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3. 事業化のためのファイナンスの検討

3.1 インドのスマートシティの資金源

インド政府は2015年、スマートシティ整備事業の対象となる98都市を発表し、整備事 業実施には、政府が各都市の開発計画書を審査した上で、100都市を対象に5年間で4,800 億ルピーの予算を振り向けられ1都市当たり10億ルピーが毎年支給されることになるとの 報道がある。マハラシュトラ州ナミムンバイは、2006年日印政府間で合意したデリー・ム ンバイ間産業大動脈(DMIC)構想にカバーされており、工業団地、物流基地、道路・港湾、

商業、住居施設などのインフラ整備が進められる。主たる事業である、高速貨物専用道路

(DFC)、チェンナイ地下鉄建設事業、西ベンガル州上水道整備事業にJICAはインド政府 向け円借款総額1,830億7,900万円を限度に貸付契約に調印している。DFC周辺では、日 印双方で様々なプロジェクトが始まっており、日本側では、マハシュトラ州での双日によ るFTWZ(Free Trade&Warehouse Zone、物流加工保税区)と鉄道輸送を合わせた複合物 流インフラ事業など、インド側では、工業団地(シェンドラービドキン地区、スーパーネ ワサータブラプリ地区)、物流のほか、ナビムンバイはコンベンションセンタープロジェク トなどが上がっている。

これらの都市開発には、初期投資の資金調達に、民間の資金を活用し、料金収入が見込 めれば、PPPスキームを活用するケースが多くみられる。例えば、高速道路、港湾の整備、

運営は料金収入が見込まれるが長期的リスクが内包される。上水や電力供給は料金収入が 低いためODAなどに依存しがちである。DMICの場合、プロジェクト開発ファンド(Project

Development Fund)がDMIC開発公社に組成され、インフラ個別案件毎に州政府により

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特別目的会社(SPV)を設立し、実施可能性調査、許認可、土地をパッケージ化し、入札によ り、SPV を民間事業者に売却するスキームをとっている。マハラシュトラ州では、マハラ シュトラ州産業開発公社(MIDC)が担っている。JBICは、2009年12月にインドインフ ラ金融公社(IIFCL)に対し、DMIC構想推進のための事業開発資金として7500万ドルを 限度とした融資契約を締結しており、主に日本に関連のあるプロジェクトに活用されるこ とが想定されているが、インドの公共入札制度においてどの範囲で適用可能かは明確では ない。これらの開発計画を背景に、ナビムンバイスマートコミュニティの事業化に関連し てファイナンスについて検討する。

3.2スマートコミュニテイ計画の事業化のファイナンス面での現状

2009年末、DFC周辺開発にスマートシティ計画が盛り込まれた。マハラシュトラ州では シェンドラ地区に対して、2011年に日揮株式会社が幹事となり、横浜市と、三菱商事、荏 原エンジニアリング、日本 IBM、日建設計などのコンソーシアムで実施可能性調査を実施 している。そのほかにも、日系企業コンソーシアムでいくつかのスマートシティの調査が 行われている。これらの計画は、主に、IT制御によるエネルギーネットワーク構築、ス マート交通・物流インフラ、再生可能エネルギーや蓄電池を利用したスマートグリッドな どの要素を盛り込んだ絵図である。我が国でも実証段階に進んでいるスマートシティ事業 は多くなく、地権者が1者でありエネルギーの需要者がすでに多くが決まっている場合で あるという。また、再生可能エネルギーの固定買い取り制度は必須であり、需要家側の努 力(負荷カーブ整形による節電、デマンドレスポンス等)以外のインセンティブの設定な どが必要とされる。実際にはスマートシティとして収益の上がるビジネスモデルを描くこ とは容易ではなく、アブダビのマスダールシティのスマートシティが成功したとされるの も、住宅分譲および法人テナントの入居が成功しなければ付加価値に対して投入されるコ ストを回収することは難しいとされている。

3.3インド政府の再生可能エネルギーおよび省エネルギー資金源

インド政府には、スマートシティを実装する際に有効な再生可能エネルギーおよび省エ ネルギーに関する資金施策が多くとられており、スマートシティへの資金源の誘導のイン センティブになる。都市開発自体にもインセンティブはあるが、本項では、二国間クレジ ット制度の対象事業である再生可能エネルギーおよび省エネルギーの施策について以下に まとめる。

3.3.1 インド国内の資金源及びプログラム

(1)再生可能エネルギー関連のインセンティブスキーム

インド政府は、再生可能エネルギー推進策として、2009 年から固定価格買取制度(FIT) を導入したほか、初期コスト支援・補助金、採算性ギャップに対する補助金、貸出優遇金 利、税制優遇(関税免除、付加価値税減免、減価償却の加速)、売買電支援・買取価格補助 など、さまざまな優遇措置を打ち出している

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産業政策

i) 新エネルギー・再生可能エネルギー省(MNRE)による新規大規模開発に関する指針:

インドの設備容量の 69%を占める風力発電開発に関する様々な資金援助政策や促進政 策を定めている。発電収益にかかる所得税の免除などの財政優遇措置が含まれている。

ii) 小規模/超小規模水力発電プロジェクト支援:MNREは、官民両部門における小規模 / 超 小規模水力発電事業の立ち上げに対し資金援助を行っている。

iii) 国家海上風力エネルギー政策:2015年9月に承認された。外国直接投資や官民パーナー

シップ、国際協力を促進するため、財政的なインセンティブの策定が示唆された。

iv) アンドラ・プラデッシュ州、ハリヤナ州、パンジャブ州、マディヤ・プラデッシュ州、

マハラシュトラ州、ラジャスタン州、タミル・ナドゥ州、グジャラート州、ケララ州、オ リッサ州、そしてウェスト・ベンガル州の州電力規制委員会は、風力発電で生産された電 気の購入に対し優遇税率の適用を発表している。マハラシュトラ州には再生可能エネルギ ーの優遇タリフの命令については現在パブリックコメント中、屋上型や小規模ソーラーの 2015の命令がでている。

2014年連邦予算における規定

 風力発電機に使われるベアリング製造に用いられる鍛造スチールリングに課される物

品税率が12%からゼロに引き下げ。

 太陽光発電電池 / モジュール、太陽光発電機器 / システムや平面太陽光集光器に使わ れる太陽光強化ガラスについて、物品税が全額免除される。

 太陽光発電所建設に必要な機械や機器について物品税が全額免除される。

 太陽光セル / モジュール製造で使われるバックシートや EVA シート、その他特定の 原材料について物品税を全額免除。

 非従来型エネルギー機器を製造する工場内で消費される部品に対する物品税の全額免 除。

 太陽光セル / モジュール生産に使用する PV リボン ( 錫被膜接続 )の原材料の平面 銅線にかかる物品税の全額免除。

 圧縮バイオガス工場設立に必要な機械や機器について物品税を全額免除。

 風力発電機部品のベアリング製造に使われる鍛造スチールリングについて、基本関税 率 ) を 10%から 5%に軽減。

 風力発電機の部品にかかる特別追加関税 Special Additional Duty の完全免除。

 太陽光発電所設立に必要な機械、機器にかかる基本関税率を 5%引き下げ。

 太陽光パネルのバックシートや EVA シート生産に必要な特定の材料について基本関 税が全額免除。

 太陽光 PV セル / モジュールに使用される PV リボン ( 錫被膜接続 )生産に使用さ れる平面銅線にかかる基本関税の全額免除。

 圧縮バイオガス工場の設立に必要な機械、機器に関して優遇関税率 5%の適用。

太陽光発電部門の開発のためインド政府が提供する優遇措置:

 太陽光発電所設立に必要な部品や機器について物品税の免除、および優遇輸入税率の 適用の引き下げ。

 太陽光発電事業に対し、10年間の免税措置。

 送電、銀行取引、第三者電力販売と電力買い戻し等に対する州政府の優遇措置。

 州による電力買い上げを義務化し、市場を保証。

 送電容量 33KV 以下の送電網に接続する小規模太陽光発電プロジェクトのための、発 電容量ベース優遇措置。インド政府は、33kV 以下の送電網に接続する小規模太陽光発 電プロジェクトを用意。

 送電料が他の従来エネルギーに比べ低く抑えられている。

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 再生可能エネルギー分野に特化した経済特区 (SEZ) からの輸出に対する特別優遇措 置。

 州の電気水道ガスサービス/電力送電公社のデフォルトリスクに対応する補償金システ ム。

 送電網に接続しない太陽光発電および太陽熱プロジェクトに対し、事業費の30%を補 助。

 送電線を利用しない発電プロジェクトに対し、優遇ローン金利を適用。

バイオマス発電事業のための資金援助措置

 加速償却:初年度に限り特定の機器に対し、80%の償却申請を認める。

 所得税を 10 年間免除。

 プロジェクト立ち上げの期間は、機械や部品に対し、優遇関税率を適用し、物品税を 免除する。

 特定の州では売上税の免除を適用している。

 バイオマス発電とバガス熱電併給の立ち上げ事業については、インド再生可能エネル ギー公社(REDA)が資金援助を行う。

小規模水力発電プロジェクトに対する資金援助

 特恵関税。

 小規模/超小規模水力発電機を設置する州政府や民間部門に対する、中央政府による資 金援助。

 優遇関税率の適用。

 10 年間の免税。

また、MNREは、金融面から再生可能エネルギー、省エネルギーおよび環境技術への投 資を支援・促進するため、1987 年にインド再生可能エネルギー開発公社(The Indian Renewable Energy Development Agency Ltd.:IREDA)を設立し、再生可能発電と省エ ネルギービル基準(ECBC:Energy Conservation Building Code)を含む省エネルギーの プロジェクトに金融支援を行っている。対象分野のプロジェクト、機器の製造、機器の取 得を対象として必要資金の 70~80%を期間6~10年、金利9.75~12.75%で融資している。

世界銀行も同公社に省エネルギープロジェクト支援のためのクレジット・ラインを供与し ている。

なお、上述の再生可能エネルギー法案では、再エネ導入強化のための技術支援、財政支 援等が盛り込まれ、目標達成を資金面で支援するため、国家再生可能エネルギー基金

(National RE Fund)を設立する一方、州政府は州レベルで緑の基金(State Green Funds) の設立も可能にし、再エネプロジェクトへの資金支援やエクイティ投資、リスク負担、研 究開発への資金支援を推進するとしている20。同法案は2016年に議会に提出される予定で ある。

(2)省エネ関連のインセンティブスキーム

エネルギー効率向上に関する資金プラットフォーム(Energy Efficiency Financing

Platform; EEEP)やエネルギー高効率経済開発のための枠組み構築(Framework for

20 2015年12月に10億ドルのエクイティ基金の設立の予定が明らかにされたが、当初は

国有企業の再エネ事業に投資するとしている。

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