第 4 章 Si ドーパントの第一原理計算 51
4.1.1 大野らの実験による積層欠陥とドーパントの相互作用の見
第4章Siドーパントの第一原理計算
おいて,1173 Kで30分間圧力をかけた結果,108-109cm−2の密度で転位が観測さ れた.そして圧力をかけずに,ゆっくり冷却した後の試料を観察した.またアル ゴンガス雰囲気中において冷却前に圧力をかけずに1173 Kで10時間アニーリン グ処理を行った試料もTransmission Electron Microscopy(TEM)で観察した.
結果,変形したSi純結晶試料中の転位のほとんどは,積層欠陥で構成されたバー ガスベクトルb=a/2h110iの部分転位であった.一方,Pを添加した試料では,1173 Kでのアニーリングによってバーガースベクトルb=a/2h110iより拡張幅の広い転 位が観測された.この分離した転位と収縮した転位のTEM画像をFig. 4.1に示し た.Fig. 4.1(b)とFig. 4.1(c)に示されている2本の部分転位と,Fig. 4.1(d)に示さ れた積層欠陥が別れて観測されているのがわかる.SiO2クラスタやSiP析出物,ま た他の拡張転位は見られなかった.またその部分転位の拡張幅は,10時間に及ぶ アニーリング処理の時間に応じて長くなった.一方,Fig. 4.1(f)に示したように,
Si純結晶中における転位はアニーリング時間に応じて拡張しなかった.
またCZ法で生成したSiバルクに,n型ドーパントであるP,As,Sb,p型ドー パントであるB,Gaを含むSi単結晶をチョクラルスキー法(CZ法)で育成し,1173 Kで100時間のアニーリングの後,ドーパント原子と積層欠陥の相互作用を詳し く調べた.すると添加したドーパントによっては,ドーパントと積層欠陥の相互 作用により,積層欠陥エネルギーが変化することが明らかとなった.
まず大野らは,転位のないSi単結晶にPを3×1018cm−3と3×1019cm−3,Asを 3×1018cm−3,Sbを3×1018cm−3,Bを3×1018cm−3の濃度で各々添加した試料と ドーパントを添加していないSi結晶の各々の試料でアニーリング処理を施し,そ の積層欠陥エネルギーのアニーリング処理時間依存性を調べた.各試料における 積層欠陥エネルギーのヒストグラムをFig. 4.2に示した.(a)はPを3×1018cm−3, (b)はPを3×1019cm−3,(c)はAsを3×1018cm−3,(d)はSbを3×1018cm−3,(e)
Fig. 4.1: PをドープしたSiに3時間のアニーリング処理を行ったTEM画像.(a)[220]
面,(b) [202]面,(c) [022]面,(c)[022]面,(d)[111],(e)(a)における転位の構造,
(f)10時間のアニーリング処理後のSi純結晶のTEM画像2).
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Fig. 4.2: Si結晶中における積層欠陥エネルギー γのヒストグラム.(a)Pを 3 × 1018cm−3添加,(b)Pを3 × 1019cm−3 添加,(c)Asを 3× 1018cm−3添加,(d)Sbを 3×1018cm−3添加,(e)Bを3×1018cm−3添加,(f)ドーパント原子を添加しない.tan はアニーリング時間を示している3).
はBを3×1018cm−3で添加した試料における結果を示しており,(f)はドーパント 原子を添加していないSi純結晶の結果を示している.また図中のtanはアニーリン グ時間を示している.これによると,P,As,Sbは低下の度合いが違えども,ア ニーリング処理時間が伸びるに連れて,積層欠陥エネルギーが低下していること がわかる.一方,B添加試料およびSi純結晶の試料においては,積層欠陥エネル ギーはアニーリング処理時間に依存していないことがわかる.
アニーリング処理を行う前の積層欠陥エネルギーは,試料中の積層欠陥の拡張 幅から約50-70 mJ/m2と見積もられた.Fig. 4.3に示したように,n型ドーパント添 加試料において,その積層欠陥エネルギーは転位線の単位長さに集積しうるドー パント原子数Nの関数として単調減少した.n型ドーパントの一つであるPの添
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Fig. 4.3: 大野らによる積層欠陥エネルギーのドーパント依存性.縦軸は積層欠陥
エネルギー,横軸はドーパント濃度Nを示し,Nが大きくなればドーパント濃度 が上がる3).
する傾向を見せ,積層欠陥エネルギーも40-60 mJ/m2に減少した.積層欠陥エネル ギーの低下率に違いは見られるが,他のn型ドーパントであるAs,Sbにおいても 同様の傾向が見られた.これは,P,As,SbはSi結晶中の積層欠陥部に偏析する ことを示している.一方,p型ドーパントであるBの添加試料においては,アニー リング後も積層欠陥エネルギーは減少せず,積層欠陥部に偏析しなかった.これ は,Table. 4.1に示したように,異なる原子半径のP,As,Sbといったドーパント でも同様に積層欠陥部に偏析することから,ひずみの効果とは考えにくい.この ドーパントの欠陥部への偏析メカニズムについてこれまで第一原理計算によって 議論されてきた.