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我が国の法制化に向けての納税者保護政策

ドキュメント内 2017 年度テーマ研究論文 (ページ 122-132)

第 4 章 一般的包括否認規定( General anti-abuse rule 、以下 GAAR ) の検討

第4節 我が国の法制化に向けての納税者保護政策

1. 諮問委員会の設置

個別否認規定は、否認の対象が個別具体的な規定である。特定対象領域に対する包括的 否認規定は、例えば組織再編成税制に係る行為又は連結納税制度に係る行為に限定的に対 象領域を設けている。これに対して一般的包括否認規定(GAAR)は、租税回避行為の否 認規定であるが、適用対象領域を設けないことに特徴がある。そのため、一般的包括否認 規定(GAAR)の最大の問題点は、課税庁が持つ強大な裁量権である。従って課税庁によ る恣意的な課税から納税者を保護する政策の整備が必要となる。最も有効な保護政策は、

一般的包括否認規定(GAAR)を法制化した各国が採用している諮問委員会の設置と考え る268。諮問委員会の性格は、国によって名称(本論文では、諮問委員会と呼ぶこととする)

や位置づけが異なっている。

本章の第 2節でも検討したように、英国では、諮問委員会は歳入関税庁から独立してお り、メンバーも歳入関税庁の人員が含まれていない。インドにおいては、一般的包括否認 規定(GAAR)の発動には、承認パネル(諮問委員会)に事前に付託する手続きを採用し、

265 矢内一好 前掲注(240) 148頁を参照。

266 青山慶二 前掲注(261) 57頁一部引用参照。

267 矢内一好 前掲注(240) 149~150頁を参照。

268 矢内一好 前掲注(240) 25頁参照。

矢内教授は、各国が採用しているGAARに関する一覧表を作成されている。その中で、委員会を設置 している国は、英国、インド、オーストラリア、カナダ、フランスを挙げている。

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承認パネル(諮問委員会)の構成員にも外部の専門家を選任している。

設置した諮問委員会が、有名無実でなく実効性あるものでなければならない。そのため、

諮問委員会の設置にあたり重視すべき点は、構成員の属性と独立性の確保と考えられる。

構成員は、事案の専門性に鑑みれば、課税庁内部の人員よりも外部から選任することが必 要であり、常設で恒久的に事務局のサポートを有すべきとされる269。否認されるべき租税 回避行為であるか否かの判断は、課税庁からの独立機関である諮問委員会によってなされ ることにより、信頼性が得られ、納税者保護に資すると考える。

2. ガイダンスの作成・公表

諮問委員会の設置以外にも、一般的包括否認規定(GAAR)の適切な運営及び納税者保 護政策が考えられる。その一つがガイダンスの作成である。

英国は、2015 年に歳入関税庁(HMRC)がガイダンスを作成し、諮問委員会の承認を 得て公表している270。全体の構成は、Part A~Part Eで構成され、200頁弱に渡りガイド ラインを示している。Part Aはガイダンスの目的と位置づけ、Part Bは、一般的包括否 認規定(GAAR)が達成しようとしているもの及び達成するための運営に関する要約が示 され、Part Cでは特別事項を示し、Part Dは具体的事例が示され、Part Eは、一般的包 括否認規定(GAAR)の手続きがガイダンスされている。

我が国に例えるならば、国税庁が公表している税目毎の基本通達がそれに該当するよう に思える。我が国の基本通達は、条文の解釈に役立つように事例等を交えながら説明され ており、実務上の適用指針に似た役割がある。但し、一般的包括否認規定(GAAR)が想 定する適用範囲は、我が国の現行法にあるような同族法人の行為計算否認規定(法人税法 132条)や組織再編税制に係る行為計算否認規定(同法 132条の2)等の様に、特定対象 領域に限定されるものではなく、広範囲に及ぶため、基本通達のような形式での網羅的作 成が困難との指摘もある271。そのため、ガイダンスの作成の範囲を絞り、一般的包括否認 規定(GAAR)の適用上の重要事項に関するガイドラインを作成・公表するという方法も

269 青山慶二 前掲注(261) 58~59頁参照。

青山教授は、我が国では、この分野における経験が少ないことを指摘し、参考として租税条約の一部 に取り入れられている仲裁パネルを参考にすべきことを提言している。具体的事例として、2010 12月締結「所得に対する副井に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府と中華人民 共和国香港特別行政区政府との間の協定第二十四条5に係る取決め」を挙げている。

270 HM Revenue Customs(HMRC) General Anti Abuse Rule(GAAR)guidance.

(Approved by the Advisory Panel with effect from 30 January 2015)

271 青山慶二 前掲注(261) 58頁参照。

123 / 132 ある。それがドイツである。

ドイツでは、一般的包括否認規定(GAAR)の適用を決定するためのガイドラインを公 表している。それは、意図された経済的成果が不適切な法的構造が選択され、通常であれ ば得ることができない租税上の利益を得ていることを課税庁が立証し、他方、納税者は選 択した取引等に対する租税上の利益以外の商業上の理由を立証する責任を有し、立証でき なければ一般的包括否認規定(GAAR)が適用されるというものである272

3. 事前承認制度

英国は、一般的包括否認規定(GAAR)自体に関するクリアランスを設けていないが273、 特定の取引行為に関するクリアランスが法制化されている274

我が国には、国税庁が文書回答制度を整備している275。制度趣旨は、本人だけでなく、

他の納税者の予測可能性の向上に役立てることであり、納税者に対するサービスの一環と して行うことが示されている。

文書回答制度では、回答の対象とならない事項として、「取引等の主要な目的が国税の 軽減等であるものや通常の経済取引等としては不合理であと認められるもの。個々の財産 の評価や取引等の価額の算定、妥当性の判断に関するもの(例えば、法人税法上の役員の 過大役員報酬等の判定や個々の相続財産の評価に関するものなど)」は対象外であることが 明記されている。従って、節税と行き過ぎた租税回避行為との境界が曖昧な取引について は、回答の対象外とされている。

この事前照会制度は、平成 9年の日本税理士会連合会税制審議会においても、租税回避 行為に関する事前照会制度の導入が検討された276。導入の趣旨は、取引にあたり、事前に 課税庁の法解釈や見解を知り得るならば、納税者の法的安定性と予測可能性は著しく高ま ることが期待できることである。しかし、租税回避行為に関する事前照会制度は、納税者 の租税法解釈権を侵害し又は放棄したことになるのではないか、との懸念が示された。仮 に課税庁と見解が相違するのであれば、課税庁と争うことで解決すべきとの見解であった。

272 矢内一好 前掲注(240) 232頁を一部引用参照。著者は、Chance, Clifford, op. p11を参照。

273 HM Revenue Customs(HMRC) General Anti Abuse Rule(GAAR)guidance.

(Approved by the Advisory Panel with effect from 30 January 2015) B17参照

274 Ibid B17.1

275 国税庁は、平成296月付で、「税務上の取扱に関する事前照会に対する文書回答について」と題し て、照会の具体的内容を公表している。

276 日本税理士会連合会税制審議会「「租税回避について」の諮問に対する答申」―平成9年度諮問に対 する答申― 4頁参照。

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事前照会制度には、課税庁の事務負担の増大という問題も示されたが、審査請求や訴訟 案件が減少することを考慮すれば、一概にデメリットともいえないとされ、導入に前向き な検討がなされていた。一般的包括否認規定(GAAR)の導入を検討する場合には、諮問 委員会と合わせて事前照会制度を導入するメリットはあると考えられる。

4. 法の趣旨の明確化

法令は、立法の趣旨・目的を誤り無く伝わるように整備されなければならない。そのた めには、法令の趣旨・目的を明示し、条項の配置を系統的に整頓し、全体を通じて法令の 趣旨・目的が誤り無く解釈されるように十分に配慮することが必要となる277

租税法において、条文の全てについて趣旨・目的が明示されることは望ましいことであ るが、現実的ではない。しかし、例えば法人税法 69 条の外国税額控除制度のように、国 際的二重課税を排除するという明確な立法趣旨がある場合には、立法趣旨を容易に納税者 が知り得る状況を整備することが、納税者の予測可能性の確保に資すると考える。

一般的包括否認規定(GAAR)が法制化された場合には、濫用か否かの判断に際して、

法の趣旨に照らして議論することが必要と考えられる278ため、その際の議論の判断基準と すべく、公式見解として文書化された趣旨規定が必要と考える。

第5節 小括

我 が 国 の 租 税 法 に 、 現 行 法 の 租 税 回 避 行 為 の 否 認 規 定 以 外 に 一 般 的 包 括 否 認 規 定

(GAAR)が必要か否かについては、昭和36年頃にも議論があった。当時は、課税庁の 裁量権が強過ぎるとの批判があり、法制化に至ることは無かった。しかしながら、現代 経済では、高度に複雑化した仕組取引がプロモーターによって企図されている。租税回 避行為は、タックス・ヘイブンを介在させたタックスシェルター商品が開発され、自国 の租税法規だけでは税源が浸食される恐れが生じている。基本的には租税条約等で解決 を図ることになるが、全ての行き過ぎた租税回避行為をカバーすることは期待できない。

277 林修三 前掲注(110) 188~189頁参照。

278 酒井克彦「フィナンシャル・レビュー」財務省財務総合政策研究所平成28年第1号(通巻第126号)

20163月。我が国における租税回避否認の議論の稿、171頁参照。

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