動が現れることが予想される。

最初に基準となる円筒モールドのパターンピッチの測定を行った。測定は測 定顕微鏡(HISOMET II、ユニオン光学)で行った。隣り合う矩形状製織ガイド パターン(凸部)の左端同士および右端同士の距離を測定した。これらの平均 値が矩形状製織ガイドパターンのピッチに相当する。なお、測定顕微鏡付属の 測長ユニットの表示分解能は0.1 µmである。シームレス円筒モールドを用いた 連続インプリントでは、モールドとインプリントされた繊維状基材のパターン を1対1に対応させることが難しいため、測定はモールド1周分合計314個の 矩形状製織ガイドパターン全てについて行い比較した。図③-(2)-2-1.37 に測定 したパターンピッチのヒストグラムを示す。図のようにピッチは正規分布状で あり、極端にピッチの異なる箇所は存在せず、円筒モールド上にシームレスに パターンが形成されていることが確認できた。円筒モールド上の矩形状製織ガ イドのパターンピッチの平均値は、1000.29 µmであり、設計値1000 µmと一致 している。また、パターンピッチの標準偏差は1.44 µmであった。

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図③-(2)-2-1.37 円筒モールド上の矩形状製織ガイドパターンピッチのヒストグラム

次に、上記円筒モールドを用いて、POF(CK-10、三菱レイヨン)に送り速

度20 m/minにて連続インプリント行った。その他の成形条件は、モールド温度

50ºC、プレス力30 Nとした。その後インプリントされたPOFの円筒モールド 1 周に相当する区間の矩形状製織ガイドパターンのピッチをコンフォーカル顕

微鏡(Optelics S130、レーザーテック)の計測機能を用いて、円筒モールドの

ピッチ計測と同様に、隣り合う矩形状製織ガイドパターンの左端同士および右 端同士の距離を測定し、その平均値を求めた。計測は円周モールド1周分に相 当する、連続する314パターンについて行った。図③-(2)-2-1.38に計測したパ ターンピッチのヒストグラムを示す。計測したパターンピッチの標準偏差およ び平均値はそれぞれ、1.24 µm、 983.78 µmであった。得られた標準偏差は円 筒モールドとほぼ一致している。これは、モールド1周の間に短期的な変動が なく、安定したプロセスが実現できていることを示している。一方、パターン ピッチの平均値は円筒モールドよりも短くなっている。これは、インプリント 中に繊維状基材に印加する張力が一因であると推察される。図③-(2)-2-1.39 に

張力を0.7、1.6、2.9 Nにしたときのインプリントされた矩形状製織ガイドパタ

ーンピッチの変化を示すが、張力が増すにつれてパターンピッチは短くなった。

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張力は送り出しリールとインプリント部との間で制御しており、張力が増すと 繊維状基材は長手方向に引っ張られた状態でインプリント部に進入すると考 えられ、インプリント終了後に、弾性変形により繊維状基材が引っ張られた状 態から元の状態に戻ると推測される。このために、張力が大きいほど、元の円 筒モールドのパターンピッチに比較すると、インプリントされたパターンのピ ッチが短くなると考えられる。

図③-(2)-2-1.38 円筒モールド1周相当区間のインプリントされた矩形状製織ガイド

パターンピッチのヒストグラム

図③-(2)-2-1.39 インプリント中に印加する張力とインプリントされたパターンピッ

チとの関係

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次に、送り速度20 m/minにて、1日(6時間)連続運転を行い、プロセス安 定性の評価を行った。その他の成形条件は、プレス力 30 N、モールド温度 50 ºCとした。サンプルを採取するため、運転開始直後およびその後2時間毎に装 置を一時停止し、サンプル採取後に連続運転を再開した。採取したサンプルは、

任意の場所から連続する矩形状製織ガイドパターン 30 ピッチ分をコンフォー カル顕微鏡により測定し、パターンピッチの平均値を求めた。結果を図③

-(2)-2-1.40に示す。平均パターンピッチの変動幅は 1.25 µmであり、平均パタ

ーンピッチ988.33 µmに対して0.13%に収まっており、極めて変動の小さい、

安定した結果が得られた。このように、確立したプロセスでは、送り速度 20

m/minの高速度にて、短期的変動、日変動ともに極めて少ない安定した成形が

可能であることが示された。

図③-(2)-2-1.40 1日(6時間)連続運転時のパターンピッチ変動

f. マクロパターンとミクロパターンの同時高速連続成形

大きさ数100 µm、段差数10 µmオーダーの矩形状製織ガイド構造とその上

に形成した大きさ数10 µm、段差数µmオーダーのミクロ構造との同時成形プ ロセスの検討を行った。これは製織ガイド構造上に微小な接点構造を形成する 場合など、連続インプリントにより製作する3次元立体構造を用いたデバイス の高機能化を想定したものである。

送り速度20 m/minで連続運転する場合、プレス時間は非常に短い。段差50 µm

のマクロパターンをパターンの段差分成形するには少なくとも50 µmの押し込 み量が必要である。円筒モールドの直径が100 mmの場合、押し込み量50 µm でのプレス時間はわずか13 msecである。この短い時間の間に繊維状基材を数

10 µm永久変形させる必要がある。一般的には温度を高くすると繊維状基材の

粘性が低下するために流動性が高まり変形量が多くなる。そこで、モールドの

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温度を30~100ºCまで変化させた時のインプリント深さの変化を測定した。モ

ールド温度以外の成形条件は、送り速度20 m/min、プレス力30 Nに固定した。

なお、本実験で使用した円筒モールドは図③-(2)-2-1.33 に示した製織ガイドパ ターンを有する円筒モールドの表面に、フレキシブルフォトマスクとポジレジ ストでパターンニングを行い、その後銅の電気めっきを行うことによりミクロ 構造を形成したものである 17,19,20)。インプリント後の矩形状製織ガイドパター ンの深さは、コンフォーカル顕微鏡(Optelics S130、レーザーテック)で測定 した。図③-(2)-2-1.41に結果を示す。

図③-(2)-2-1.41 モールド温度によるパターン段差の変化

このように、モールド温度が上昇するとインプリントされたパターンの段差 が増大することがわかった。次にインプリントされたパターンの状態を見る。

図③-(2)-2-1.42にモールド温度を 40、60、80、100ºCにしたときのインプリン トパターンの光学顕微鏡像を示す。

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図③-(2)-2-1.42 インプリントパターンの表面状態 モールド温度は、(a) 40ºC、(b) 60ºC、 (c) 80ºC、 (d) 100ºC

モールド温度が60ºC以上になると矩形状パターンの平坦部(図③-(2)-2-1.42 の矢印で示した部分)の表面粗さが悪化し、温度が高くなるほど悪化する。図

③-(2)-2-1.43 に連続インプリントに使用した円筒モールドの代表的な表面拡大

写真を示す。図の矢印部分が図③-(2)-2-1.42 で示した矢印のパターン平坦部に 相当するが、図③-(2)-2-1.42 のような表面の荒れは元のモールドには存在しな い。この表面の荒れは、モールド温度が高い場合に、POF表面の樹脂が柔らか い状態で離型するために、離型時または離型後に樹脂の変形により発生したも のと考えられる。従ってミクロパターンおよび成形パターンの表面を荒らすこ となくインプリントを行うためにはモールド温度を 40ºC 以下にする必要があ る。

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図③-(2)-2-1.43 円筒モールドの表面状態

しかるに、前述のとおり、モールド温度を低くすると変形量が少なくなり、

大きな段差を作ることができなくなる。そこで、モールド温度が低い状態でも 変形量を大きくするために、インプリント部に進入する繊維状基材の温度を上 げる機構を検討した。

繊維状基材を加熱する方法の一つとして、移動する繊維状基材の周囲にヒー タを配置して加熱する方法が考えられる。この場合、輻射が支配的になるため、

繊維状基材を所望の温度(室温からの温度差で数 10ºC から 100ºC程度)まで 加熱するには長い加熱区間が必要になる。これは、装置の接地面積の増大につ ながり望ましくない。逆に、短い距離で温度を上昇させようとする場合には、

ヒータの温度を所望の温度よりも遥かに高く設定する必要がある。この場合は、

大きなエネルギーが必要になる。また、このとき、繊維状基材は熱バランスの とれた定常状態まで温度が上昇する前に加熱区間を通過する場合がほとんど になる。単純化するとヒータから繊維状基材へ移動する熱量は繊維状基材が加 熱する時間即ち基材が加熱部を通過する時間に比例するため、ヒータ温度を一 定にした場合、高速な送り速度で所望の温度になるようにヒータ温度を設定す ると、停止時および高速送りに達するまでの低速送り時には過熱状態になり、

基材が溶融、切断するおそれがある。送り速度に応じてヒータ温度を順次変化 させることで基材の溶融、切断を回避することも可能であるが、この場合には 停止状態から運転を開始し、所定の送り速度に達して温度が安定するまでの間 の繊維状基材が無駄になる。

これらの点を回避するために、図③-(2)-2-1.44 に示す機構を導入した。繊維 状基材は、送り出しリールから繰り出されてインプリント部に送られていくが、

この部分を断熱性の高いチャンバで取り囲み、加熱温調した空気を供給するこ