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外国税額控除事件(租税法の濫用:法人税法 69 条の限定解釈)

ドキュメント内 2017 年度テーマ研究論文 (ページ 64-73)

第 2 章 ヤフー・ IDCF 事件における濫用と外国税額控除事件における 濫用の違い

第3節 外国税額控除事件(租税法の濫用:法人税法 69 条の限定解釈)

外国税額控除事件は、ヤフー・IDCF 事件と同様に租税法の濫用が行われたと評価され た事件である。ヤフー・IDCF 事件は、組織再編税制の趣旨・目的から逸脱する行為を濫 用的租税回避と認定し、包括的否認規定(法人税法132条の2)の対象とした。しかし外 国税額控除事件は、租税法の濫用としながらも、それは制度の趣旨と異なる利用方法とし ての濫用であり、条文を限定解釈することによって租税回避行為を否認した。

三井住友銀行事件155、りそな銀行事件、UFJ 銀行事件156の三つの銀行が、外国税額控 除の余裕枠を利用した事件であり、三行とも最高裁まで争われたが、銀行側が敗訴した。

なお、裁判が争われた当時は、余裕枠の利用制限に対する個別否認規定は存在していない。

本論文では、りそな銀行事件を中心に論じることとする。UFJ事件については、りそな 銀行事件とほぼ同様の内容であり、最高裁判決の判決内容は、りそな銀行事件の内容とほ ぼ同様の判決内容となっていることからすれば、りそな銀行事件を中心に論じることで論

154 最高裁判所判決 前掲注(143) 理由第二の三において述べられている。

155 (三井住友銀行事件)

第一法規法情報総合データベース(判例ID 28061402)平成13518日/大阪地方裁判所/第2 民事部/判決/平成9年(行ウ)47号/平成9年(行ウ)48

第一法規法情報総合データベース(判例ID28072622)平成14614日/大阪高裁裁判所/第8 民事部/判決/平成13年(行コ)47

三井住友銀行の最高裁判決文は、第一法規情報総合データベースにおいて検索することができなかっ た。

156 (UFJ銀行)

第一法規法情報総合データベース(判例ID28072896)平成14920日/大阪地方裁判所/第2 民事部/判決平成9年(行ウ)64号/平成9年(行ウ)65号/平成9年(行ウ)66

第一法規法情報総合データベース(判例ID 28092518)平成16729日/大阪高裁裁判所/第3 民事部/判決/平成14年(行コ)82

第一法規法情報総合データベース(判例ID28110489)平成18223日/最高裁判所第一小法廷

/判決/平成16年(行ヒ)326

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文の目的が十分に達せられると考える。但し、必要に応じて他の二行の事件における判決 文等は引用及び参照する。参考までに、各行の地裁、高裁、最高裁の訴訟の経緯を図表と して示す。

(各事件の裁判所の判断)157

三井住友銀行事件 りそな銀行事件 UFJ銀行事件 地裁 納税者勝訴

(H13.5.18判決)

納税者勝訴

(H13.12.14判決)

納税者勝訴

(H14.9.20判決)

高裁 課税庁勝訴

(H14.6.14判決)

納税者勝訴

(H15.5.14判決)

納税者勝訴

(H16.7.29判決)

最高裁 課税庁勝訴

(H17.12.19判決)

課税庁勝訴

(H17.12.19判決)

課税庁勝訴

(H18.2.23判決)

5. 事件の概要(りそな銀行事件)

(りそな銀行事件)

A法人が100%保有 支払利息(15%の源泉税)

ローン契約

(*貸付) (*支払利息15%源泉税)

157 八ッ尾順一 前掲注(32) 287頁の表を参考にして作成した。

りそな銀行

(シンガポー ル支店)

B法人 A法人

クック諸島

ニュージーランド 日本

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預金契約

支払利息

*C法人から B法人への貸付、B法人から C法人への支払利息の支払いは、実際には行われていない。

本論文では、実際に行われた取引と比較するために便宜上表記した

事件の概略を簡潔にまとめる。りそな銀行は、シンガポール支店とクック諸島法人との ローン契約(B法人)及び預金契約(C法人)によって外国税額控除の余裕枠を利用した。

ニュージーランドにあるA法人は、法人税率がニュージーランドよりも税率の低いクック 諸島で運用するために、クック諸島に B法人(ファースト社)を設立する。B 法人は、A

法人の100%子会社である。なおC法人は、A法人が28%の株式を保有している。C法人

を利用する理由は、投資家からの投資に対しては、クック諸島で源泉税が課税されること を回避するためである。

以上を前提とし、仮に資金を C法人からB 法人に直接貸し付けた場合には、B法人から C法人に対する支払利息に対して源泉税が 15%課税される。これを回避するために、B法 人及びC法人はりそな銀行を介入させることにして、源泉税を回避したのである。

りそな銀行は、まず B法人と本件ローン契約を締結した。B法人からりそな銀行への利

息は15%の源泉税が控除され、クック諸島に納付される。りそな銀行は、日本の税務申告

に際して、当該源泉税に対して外国税額控除余裕枠を利用して申告した。

りそな銀行とB法人とのローン契約とは別に、りそな銀行とC法人とは、本件預金契約 を締結した。預金元本は本件ローン契約の同額とされる。C法人に対する預金元本の支払 いは、B 法人からりそな銀行への貸付元本の弁済の範囲内で行うというものである。C 法 人への支払利息は、B 法人からりそな銀行への本件ローン契約の利息から手数料を控除し た金額をC法人に支払う内容になっている。

上記の一連の流れをみると、本来的にはC法人からB法人へ流れるべき資金を、C法人 からりそな銀行を介在されて、りそな銀行からB法人へ資金を流すという循環取引となっ ている。

C法人

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一審から最高裁までの判決の流れは、簡潔に示すと以下の通りである。一審における課 税庁の主張は、私法上の法律構成による否認と法人税法 69 条の限定解釈による否認の二 つの可能性を主張した。しかしながら地裁判決では、第一義的には、如何なる法律構成を 用いるかは、当事者の選択に委ねられていることを理由として、課税庁の主張を不採用と した。りそな銀行の勝訴であったが、これを受けて課税庁は大阪高裁に控訴した。控訴審 において課税庁は、一連の租税回避行為を課税の公平性の観点から主張した。そして、外 国税額控除制度の制度趣旨の濫用という主張を強めて主張した。これに対して高裁判決は、

外国税額控除の余裕枠の利用について、法人税法 69 条の濫用とまでは言えないとしてい る158。その結果、りそな銀行側の勝訴であった。

りそな銀行事件の高裁で判示された濫用の概念に対する考え方は、立法趣旨からの逸脱 を重視するよりも、外国税額控除の余裕枠の利用の仕方に焦点があてられて濫用か否かが 判断されていると考えられる。「みだりに」余裕枠を悪用することは問題があるという捉え 方のように解している。このように捉えると、外国税額控除余裕枠を利用することは、通 常の取引行為の一手段という見方である。

その後、課税庁は最高裁に上告した。最高裁判決は、課税庁の逆転勝訴であった。判決 文では、外国税額控除制度を著しく逸脱する態様で法人税を免れることは、外国税額控除 制度の濫用とされ、課税の公平性の観点から、法人税法 69 条を適用することは許されな いと判示された。

以上が簡単な裁判上の流れである。

6. 最高裁判決で判示された法人税法69条の立法趣旨の濫用

(国際二重課税の排除)

外国税額控除制度159が創設された理由の一つは、経済的時代背景が挙げられる。昭和20 年代から 30 年代にかけて、日本経済を国際化させるために、法人の世界進出を積極的に

158 第一法規法情報総合データベース(第一法規判例ID 28082019)平成15514日/大阪高裁裁 判所/第7民事部/判決/平成14年(行コ)10

りそな事件 大阪高裁事実及び理由 第4 13において述べられている。

159 国税庁HP NO.1240 居住者に係る外国税額控除を参照。

国税庁での説明を参照すると、外国で所得を得れば、普通は所得に対して源泉税が課せられる。さら に日本国内の所得として認識されるため、日本国内でも税額が発生せる。外国と日本国内の両方で二 重課税となる。この国際的二重課税を調整するための制度が外国税額控除制度である。

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推進したことが創設理由の一つである。当時は海外での所得は海外で課税されており、さ らに日本でも課税されることで二重課税になると、法人の国際化の弊害になる。

国際的二重課税の排除については、恩恵的制度とする見解160もあるが、今日では、OECD のモデル租税条約でも二重課税の排除が求められており、政策的負担軽減規定とは考えら れていない161。つまり国際的二重課税の排除はグローバルな経済活動にとっては本質的な 要請と考えられる162

(最高裁判決で判示された法人税法69条の濫用概念)

りそな銀行事件の最高裁判決では、外国税額控除制度の趣旨を次のように述べている。

それは、「法人税法69条の定める外国税額控除の制度は、内国法人が外国法人税を納付す ることとなる場合に、一定の限度で、その外国法人税の額をわが国の法人税の額から控除 するという制度である。これは、同一の所得に対する国際的二重課税を排斥し、かつ、事 業活動に対する税制の中立性を確保しようとする政策目的に基づく制度である。」と述べら れている163

UFJ事件の最高裁判決の判決文においても、りそな銀行事件と同様の趣旨が述べられて いる164

以上の様に、法人税法 69 条の立法趣旨は、国際的二重課税の排除にあることが確認で きる。続けて、りそな銀行事件の最高裁判決では、法人税法 69 条の趣旨を濫用したこと について次のように判示している。「・・・全体としてみれば、本来は外国法人が負担すべ き外国法人税について我が国の銀行・・・が対価を得て引き受け、その負担を自己の外国 税額控除の余裕枠を利用して国内で納付すべき法人税額を減らすことによって免れ、最終 的に利益を得ようとするものである・・・。これは、我が国の外国税額控除制度をその本

160 中里実 前掲注(64) 230~231頁参照。

161 水野忠恒『体系租税法』(中央経済社、2015年) 635~636頁参照。

本書では、アメリカの国際課税専門家の意見として述べられており、外国税額控除制度は、所得課税 の基本的構造の性格を有することが指摘されている。

162 今村隆 前掲注(51) 128~129頁参照。

今村教授は、同法69条は資本輸出中立性の確保の一面も保有するため、政策的減免規定の側面も有す ると指摘している。

163 第一法規法情報総合データベース(判例ID28110085)平成171219日/最高裁判所第二小法 廷/判決/平成15年(行ヒ)215

りそな事件 最高裁判決 理由4 国際的二重課税の排斥、税制の中立性確保について指摘している。

164 第一法規法情報総合データベース(判例ID28110489)平成18223日/最高裁判所第一小法廷

/判決/平成16年(行ヒ)326

UFJ銀行事件最高裁案判決 理由4 外国税額控除制度は、国際的二重課税を防止することであり、

海外取引に対する課税の公平と税制の中立性を維持することだと述べている。

ドキュメント内 2017 年度テーマ研究論文 (ページ 64-73)