第 4 章 Si ドーパントの第一原理計算 51
4.5 結言
実験的に調べられたドーパントの積層欠陥部への偏析メカニズムについて,電 子構造とドーパント置換による格子ひずみの2つの可能性を第一原理計算によって 検証した.まずそのドーパントの積層欠陥部への偏析挙動を調べるため,n型ドー パントであるN,P,As,Sb,p型ドーパントであるB,Al,Ga,InをSi結晶中 の完全結晶部,または積層欠陥部に各々置換し,ドーパントの溶解エネルギー変 化を比較した.それと同時に各モデルにおけるエネルギー準位図を描画し,電子 構造変化を調べた.また格子ひずみの効果はSi純結晶の完全結晶部と積層欠陥部 を別々に伸縮させたモデルのエネルギー変化を比較することで検証した.
得られた結果は,
• Si結晶中におけるドーパントの偏析挙動
1. Al,Ga,In(p型ドーパント),P,As,Sb(n型ドーパント)は積層欠 陥部に濃化することで溶解エネルギーが低下し,その偏析エネルギーは 0.1eVにもなる.
2. Bは積層欠陥部に隣接する完全結晶部に濃化するモデルが最安定.
3. Nは不純物濃度によって挙動が変化し,濃化層が定まらなかった.
• ドーパント置換時の電子構造変化
1. p型ドーパントのAl,Ga,Inを積層欠陥部に置換した時,完全結晶部 へ置換した時に比べて価電子帯のエネルギーレベルが低下する.
2. n型ドーパントのP,As,Sbを置換した場合,溶解エネルギーに対応す るように不純物準位が上下し,積層欠陥部に置換した場合,完全結晶部 に置換時に比べて不純物が低下する.
• Si純結晶中の格子歪みの効果
1. 完全結晶部に比べて,積層欠陥部は{0001}方向に収縮しにくく,伸張 しやすい.
2. しかしそのエネルギー的利得は小さく,Asの置換による歪みから得ら れるエネルギーの低下は1meV程度.
の通りである.ドーパントの偏析挙動の予測は,大野らによるP,As,Sb,Gaは 積層欠陥部に偏析し,Bは偏析しないという実験結果と整合する2, 3).またドーパ ントの偏析に格子歪みの影響は少ないという予測もAriasとJoannopoulosのGe半 導体中におけるドーパント偏析の第一原理計算による主張と同じである5, 6).
これまで,Si結晶中において,n型ドーパントは積層欠陥部に偏析し,p型ドー パントは偏析しないとされており,ドーパントの偏析はドーパントタイプで区分
第4章Siドーパントの第一原理計算
されてきた.それに対して上記結果は,ドーパントタイプによる区分はないこと を示している.n型ドーパントの偏析は不純物準位の低下によるという点に関して はArias & JoannopoulosとJustoらの主張と同じだが,p型ドーパントにおいても 積層欠陥部への偏析によって,価電子帯そのものが下がり,安定化するという新 しい知見を示した5–9).
参考文献
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