第 3 章 SiC 結晶多形の振動自由エネルギーの第一原理計算 28
3.2 計算手法
第3章SiC結晶多形の振動自由エネルギーの第一原理計算
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Fig. 3.12: SiC結晶多形における積層順序.
3.2.2 擬調和振動子近似
有限温度効果を取り込んだ自由エネルギーは基底状態における系のトータルエ ネルギーと振動自由エネルギーの総和で表せられ,
F(a,T)=E(a)+kBT
∫ ∞
0
n(ω) [
2sinh ( ~ω
2kBT )]
dω (3.1)
の式で求められる21).右辺第一項が基底状態における系のトータルエネルギー,右 辺第二項が振動自由エネルギーを表しており,E(a)は基底状態における系のエネ ルギー,kBはボルツマン定数,Tは温度,ωはPhonon分散曲線(Phonon dispersion curve)における振動数,n(ω)はPhonon状態密度(Phonon-DOS),~はPlanck定数を 2πで割った値である.したがってこの自由エネルギーの再現性は,熱振動効果を上 手く取り入れることに帰着し,またこの熱振動効果を正確に計算するにはPhonon 状態密度を如何に現実に近い形で再現するかにかかっている.
熱振動効果を取り入れるにあたり,Phonon状態密度を求める手法はこれまでにい くつか開発されている22).擬調和振動子近似の元になる調和振動子近似では,固体 原子が平衡位置で調和振動する振動子として釘付けされているとするFig. 3.13のよ うなアインシュタイン格子である23).この純粋な調和振動子近似となるアインシュ タインモデルにおいて,熱振動は,バネ定数をk,原子量をMとするω = √
k/M で定まる1点の振動数で振動する単振動とみなしている.これはFig. 3.14に実線 のカーブで示した現実のPhonon状態密度を,灰色直線で示した1点の振動数で近 似することに対応しており,熱膨張や振動の異方性などを無視している.
実際に用いられている擬調和振動子近似は,アインシュタインモデルよりも精度
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Fig. 3.13: 結晶格子におけるバネモデルとアインシュタインモデルの模式図22).
Fig. 3.14: 現実の格子モデル,アインシュタインモデル,リカージョン法,デバイ
モデル,直接法によって計算されたAlのPhonon状態密度の模式図.
らの取り扱いでは24),振動子の分散にデバイモデルを用い25),エネルギー-体積曲 線から求まる硬さを目安にPhonon状態密度を近似する.
さらに高精度のモデルとして,Phonon状態密度を基底状態におけるPhonon分散 曲線から求める手法が開発されており,これはPhonon-DOS法と呼ばれている.こ の手法では,1原子を微小距離だけ移動させた時のエネルギー変化から,原子間の 力の定数を求め,Phonon分散曲線を描く.これは直接法と呼ばれており,Parlinski らによって開発された26).
またSuttonらによって提案されているリカージョン法は27),着目している原子
から始めて,徐々に外側の原子の力定数を連分数で取り入れる.最も簡単な近似 では,最近接原子との力定数の対角項のみとなり,Fig. 3.14の破線で示したよう な単純な形をしたPhonon状態密度を仮定することになる22).
本研究では,これらの数ある擬調和振動子近似の中でもPhonon状態密度の再現 性の高い直接法と第一原理計算を組み合わせて,SiC結晶多形の相安定性を計算
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した.