第 3 章 SiC 結晶多形の振動自由エネルギーの第一原理計算 28
3.1.2 MSE による結晶成長の駆動力
一定温度環境下における3C-SiC多結晶の溶解と4H-SiC単結晶の成長といった 事実から,窒素を筆頭とした不純物の混入などの外的要素を一切無視すると,MSE の駆動力は4H-SiC側と3C-SiC側の液体Si中におけるCの固溶限の違いであると する仮説が提案されている6).この仮説に基づいたSi-C二元系状態図をFig. 3.5(a) に示した.横軸がCの組成,縦軸が温度を示している.また実線,破線は各々4H, 3C-SiCを示している.実験温度1800℃において,3C-SiCと液体Si,4H-SiCと液 体Si間でCの溶解度限に差が生じることによって,瞬間的に液体Si中におけるC 濃度に勾配が生じ,3C-SiC多結晶の溶解と4H-SiC単結晶の成長を促すと考えら れる.またこの両多形におけるCの溶解度限の差は3C-SiCと4H-SiCの自由エネ ルギー差に起因すると考えられる.
第3章SiC結晶多形の振動自由エネルギーの第一原理計算
Fig. 3.3: MSEによって4H-SiC単結晶層が基板上にエピタキシャル成長した走査型
電子顕微鏡像5).
Fig. 3.4: MSEで3C-SiC多結晶基板上に成長した4H-SiC単結晶の走査型電子顕微 鏡像.
第3章SiC結晶多形の振動自由エネルギーの第一原理計算
Fig. 3.5: (a) MSEから仮説されるSi-C二元系状態図の模式図,(b) (a)における自 由エネルギーのC濃度依存性,(c) (a),(b)に対応するCの濃度プロファイル6).
第3章SiC結晶多形の振動自由エネルギーの第一原理計算
Fig. 3.5(b)に各相における自由エネルギーのC濃度依存性を示した.3C-SiCの 液体Siに対する溶解度限は,液体Si中のCのケミカルポテンシャルと,3C-SiC中 のCのケミカルポテンシャルが等しく,また両環境相におけるSiのケミカルポテ ンシャル同士も等しい状態によって示される.両相中の各々の原子のケミカルポテ ンシャルが等しいことから,各々の自由エネルギー曲線で共通接線を引き,液体 Siと共通接線の接点が溶解度限に対応する.同様の原理により,4H-SiCと液体Si の各々の自由エネルギー曲線を引くと,Cの組成が低いところで溶解度限を示すた
め,4H-SiCの自由エネルギー曲線は3C-SiCの自由エネルギー曲線よりも,エネ
ルギー的に低くなる.この3C-SiCと4H-SiCの自由エネルギーの上下関係が,両 相の液体Siに対する溶解度源の差異を生み,その溶解度限の差がMSEにおける 3C-SiC側と4H-SiC側の液体Si中におけるCの濃度勾配を生む.
Cの濃度プロファイルをFig. 3.5(c)に示した.横軸が同じくCの組成,縦軸が MSEの位置に対応する.溶解度が高い3C-SiC側で溶け出すため,供給側のC濃 度が高くなる.そして液体Si中でC濃度が一様になろうとし,4H-SiC側で随時固 着,結晶化する.このCの濃度勾配がMSEの駆動力であると考えられ,またその 濃度勾配は3C-SiCと4H-SiCの自由エネルギー差に起因すると考えられる.