(低炭素技術・製品に関する技術的基準や財政的支援策等)
の提言
1. ナビムンバイにおける税制優遇措置、財政的支援策とインド他州及び新興国 との比較
JCM及びスマートシティの推進に当たっては、環境に配慮した設備の導入により追加的 な投資や費用が発生するため、財政的支援策の検討も必要である。ここでは、インド他州 及び、中国など経済成長率の高い新興国の税制優遇措置なども参考にしながら、インド・
マハラシュトラ州ナビムンバイ開発に考慮した財政的支援策のあり方を検討する。
1.1ナビムンバイにおける税制優遇措置・財政支援策
①インドにおける主な優遇措置の比較
インドでは、輸出・雇用などの振興を目的として、2005年に始まったSEZ(経済特別区)
に入居する企業は、多くの税制優遇措置が受けられる。その後、製造業の発展を目的に、
2013年に導入されたNMIZ(国家製造投資区)では、国家製造業政策(2011年発表)に基 づき、GDPに占める製造業の比率を2022年までに現在の約16%から25%まで高めること を目標としている。具体的には、物流など製造業に不可欠なインフラ整備補助などに焦点 を当てることによって製造業誘致を図る政策となっている。その他、ソフトウェアなど特 定産業の工業団地に向けた税制優遇や、上下水道や電力関連など基礎的なインフラ整備を 目的とした補助金等も用意されている。具体的な優遇策等について、表6.1.1に示す。
表6.1.1 インドにおける主な優遇政策
項 目 主な税制優遇措置
(1) SEZ(特別経済区) ・法人税、輸入関税、物品税、サービス税、中央売上税、付加
価値税(VAT)などが免税。
・ただし、法人税は、最大15年間の減免措置(最初の5年間は
100%、続く5年間は50%、収益再投資を条件に更に5年間は
50%免税)。
・なお、配当分配税(DDT)および最低代替税(MAT)は通常 通り課税。
(2) NMIZ(国家製造投資区) ・税制優遇については記載なし。
・ただし、SEZを組み合わせたNMIZを創設することによって、
SEZの優遇措置を受けることができる。
※ SEZは10~1,000ヘクタール、NMIZは5,000ヘクタール 以上の面積が必要
(3) 100%輸出指向型企業
(EOU:Export Oriented Unit)
・輸入関税、物品税、サービス税、中央売上税、付加価値税(VAT)
などが免税。
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①ソフトウエア・テクノロジー・パーク
②エレクトロニクス・ハードウエア・
テクノロジー・パーク
③バイオ・テクノロジー・パーク
同 上
(5) インフラ分野への投資 ・道路、上下水道整備、灌漑、廃棄物処理などのインフラ開発 は、プロジェクト開始から20年のうち、連続する10年間の 法人税が免税。
・通信分野は、最初の5年間は法人税が免税。続く5年間は 30%が免税。
・その他規制:生産開始から 5年間を1ブロックとし、以後継 続的にブロック間の輸出入収支をプラスにすること。
(6) 発電および送配電分野への投資 ・発電・送電・送配電網の整備開発および送配電網の補修・ア ップグレードは、プロジェクト開始から15年のうち、連続す る10年間は獲得利益全額が免税。
・ただし、発電、供給、送配電網の補修は、2017年3月31日 までにプロジェクトの開始が必要。
②ナビムンバイにおける優遇措置
ナビムンバイで受けられる優遇措置は、SEZ(経済特別区)域内と域外で分かれる。SEZ 域内(ナビムンバイSEZ)では、SEZとマハラシュトラ州産業政策2013(2013年1月発 表)の両方の優遇措置を受けることができる。SEZ 域外では、マハラシュトラ州産業政策 2013の優遇措置のみが適用される。
SEZ の優遇措置では、州を問わず多くの税項目について同様の減免を受けることができ
る(表6.1.2)。例えば、法人税は、最初の5年間は100%免税、続く5年間は50%免税、
そして利益の再投資を条件に、さらに 5 年間の段階的な免税措置を受けることができる。
また物品税、中央販売税(CST;Central Sales Tax)、関税、付加価値税(VAT;Value Added Tax)、そして入境税については 100%免税となる。消費電力税と印紙税については、各州 で優遇措置が異なる。ただし、SEZ開始時は100%免税であったが、最低代替税(MAT; Minimum Alternate Tax47)と配当分配税(DDT;Dividend Distribution Tax48)につい ては、2011年から課税が再開されている。
一方、マハラシュトラ州の産業政策に係る優遇措置では、一部の州税減免や、その他優 遇措置を受けることができる(表6.1.3)。州税については、消費電力税と印紙税(土地売買、
リース契約等)に関して免税措置を受けることが可能である。また、スマートコミュニテ ィの構築要素となる省エネや節水設備については、設置補助や、水道・電力の監査費用の 還付を受けることができる。しかし、マハラシュトラ州の政策では、地域の発展度合いに よって優遇措置の対象となる場合とならない場合があり、ナビムンバイは比較的開発の進 んでいる地域であることから、電気料金の割引や事業投資補助(VATとCSTの年間支払額 の一部還付)といった補助は受けることができない。
インドのSEZでは、2015年1月時点で、開発許可を受けた491箇所のSEZのうち、稼
47 MAT:会計上の利益の18.5%が法人税額を超過時に課税
48 DDT:配当税
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働しているのは196 箇所に留まっている。その背景としては、例えば、国際的にみて高い 法人税(約 41~43%)が挙げられ、50%減免期間が認められているものの、6 年目からは 課税が再開される。そのため近年では、2016年4月から4年間で法人税を 30%から25%
まで引き下げる(課税所得 1,000 万ルピー未満の内国法人の場合)の動きがみられる。そ れに先立って、インド国内に新設される製造業について2016年3月から25%が適用される。
また、インフラ整備を促す土地収用法の改正も課題となっている。地権者の同意獲得や社 会影響調査を免除することが改正の内容であるが、農民に不人気な政策であるため足踏み 状態が続いている。しかし、マハラシュトラ州など与党系の州では、先行して改定される 可能性があると言われている。
その他、肥満予防などを目的に砂糖税も間もなく導入される見込みであるが、飲食産業 の多国籍企業進出に影響を及ぼす可能性がある。
上述のように、SEZ域内に入居することで多くの優遇措置が見込まれる一方で、SEZ域 外にはない制約も受けることになる。例えば、SEZ 域内で製造した製品に対して輸出比率 の下限を設けており、海外向け販売比率を75%以上、国内向け販売比率を25%未満と規定 としているが、この規定は、インド市場での販路拡大を見込む海外企業の投資判断に影響 を与える可能性がある。ナビムンバイはインド最大都市ムンバイに隣接し、土地代や人件 費が高いという諸条件を考慮すると、その市場などを見据えた国内販売の上限を緩和して いくことが求められると考えられる。国内販売を目的とし、SEZ 域外へ進出する企業にと っては、比較的税制優遇などが手薄いため、更なる優遇措置が求められる。
表6.1.2 SEZ政策における優遇措置
注釈1:会計上の利益の18.5%が法人税額を超過時に課税 注釈2:州を跨ぐ搬入物品に課税
表6.1.3 マハラシュトラ州産業政策の優遇措置
①インドSEZの優遇措置(税制面)
税分類 税目 内容
国税 法人税 100%免税(最初の5年間)
50%免税(続く5年間)
50%免税(利益の再投資を条件にさらに5年間)
物品税・中央販売税(CST)・関税・サービス税 100%免税 最低代替税(MAT)(注釈1)、配当分配税(DDT) 2011年~課税再開 州税
(各州で設定可)
付加価値税(VAT)・入境税(注釈2) 100%免税
消費電力税・印紙税等 各州で優遇措置設置(注釈3、4参照)
②マハラシュトラ州産業政策(2013)の優遇措置
優遇項目 NMSEZの対象項目
税制優遇 州税 消費電力税100%免税 ○(注釈3)
電気料金割引 ×
印紙税100%免税(土地購入、リース契約) ○(注釈4)
その他 優遇措置
事業投資補助 VATとCSTの年間支払額の一部還付 ×
設備投資補助 省エネ・省水機器 設置補助/監査費用還付 ○
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マハラシュトラ州以外の州で定める優遇政策は、国が主導するSEZ政策とは異なり自由 に設定できることから、州によって優遇措置が異なる。ここでは、スマートシティ 100 都 市構想での整備対象都市が多く、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)、チェンナ イ・バンガロール間産業回廊構想(CBIC)沿いに工業団地が多く集中しているインド5州
(グジャラート州、ラジャスタン州、ウッタルプラデシュ州、タルミナド州、カルナタカ
州)(図6.1.1、6.1.2、図6.1.3)とマハラシュトラ州ナビムンバイとの優遇措置の比較を行
うことにする。
(社)
図6.1.1 インド各州の日系企業の拠点(本支店・営業所・工場等)数
図6.1.2 インド各州のGDP
397
84 79 72
523
299
0 100 200 300 400 500 600
DMIC ゾーン CBIC ゾーン
11.97
5.84
4.11
6.94 6.72
4.62
2.62 0
2 4 6 8 10 12 14
DMIC ゾーン CBIC ゾーン
兆ルピー
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図6.1.3 インドのインフラ整備構想
ここで取り上げた5州では、「事業投資補助」、「設備投資補助」、「優遇ローン」の3つの 優遇措置を州独自で設定している(表6.1.4、6.1.5)ことが特徴である。また、設定されて いる優遇措置は、プロジェクトや企業の規模に応じたメニューとなっていたり、地域を指 定した措置となっていたりする点が特徴となっている。
特に、スマートシティ導入の観点からは、企業進出にとって重要なコアインフラ 49構築 補助や、クリーンな生産設備導入による補助、再エネ設置補助、汚水処理、そして排水設 備設置補助などの環境対策関連補助が織り込まれているのが特徴的である。
以上より、NMSEZでは、税制面で多くの国税・州税が減免されているものの、スマート シティの主たる要素となる「省エネ」、「創エネ」、「蓄エネ」に着目した「投資補助」や「優 遇ローン」が追加されれば、企業進出とともにスマートシティの実現にも貢献すると考え られる。
49 工業団地内道路、電線、通信機能、配水管、下水処理施設、排水施設等
0 500km
ムンバイ
コルタカ
チェンナイ
コーチン カーニャクマリ ハイデラバード
シルチャル アーマメダバード
ポルバンダル
スリナガル
バンガロール 東西南北回廊(NSEW)
南部インド産業経済回廊
チェンナイ・バンガロール間産業回廊(CBIC)
デリー
黄金の四角形(GQ)
デリー・ムンバイ間産業大動脈(DMIC)
貨物専用鉄道建設計画(DFC)
西回廊
貨物専用鉄道建設計画(DFC)
東回廊