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ドーパントと積層欠陥における相互作用の第一原理計算

第 4 章 Si ドーパントの第一原理計算 51

4.1.2 ドーパントと積層欠陥における相互作用の第一原理計算

第4章Siドーパントの第一原理計算

Fig. 4.3: 大野らによる積層欠陥エネルギーのドーパント依存性.縦軸は積層欠陥

エネルギー,横軸はドーパント濃度Nを示し,Nが大きくなればドーパント濃度 が上がる3)

する傾向を見せ,積層欠陥エネルギーも40-60 mJ/m2に減少した.積層欠陥エネル ギーの低下率に違いは見られるが,他のn型ドーパントであるAs,Sbにおいても 同様の傾向が見られた.これは,P,As,SbはSi結晶中の積層欠陥部に偏析する ことを示している.一方,p型ドーパントであるBの添加試料においては,アニー リング後も積層欠陥エネルギーは減少せず,積層欠陥部に偏析しなかった.これ は,Table. 4.1に示したように,異なる原子半径のP,As,Sbといったドーパント でも同様に積層欠陥部に偏析することから,ひずみの効果とは考えにくい.この ドーパントの欠陥部への偏析メカニズムについてこれまで第一原理計算によって 議論されてきた.

第4章Siドーパントの第一原理計算

Fig. 4.4: AriasとJoannopoulosらの第一原理計算による不純物の添加位置.bk,i, gbは各々完全結晶部の置換位置,完全結晶部の侵入位置,ならびに粒界部とされ ている5)

びに構造緩和の効果を調べた(Fig. 4.5).Fig. 4.5に示されている矢印の後端,前 端は構造最適化前後のエネルギーを示しており,歪みによるエネルギーの利得で ある.構造最適化後のエネルギーに関して,Asを完全結晶部に添加したモデルよ りも粒界部に添加したモデルの方が約100meV安定である.またイオン化させた As+の添加時はそのエネルギー的利得が約半分の50meVとなる.また次にGaの 添加時にはエネルギー差がほとんどない.したがって彼らはAsの粒界部の偏析を 第一原理計算によって再現している.またこの理由として,Asは粒界部に添加す ることで,伝導帯付近のドナーレベルが低下し,この電子挙動が系の安定化と不 純物の偏析を引き起こすと説明している.

一方,Gaは粒界部に置換し,空準位であるアクセプターレベルが上下しようと も,系のエネルギー的利得にはならないため,偏析エネルギーは小さくなるとさ れている7).また構造最適化による歪みの効果に関して,どのドーパントの添加時

Fig. 4.5: AriasとJoannopoulosらによって求められた不純物添加Si結晶の構造緩和 によるエネルギー変化の模式図.不純物の添加位置(bk),(i),(gb)はFig. 4.4に準 ずる5, 6)

第4章Siドーパントの第一原理計算

も総じて得られたエネルギーの低下は約50meVと微小である.したがってドーパ ントのGe粒界部への偏析挙動に対して,歪みによるエネルギーの低下はあまり重 要ではないとしている5, 6, 8)

一方,Justoらはノルム保存型擬ポテンシャル法による第一原理計算によって,Si

中の積層欠陥における不純物の挙動を調べた9).彼らはn型ドーパントであるP, As,p型ドーパントであるAlをそれぞれを積層欠陥部に置換したモデルと,完全 結晶部に置換したモデルで不純物の偏析エネルギーと不純物準位を求めた.積層 欠陥を含むSiのモデルとドーパントの置換位置を示したモデルはFig. 4.6のよう に示されている.

彼らの不純物準位の模式図をFig. 4.7に示した.PCは完全結晶部,SFは積層欠 陥部を示している.かれらの不純物準位モデルによると,n型ドーパントであるP, Asは積層欠陥部に置換することで,ドナーレベルが低下し,系がより安定化する,

つまり積層欠陥部に偏析するとされている.一方,p型ドーパントであるAlは積 層欠陥部に置換しても,アクセプターレベルが上昇するだけで,系の安定化は見 込めないとしている.

これらの第一原理計算による研究では,Si半導体結晶中においてn型ドーパン

Fig. 4.6: JustoらによるSi結晶中のP,As,Alの置換位置.(PC),(SF)は各々完全 結晶部と積層欠陥部を示している9)

Fig. 4.7: Fig. 4.6に示したSi結晶中の完全結晶部と積層欠陥部に置換したP,As, Alのエネルギー準位モデル9)

第4章Siドーパントの第一原理計算

Fig. 4.8: 大野らの実験による積層欠陥エネルギーのGa濃度依存性10)

トは積層欠陥部に偏析し,p型ドーパントは積層欠陥部に偏析しないとされてお

り,Fig. 4.3に示した大野らの実験結果と整合する.しかし,直近の大野らの実験

ではp型ドーパントであるGaも積層欠陥部に偏析するという結果が報告された.

積層欠陥エネルギーのGa濃度依存性をFig. 4.8に示した10).これによるとSi結晶 中においてGa濃度を上げると,n型ドーパントであるP,As,Sbに比べて小さい ながらも,積層欠陥エネルギーが低下している.これはSi結晶中においてGaも 積層欠陥部に偏析することを示唆しており,これまでの理論的アプローチと整合 しない.本研究では,これらドーパントの偏析挙動メカニズムを第一原理計算に よって明らかにすることを目的とした.