第 4 章 Si ドーパントの第一原理計算 51
4.2 計算手法
第4章Siドーパントの第一原理計算
Fig. 4.8: 大野らの実験による積層欠陥エネルギーのGa濃度依存性10).
トは積層欠陥部に偏析し,p型ドーパントは積層欠陥部に偏析しないとされてお
り,Fig. 4.3に示した大野らの実験結果と整合する.しかし,直近の大野らの実験
ではp型ドーパントであるGaも積層欠陥部に偏析するという結果が報告された.
積層欠陥エネルギーのGa濃度依存性をFig. 4.8に示した10).これによるとSi結晶 中においてGa濃度を上げると,n型ドーパントであるP,As,Sbに比べて小さい ながらも,積層欠陥エネルギーが低下している.これはSi結晶中においてGaも 積層欠陥部に偏析することを示唆しており,これまでの理論的アプローチと整合 しない.本研究では,これらドーパントの偏析挙動メカニズムを第一原理計算に よって明らかにすることを目的とした.
第4章Siドーパントの第一原理計算
Fig. 4.9: 2×2×2に拡張し,ドーパントを1原子置換したダイヤモンドSiスーパー セルSi63X1の格子モデル.
Fig. 4.10: ドーパントを1原子置換したダイヤモンドSiスーパーセルSi63X1のトー タルエネルギー.
り,10層と11層の間に積層欠陥を導入した.また実際の計算には,Fig. 4.12に 示した上面図のようにFig. 4.11を2×2,3×3に拡張したモデルを用いた. 各層に ドーパントを1原子置換したモデルで各ドーパントの溶解エネルギーを比較した.
また2×2のモデルにおける溶解エネルギーは,
Esolution=( ESFSi
63X1 −ESicubic
63X1
)−( ESiSF
64 −ESicubic
64
) (4.1)
の計算式で求めた.ESFSi
63X1はドーパント‘X’を置換した積層欠陥を持つSiスーパー セルのトータルエネルギー,ESFSi
64は,積層欠陥を持つSiスーパーセルのトータル エネルギー,ESicubic
63X1 はドーパント‘X’を置換したダイヤモンドSiスーパーセルの トータルエネルギー,EcubicSi
64 はピュアなSiスーパーセルのトータルエネルギーを 各々示している.Si63X1のモデルをFig. 4.9に示した.eq. 4.1の右辺第一項である (ESFSi
63X1 −ESicubic
63X1
)はドーパントの溶解エネルギーに積層欠陥エネルギーを余分に含 んだものを示しており,右辺第二項である−(
ESFSi
64−ESicubic
64
)によって積層欠陥エネ ルギーをキャンセルしている.そうして積層欠陥を持つシリコン結晶中に置換し たドーパントの溶解エネルギーEsolutionを求めた.これと同様に3×3モデルでは
Esolution = (
ESFSi143X1−EcubicSi63X1 − 80 64EcubicSi64
)
− (
ESFSi144 −EcubicSi64 − 80 64EcubicSi64
)
(4.2)
第4章Siドーパントの第一原理計算
Fig. 4.11: 積層欠陥を含んだSi結晶モデル.
Fig. 4.12: Fig. 4.11に示したSiユニットセルモデルを(a) 2×2と(b) 3×3に拡張し たスーパーセルの上面図.
によって溶解エネルギーを求めた.積層欠陥を持つSi144に相当するダイヤモンド Si結晶モデルを作成するのは不可能なため,EcubicSi
64 のエネルギーを乗算した80
64EcubicSi
64
を用いることで,Siの原子数の帳尻を合わせた.またドーパントの偏析挙動を調べ るためによく用いられる偏析エネルギーは完全結晶部に置換したドーパントの溶 解エネルギーと,積層欠陥部に置換したドーパントのエネルギーとの差分となる.
2×2,3×3モデルにおけるドーパントを置換した層の不純物濃度は各々25%,11%
である.またk-meshは7×7×2,5×5×2を各々のモデルに用いた.また原子座標,
および格子の体積変化は六方対称性を維持した上で,緩和した.
これらの溶解エネルギーを求める際に使用したSi143X1 のモデルにおいて,各 ドーパント原子を5-10層に各々置換した際のΓ点におけるエネルギー準位図を描 画し,ドーパントの置換位置に対する不純物準位の変化を調べた.
第4章Siドーパントの第一原理計算
Fig. 4.13: 完全結晶部と積層欠陥部を境に伸縮させ,格子ひずみを調べるために用
いた積層欠陥を含むSi結晶のモデル.
4.2.2 Si 純結晶の局所ひずみ
Siとは異なる原子半径のドーパントを置換時に生じる格子ひずみの効果を調べ た.Fig. 4.13に格子ひずみを調べるために用いた計算モデルを示した.Fig. 4.11と 同様のSi結晶モデルであり,完全結晶部である2-3層間と積層欠陥部である10-11 層間を境として2ブロックに分け,両ブロックの間の距離を-0.3Åから+0.3Åまで 0.05Å刻みで伸縮させ,系のエネルギー変化を調べた.またk-meshは15×15×2に 設定し,構造緩和は行っていない.