第 2 章 ヤフー・ IDCF 事件における濫用と外国税額控除事件における 濫用の違い
第2節 IDCF 事件の租税回避行為
ヤフー事件と IDCF事件は、一連の組織再編行為の中で行われたものであるが、ヤフー
143 渡辺徹也(岡村忠生編著) 前掲注(5) 135頁参照。
法人税法132条の2の適用のあり方に関する問題点の指摘は、渡辺徹也教授の「組織再編と租税回避」
の稿を参照した。
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事件とは別に、IDCF 事件が最高裁判所まで争われていた。IDCF 事件も、租税法の濫用 と判示されて、取引行為が否認された事件である。この節では、IDCF 事件関するどの様 な行為が「濫用」と評価されたのか検討する。
1. 事件の概要
IDCS は、新設分割を利用して IDCF を創設した。このときに非適格分割にして資産調 整勘定を約100億円計上した上で、損金計上した。非適格分割にしたことが、裁判所に「適 格外し」と認定されて否認された事件であった。IDCF 事件は、実態が適格分割であるに もかかわらず、非適格分割であるかのように形式基準のみを整えて租税回避行為を図った がために、法人税法132条の2が適用になった事件である。すなわち、適格外しが損失の 意図的な作出につながったと判断された事件である。
IDCSはIDCF株式を100%保有していたが、平成21年2月20日にIDCF株式をヤフ
ーに約 115 億円で譲渡している。当該譲渡により、100%資本関係がなくなったために、
非適格分割に該当することになった。IDCF は、データセンター事業を時価で受け入れる ことによって、資産調整勘定を約100億円計上したのである。この一連の取引行為に対し て課税庁は、株式保有期間の断絶は一時的なものであり、直ぐに復活していることから、
非適格分割として資産調整勘定の計上を否認した。
最高裁判決の判決文でも、施行令4条の 2第6項1号の要件を満たさないようにするた めに、完全支配関係を一時的に断ち切ったものと述べている144。
2. 最高裁判決が判示した濫用基準
IDCF 事件は、ヤフー事件と同じように組織再編成税制に係る一連の取引行為が関係し た事件である。IDCF 事件の行為が、組織再編税制に係る行為計算否認規定(法人税法132
条の 2)の「不当に減少」の不確定概念に該当するか否かの判断基準には、濫用基準が用
いられた。IDCF 事件の最高裁判決が判示した濫用基準は、ヤフー事件と同様の内容であ り、文面はヤフー事件で判示されたものと全く同一の判決文である145。要約すると、
① 取引の不自然さ・異常性。
144 第一法規法情報総合データベース(判例ID 28240748)平成28年2月29日/最高裁判所第二小法 廷/判決/平成27年(行ヒ)177号 理由第二 三 の判決文の中で述べられている。
145 最高裁判所判決 前掲注(143) 理由第二において濫用の判断基準が述べられているが、ヤフー事 件の濫用の判断基準と同一の文面である。
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② 租税回避行為以外の事業目的の有無。
③ 租税法の立法趣旨・目的からの逸脱。
以上の三点である。
IDCF事件に当てはめて検討する。IDCSは、分社型新設分割を採用して、100%出資の IDCF を新設した。まず取引の①不自然性・異常性については、実態と乖離した非適格分 割を作出したことである。前提として、IDCS は、期限切れ間近の欠損金を消化したいと いう誘因があった。そのため、IDCSは、平成21年2月20日にヤフーにIDCF株式を115 億円で売却することで、「適格外し」を行った。ヤフーへの株式売却行為は、適格分割の要 件として、完全支配関係の継続を要求している法人税法 2条12号の11イの要件を満たさ ないことになる。株式譲渡後にIDCSからIDCFに時価で資産等を引継いだために、IDCS において譲渡益約100億円が発生すると同時に、当該譲渡益とIDCSが保有していた繰越 欠損金とを相殺することによって、期限切れ間際の繰越欠損金を消化できた。さらに、
IDCFには、資産負債調整勘定が約 100億円発生した。この資産調整勘定は、その後の償 却によって損金に算入される。
次に②の租税回避行為以外の事業目的の有無について検討する。ヤフーは、近い将来に おいて、IDCS と合併することが決まっていたため、IDCS からヤフーへの IDCF 株式譲 渡という取引行為は、単なる期限切れ繰越欠損金を消化するためだけに作出された租税回 避行為であり、租税回避行為以外に正当と判断される事業目的が存在しないと判断された。
最高裁判決文においては、「・・・そもそも本件譲渡一を行う必要性は希薄である上、本件 譲渡一の対価である115億円が、本件譲渡二及び本件合併によりいずれヤフーにもどるこ とが予定されていたことなども考慮すると、本件譲渡一を行うことにつき、税負担の減少 以外に事業目的等があったとは考え難い。」と判示されている146。
最後に、③租税法の立法趣旨・目的から逸脱する点を検討する。判決文では、適格分割 の要件を定める法2条12号の11イ及び同施行令4条の2第6項1号、適格分社型分割に つき譲渡損益の計上の繰延べを定める法 62 条の 3 並びに資産調整勘定の損金算入等を定 める法62 条の 8の趣旨及び目的から逸脱すると判示している147。これらの組織再編成税
146 最高裁判所判決 前掲注(143) 理由第二の三において述べられている。
判決文における「譲渡一」とは、IDCSがヤフーに対してIDCF株式を115億円で売却した譲渡行為 であり、「譲渡二」とは、ソフトバンクがヤフーに対してIDCS株式を450億円で売却した譲渡行為で ある。
147 最高裁判所判決 前掲注(143) 理由第二の四で述べられている。
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制に関する条文の立法趣旨から逸脱しているか否かの判断は、「移転資産等に対する支配の 継続」という考え方が基本となっている。すなわち、「組織再編成税制の基本的考え方は、
実態に見合った課税を行うという観点から、原則として組織再編成により移転する資産及 び負債について、その譲渡損益の計上を求めつつ、移転資産等に対する支配が継続してい る場合には、その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関係を継続させるというもので ある。」と述べている148。
しかしながら、移転資産等に対する支配の継続という考え方の具体的判断基準(例えば 持ち株基準等)は、租税法の規定並びにヤフー事件及び IDCF 事件では示されていない。
租税法における「移転資産等に対する支配が継続」の考え方は、企業会計の「投資の清算 と継続」という考え方と類似していると考えられる。そのため、この支配の移転に関して は、企業会計との類似性に着目して、次の項で検討することとする。
3. 移転資産等に対する支配の移転について
適格組織再編の場合は、移転資産は帳簿価額で引き継がれる。そのため、移転資産の含 み損益は移転法人が引き継ぐことになるため、結果として課税関係も生じない(法人税法 62 条等)。これに対して、非適格組織再編の場合には、移転資産は時価で引き継がれる。
そのため、移転資産の譲渡損益が認識されて課税関係が発生する(同法 62条の2等)。非 適格組織再編成の場合には、時価での引き継ぎであるため、支払対価と譲渡資産等の時価 純資産額との間に差額が発生する場合がある。この場合には税務上資産調整勘定又は負債 調整勘定が生じ、「のれん」として計上することになる。のれんは、法人税法62条の8に 基づき、5年で償却することとされている。
この「移転資産等に対する支配の継続」に関しては、企業会計の事業分離等にも同様の 考え方が会計処理に反映されている。そのため、企業会計基準第7号の事業分離等に関す る会計基準149(以下会計基準)を参照しながら、租税法の支配の継続との関連性を検討す る。なお、分離元の法人の会計処理を議論の前提とする。
(投資の清算)
会計基準によれば、移転した事業に関する投資が清算されたとみれば、分離先から受領
148 最高裁判所判決 前掲注(143) 理由第二の二で述べられている。
149 企業会計基準第7号 「事業分離等に関する会計基準」 最終改定平成25年9月13日 企業会計 審議会。
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した財の時価と移転事業に係る株主資本相当額に差額は、移転損益として認識される。つ まり、改めて受領した財への投資を行ったものと解するため、時価で受け入れることにな るのである150。会計基準で示されている投資の清算は、租税法における非適格分割に該当 すると考えられる。非適格分割に該当すれば、分離元の法人では譲渡損益を認識し、課税 関係が発生する。
(投資の継続)
これに対して、移転した事業に対する投資が継続しているとみれば、会計上は移転損益 は認識しない。受領資産の取得原価は、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定さ れる。この場合、受領資産は分離先法人の株式のみを前提とすれば、移転事業に関する事 業投資が、事業分離後も引続き行っていると考えられることから、投資が継続していると みなされる151。
会計基準で示されている投資の継続は、租税法においては、適格分割に該当すると考え られる。適格分割に該当すれば、分離元の法人では譲渡損益を認識せず、課税関係も発生 しない。
以上のように、企業会計上は、投資の清算と継続という観点から分離元の法人の損益認 識を判断している。投資の清算と継続に関する具体的な判断基準については、対価の種類 と支配という判断基準を要件とすることが意見として存在した152。会計上の判断は、持株 基準のみならず、実質的な継続的関与の有無等も加味して判断する。
例えば、買戻し条件が付された事業分離であれば、継続的関与があり、それが重要であ れば、移転損益を認識できないと考えている。継続的関与の具体例は、多くの資金や重要 な営業又は事業場の取引等が挙げられる153。
これらをIDCF事件に当てはめると、IDCSからヤフーに対してIDCF株式を売却する ことで、115億円がヤフーから IDCSに移転したが、最終的には両法人の合併により、資
150 企業会計基準第7号 前掲注(148) 分離元企業の会計処理Para10(1)参照。
151 企業会計基準第7号 前掲注(148)分離元企業の会計処理Para10(2)参照。
152 企業会計基準第7号 前掲注(148)分離元企業の会計処理Para75参照。
参考とした考え方は、平成15年の企業結合会計基準における「持分の継続」を「対価の種類」と「支 配」の2つの観点から判断するというものである。
153 企業会計基準第7号 前掲注(148)分離元企業の会計処理Para76参照。