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種々な近似条件での近似精度比較

第5章  降雨減衰確率推定に最適な分布モデルに関する考察

5.3.2  種々な近似条件での近似精度比較

5.3.2.1  1mm/h以上の全サンプル点情報を用いた近似

5.2.1 節に示したAMeDASの1分間降水量データから得られた表5-1に示した104地

点における1分間降雨強度の複数年を通しての CDF を用い、前節に示した各手法に基づ

き、1mm/h以上の全サンプル点において二乗誤差が最小となるよう近似を行った場合(以

下、単に全サンプル点近似という)について、各分布ごとの累積確率の対数値の二乗平均 平方誤差(以下RMSE:Root Mean Square Errorという)を度数分布比較する形で示したも

のが図5-2である。1mm/h以上としたのは、M分布が式(2-8)に示す下限値(R*)以上で成

立する分布であるためである。また、度数分布は横軸の各 0.05 幅に含まれる頻度(厳密 には、各0.05幅の小さい側の値以上、大きい側の値未満に含まれる頻度)を示している。

図5-2  全サンプル点近似における累積確率の対数値のRMSE比較

0 10 20 30 40 50

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.55 0.6 ガンマ分布

対数正規分布

条件付対数正規分布 M分布

累積確率の対数値のRMSE

図5-2において、M分布が、RMSEが小さいところに高いピークがたっており、また、

広がりも狭く、他の3つの分布に比し、かなり近似精度が優れていることがわかる。残る 3つの分布の中では条件付対数正規分布の精度が幾分良い。なお、同図の横軸は、累積確 率の対数値の RMSE を示しているが、誤差の大きさが直感的にわかりにくいため、この 値が累積確率を対数目盛で表した場合にどのようになるかを図5-3に示した。

図5-3  累積確率の対数値のRMSEの大きさをわかりやすく示した例

図5-3は、累積確率p%(=10, 1, 0.1, ・・・, 0.0001%)を基準とした場合に、図5-2に示 したRMSEの値が対数軸(累積確率)上で占める幅を示している。p%より大きい側の垂 直方向線分、小さい側の同線分それぞれが RMSE に相当する幅を示しており、対数目盛 の間隔が図5-3と同じグラフに対しては、図5-3の各RMSEごとの線分の大きさをRMSE の大きさと考えればよい。対数目盛の間隔が異なる場合は比例換算すればよい。

実際にCDF上での近似はどのようになっているか、標準的なケースとして東京(1997

〜2002年)の場合について、実測値と近似曲線の関係を示したものが図5-4である。M分 布が非常に良い近似を示している。ちなみに図5-4の場合の累積確率の対数値のRMSEは、

M分布0.059、ガンマ分布0.282、対数正規分布0.236、条件付対数正規分布0.171である。

p 10p

0.1p

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.55 0.6

累積確率の対数値のRMSE

図5-4  全サンプル点近似の近似度比較[東京(1997〜2002年)の例]

5.3.2.2  必要最小限のサンプル点情報を与えて近似を行う場合の比較

検討対象とした4つの分布モデルは5.3.1節に示した式からわかるように、2つのパラ メータでカーブが決定される分布であり、CDF 上の異なる 2 点の累積確率における1分 間降雨強度を与えて分布を求める方法、及び1点の累積確率における1分間降雨強度と分 布モデルの特性パラメータの1つを与えて分布を求める方法が考えられる。M分布、対数 正規分布及び条件付対数正規分布については、最小二乗法により、前者、即ち2点の累積 確率における1分間降雨強度を与えて、その2点を通過する唯一のカーブを決定する式を 得ることができる。しかしながら、ガンマ分布については、これが適用できず、既存の降 雨減衰確率推定法において、後者、即ち1点の累積確率における1分間降雨強度と分布モ デルの特性パラメータの1つを用いて分布を求める式が与えられているため、これを用い ることとした。以下では、まずガンマ分布を除く3つの分布モデル、即ち、M分布、対数 正規分布及び条件付対数正規分布について、前者を用いて近似評価を行った結果を、次い でガンマ分布については後者を、ガンマ分布以外の 3 つの分布モデルについては前者を、

それぞれ用いて近似評価を行った結果を示す。

5.3.2.2.1  2点の累積確率における1分間降雨強度を与える場合(除くガンマ分布)

図5-2の場合と同様、AMeDASの1分間降水量データから得られた表5-1に示した104 地点における1 分間降雨強度の複数年を通しての CDF を用い、2 点の累積確率における

10

‑5

0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100

0 50 100 150 200 250 300

実測値CDF ガンマ分布 対数正規分布 条件付対数正規分布 M分布

1分間降雨強度 [mm/h]

1分間降雨強度を与えて近似を行うことができる M 分布、対数正規分布及び条件付対数 正規分布の3 つの分布について、0.3%値と0.003%値を与えて分布カーブを求め、近似精 度について比較評価を行った。各分布ごとの累積確率の対数値の RMSE を度数分布比較 したものを図5-5に示す。なお、0.3%値、0.003%値を用いたのは次の理由による。0.003%

については、1分間降雨強度の1年間の最小確率値が0.00019%であり、統計的に安定な値 が得られる下限の値として、0.00019%より1桁程度大きい値を用いることが適当と考え、

また、0.3%は、広範囲で良好な近似精度を得たいという目的を考慮しつつも、要求される

回線品質目標を考えた場合 1%以上の確率値を用いることは考えにくいため、これより小 さく、0.003%より2桁程度離れた点を用いることが適当と考えた。

図5-5  0.3%値と0.003%値を与え近似した場合の累積確率の対数値のRMSE比較

(除くガンマ分布)

図5-5において、M分布は、図5-2では累積確率の対数値のRMSEが0.1〜0.15のとこ ろに高いピークを生じていたものが、このピークが下がって0.15〜0.2 にも分散されたよ うな形状となっており、それ自身の近似精度は悪くなっているが、他の2つに比較しては、

依然かなり良いと言える。

図5-4 の場合と同様、標準例として東京(1997〜2002 年)の場合について、実測値と 近似曲線の関係を示したものが図5-6である。図5-6においても、M分布については、図 5-4と傾向はほとんど変わらず、非常に良い近似を示している。対数正規分布、条件付対

0 10 20 30 40

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.55 0.6 0.65 0.7 対数正規分布

条件付対数正規分布 M分布

累積確率の対数値のRMSE

数正規分布についても、全体的な傾向は似ているが、図5-4の場合より累積確率が小さい 部分での開きが大きくなっている。

図5-6 0.3%値と0.003%値を与えた場合の近似度比較[東京(1997〜2002年)の例]

5.3.2.2.2  ガンマ分布を含めた 2パラメータでの比較

ガンマ分布は、2つの特性パラメータβ、νのうち、νが形状パラメータであり、これ と特定の累積確率における 1 分間降雨強度を与えて確率分布推定を行うことが可能であ り、既存の降雨減衰確率推定法において採用されている。パラメータνについては、全国 における解析に適用できる値として、強雨期3ヶ月の値がいくつかの文献[2],[3],[5]に示され ているが、年間の値について示されているものは見あたらない。このため、強雨期3ヶ月 のCDFを用いて比較評価を行うこととした。

図5-2及び5-5と同様、AMeDASの 1 分間降水量データから得られた表5-2 に示した 99地点における1分間降雨強度の複数年を通してのCDFを用い、近似比較を行った。ガ ンマ分布に対しては、パラメータνについては、文献[5]に基づき、表5-4に示す値を用い、

特定の累積確率における1分間降雨強度としては0.0075%値を与え、また、同文献の式(2) を用いて、もう一方のパラメータβを得ることにより分布カーブを決定している。ガンマ 分布以外については、前節と同様の手法に基づいているが、0.75%値及び 0.0075%値を与 えた場合について示している。ガンマ分布に対して0.0075%値を与えたのは、既存の降雨 減衰確率推定法で採用されている点を考慮したものである。また、ガンマ分布以外に対し

10

‑5

0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100

0 50 100 150 200 250 300

実測値CDF 対数正規分布 条件付対数正規分布 M分布

1分間降雨強度 [mm/h]

て、0.75%値及び 0.0075%値を与えたのは、ガンマ分布に 0.0075%値を与えたので、比較 のために、一方をこれに合せ、他方を2桁離したものである。

表5-4 ガンマ分布近似で用いる強雨期3ヶ月の1分間降雨強度のCDFのパラメータν

地域名  ν

九州  0.01

中国, 近畿, 北陸, 東海, 

関東, 信越, 北海道  0.005 四国, 東北  0.0075

各分布ごとの累積確率の対数値のRMSEを度数分布比較したものを図5-7に示す。

図5-7  強雨期3ヶ月データを用いた近似における累積確率の対数値のRMSE比較

(ガンマ分布は0.0075%値と分布のパラメータν、他の分布は0.75%値と0.0075%値を与えた)

図5-2及び図5-5に引き続き、図5-7においても、ピークの位置、分布の広がりから判 断して、近似精度が最も優れているのはM分布であり、ガンマ分布がこれに次いでいる。

なお、M分布は、図5-2よりも図5-5が、図5-5よりも図5-7が、近似精度が悪くなって いるのに対し、ガンマ分布は、図5-2よりも図5-7の方が良くなっており、図5-7におい ては、両分布の差は小さくなっている。対数正規分布及び条件付対数正規分布は、図5-2、

図5-5及び図5-7で、かなり形状が異なっており、これらの図の間での両分布の近似精度

0

10 20 30 40

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5 0.55 0.6 0.65 0.7 ガンマ分布

対数正規分布

条件付対数正規分布 M分布

累積確率の対数値のRMSE

を一概に論じることはできないが、いずれの場合においても、M分布に対しては近似精度 は明らかに劣っている。

図5-4、図5-6の場合と同様、標準例として東京(1997〜2002年)の場合の実測値と近

似曲線の関係を示したものが図5-8である。

図5-8  強雨期3ヶ月データを用いた近似における近似度比較[東京(1997〜2002年)の例]

(ガンマ分布は0.0075%値と分布のパラメータν、他の分布は0.75%値と0.0075%値を与えた)

図5-8において、M分布については、図5-4、図5-6と傾向はほとんど変わらず、非常 に良い近似を示している。ガンマ分布は、図5-4の場合に比べ累積確率が大きい領域での 近似が良くなっている。対数正規分布、条件付対数正規分布は、図5-4、図 5-6 の場合と 同様、累積確率が小さい部分での開きが目立つ。