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5 JCM

きな問題にはならないと考えられる。また、⑥土地取得については、今回の土地は開発業 者により取得済みであるため、この点も問題にならないと考えられる。

他方、①企業の省エネ意識、②政府の能力、③商習慣、④現地化の際の労働力について は、対策をとることが必要である。

①企業の省エネ意識

先行するJCM実行可能性調査によれば、参入する企業側が省エネやスマートコミュニテ ィーの便益に関心を持ち、理解している必要性が指摘されている。また、定量的に省エネ の効果の試算を提示しても、インド側ではその数字そのものを信用しようとしないことも あるとヒアリング調査で指摘された。NMSEZにおける企業誘致の際には、その省エネ効果 やスマートコミュニティーとしての利便性の説明に注力する必要がある。

②政府の能力

NMSEZ のスマートコミュニティー事業においては、インフラの整備から工業団地の誘

致・運営まで多種多様な要素が含まれる事業であるため、それだけに必要となる許認可も 多くなる。先行するJCM実行可能性調査によれば、これが、遅々として進まなくなること は、事業を推進していく上で大きな障害となる。また、こうした行政の非効率は複数の省 庁がまたがるプロセスについてはことさらに悪化すると言われている。このため、NMSEZ の開発に対して関連政府機関(主に州政府)がコミットし、迅速に各種手続きを進められ る体制を構築する必要がある。また、インフラの整備は、企業誘致のために各種手続きの 窓口を一本化する必要がある。たとえば、ラジャスタン州のニムラナ工業団地は、ラジャ スタン産業開発・投資公社が事務所を設置し、窓口を一本化することで効率化を図ってい る 40。このように、州政府のコミットメントを早期に勝ち取り、デベロッパーと政府の連 携が緊密に取れる体制づくりが必要になると考えられる。

③商習慣

JCM実行可能性調査において日本とインドの間での商習慣の違いが多く、それらに留意 したプロジェクトの遂行が求められることが指摘されている。同様の指摘はヒアリング調 査の対象企業からもなされた。たとえば、インド国内の施工業者、納入業者などの問題で は製品の納期が守られないことが多いことや、粗雑な施工で多く品質の確保が難しく、納 品が遅れることも多い。更に、工期が長いことも問題である。例として、高級住宅を建設 する場合、4~5年かかることが多いとヒアリング調査で指摘されている。

④現地化の際の労働力

現在インドにおいては、製造業の成長が著しく、今回対象とする太陽光パネルや高効率 エアコンもインド国内で製造されている。今後、NMSEZやそれ以降のインド中のスマート コミュニティーの製品需要を満たすために、日本からの製品輸出の場合、輸送費や関税と いったコストが発生するため、インド市場において競争力を持つには現地生産も検討する

40 JETRO「インド・ラジャスタン州 ニムラナ工業団地のご案内」

https://www.jetro.go.jp/jetro/overseas/in_newdelhi/neemrana/neemrana_201406.pdf

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しかしながら、JCM実行可能性調査においては現地での生産のための人材を確保するこ とが難しい状況にあることが報告されるとともに、今回ヒアリング調査の対象企業からも 市場が拡大していることもあり、各社とも人材を必要としており、奪い合い・引き抜きが 多く行われていることが指摘された。今回対象とする技術に関しては、工員に一定の水準 の技能が求められる一方、製造業全体が成長している中、同業他社からの引き抜きだけで はなく、自動車産業など他業種からの引き抜きもある。また、インドの工員の転職志向も 強いため、人材の確保は重要な課題となっている。 同時に、複雑な機器の設置工事につ いては、工員の教育も行う必要がある。

(2) 個別技術に関する課題

① 太陽光発電

1) 気候条件などの問題

ヒアリング調査の対象企業によると、インド国内において太陽光発電を実施する際には、

季節の変動(雨季と乾季の違い)、気温、砂塵などの影響で発電効率を低下させる要因があ るため、それらに対策が必要となる。

①雨季と乾季の違い

インドでは雨季(7月~9月)と乾季(10月~3月)があるため、年間を通じて発電効率 の変動が大きい。特に、雨季には別途電源を用意する必要がある。太陽光発電の間欠性対 策としては蓄電池の設置などが考えられるが、蓄電池のコストは依然として高いため、蓄 電池の導入は太陽光発電の採算性を悪化させる要因となる。

②高い気温

気温が高くなると、太陽光パネルに熱が滞留し発電効率を悪化させる要因となる。イン ド国内でも気温が高い地域(特にムンバイは年間通じて最高気温が30℃以上で、最高で40℃ 台なる。また、パネルの表面温度は80℃~90℃程度になる)においては、太陽光パネルの 熱対策が必要。

③砂塵

インドでは砂塵が多く、パネル表面に堆積することでも発電効率の低下を招いているた め、日々のメンテナンスにおいて砂塵を除去する必要がある。水洗による除去は有効であ るが、上水道設備が整備されていない地区も多く、また整備されていても水道料金が高い ため、太陽光発電のコストを上げる要因とる。特にミネラル分の多い水質であれば、時間 の経過とともに含有する塩分によって機器の故障が発生することもあり、インド国内での 太陽光発電実施の上での課題となっている。

2) 市場の競争激化と需要家の価格重視の姿勢

表5.2の通り、インド連邦政府及びマハラシュトラ州政府による太陽光発電の優遇政策が 整備されている41

41 その他の優遇税制等は第2章2を参照。

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表 5.2 インド連邦政府及びマハラシュトラ政府による太陽光発電事業優遇措置

Viability Gap Funding (VGF)42

所管:連邦政府

• 固定価格での売電契約(最大Rs.6.43/kWh ≒10.5円)

と設備補助が与えられる。設備補助は、1MW当たり 1千万ルピー(≒1640万円)を上限とする逆オークシ ョンを行う。

Renewable Purchase Obligation43

所管:マハラシュトラ州政府

• 発電事業者に対して、再エネ電源を購入すること義務 付けている。再エネの発電量は証書取引の対象となる

(米国のRPSに近い制度)。 売電契約44

所管:マハラシュトラ州電力 規制委員会

• 競争入札により売電価格を決定

• 契約期間は13年間

• 優先給電

出典:各種資料より日本エネルギー経済研究所作成

このように、太陽光支援策は用意されているが、現在日本の太陽光パネルが参入してい くのが難しい状況にある。ヒアリング調査の対象企業によると、市場の拡大を受けて、多 くの企業が参入しているが、このことは一方で、市場の競争を激化させ、価格競争が激し くなってきている。米国の企業の中には、輸送費用を抑えるためにインド国内に太陽光パ ネル製造工場を建設し、インド国内で販売する太陽光パネル製造をしている企業もいる。

そのため、日本からインド国内に輸出すると輸送費がかさみ価格の競争力が失われている。

また、インド国内では、価格が最も重要な判断基準となっており、少々、性能が悪くても 価格が安いものが選ばれている。また、マハラシュトラ州での太陽光発電事業の売電価格 を決定する際に、MERCが発表している目安の設備費が6090万ルピー(≒1億円)となっ ている。一方、日本の固定価格買取制度の価格を検討する調達価格算定委員会では、2015 年度の想定費用が2.9億円/MWとなっている45。連邦政府のVGF制度による太陽光発電 プロジェクトを実施する際も、設備補助費は約 1,640 万円が上限となっており、日本とイ

42 Maharashtra Electricity Regulatory Commission, (Renewable Purchase Obligation, Its Compliance and Implementation of REC Framework) Regulations, 2010

http://www.mercindia.org.in/pdf/Order%2058%2042/Final_MERC(RPO-REC)_Regulation_2010_E nglish.pdf

43 Ministry of New and Renewable Energy, Guidelines for Implementation of scheme for setting up of 2000 MW Grid-Connected Solar PV Power Projects with Viability Gap Funding (VGF) under Batch-III of Phase-II of the JNNSM,

http://mnre.gov.in/file-manager/grid-solar/Scheme-2000MW-Grid-Connected-SPV-with-VGF-under-JNNSM.pdf

44 Maharashtra Electricity Regulatory Commission, Maharashtra Electricity Regulatory Commission (Terms and Conditions for Determination of Renewable Energy Tariff) Regulations, 2015

http://www.mercindia.org.in/pdf/Order%2058%2042/MERC(TandC%20for%20Determination%20o f%20RE%20Tariff)%20Regulations,%202015%20.pdf

45 経済産業省 調達価格等算定委員会(第20回)配布資料「資料1 再生可能エネルギー の導入状況と固定価格買取制度見直しに関する検討状況について」。想定設備費用は10kW 以上の発電設備の値。

http://www.meti.go.jp/committee/chotatsu_kakaku/pdf/020_01_00.pdf

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いる企業にとって、インドは、極めて厳しい競争環境だと言える。こうしたなか、パネル の性能や耐久性といった点で優れている製品が優遇されるような規制や政策が整備されて いるわけではないため、高性能だが価格の高い日本製の太陽光パネルが進出することは非 常に困難な状況にある。

② 高効率エアコン

1) ラベリング制度の問題

インドの省エネラベリング制度は負荷変動を想定せずに設定されているため 46、日本の 空調機器メーカーの得意とするインバーターエアコンの性能が強みとならない。現在、負 荷変動を踏まえたAPF(Annual Performance Factor)基準の制定が検討されているが、

インド国内での気候が大きく異なり、特に、NMSEZは気温が高いため、高出力で負荷変動 なくエアコンを稼働させる需要家も多い。こうした使用状況においては、日本のメーカー の強みであるインバーター技術が優位性を持てない状況にある。

2) 消費者の価格重視の傾向

インドの需要家の多くが省エネに関心がなく、関心がある一部の需要家であっても製品 購入の際には省エネ性能よりも製品の安さを優先するとヒアリング調査では指摘さている。

このため、どれだけエネルギー効率が悪い製品でも、販売価格が安ければ、多くの需要家・

消費者は、価格の安い製品を選んでしまう傾向が強いのが現状である。

③ BEMSあるいは制御系

1) コストの問題と信頼性

ヒアリング調査の対象企業によると、インド国内では人件費が安いため、高価な機器を 導入して空調機器の制御を行うよりも、人員を配置して管理させる方が費用対効果は高い のではないかと指摘している。また、制御系技術の必要性を顧客に説明する際には、顧客 側が省エネ効果のデータを用意に信頼しないこともあり、省エネ効果の証明には力を入れ る必要があると指摘している。

46 Bureau of Energy Efficiency, “AC Notification/ Gazette, Schedule 3 - Room Air Conditioners,” https://www.beestarlabel.com/Content/Files/Schedule3A-RAC9jun.pdf

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