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1. JCM プロジェクトで採用する技術の検討

第2章のNMSEZ開発提言では、さまざまな技術の導入への提言を行ったが、本章では、

① 日本の低炭素技術・製品普及の可能性

② どういった産業が進出するか不明であり、工場における製造プロセスに直接関係する ものを対象にすることは難しいこと

③ 系統からの電力の供給が期待できること

④ JCMとしての排出削減量のMRVの確実性

を考慮して、JCMプロジェクトとして、まず、第1段階として、次の3つの技術を取り上 げ、次節以降で、排出削減方法論の検討、同方法論を用いた排出削減見込み量の試算を行 う。

1. 太陽光発電

2. 商業施設へのBEMS(Building Energy Management System)導入 3. 住宅へのインバータエアコン導入

なお、太陽光発電については、設備容量で210MW程度を想定しており、面積では147ha 程度となり、NMSEZ の全体の面積2000ha に対して、その地面および屋根に十分に設置で きる。

また、インバータエアコンに関しては、現在、インドにおけるエアコンの機器効率は、

機器の定格電力容量に基づくエネルギー消費基準(Energy Efficiency Ratio: EER)を評価手 法として採用しているが、今後、期間効率(Seasonal Performance Factor: SPF)の評価手法を 採用することが検討されている。

2. 適応可能な JCM-MRV の検討

2.1 太陽光発電

インドは一日当たりの日照時間が長くまた日射量が強いことから、太陽エネルギーは有 望なエネルギー源とされている。インド政府は2010年に「ジャワハルラール・ネルー国家 ソーラーミッション(Jawaharlal Nehru National Solar Mission: JNNSM)」を策定して おり、2022年までに合計20GWの太陽光発電を導入することを目標に掲げた。2015年6 月に目標が改訂され、2022年に100GWの太陽光発電の導入(うち40GWはルーフトップ 型、60GW は中大規模の系統連携型)を目指している 28。ただ現状は、電源構成における

28 2008年に発表された「気候変動に関する国家行動計画(NAPCC:National Action Plan

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図 3.2.1 インド全体の電源構成(左)とRES内訳(右)【2015年12月末】

*1 RES=Renewable Energy Sources(再生可能エネルギー源)

*2 小水力は25MW以下の規模のものを指す。

出典:CEA Executive Summary Power Sectorに基づきMUMSS作成

また本プロジェクトの対象地域であるマハラシュトラ州は「新・再生可能エネルギー源 由来の系統連系発電プロジェクトに関する方針(2015)」において、今後5年で7,500MWの 太陽光発電の導入を目標に掲げているが、現状承認されているプロジェクトの合計容量は 360.25MW29である。

本プロジェクトで太陽光発電を導入することは、インド政府及びマハラシュトラ州が掲 げる政策に寄与するものである。

2.1.1 適格性要件

on Climate Change)」の下で「Jawaharlal Nehru National Solar Mission」(JNNSM) は太陽光発電の推進を担う重要な国家イニシアティブとなっている。このJNNSMの下で の太陽光発電の目標導入量はイニシアティブ開始当初は2022年に20GWであったが、2015 年になってから2022年100GWへと大幅に拡大された。

29 Maharashtra Energy Development Agency

http://www.mahaurja.com/PDF/PG2_GridConnSPPCommissioned.pdf 石炭

60.86%

水力

14.99% ガス 8.61%

原子力 2.03%

ディーゼル 0.35%

風力 8.57%

小水力*2 1.46%

バイオマス 1.6%

太陽光 1.53%

廃棄物 0.04%

RES*1 13.2%

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表 3.2.1 適格性要件

要件 内容 設定根拠

適格性要件1 当該プロジェクト活動は、当該プロジェクト活動実施 前に再生可能エネルギーによる発電プラントが稼動し ていないサイトに太陽光発電システムを新規導入する ものである。

インドにおける太陽光発電 の設備容量の全体の1.5%程 度に過ぎず、当該プロジェク トはインドが推進する太陽 光発電に関する政策に寄与 するものである。

適格性要件2 当該プロジェクトで導入される太陽光発電システム は、グリッドに連結、もしくはプロジェクトサイトの 内部グリッドに連結している。

当該プロジェクトは系統と の連結が可能となるメガソ ーラー及び建物のルーフト ップ太陽光発電を対象とし ている。

適格性要件3 オペレーションを含むトータルサービスが提供されて いる。

確実な効果を一定期間保証 し、ホスト国への貢献を最大 限確保する。

適格性要件4 プロジェクトで導入される太陽光発電システムの太陽 電池は、国際電気標準会議(IEC)による性能認証規 格及び安全認証規格の認証、もしくは、これらに完全 整合する国家規格の認証を受けている。

具体的な国際電気標準会議(IEC)の規格は:

- 性能認証規格: IEC 61215(結晶系)IEC 61646(薄 膜系)IEC 62108(集光型)

- 安全性認証規格: IEC 61730-1(構造審査)及びIEC 61730-2(試験)

インドでは一部製品の性能 低下や故障・不具合の発生が 問題となっていることから、

国際電気標準会議(IEC)に よる性能認証規格及び安全 認証規格等の認証を受けて いる機器を選定することに より、製品の品質と信頼性を 付与し、安定的な稼働による 確実な排出削減を実現する。

リファレンス排出量の算定

当該方法論におけるリファレンス排出量は、太陽光発電システムが導入されない場合に 使用されるグリッド電力システムに連結している発電所における化石燃料利用から発生す るCO2排出量であり、当該プロジェクトによる発電量にグリッドのCO2排出係数を乗じる ことにより求める。

𝑅𝐸𝑝= 𝐸𝐺𝑖,𝑝× �1 + 𝐼𝑛𝑣𝐿𝑜𝑠𝑠𝑃𝐽− 𝐼𝑛𝑣𝐿𝑜𝑠𝑠𝑅𝐸� × 𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑

パラメータ 詳細 ソース

RE p 期間pにおけるリファレンス排出量

(tCO2)

計算により算出

EGi,p 期間pにおけるプロジェクトで設置 される太陽光発電システムiによる 正味発電量(MWh/p)

モニタリングされる実績データ

InvLossPJ プロジェクトで設置されるインバ

ータの最大ロス

カタログ値

60

ロス るデフォルト値 EFgrid グ リ ッ ド の CO2 排 出 係 数

(tCO2/MWh)

プロジェクト開始時点の最新公式値を 事前設定値(デフォルト値)として適 用

Net Emission Reductionの確保においては、プロジェクトで使用するインバーター(パワ

ーコンディショナー)よりもロスの多いインバータをリファレンスインバーターと想定し、

インバータによるロスを多く見積ることにより、プロジェクトがグリッドに供給した正味 発電量を実際より低めに算出することにより、保守性を担保している。

2.1.2 プロジェクト排出量の算定

当該プロジェクトにより設置される照明や建屋の冷却等の補機による電力消費量をプロ ジェクト排出量として計上する。

𝑃𝐸𝑝= 𝐸𝐺𝐴𝑈𝑋,𝑝× 𝐸𝐹𝑔𝑟𝑖𝑑

パラメータ 詳細 ソース

PE p 期間pにおけるプロジェクト排出量

(tCO2)

計算により算出

EGAUX,p 期間pにおけるプロジェクト補機に

よる電力消費量(MWh/p)

モニタリングされる実績データ

2.1.3 モニタリング項目

本方法論におけるモニタリング項目は、下記のとおりである。

パラメータ 詳細 ソース

EFgrid グ リ ッ ド の CO2 排 出 係 数

(tCO2/MWh)

0.995

InvLossRE リファレンスインバーターの最大

ロス

0.05(市場調査による暫定値)

なお、上記のグリッドのCO2排出係数はオペレーティングマージン75%とビルドマージ ンを25%ずつの比率で計算したコンバインマージンを採用している。30

30 IGESグリッド排出係数一覧表

http://pub.iges.or.jp/modules/envirolib/view.php?docid=2137

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2.2 EMS

エネルギー監理システム(Energy Management System : EMS)とは、電力使用量の可視化、

節電(CO2 削減)の為の機器制御、ソーラー発電機等の再生可能エネルギーや蓄電器の制 御等を行うシステムである。 我が国においてEMSは、住宅/家庭(Home)、ビル(Building)、

地域(Community)、工場(Factory)などの導入施設において、各々HEMS、BEMS、CEMS、

FEMS の呼称で表現されるなど、その定義および適用範囲は幅広い。一方で、導入対象に より様々な呼称で表現されるものの、エネルギー需要とエネルギー供給のモニタリングと コントロールを実現するというシステムの基本機能は共通である。

このため本書では、「EMS」を導入技術の総称と位置づけ、EMS導入事業に対応するMRV 方法論の検討を行う。

2.2.1 適格性要件

本法論は、表3.2.2にまとめた4項目の適格性要件を満たす事業に適用される。

当該方法論は、プラント、ビル、地域等においてEMSを導入し、エネルギー利用を最適 制御することによりエネルギー消費量の削減を図る事業を対象とする。本方法論における EMS は、事業活動対象プラント、ビル、地域等の一部もしくは全ての機器・設備等を対象 に、エネルギー利用の計測・計量装置、制御装置、データ収集・保存・分析・診断装置等 を設置し、対象機器・設備等の運用効率向上・最適化を図るものとする。

EMS 導入事業における最大の課題は、その効果の定量化が困難な点にある。こうした特 徴を持つ事業に対応する MRV 方法論は、リファレンス排出量の設定や削減効果の要因を EMS 導入に特定することが困難であることから、事前のエネルギー消費量データ収集やモ ニタリングの煩雑さの解消を考慮した方法論開発が望まれる。ここでは、事業者に対し、

妥当性のあるEMS導入効果を定量化することを求めるとともに、定量化に向けた簡易手法 の検討を行う。

EMS 導入の目的の一つに、デマンド制御がある。日本のように時間帯による電気料金の 差異がある場合、EMS による負荷変動の可視化とそれに伴うピークカット制御による電力 消費量の平準化は、エネルギーコスト削減に寄与する。一方で、この電力消費量の平準化 は、必ずしも省エネおよびGHG排出量の削減に直結するものではない。こうした省エネお よびGHG排出量効果の定量化には、対象となる系統電源の時間帯別排出係数のデータが得 られるなど、負荷平準化の効果を明確化する諸条件の存在が不可欠となるが、こうしたデ ータの収集は途上国では極めて困難な要求となる。このため、EMS の導入効果をデマンド 制御に限定する事業は適用外とする。

表 3.2.2 適格性要件

要件 内容 設定根拠

適格性要件1 プラント、ビル、地域等においてEMSを導入し、エネ ルギー利用を最適制御することによりエネルギー消費 量の削減を図る事業であること。

エネルギー消費量のモニタ リング(見える化)だけ行い、

運用で効率化を図るEMS導入 事業は除外する。

適格性要件2 EMS は、事業活動対象プラント、ビル、地域等の一部 もしくは全ての機器・設備等を対象に、エネルギー利 用の計測・計量装置、制御装置、データ収集・保存・

同上

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