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M 分布を用いた新降雨減衰確率推定法の提案

2.4節に示しているように、国内において地上回線用無線通信システムに対し主として 用いられている既存の降雨減衰確率推定法がガンマ分布を用いているのに対し、第5章に 示した1 分間降雨強度CDFを広い累積確率の範囲で精度良く近似できる分布モデルに関 する研究において、M分布[12]が適していることを明らかにした。

第 6 章に示した空間相関特性に関する研究において、既存降雨減衰確率推定法が距離 の平方根の指数関数exp

(

-a d

)

のみを用いているのに対し、距離(d)の指数関数exp

(

-b×d

)

が 近距離部分を良く近似し、距離の平方根の指数関数exp

(

-a d

)

が遠距離部分を良く近似す ることを明らかにした。また、降雨減衰係数が1分間降雨強度のn乗に比例する(式(2-1)

/ITU-R勧告Rec.P.838-3[18])にもかかわらず、既存降雨減衰確率推定法が1分間降雨強度 そのものの空間相関特性を用いて区間積分を行うものとなっている点に対し、1分間降雨 強度の n乗の空間相関特性を用いて区間積分を行うことの必要性について検討を行い、1 分間降雨強度そのものの空間相関特性と1分間降雨強度のn乗の空間相関特性との違いは 無視できず、降雨減衰確率推定においては1分間降雨強度のn乗の空間相関特性を用いる 必要があることを明らかにした。

以上より、分布モデルについてはM分布を用い、空間相関特性については近距離と遠 距離でそれぞれに適した特性を与え、かつ1分間降雨強度のn乗の空間相関特性を用いた 区間積分を行う、精度及び適用性の向上した新たな降雨減衰確率推定法の確立が可能と考 えられた。本章では、これらを踏まえた新たな降雨減衰確率推定法の考え方について示す とともに、第3章に示した測定系を用いて得られた降雨量及び降雨減衰量の実測データを 用い、新降雨減衰確率推定法の推定精度について、既存降雨減衰確率推定法と比較しつつ、

評価した結果を示す。

8.1  M分布に基づく1分間降雨強度のn乗の空間相関特性を考慮した新降雨減衰確率推 定法

8.1.1  M分布に基づく降雨減衰確率推定法に適用するパラメータ

降雨減衰確率推定におけるパラメータの与え方は、用いる分布モデルに依存する。M 変量Rの確率密度関数 f(R)及びRiから無限大までの累積確率 F(Ri)は、2.2.2 節に示して いるように、2 変数を含む分布であり、パラメータを 2 つ与えれば、分布が決定できる。

2 つのパラメータの与え方としては、複数の方法が考えられるが、5.3.3 節でも示したよ うに、次のような理由から、異なる2点の累積確率における1分間降雨強度を与えるとい う方法が適当であると考えられる。

− 数学的処理を含め、手法が簡便であり、扱う者にとって理解し易い、

− 近似精度の面で有利である(地点ごとに 2 つのパラメータとも最適な条件を与えられ る)、

− ヒートアイランド現象のように、局所的に気象環境の変化があったような場合にも適 応し易い(地点ごとに2つのパラメータとも固有の条件を与えられる)。

2点をどのように選ぶかは、どのように2点を抽出するかにも依存する。1分間降雨強 度CDFは、10分間及び1時間降水量データから得ようとするものは、M分布に基づく異 積分時間降雨強度確率分布変換手法(第7章参照)により与えられ、M分布で表されるが、

1分間降水量データから得るものは、まず、乱数補正秒単位均し分配処理により、実分布 のままのCDFが得られ、その後にM分布近似を行うこととなる。したがって、後者につ いては、M分布近似の前、即ち実分布のCDFから抽出する方法とM分布近似後で抽出す る方法が考えられるが、第5章において、2点近似より全サンプル点での近似の方が近似 精度が優れていることが確認されており、10 分間及び 1 時間降水量データから得られる ものとの整合性という点においても、全サンプル点でのM分布近似後に2 点を抽出する 方法が適当と考えられる。

このように、いずれもM分布に従うCDFから抽出されるものとすると、付随的に得ら れるメリットとして、2 点を選べる範囲が広がるということがある。実分布の CDF から 抽出するとした場合、1年間のデータに基づく1分間降雨強度CDFであれば、0.0002%程 度が下限となり、それ以下の値は選ぶことができない。加えて、実データにおいては、下 限に近づくほどバラツキが大きくなるので、実下限値より1桁程度大きい点を下限とする ことが必要となる。しかしながら、M分布近似後であれば、分布のパラメータを基に新た にカーブを引き直すので、そのような制限を受けることがない。また、特定の累積確率に おける1分間降雨強度2 点が、もともとM分布に従うCDFから抽出されるのであれば、

2点をどのように選んでも正しく元のM分布が再現され、精度に影響を与えることとはな らない。

一方、前節に示したように、降雨減衰確率推定においては、1分間降雨強度のn乗の確 率分布を扱うことが必要となるが、第6章において、M分布に従うCDFをn乗したもの は厳密にはM分布とはならないものの、簡便かつ実効的な方法として2 点近似を用いて M 分布に従う CDF を得ることが有効であること、2 点の選択について、0.01%値及び 0.0001%値を用いた場合が近似精度が優れていることを示している。

以上のように、パラメータとしての2点を選ぶ範囲の制限が無く、1分間降雨強度のn 乗の確率分布を扱うために0.01%値及び0.0001%値を用いることが望ましいのであれば、

パラメータとしての2点の選択においても、これらを選択することが、計算ステップが不

必要に増えることを避けるためにも望ましい。したがって、降雨減衰確率推定用パラメー

タとして0.01%値及び0.0001%値を用いることが適当と考えられる。

8.1.2  1分間降雨強度の n乗のCDFM分布近似

先に示したように、降雨減衰確率推定における区間積分には、1分間降雨強度のn乗の 空間相関特性を使用することが必要である。

詳細は第 6 章に示しているが、無線リンクで発生する降雨減衰量の確率分布は、一地 点(微小区間)における1分間降雨強度のn乗の確率分布に対し無線リンク全体の確率分 布を求める区間積分を行った後に降雨減衰係数のもう一方のパラメータであるk(式(2-1))

を乗じることにより得ることができる。このため、1分間降雨強度のn乗の確率分布を扱 う必要があり、M分布に従う同n乗の確率分布のパラメータを得ることが必要となる。先 に示したように、これについては、第6章において、1分間降雨強度の0.01%値及び0.0001%

値をn乗して得た2点を通過するM分布を求めるという方法が適していることを示して いる。具体的には、M分布に従う1分間降雨強度のn乗の確率分布を与えるパラメータun 及びpnは、最小二乗法に基づき得られた下に示す式(8-1)及び(8-2)によって得ることができ る(任意のP1[%]及びP2[%]に対する式を付録8-1に示す)。なお、M分布のパラメータun 及びpnは、これらにより得られる確率値がパーセントではなく真数で表されるものとなっ ていることに注意を要する。また、1分間降雨強度の0.01%値:R0.01%,y及び同0.0001%値:

R0.0001%,yの添字に含まれるyは第9章で示すMTBF[年]を表すものである。

n y 0001 0

n y 01 0 n e

y 01 0 n

y 0001 0

n R

R 100 R

R u 1

%, .

%, .

%, .

%, .

log ×

= - (8-1)

(

n 0n01 y

)

n y 01 0

n 00001 R u R

p = . × . %, exp × . %, (8-2)

8.1.3  1分間降雨強度のn乗の空間相関特性を考慮した区間積分

第6 章に示しているように、M分布に従う確率分布の区間積分は、平均値及び標準偏 差を用いて行うことから、式(8-1)及び(8-2)で得られた1 分間降雨強度のn乗のM分布の パラメータun及びpnから平均値mn及び標準偏差snへの変換が必要となる。この変換は式 (2-9)及び(2-10)に基づき、次式を用いて行うことができる。

( ) ( )

[

- * + *

]

= n n n n n

n p exp u ・R EI u・R

m (8-3)

( )

n2

n n n

n n

n u R

u R 2

p ÷÷ø - -m

çç ö è

æ +

= **

σ exp (8-4)

1 分間降雨強度の区間積分については 6.2.2 節において詳述しているが、式(8-3)及び

(8-4)により、一地点(微小区間)における1分間降雨強度のn乗の確率分布(M分布)の

平均値mn及び標準偏差snが与えられれば、無線リンクに対する区間積分(区間距離:dL) によって得られる確率分布(M分布)の平均値mnL(第6章の表記で示すと E

( )

RnL )及び 標準偏差snL(第 6 章の表記で示すと Var(RnL))は、式(2-13)〜(2-14)及び式(6-8)〜(6-10) に基づき、次式により与えられる。

L n nL =m ×d

m (8-5)

2

1 Var

nL = Var +

s (8-6)

Var1

( ) ( )

úû ê ù

ë

é + - × ×

-= - × - ×

b b b

s b 1 d b 1

2 d dxo L dxo

xo 2

n e

e (8-7)

Var2 = 4

{ (

+ L + 2 L

)

- dL

-2

n 6 6 d 2 d

4 a

a a a

s e

( ) ( )

[

6+6a dxo +2a2dxo -a21+a dxo × dL-dxo

]

e-a dxo

}

(8-8)

ただし、α、βは、空間相関特性について、近距離部分をexp

(

-b×d

)

で表し、遠距離部 分をexp

(

-a d

)

で表すとした場合の係数であり、1 分間降雨強度の n 乗の空間相関特性に 対するα、βが、式(6-12)及び(6-13)または式(6-14)及び(6-15)で与えられている。また、dXO

は、両特性が交差する点であり、式(6-11)で与えられている。

区間積分後の確率分布(M 分布)の平均値mnL及び標準偏差snLが得られたならば、M 分布パラメータunL及びpnLが、式(6-6)〜(6-7)に基づき、次式により与えられる[12]

2 nL 2 2 nL 2 nL

nL

nL g

g u 2

s m

s

s

× -+

×

= × (8-9)

(

nL nL

)

nL

nL g u g

p = ×s ×exp × ×s (8-10)

gは、式(6-5)に基づき、次式の関係で表される。

g 0 1

g 2 g

1

g 1 2

g

nL nL 2

2 nL 2 nL

2 2

2 nL 2 nL

2 - =

ïþ ïý úü û ê ù

ë é

-ïî +

ïí

ì ú´

û ê ù

ë é

-+ +

s m s

m s

m E /

exp / I (8-11)

(g を簡易に求める近似式については文献[28]の付録参照(式(A・4)〜(A・7)/式(A・4)の x が求めるg))

8.1.4  降雨減衰確率の推定

着目する無線リンクにおける降雨減衰量を A とすると、これを降雨減衰係数のパラメ ータ kで除したものは、1 分間降雨強度の n 乗の区間積分後の量に対応するものとなる。

したがって、降雨減衰量A以上が発生する確率は、1分間降雨強度のn乗の確率分布の区 間積分によって得られた M 分布のパラメータunL及びpnLを式(2-8)にあてはめることによ り、次式により与えられる。

( ) (

u A k

)

k A k p A

F nL exp nL /

/ = / - × (8-12)

なお、降雨減衰確率を与え、降雨減衰量を求めたい場合には、式(8-12)を変形して得ら れる超越方程式を解く必要があるが、これについては文献[28]の付録の式(A・8)〜(A・10) で簡易な計算手法が提案されているので参照されたい。

8.2  新降雨減衰確率推定法の推定精度評価

8.2.1  実測降雨量及び降雨減衰量データを用いた評価

本節では、前節で示した新降雨減衰確率推定法(以下、本章では新推定法という)に ついて、第3章に示している測定系を用いて得られた降雨量及び降雨減衰量の実測データ を用い、推定精度の評価を行う。また、併せて、既存降雨減衰確率推定法(以下、本章で は既存推定法という)として、文献[2]〜[4]に示された森田・樋口がとりまとめた手法を 発展させたものとして、文献[5]に示された細矢・森田他がとりまとめた手法の推定精度と の比較も行う。

新推定法では、年間の0.01%値及び0.0001%値をパラメータとして用いるが、既存推定 法では、強雨期3ヶ月(7〜9月)の0.0075%値をパラメータとして用いる。前者について は2002年10月1日〜2003年9月30日のデータを、後者については2003年7 月1日〜

同年9月30 日のデータを用いた。また、どの地点の雨量データを使用するか、という点 については、雨量データが伝搬路上での雨の降り方を代表的に表しているものである必要 があることから、測定地点数及び伝搬路と測定地点との位置関係等を考慮し、2km以下の 短距離伝搬路の場合は、伝搬路近傍の1地点における雨量データに基づくこととし、それ 以上の比較的距離の長い伝搬路においては、伝搬路近傍にある複数地点の雨量データに基 づく(複数地点の平均値を用いる)こととした。先に図2-4で示したものが、地点Aにお いて測定された雨量データから得られた、年間及び強雨期3 ヶ月(7〜9 月)の1 分間降 雨強度CDFの一例である。

図3-1で示した降雨減衰量測定を行った各伝搬路について、前述した伝搬路近傍での雨 量測定データから得られた降雨減衰確率推定のためのパラメータを用い、新推定法及び既 存推定法により降雨減衰量CDFの推定を行い、実測の降雨減衰量CDFとの比較を示した

ものが図8-1〜8-4である。なお、既存推定法による推定については、以下のように考えた。

文献[5]の式(1)、(2)及び(4)に基づくとともに、同文献の表1 に示された強雨期3ヶ月の1 分間降雨強度分布のパラメータνを用い、また、空間相関特性のパラメータαは、同文献 に従い、0.3とした。降雨減衰係数については、ITU-R勧告 Rec.P.838-3[18]では、式(2-1)の ように、1 分間降雨強度のn乗に比例するものとして与えられるが、文献[3]及び[5]では、