2.1 降雨減衰の影響を受ける無線通信システムの回線設計と降雨減衰確率
10GHz 程度以上の高い周波数を用いる無線通信システムにおいては、降雨減衰が回線
品質(回線不稼働率など)を決定する主要因となる。無線通信システムの構築に当っては、
結びたい地点間の距離、環境条件等を考慮し、所要の回線品質を得られるよう当該無線リ ンクのリンクパラメータ(使用するアンテナ、送信出力、高さ、給電線損失等)を決定す る必要があり、このために回線設計という作業を行う。
所要の回線品質を得られるよう各種リンクパラメータを決定するとは、降雨減衰が回 線品質を決定する主要因となる無線通信システムにおいては、受信信号の降雨による減衰 がある量以下であれば所要の回線品質を維持できるよう、余裕を設ける、即ち、平常時受 信レベルが、回線が使えない状態(不稼働状態)となる限界受信レベルより、減衰に対す る余裕分以上高いレベルになるよう、各種リンクパラメータを決定することを意味する。
これは、雨が強いほど大きい降雨減衰が生じ、また、強い雨ほど発生する確率は小さくな ることから、大きい減衰余裕を設けるほど、それ以上の減衰を発生させるような強い雨が 降る確率は小さくなり、良好な回線品質が得られることによる。この減衰に対する余裕は 降雨減衰マージン と呼ばれる。そして、降雨減衰マージンの大きさはリンクパラメー タに依存し、また、 降雨減衰確率推定 により、降雨減衰マージンから降雨減衰確率を、
または、降雨減衰確率から必要となる降雨減衰マージンを、推定することができる。
表2-1に回線設計においてリンクパラメータから降雨減衰マージンを求めた例を示す。
なお、ここでは、わかり易さのため、雑音要因として熱雑音のみを示しているが、実際の 回線においては各種干渉雑音等も考慮する必要があり、これより複雑な処理が必要となる ので、注意願いたい。
表 2-1 においては、F の降雨減衰マージンに相当する減衰量までの降雨減衰であれば、
所要の回線品質が確保されるが、これを超える減衰量になると、回線は使えない状態、即 ち不稼働状態となる。したがって、Fの降雨減衰マージンを超えるような減衰量を生じる 降雨の発生確率を知れば、それが回線不稼働率となる。
表2-1 リンクパラメータから降雨減衰マージンを求めた例 パラメータ 条件/値*2-1 備考
① 周波数[GHz] 22.0
② 区間距離[km] 2.0
③ 送信電力[dBm] 20.0
④ 送信側給電系損失[dB] 0.0
⑤ 送信アンテナ利得[dBi] 40.0
⑥ 受信アンテナ利得[dBi] 40.0
⑦ 受信側給電系損失[dB] 0.0
晴天時受信電力算出用
⑧ 送信側降雨時付加損失[dB]
(レドーム表面水膜による減衰等) 4.0
⑨ 受信側降雨時付加損失[dB]
(レドーム表面水膜による減衰等) 4.0
この要素については第8章参照
⑩ 受信帯域幅[MHz] 10.0
⑪ 雑音指数(NF)[dB] 8.0
熱雑音電力算出用
⑫ 入 力 部 分
スレショルドC/N[dB] 13.0 降雨減衰マージン算出用 自由空間伝搬損失[dB] 125.3
=20log((4π*②*103)/(3*108/(①*109))) 通常、遮蔽等による損失は無いよう設 計
B 晴天時受信電力[dBm] -25.3 =③-④+⑤- A +⑥-⑦ 晴天時受信電力−降雨時付加損失
[dBm](降雨減衰は含まず)
D 熱雑音電力(kTBF)[dBm] -95.8 =10log(1.38*10‑23*300*⑩*106)+⑪*2-2 E 降雨減衰分除くC/N[dB] 62.5 = C - D *2-2
F 計 算 部 分
降雨減衰マージン[dB] 49.5 = E -⑫*2-2
*2-1:「条件/値」欄、下線付の値はサンプル値
*2-2: 実際のケースでは、熱雑音電力以外に干渉雑音電力等も考慮して降雨減衰マージ ンを求める。即ち、実際のケースでは、Eにおいて、干渉雑音電力に起因するC/N 等も加えた総合C/Nを求める。
この、表2-1で示されるような、ある与えられた条件の下で求められた降雨減衰マージ ンを超えるような減衰量を生じる降雨の発生確率を推定する、もしくは、逆に発生確率が 条件として与えられて、これに対する降雨減衰量を求める、というようなことを行うのが 降雨減衰確率推定である。したがって、ここで扱われる確率値は、ある値を超える値が発 生する確率であり、累積確率値である。そして、
① 無線リンクを設定したい地点、区間距離、周波数が与えられ、また、用いる無線システ ムのリンクパラメータが与えられている場合に、これらにより決まる降雨減衰マージン ( F )を超える降雨減衰量が発生する降雨減衰確率(=回線不稼動率)を降雨減衰確率 A
= B -⑧-⑨ -33.3
C
推定により求め、これが所要回線不稼働率以下となるか判定する、
② 無線リンクを設定したい地点、区間距離、周波数が与えられ、また、所要不稼働率が品 質条件として与えられている場合に、同不稼働率に相当する降雨減衰確率が得られる降 雨減衰量(=所要降雨減衰マージン)を降雨減衰確率推定により求め、降雨減衰マージ ン( F )がその値以上になるよう、用いる無線通信システムのリンクパラメータを決定 する、
などが可能となる。
理解を容易にするために、、回線不稼働率規定または目標に関する国内での参考事例を 示すと、以下のような例がある。
A 11GHz帯の中継系無線通信システムの回線品質規定例
11GHz 帯の1 無線回線当り156Mbpsの容量を有する中継系無線通信システムの回
線品質を「符号誤り率が10-4を超える降雨断の時間率(これを回線不稼働率と定義)
が年間0.033%/280km以下であること」というように定めた例がある。11GHz帯のシ
ステムは、最大で 30km 程度、通常は10〜20km程度もしくはそれ以下の伝搬路長で用 いられると考えられ、例えば、15km の伝搬路長の無線回線であれば、年間の不稼働
率が 0.001768%、時間にして約 9.3 分以下になるよう回線設計が行われなければなら
ないこととなる。
B 22GHz 帯の移動体通信基地局用アクセス回線に用いる無線通信システムの回線品質
規定例
22GHz 帯を使用する移動体通信基地局用アクセス回線に用いる無線通信システム
の回線品質を、「符号誤り率が10-4を超える降雨断の時間率が 1 区間当り年間0.004%
以下であること」というように定めた例がある。年間0.004%は、時間にして約21分 である。
C 22、26及び38GHz帯の加入者系無線通信システムの回線品質目標例
22、26及び38GHz帯を利用する加入者系無線通信システムの回線品質については、
求められる品質が適用条件に依存するとして(例えば、企業向け用の場合は高品質が 求められ、コンシューマ向けベストエフォート的用途では品質もさながら経済性が重 視される)、品質規定のような形では定めず、システムに関する検討における議論の 中で、参考条件として回線品質目標とともに回線設計例が示された例がある。その場 合に示された条件は「符号誤り率が 10-4 を超える降雨断の時間率が 1 区間当り年間
0.004%以下または同 0.0004%以下」というものである。年間 0.004%は時間にして約
21分、年間0.0004%は時間にして約2.1分である。
2.2 降雨減衰確率推定について
降雨減衰確率推定は、上述のように、「ある条件の下で与えられた任意の降雨減衰量を 超えるような減衰量を生じる降雨の発生確率を推定する」ことであって、「ある値を超え る値が発生する確率を示す累積確率値」を推定するものである。したがって、求めるもの は累積分布(CDF)である。
全国において降雨減衰量の確率分布推定を行うことを考える場合には、まずデータと して何が使用できるかということを考えなくてはならない。考えられる可能性としては、
直接降雨減衰量の統計データが得られるか、それとも減衰を発生させるのは降雨であるか ら降雨の統計データが得られるか、のいずれかであるが、前者については関連する情報は 全く開示されておらず、筆者の経験から言えば、無線通信システムを所有する事業体は受 信レベルまたは減衰量のデータを全国レベルで保存するようなことは行っておらず、この 種のデータを利用することは極めて考え難い。では残るは、降雨データとなるが、これに ついては、気象庁が、先にも示したように、古くは自記記録紙による記録であったが、近
年ではAMeDASを全国に配備して降水量を観測しデジタルデータで記録しており、これ
を利用する可能性が考えられる(既存の降雨減衰確率推定法で用いるパラメータも、気象 庁において自記記録紙に記録されていたデータがベースとなっている)。しかしながら、
気象庁の降水量データは降雨減衰確率推定用データを得ることを想定して測定が行われ ているわけではないため、入手可能なデータから目的とする情報(1分間降雨強度の確率 分布)を精度良く求めることができるかがポイントとなる。また、気象庁の降水量データ から1分間降雨強度の確率分布が精度良く得られるとしても、それは一地点の1分間降雨 強度の確率分布であるのに対し、無線リンクにおける降雨減衰量は伝搬路上の各地点にお ける降雨減衰量の積分値であるので、これを求めるには、伝搬路上の各地点における1分 間降雨強度の確率分布の区間積分により、無線リンクを通しての1分間降雨強度の確率分 布を求めることが必要となる。
さらには、降雨データを用いるとするならば、1分間降雨強度の確率分布から降雨減衰 量の確率分布への変換を行う必要があり、このためには1分間降雨強度と降雨減衰量との 関係を知る必要がある。
以上に示したのは主な要素であるが、関連する細かい要素を含めて、これらを利用で きる形にまとめあげたものが降雨減衰確率推定法である。これら各要素について、詳細を 以降に示す。
2.2.1 降雨減衰量と降雨強度との関係
降雨による電波の減衰は、雨滴の吸収・散乱によることから、雨滴の形状・大きさに